『兄』の最後の挨拶
インターハイ、本当は見に行きたかった。
しかし、大学のサッカーの試合と重なってしまってはどうしようもない。
うまくいけば誰かしらから写メ付きで連絡が来るはずだ。
たとえば、プレーヤーであっただろう奈都という子であったり、
妹の片思い(確実に両片思いである)の相手である篠田洋からであったり。
彼らが黙っていることができずに俺にlineを飛ばしてくるだろうことは予想している。
篠田洋は優勝という興奮を誰かと味わいたいという思いのまま、俺に連絡しろと言っておいたのを思い出して。
奈都は、きっと友情ハッピーエンドの様子を写真で教えてくれるだろう。
目の前で好きな、大好きな恋愛ゲームの一つのエンドを迎えるのにそれを分かち合える人間と共有しないわけがないからだ。
ここまでで終わったら。
もう俺の知っている内容はなくなる。
篠田洋とのデートなんてものは出てこなかったし、9月になればもう予想のできない普通の現実になる。
どれだけそれを心待ちにしていたか、
予想ができない日々を待ち焦がれていたのはきっと俺だけではない。
昨日の夜、奈都からラインが来た。
やっと、終わります。
その言葉だけで、ほかに何も言わなかったけれどその気持ちは痛いほどよくわかった。
やっと、『夢』が終わる。
やっと『現』が始まる。
明日どのようなことが起こるのか全く分からない世界。
それは、俺とプレーヤー奈都が待ち焦がれていたものだ。
「そうだ、将来の約束でもしてみようか。」
きっとこれからの日常は、今までの遥佳のための日常ではなくて、
恋人だったり、
友人だったり
約束を守るための
自分のための日常になってくれる。
そんな予感がした。
『兄』ではなく、『俺』の日常。
スマホが震えたので、ラインを開いた。
篠田洋と奈都から同時に届いたline
そこには、『兄』として待ち焦がれていたハッピーエンドのスチルとほとんど同じ写真があった。
明日で終わります。




