24話目
「はじめ!」
その声で緊張でドキドキしていた心臓が落ち着きを取り戻した。
いつもそうだった。
どんなに緊張していても審判の「はじめ」の声で心が凪のように落ち着く。
ほかの人にそういってもわかってはもらえなかったけれど。
「遥佳すごい!」
「先輩たちもすごいじゃないですか。」
「でも、遥佳が最初にバシッと決めてくれたおかげだよ。それで全体が波に乗れたんだから。あの緊張感の中でよくやったね。」
一立ち目が終わり、幸先のいいスタートを切ることができた。
このままいけば個人戦でも決勝に残れるかもしれないというくらいだ。
「そういえば、男子のほうはどうなりました?」
「ああ、あっちも順調みたい。一立ち目は準備してて見に行けなかったもんね。」
「なら見に行く?そろそろ二立ち目だと思うけど。」
「行きます!」
先輩たちが立ち順を確認しながらそう話していて、男子の結果が気になるからというのももちろんあるけれども、これがおそらくすぐ近くで篠田先輩の弓道を見る最後の機会になるのかもしれないから。
見に行けるのであれば見たかった。
「篠田先輩そんなに見たいの?というか顔ゆるみすぎ。もうちょっとしっかりした顔しないと先輩たちも気づくよ?」
「そんなにゆるんでた?」
「というか、にやにやしてた。」
「嘘!やばいやばい。」
無意識に顔がゆるんでいるなんて、そしてそれを二人に言われるまで気が付かないなんて本当に重傷だと思う。
顔を引き締めて先輩たちの後に続く。
道場にはいって立ちの確認をすると次の立ちが男子の出番のようだった。
「よかったね間に合った。」
「うん。」
小声で話しながらあたりを見渡すと男子部のレギュラーが椅子に座って始まりを待っているのが見えた。
落ちの位置にいる篠田先輩の姿も。
こっちには気が付いていないようでまっすぐ前を見ている。
きっといま頭の中には弓道のことしかないのだろう。
そんな顔をしている。
その顔にちょっとだけ静まっていた心がまた大きく動く出すのがわかる。
「やっぱり、弓道してる姿が一番好きかも。」
「そうかもね、男子が道着で弓道してる姿っていつもの二割増しでかっこよく見えるもん。」
「好きな人ならなおさらなんじゃない?」
「「ねー」」
最近二人は、こんな感じで茶化してくることが多くなってきた。




