兄にとっての『現実』
俺が前の世界のことを考えると、ハルはすぐに心配している顔をする。
どこか遠くをみている顔になっているからだと思う。
自覚はしていたし、これに関しては無意識の中で出てくるものなのでどうしようもないとしか言いようがない。
気にしないわけではないから、なるべく妹の前では考えないようにはしていたけれど。
でも、翠に出会ってからは少しずつ改善されてきているらしい。
「またその顔。最近しなくなってきたと思ってたけどやっぱりまだ出てくるんだね。無意識?」
「あ、ああ。そうかも。昔からある一つのことを考えるとここが現実じゃないって思ってしまうみたいで。妹にはかなり心配された。」
「たしかに、どこか行っちゃいそうな気がするもん。でも最近出てこなくなったってことは、ここが現実だって思うことが多くなったから?」
「というか、現実が、本当に現実なんだって思ったから、かな。」
そう、きっかけになったのは翠がいると実感したこと。
きっと彼女はそれを覚えてはいないだろうけど。ここがゲームの世界でも現実として目の前にあるということを実感できた瞬間でもあった。
ゲームの登場人物として出てきていたのは覚えていた。
思い出したのは付き合いだしてからだけれども。
それでも、ゲームでは『俺』はここまでシスコンではなかったし、水のこともそんなに大切にはしていなかった。
そもそもゲームでの『俺』は恋愛感情として妹が好きという事実を認めたくないから、タイミングよく告白してきた翠と付き合う。
けれども妹への気持ちがどんどん大きくなっていく。
というキャラクターだった。
今の俺はどう考えても恋愛感情を妹に持つことはないし、好きだと思うのは翠のことだった。
ゲームとの差異を初めて実感して、ああ、ここは目の前にある現実なんだと思った。
だから、おそらくもう一人の『記憶もち』にも早くそのことに気が付いてほしかった。
妹のそばにいるならば、ここが現実だと早く認めてもらわないといけない。
彼女がバッドエンドの時に主人公を不幸に陥れるキャラクターになっているから。
ここが現実であると認識してもらわないと、ちょっと面倒なことになりそうだからだ。




