16話目
「誕生石知らない?知っててさっきのブローチ頼んだんだと思ったんだけど。」
「え、気にしてなかった。買ったやつはなに?」
兄が手元に持っている紙を覗き込むと見やすいように傾けてくれて、さらに指をさして教えてくれた。
「ラピスラズリ。12月の誕生石らしいよ。さっきハルが選んだのがカーネリアン。7月の誕生石。」
「ぴったり。さっきのカーネリアンっていうんだ。」
「タグのところ書いてなかった?この辺のやつには結構書いてあるけど。」
「あー値段しか見てなかった。」
でもよかった。母はそういったことに詳しいからもし違うものを選んでいたらちょっとめんどくさいことになっていたかもしれない。
それに、このラピスラズリのピンブローチ。いいかもしれない。
「かわいいねーいいなこれ。」
「ほしいのか?」
「うーん。さっきのできついから今月はもう無理だろうな・・・今度来れるのいつになるんだろう・・・」
「じゃあ、地方大会優勝したら買ってやろうか?お祝いで。」
にやっと笑った兄はいつも見るよりかっこよくて、そんなつもりで言ったわけではないのにうなずいていた。
「きまりな、ちゃんと努力しろよ。」
「大丈夫だって。負けないから、相手チームにも自分にも。」
そう、勝ちたいじゃなくて、負けない。
最近コーチに教えてもらったこと。
弓道では射法八節でいう会の状態になる前に矢をはなしてしまうことがある。
早気といい、弓道最大の病気だといわれた。
中てたいと思いすぎるとうまくいかない。
落ち着いて自分の射をすること。
勝ちたいとは思わず、負けない。特に自分にまけないと思うことが大切だと。
思い返してみれば今まで大会でいい結果が出せたときは中てなきゃとか勝ちたいとかは考えていなかった。
心を落ち着け自分にできる一番の射をする。
それが一番大切なことだと思っている。
「最近ね、同級生に早気が増えてきて。どうしようかなって思ってるの。一年生の指導もしなきゃいけいない、先輩はレギュラー以外は引退したし、部活のことは全部二年生が主体になったの。早気になるとほかのことにかまってる前に自分のことしかできなくなるし。ほんとどうすればいいんだろ。」
「大丈夫だよ。意外と何とかなるものだし、顧問の先生とかコーチとかいろいろ手伝ってくれるだろ?」
「・・・そうかも。」
最近コーチがよく言うこと。
弓道の基本は的に中てることが目的ではない,発せられた矢が、おのずからなる結果として、的中するのを求めて行射している。
基本に戻ってみろということなのかもしれない。




