2話目
兄は昔からずっと努力をし続ける人間だった。
その理由を聞いたこともあったけれどいつも
「はるに嫌われたくないだけだよ。僕は春がとっても大切だからね。」
そういってごまかしてきた。
いまは某有名大学の工学部に通っているが、どうして工学部?と聞いた時もある。
それも
「きっとはるが高校二年生になったらわかるよ。」
そういってごまかしてきた。
兄のことは大好きだし、きっと私には兄以上好きになる異性はいないんじゃないかと思うけれどもごまかす癖があるところだけは嫌いだ。
ここじゃない別のところを見ているようだから。
兄はよくはるが高校二年生になったらという。
そして明日から晴れて高校二年生になる。
兄が考えていることが少しはわかるかもしれない。
「また、お兄さんのこと考えてるでしょ。」
「奈都、もう気にしないことにしなさい。いくら言ってもこいつは聞くわけないんだから。それより、新一年生の勧誘のこと。今日はそのことについて話すために来たんだから。」
私たち三人は同じ弓道部に所属している。
理由も同じ、
去年の新入生歓迎会の時の弓道部の袴姿にときめいたから。
同じ理由で同級生が最初は20人以上入ったが最初の四か月間は筋トレと雑用ということを聞き今や半分の10人にまで減った。
その中でまとめ役の一年生リーダーになったのが空。
奈都と私は空のサポートみたいなことをしている。
このままいけば今年のインターハイ、が終わったら空が部長ということになるんだと思う。
副部長は私と奈都に押し付けられそうな気がする。
男子部はまた別にある。そっちは少数精鋭をそのままいっている全部員数10名の強豪だ。
学校のすぐ隣の市の体育施設の弓道場を使っているためほとんど顔を合わせたことがない。
しかし
「勧誘は去年と同じように合同でやるんだっけ?」
「そう、男子部が準備を手伝ってくれるんだって。」
新観ではなぜか共同で勧誘を行う。
弓道は武道であり、弓と矢を使う危険なものだ。
新観でも巻藁といわれる藁が束になって台の上にのっているものに向かって矢を射るだけ。
サッカー部やバスケ部のように試合を見せることはできない。
そしてこの巻藁が非常に重い。
女子では二人でなんとか運べるくらい(入部したての頃は三人で運んでいても大変だった)の重さがある。
男女で同じ勧誘をするから一緒にしてしまえというのが共同で勧誘を行う理由だという。
「でも、大会の時しか男子部って見たことないし、実際話したことないけど大丈夫かな。」
奈都のこの発言はのちに現実のものになる。
おもに、私関係で。