10話目
「初めまして、京野翠といいます。」
「俺のと同じゼミなんだ。」
兄に、今までは彼女はいたけれども私に合わせることはなかった兄に彼女を紹介されたとき、
私はどんな顔をしたらいいのかわからない。
でも、とりあえず笑って、自己紹介して・・・
「遥佳!」
「奈都・・・」
「先輩がそろそろこっちに来いって。」
私がさっきまでと違う様子だったのを奈都は感じ取ったのか、兄に向って
「お兄さん、そろそろいいでしょうか、団体行動乱されるとちょっと困るんです。連れて行きますね、失礼します。」
「あ、ごめん。じゃあまたあとで・・・」
奈都に強引に連れ出され先輩たちのいるあたりに向かった。
兄の視線が私の背中から翠さんにうつるのがわかった。
振り返ると、兄は今まで私に見せたことのない顔で翠さんと話していて。
それが、悲しくて、
「遥佳、お兄さんと一緒にいた美人さんお兄さんの彼女かなにか?」
「たぶん、お兄ちゃんが今まで私に彼女とか紹介したことなくて断定はできないしそうはいってなかったけどたぶんそう。」
「ふーん。名前は?どっかで見たことある顔なんだよね。」
「あ、お兄ちゃんと同じ大学の弓道部なんだって。名前は京野翠さん。」
「京野翠・・・大学の弓道チャンピオンじゃない。」
「そうなの?」
大学弓道についてはわからないことが多い。
兄が大学の弓道部と一緒に練習という普通なら許可しないことを許してもらったのはもしかしたら彼女のおかげなのかもしれない。
「まず、そんなにショック受けないの。メンタル強いようでお兄さん関係になるとぼろぼろになるのいい加減にしないと。まだ試合始まったばっかりなんだから。」
「そうだよね。」
これからまだ立ちが残ってるのにこのままじゃぼろぼろになる。
兄のことと翠さんのことを考えないようにしなきゃいけないのにうまくいかない。
今までなかったことに、頭がうまく働いてくれないみたいだ。
男子部の応援で先輩たちのところに行ったのに全然見ることができなくて、全く頭の中に入ってこない。
どうしたら部活に、弓道に集中することができるのか。
今まで簡単にしていたことができなくなって、自分のふがいなさに泣きたくなった。
「遥佳どうしたの?」
「なんか遥佳のお兄さんが彼女と一緒に応援に来たみたいでグダグダになっちゃってるの。どうしよう・・・交代は決勝までやらないって言ってたから何とか集中してもらわないといけないんだけど・・・」
空と奈都が隣で話しているのも聞こえず、ぐるぐると同じ事ばかり考えていた。




