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ある殺人者Aとの対話

作者: 原沙良葉

うちに殺人者が来た。

うちの人はみんな殺された。私は彼と一緒の部屋で息をひそめていた。

彼は戸棚の裏に、私はチェストの横に隠れていた。


Aは扉の向こうからこちらを覗いている。

私はチェストの裏側だから見えないけど、手に取るようにそれが分かる。


彼が彼女のことを一瞬考えたのが分かった。


ぎしり、と彼が音をたてた。


何も音はしなかったけど、私はとうとう彼も殺されてしまったことを知った。

死にたくない。死にたくない。死にたくない死にたくない!!


私「こんにちは」

A「・・・・・・」

私「私、あなたのこと結構すきよ」

A「・・・・・・」

私「あなたにとって人間とは殺すか殺さないかしかないんでしょう」

A「・・・・・・」

私「それはとてもシンプルだわ。(殺さないという選択肢があるのかは知らないけれど)」

A「・・・・・・」


気づけば私は死にたくないという恐慌から解放されていた。

Aがうちの人を殺したという事実を忘れていた。

Aの気を逸らすために言い始めただけだったのに、本当にAのシンプルさを好ましく思っていた。

それでもとても慎重に言葉を選んでいるのだから、死にたくないという感情がなくなったわけではないのだろうけれど。


私「あなたにも好きなものがあるの」

A「・・・・・・雨」

私「雨。」


私は初めてAの声を聞いた。それは低くて小さくて、乾いてざらざらしていた。

初めて聞いたはずなのに私は以前からAの声を知っていたことに気づいた。


私「見るのが好きなの?」

A「・・・・・・でも絵は、描けない」

私「あら、絵じゃなくてもいいのよ、例えば、」


人を、と言いかけて口をつぐむ。それは自然ではあったけれど適切な例えとは言えなかった。

辺りを見回して傘のついた電球を指す。


私「例えばあれを壊して、それに雨という名前をつければいいのだから」

A「・・・・・・」


Aはその案を少なくとも嫌ってはいないようだった。


私「私もそれを見ていていい?」

A「・・・・・いい」

私「ありがとう」


私は体を起こそうとして、初めて自分がいつの間にか横になっていたということに気が付いた。

とすると、Aにはずっと私のことが見えていたのだろう。

緊張は解かないまま、それでも私は愉快な気分になった。

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