新章:Untitled 中編
--あるところに、草原がありました
その草原では、様々な者たちが過ごしていました
どうやら、これが幸せなようです--
-消失:Untitled--第十一話『「ムーちゃん」』-
村は静かな眠りについていた。
ラヴィーンも眠り、ムーちゃんも寝台に横になっている。
見えない世界の中で、彼は静かに目を閉じていた。
すると――
ひとつの夢を見る。
幾年も昔。
まだ戦もなく、別れも訪れていなかった頃。
一人の若い母親が、小さな王子を胸へ抱いていた。
王子はまだ幼い。
あどけない笑顔を浮かべ、母の指を小さな手で握っている。
「ふふ……」
母は優しく笑った。
「あなた、本当のお名前はまだ決まっていないのね」
事情があった。
王子は生まれてすぐ、母と離れ離れにならなければならなかった。
名を授かる前に、母はその子の名前を知ることなく別れることになった。
「だからね」
母は頬を寄せる。
「私だけの呼び方をつけてあげる。」
王子は嬉しそうに笑う。
「……む。」
小さな声を漏らす。
母は目を細めた。
「そう。」
「ムーちゃん。」
その一言を聞くと、幼い王子は声を上げて笑った。
「あなたは私のムーちゃん。」
「名前が分からなくても、あなたは私の大切な子。」
母は何度もその名を呼んだ。
「ムーちゃん。」
「ムーちゃん。」
優しく、愛おしそうに。
何度も。
しかし、別れの日は来る。
母は王子を抱き締め、涙をこらえながら微笑んだ。
「ごめんね。」
「一緒にはいられない。」
「でも、あなたがどこにいても、誰になっても、
「私はきっと、ムーちゃんって呼ぶから。」
王子は何も分からないまま、小さな手を母へ伸ばした。
その手は届かない。
二人は離れ離れになった。
夢はそこで途切れる。
朝。
ムーちゃんは静かに目を覚ました。
もちろん、何も見えない。
それでも、頬には一筋の涙が流れていた。
「……どうして。」
胸が締め付けられる。
温かい腕。
優しい声。
何度も呼ばれた名前。
「ムーちゃん。」
その響きだけが、はっきりと心に残っていた。
ラヴィーンが部屋へ入ってくる。
「おはよう、ムーちゃん!」
いつものように明るい声。
その呼び名を聞いた瞬間、ムーちゃんは胸へ手を当てた。
どくん。
心臓が大きく脈打つ。
「……その名前。」
ラヴィーンは首を傾げる。
「うん?」
ムーちゃんは静かに微笑んだ。
「初めて呼ばれた気がしない。」
「もっとずっと昔、誰かがとても優しく、
何度も呼んでくれていた気がする。」
ラヴィーンはその言葉を聞いて、優しく手を握る。
「じゃあきっと、その人にとっても、ムーちゃんは大切な名前だったんだね。」
ムーちゃんは静かに頷いた。
「……うん」
本当の名前を知らなかった、たった一人の母が贈った愛称だけは、時を越えて消えることはなかった。
その名は――
「ムーちゃん」。
それは遠い昔に母が愛情を込めて呼び続けた、世界で最初の「名前」だった。
第十二話「最初の名前」
静かな光が差し込み、柔らかな風が頬を撫でる。
長く続いた暗闇は、もうどこにもなかった。
青年はゆっくりと目を開く。
視界は澄み渡り、世界は鮮やかな光に満ちている。
「……見える」
思わず漏れた声。
青い空、緑の草原、風に揺れる木々。
名前のない結晶が、陽の光を受けて静かに舞っていた。
青年は立ち上がり、迷うことなく歩いていく。
まるで、この場所を知っているかのように。
草原の先。
一人の女性が立っていた。
長い髪を風になびかせ、穏やかな笑みを浮かべている。
女性は青年の姿を見ると、優しく目を細めた。
「……来てくれたのね。」
青年は理由も分からないまま、その人のもとへ歩み寄る。
胸が温かくなる。
懐かしい。
初めて会うはずなのに、そう思えなかった。
女性はそっと青年を抱きしめた。
その腕は、とても温かかった。
「ずっと会いたかった。」
その声を聞いた瞬間、青年の胸の奥で、何かがほどけていく。
女性の名は――
ラヴィーン。
青年の母だった。
「あなたが生まれた日、私はあなたの本当の名前を知らなかった。」
「だから……ムーちゃんって呼んでいたの。」
青年は目を見開く。
あの夢。
何度も聞いた優しい呼び名。
それは夢ではなかった。
母の声だった。
そのとき、一人の男性が歩み寄ってくる。
穏やかな眼差しをした青年だった。
ラヴィーンは微笑み、青年を見つめる。
男性も優しく頷いた。
そして二人は、青年の前に並んだ。
ラヴィーンはそっと青年の両頬に手を添える。
「もうあなたには名前がある。」
男性も穏やかに口を開いた。
「私たちが願いを込めて贈った、大切な名前だ。」
二人は同時に微笑んだ。
「クカラース」
その名前が世界に響いた瞬間。
青年――いや、クカラースの胸の奥で、止まっていた時間が動き出す。
風、草原、結晶、誰かの笑顔。
優しい医師、偉大なる帝王、温かな父、
耳の短い青年。
数え切れない記憶が、光のように心を駆け抜けていく。
クカラースの瞳から、一筋の涙が零れた。
「……僕は」
ラヴィーンは静かに頷く。
「ええ」
「あなたは、クカラース」
名前のない主人公は、初めて自分の名前を知った。
それは誰かから与えられた称号ではない。
母と父が、生まれたその日に願いを込めて贈った、たった一つの名前だった。
そして、新たな物語は――
「名前のない主人公」の物語から、「クカラース」という一人の青年の物語へと、静かに姿を変えていく。
ラヴィーンの言葉が草原に静かに響く。
「あなたは、クカラース」
その名を胸に刻むように、クカラースは何度も小さく頷いた。
「……クカラース」
初めて、自分の名を口にする。
その響きはどこか懐かしく、そして温かかった。
隣に立っていた父は、穏やかに微笑む。
「もう、お前は大丈夫だ」
その声には、別れを受け入れた静かな優しさがあった。
クカラースが顔を上げると、父は一歩、また一歩と後ろへ歩き始める。
「……?」
呼び止めようと手を伸ばす。
しかし父は振り返ることなく、柔らかく頷いた。
「前へ進みなさい。」
「お前の歩む道は、お前自身のものだ。」
その姿は光の中へ溶けるように遠ざかり、やがて見えなくなった。
草原には、クカラースとラヴィーンだけが残される。
「……」
クカラースが見つめると、ラヴィーンは優しく微笑んだ。
しかし、その身体の輪郭が淡く輝き始める。
「……え?」
白く透き通る光が、指先から小さな結晶へと変わっていく。
風が吹くたび、その結晶は宙へ舞い上がっていく。
「……!」
クカラースは慌てて駆け寄った。
「消えないで……!」
ラヴィーンは首を横に振る。
「これは、お別れじゃないの」
その声はどこまでも穏やかだった。
「私はずっと、あなたを見守っている」
結晶は腕へ、肩へと広がっていく。
それでもラヴィーンは、最後の力を振り絞るように両腕を広げた。
「おいで」
クカラースは迷うことなく、その腕の中へ飛び込む。
温かい。
幼い頃に夢で感じた、あのぬくもり。
ラヴィーンはクカラースを優しく抱きしめ、髪をそっと撫でた。
そして、静かに囁く。
「大好きよ、私たちのたった一人の子」
一粒、涙が頬を伝う。
「ありがとう、クカラース」
クカラースは震える手で、母を強く抱きしめ返した。
「……!」
「行かないで……!」
「やっと……やっと会えたのに……!」
その腕に力を込めた、その瞬間。
ふわり、と。
抱きしめていた温もりが、無数の結晶となって舞い上がる。
クカラースの腕の中には、もう誰もいなかった。
風だけが、静かに吹いている。
空には、きらめく結晶がどこまでも昇っていった。
「…………」
クカラースは立ち尽くしたまま動けなかった。
伸ばした手は宙をつかむだけ。
やがて力が抜け、その場に膝をつく。
「母さん……」
かすれた声が漏れる。
返事はない。
草原には風の音だけが響いていた。
クカラースは両手を地面につき、肩を震わせる。
「どうして……」
「どうして、また……」
涙が次々とこぼれ落ちる。
「せっかく……」
「せっかく会えたのに……!」
その声は広い草原へ吸い込まれていく。
名前を知ることができた。
母に抱きしめてもらえた。
「ありがとう」と伝えてもらえた。
だからこそ、その別れはあまりにも深かった。
クカラースは膝をついたまま、涙を流し続ける。
舞い上がる結晶を見上げながら、
母が最後に残した温もりだけを胸に抱きしめて。
第十三話「涙の眠り」
草原には、静かな風が吹いていた。
空を見上げれば、名前のない結晶がゆっくりと舞っている。
先ほどまでそこにいたはずのラヴィーンの姿は、もうどこにもない。
残されているのは、母の温もりを覚えているクカラースだけだった。
「……母さん……」
掠れた声が風に溶ける。
返事はない。
それでもクカラースは、何度もその名を呼んだ。
「……母さん」
「……」
「……」
やがて、声も出なくなる。
涙だけが止まらなかった。
膝をついたまま泣き続けた。
肩を震わせ、息を詰まらせ、嗚咽を漏らしながら。
どれほど時間が過ぎたのか、もう分からない。
夕暮れが近づく。
草原は金色に染まり始めていた。
クカラースの身体から、少しずつ力が抜けていく。
「……ごめん」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
「……ありがとう」
それだけを呟く。
もう涙を流す力さえ残っていない。
身体は重く、瞼も重い。
クカラースはゆっくりと横へ倒れ込んだ。
柔らかな草が、その身体を受け止める。
「母さん……」
最後にもう一度だけ、その名を呼ぶ。
返事はない。
吹き抜けた風が、そっと髪を撫でた。
まるで誰かの手のように。
クカラースは目を閉じる。
そのまま、静かな眠りへ落ちていった。
眠っている間も。
閉じられた瞼の端から、一筋の涙が静かに零れ落ちる。
苦しそうな表情ではない。
叫ぶこともない。
ただ、夢の中でもなお、両親を想っているかのように、静かに、静かに涙を流していた。
風が吹く。
舞い上がる結晶が、眠るクカラースの周りへ優しく降り積もる。
その結晶は触れた瞬間に消え、また空から生まれる。
終わることなく、途切れることなく、誰もいない草原で一人の青年が眠っている。
その胸には、両親が最後に残した言葉だけが、確かに息づいていた。
「大好きよ、私たちのたった一人の子」
「ありがとう、クカラース」
その温もりを抱いたまま、クカラースは静かな涙とともに、深い眠りの中へ身を委ねていた。
第十四話「見知らぬ温もり」
夕暮れの草原。
風が穏やかに草を揺らし、名前のない結晶が静かに舞っていた。
クカラースは草の上で眠り続けている。
頬には涙の跡が残り、その寝顔はどこか幼く見えた。
眠っている間も、ときおり小さく肩が震える。
まるで夢の中で、まだ母を探しているかのようだった。
そこへ、一人の青年が通りかかる。
旅装束をまとい、静かな足取りで草原を歩いていた青年は、眠るクカラースの姿に気づき、立ち止まった。
「……こんなところで」
青年はゆっくりと膝をつく。
涙の跡。
冷え始めた身体。
穏やかな寝息。
それらを見つめ、青年は優しく微笑んだ。
「よく頑張ったんだね」
返事はない。
クカラースは静かに眠っている。
青年は両腕を差し伸べると、クカラースをそっと抱き上げた。
壊れ物を扱うように。
決して驚かせないように。
優しく胸へ抱き寄せる。
その温もりを感じた瞬間だった。
眠ったままのクカラースは、かすかに身じろぎする。
「……ん……」
無意識のうちに青年の胸へ額を寄せ、小さく擦り寄った。
まるで安心できる居場所を見つけた子どものように。
青年は少し驚いたあと、目を細める。
「安心して」
誰に聞かせるでもなく、静かに呟く。
「今はゆっくり眠ればいい」
青年はクカラースの頭をゆっくりと撫でた。
指先が髪を優しく梳く。
その動きはどこまでも穏やかだった。
続いて背中を一定のリズムで優しく叩く。
落ち着かせるような、小さな音。
クカラースの表情から、わずかな緊張がほどけていく。
苦しそうだった眉がゆっくりと緩み、呼吸も穏やかになった。
「……母さん……」
夢の中で、小さく呟く。
青年はその言葉を聞き、少しだけ切なそうに微笑んだ。
「大切な人を失ったんだね」
再び頭を撫でる。
「でも、君は一人じゃない。」
クカラースは答えない。
眠ったまま、小さく青年の服を握る。
その手はまだ震えていた。
青年はその手をそっと包み込む。
「大丈夫」
「君が目を覚ますまで、ここにいる」
夕焼けの光が二人を優しく照らす。
名前のない結晶は風に乗って舞い続ける。
青年はクカラースを抱いたまま、静かに歩き始めた。
第十五話「幼なじみ」
柔らかな揺れを感じる。
一定の鼓動。
胸から伝わる温もり。
クカラースはゆっくりと瞼を開いた。
夕焼け色の空が視界いっぱいに広がる。
その向こうには、一人の青年の穏やかな横顔があった。
「……」
青年はクカラースが目を覚ましたことに気づく。
視線を向け、優しく微笑んだ。
「起きたんだね。」
その声を聞いた瞬間、クカラースの胸の奥が熱くなる。
懐かしい。
理由は分からない。
けれど、この温もりもこの声も、ずっと昔から知っているような気がした。
「……」
クカラースは何も言わず、青年の服をぎゅっと握る。
そして、そっと青年の胸へ顔を埋めた。
「……」
青年は驚かない。
むしろそれが当たり前であるかのように、優しく頭を撫でる。
「たくさん泣いたんだね。」
クカラースは小さく頷く。
言葉は出ない。
ただ、もう一度だけ青年へ擦り寄る。
まるで幼い頃へ戻ったように。
青年も何も言わず、その背中をゆっくりと撫で続けた。
「大丈夫。」
「もう大丈夫だから。」
その一言だけで、クカラースの肩から力が抜ける。
「……ごめん。」
ようやく小さな声が漏れる。
「甘えてしまって。」
青年は優しく笑った。
「謝ることじゃない。」
「君は昔からそうだった。」
クカラースは顔を上げる。
「……昔?」
青年は頷く。
そして、どこか懐かしそうな表情になる。
「忘れてしまったの?」
「君は僕の――幼なじみだよ。」
クカラースは目を見開く。
胸の奥で、何かが震えた。
「……幼なじみ。」
その言葉を繰り返す。
青年は笑みを浮かべたまま名乗る。
「僕の名前は――リランティーヌ。」
風が吹く。
名前のない結晶が二人の間を舞う。
その名を聞いた瞬間、クカラースの心に断片的な記憶がよぎる。
草原、笑い合う二人、誰かが「リラ」と呼ぶ声。
けれど、それ以上は思い出せない。
クカラースは戸惑いながらも、小さく微笑んだ。
「……リランティーヌ。」
「うん。」
「これからは、リラって呼んで。」
リランティーヌは照れくさそうに笑う。
「昔も、そう呼んでくれていたから。」
クカラースは静かに頷いた。
「……リラ。」
その呼び名を聞いたリランティーヌは、どこか安心したように目を細める。
「おかえり、クカ。」
その何気ない一言に、クカラースはまた少しだけ涙ぐんだ。
今度の涙は、悲しみだけではなかった。
失ったものばかりではない。
再び出会えた人がいる。
幼い頃から、自分を知っていてくれた人がいる。
クカラースはもう一度だけ、安心したようにリランティーヌへ身を預ける。
リランティーヌは何も言わず、その頭を優しく撫で続けた。
夕焼けの草原を渡る風は、二人を祝福するように静かに吹いていた。
名前は失われた。
記憶は砕けた。
世界は何度も終わりを迎えた。
それでも誰かを想う心だけは、消えることがなかった。
母が子へ贈った愛。
友が友を守ろうとした願い。
家族を抱きしめる温もり。
そして、幼なじみとの再会。
失われたものは数え切れない。
けれど、残されたものも確かにあった。
それは――
「また会いたい」という願い。
その願いは、名前よりも強く、記憶よりも深く、
時を越え、人から人へと受け継がれていく。
風に乗って舞う結晶は、静かに空へ溶けていった。
その輝きは、終わりではない。
新たな始まりを告げる光だった。
-消失:Untitled 完結--永遠:Untitled 開幕-
静かな朝。
世界は、また目を覚ます。
青い空、柔らかな風、草原を渡る光。
名前のない結晶は、今日も変わらず空を舞っていた。
そこには戦争もない。
喪失もない。
誰かが誰かを憎む理由もない。
ただ、穏やかな時間だけが流れている。
草原の真ん中を、一人の青年が歩いていた。
クカラース。
彼は立ち止まり、風へ耳を澄ませる。
「……いい風だ。」
その声に、すぐ後ろから穏やかな笑い声が返ってくる。
「君は昔から、風の音を聞くのが好きだったね。」
振り返ると、リランティーヌが立っていた。
フードを外し、柔らかな笑みを浮かべている。
クカラースも自然と笑みを返した。
「リラ。」
「おはよう。」
「おはよう、クカ。」
二人は並んで歩き出す。
どこへ向かうわけでもない。
ただ、一緒に歩く。
それだけで十分だった。
遠くでは子どもたちが笑い、風車がゆっくりと回っている。
結晶が陽の光を受け、七色にきらめく。
その景色を眺めながら、クカラースは静かに呟いた。
「……懐かしい気がする。」
「何が?」
「分からない。」
クカラースは少し照れたように笑う。
「でも、この景色を……ずっと昔にも見た気がする。」
リランティーヌは何も否定しなかった。
ただ、優しく微笑む。
「そうかもしれないね。」
風が吹く。
二人の間を、一粒の結晶がゆっくりと通り過ぎた。
それは砕けることなく、消えることもなく、
静かに空へ昇っていく。
この世界では、終わりは別れではない。
別れは、また巡り会うための約束。
だから物語は続く。
終わることなく、途切れることなく、
幾年も、幾千年も。
-永遠:Untitled--第一話「父の腕の中で」-
穏やかな草原。
風が静かに吹き抜ける。
名前のない結晶は陽の光を受けながら、ゆっくりと宙を舞っていた。
クカラースとリランティーヌは並んで歩いていた。
何も話さない。
ただ、穏やかな時間を共有していた。
その時だった。
ふわり、と。
誰かが、クカラースの頭を優しく撫でる。
あまりにも懐かしい手。
大きく、温かな掌。
クカラースはゆっくりと振り返った。
そこには、一人の男性が立っていた。
穏やかな笑み。
包み込むような優しい眼差し。
「……御父上様。」
かすれた声が漏れる。
目の前にいたのは、ラディースだった。
ラディースは何も言わず、もう一度だけクカラースの頭を撫でる。
その仕草は、幼い頃から何一つ変わっていなかった。
クカラースの瞳が揺れ、唇が震える。
「……御父上様。」
もう一度、その名を呼ぶ。
次の瞬間、クカラースはラディースの胸元へ身を預けた。
ぎゅっと服を握る。
肩が小さく震えていた。
「……」
言葉にならない。
ただ、胸へ額を押し当てる。
まるで離れないように。
失わないように。
ラディースは何も問いかけなかった。
静かにクカラースを抱きしめる。
大きな腕が、その身体を包み込む。
クカラースは堪えていたものが溢れるように涙を流した。
静かな涙が、ラディースの服へ落ちていく。
「……もう、大丈夫だ。」
ラディースは低く穏やかな声で言う。
「お前はよく歩いてきた。」
その一言だけで、クカラースはさらに強く縋りついた。
「……御父上様。」
「会いたかった。」
ようやく絞り出したその言葉に、ラディースは目を細める。
「私もだ。」
短い返事。
けれど、その声には深い愛情が込められていた。
ラディースはゆっくりとクカラースを抱き上げる。
幼い頃と同じように慣れた手つきで。
クカラースは抵抗することなく、その腕の中へ身を委ねた。
大きな胸板へ頬を寄せる。
鼓動が聞こえる。温かい。安心する。
ラディースはクカラースの背中を、一定のリズムで優しく叩き始めた。
焦らせることなく、急がせることなく。
「ゆっくり休みなさい。」
その声は風よりも優しかった。
クカラースの呼吸が、少しずつ穏やかになっていく。
瞼が重くなる。
「……御父上様」
最後に小さく呟く。
「……ありがとう」
ラディースは静かに微笑んだ。
「ああ」
やがてクカラースは、ラディースの腕の中で静かな寝息を立て始めた。
頬には涙の跡が残っている。
けれど、その表情はとても穏やかだった。
まるで長い旅路の果てに、ようやく安心して眠れる場所へ帰ってきた子どものように。
ラディースは眠るクカラースの前髪をそっと整え、優しく頭を撫でる。
「……おやすみ、クカラース。」
草原には、誰も急かす者はいない。
風が吹き、結晶が舞う。
リランティーヌは少し離れた場所から、その光景を静かに見守っていた。
そして、小さく微笑む。
「おかえり、クカ。」
その声は風に乗り、穏やかな草原へと静かに溶けていった。
第二話「永遠の終わり」
永遠だと思っていた。
この温もりも、この草原も、父の腕も、
リランティーヌの笑顔も。
ずっと続くのだと。
そう、信じていた。
クカラースは静かに目を覚ます。
柔らかな草の感触。頬を撫でる風。
小鳥のさえずり。
「……御父上様。」
眠たげな声で呼ぶ。
返事はない。
「リラ?」
もう一度、呼ぶ。
それでも返事はない。
クカラースはゆっくりと身体を起こした。
辺りを見回す。
そこには誰もいなかった。
ラディースも、リランティーヌも誰一人として。
ただ、風だけが草を揺らしている。
「……?」
クカラースは立ち上がる。
「御父上様。」
少し大きな声で呼ぶ。
「リラ!」
返事はない。
足早に歩き始める。
草原を駆ける。
丘を越える。
木々の間を探す。
それでも誰もいない。
「……どこ」
息を切らしながら立ち止まる。
「どこにいるんですか……」
その声は震えていた。
静寂だけが返ってくる。
風が吹く。
名前のない結晶が舞う。
それだけだった。
クカラースは首を横に振る。
「違う……。」
「きっと近くにいる。」
「また、隠れているだけだ。」
自分に言い聞かせるように呟く。
「御父上様!」
「リラ!」
何度も何度も、名前を呼び続けた。
声は草原へ吸い込まれる。
誰も応えない。
やがてクカラースの足が止まる。
静かに、その場へ膝をついた。
「……また」
唇が震える。
「またなのか」
拳を強く握る。
「また、一人なのか。」
頬を涙が伝う。
止めようとしても止まらない。
「お願いだから……」
かすれた声が漏れる。
「もう、誰もいなくならないで」
風が吹く。
その風は優しかった。
まるで誰かが背中を撫でるように。
けれど、そこにはもう、温かな手はなかった。
クカラースは空を見上げる。
青空いっぱいに、名前のない結晶が静かに舞っている。
その景色は美しかった。
あまりにも美しく、あまりにも静かだった。
だからこそ、その静けさが胸を締め付けた。
永遠だと思っていた日常は、ほんの一瞬で引き裂かれた。
そしてクカラースは、もう一度だけ理解する。
永遠とは「決して失われない時間」ではなく、
「失ってもなお、心の中で生き続ける願い」なのだと。
風は今日も吹き続ける。
物語は、まだ終わらない。
第三話「落ちる空、翔ける意志」
風は冷たかった。
誰もいない草原を、クカラースは歩き続ける。
父を探して。
リランティーヌを探して。
オビオヌを。
ロウナタリーを。
ラヴィーンを。
ただ、一人で。
その顔色は青白い。
唇からは血の気が失せていた。
足取りもおぼつかない。
それでも立ち止まらない。
「……きっと、どこかにいる」
その言葉だけを支えに歩く。
しかし身体は正直だった。
視界が揺れる。
耳鳴りが響く。
呼吸が浅くなる。
「……っ」
膝から力が抜ける。
そのまま地面へ倒れ込んだ。
荒い息を繰り返しながら、草を握る。
「まだ……」
「終われない……」
震える手を地面につく。
腕に力を込める。
身体は言うことを聞かない。
何度も崩れ落ちる。
それでもゆっくりと立ち上がった。
「……行かなきゃ」
震える足で、一歩を踏み出す。
その瞬間、踏みしめたはずの地面が消えた。
「――え」
足元が崩れる。
身体が前へ傾く。
クカラースが立っていた場所は、草原ではなかった。
そこは、果ての見えない崖だった。
「……!」
身体が宙へ投げ出される。
重力に引かれ、どこまでも落ちていく。
下を見ても地面は見えない。
闇だけが広がっていた。
終わりはない。
底もない。
ただ、落ち続けるだけ。
風が耳元で唸る。
髪が激しくなびく。
クカラースは何もできず、落ちていた。
抵抗する気力もない。
「……もう、これでいいのかもしれない。」
瞳を閉じる。
その時だった。
『クカラース。』
優しい声。
『お前はよく歩いてきた。』
ラディース。
『クカ。』
『おはよう。』
リランティーヌ。
『クカ。』
『無理はするな。』
オビオヌ。
『クカラース。』
『我は、お前を誇りに思う。』
ロウナタリー。
『大好きよ。』
『ありがとう、クカラース。』
ラヴィーン。
次々と蘇る笑顔。
温かな手。
抱きしめられた記憶。
涙が一筋、頬を伝う。
その涙を、クカラースは自らの手でそっと拭った。
「……違う」
静かな声。
けれど、その瞳には確かな光が宿る。
「みんなは、諦めるために僕を生かして
くれたんじゃない。」
右手が腰へ伸びる。
握り慣れた感触。
愛銃。
クカラースは静かに構える。
「まだ、終わらせない。」
引き金を引く。
乾いた銃声が、果てない闇へ響き渡った。
放たれた弾丸は、落下する自分よりも速く空を駆ける。
その瞬間、強い衝撃がクカラースの身体を押し上げる。
風を裂く。
身体が上昇を始める。
まるで空そのものが、彼を受け止めたかのように。
「……」
クカラースは空中で姿勢を立て直す。
闇を見下ろす。
もう、そこへ落ちることはない。
彼は空を翔けていた。
誰かに救われたのではない。
誰かに運ばれたのでもない。
自分自身の意志で前へ進むために、空を翔ける。
風が頬を打つ。
名前のない結晶が、その軌跡を照らすように舞っていた。
クカラースは前を見据える。
「待っていて」
その声は風に溶ける。
「必ず、みんなのところへ帰る」
そう誓い、彼は果てしない空へ向かって飛び続けた。
第四話「交錯する願い」
空を裂く銃声が響く。
乾いた音とともに、クカラースは愛銃を放つ。
その反動を利用し、身体をひねる。
さらにもう一発。
放たれた弾丸の反動で軌道を変え、風を切るように空を翔ける。
まるで空そのものを駆けるように、
誰にも追えない軌跡を描いていた。
しかし、その瞳には穏やかさはなかった。
焦点の合わない金色の瞳。
何かに突き動かされるように、ただ飛び続けている。
やがて、眼下に見覚えのある建物が映る。
ラヴァラル王国の診療所。
その屋根の真上へ差しかかった、その瞬間。
鋭い風切り音が響いた。
無数の医療用ナイフが、空を埋め尽くすようにクカラースへ迫る。
クカラースは愛銃を構えた。
甲高い金属音が連続して鳴り響く。
弾丸がナイフを次々とはじき返し、火花が空中へ散る。
診療所の上。
そこに立つ人物がいた。
「……クカ。」
短く呼ぶ声。
右手には次のナイフが握られている。
オビオヌだった。
その表情は険しい。
怒りではない。
心配と決意が入り混じった眼差しだった。
「止まれ!」
返事はない。
クカラースは空中で身体を回転させ、再び銃声を響かせる。
オビオヌは間髪入れず、さらにナイフを投げる。
すべてが正確にクカラースの進路を制限するように飛んでいく。
命を奪うためではない。
暴走を止めるための軌道だった。
その時、診療所の屋根の向こうから光が走る。
淡い輝きを帯びた魔法が、一直線にオビオヌへ向かって放たれた。
オビオヌは即座に身体をひねり、ナイフを放つ。
金属が魔法へ触れた瞬間、軌道がわずかに逸れる。
だが、完全には消えない。
「……」
オビオヌはさらにもう一本のナイフを投げる。
魔法の勢いを削ぎ、進路を変える。
その魔法を放った人物は静かに息をついた。
「…………」
リランティーヌだった。
彼はすぐに防御魔法を展開し、逸れた魔法を受け止める。
柔らかな光が広がり、衝撃は静かに霧散した。
次の瞬間クカラースが急降下する。
愛銃が火を吹く。
リランティーヌは防御魔法を展開し、オビオヌもナイフで弾道をそらす。
空には銃声と金属音、魔法の輝きが幾重にも交錯する。
高く、更に高く。
クカラースは雲へ届くほど上昇した。
その姿は、まるで一筋の流星だった。
彼は振り向き愛銃を静かに構える。
その瞳はまだ揺れている。
理性と衝動の狭間で。
「クカ!」
オビオヌが叫ぶ。
「帰ってこい!」
リランティーヌも空を見上げる。
「僕たちは敵じゃない!」
二人の声は届いている。
それでもクカラースの暴走は止まらない。
彼は再び引き金へ指をかける。
空気が張り詰める。
オビオヌはナイフを構え直し、リランティーヌは防御魔法を維持した。
二人の目的はただ一つ。
クカラースを傷つけることではない。
彼を、この暴走から連れ戻すことだった。
第五話「届かない手」
空を裂く銃声が、何度も響く。
クカラースは風を切りながら飛び続けていた。
息は乱れ、肩は大きく上下している。
それでも、止まらない。
止まれない。
オビオヌが次のナイフを構えようとして、ふと動きを止めた。
「……クカ」
その視線は、愛銃ではなかった。
クカラースの両手へ向けられていた。
肌はひどく荒れ、乾き切っている。
何度も強く握り締めた跡が残り、ところどころ裂けていた。
銃を握るたびに傷口が開き、赤い血がにじむ。
それでもクカラースは気づいていない。
あるいは、気づいていても構わないと思っているようだった。
「……もう十分だ」
オビオヌは苦しげに呟く。
「あれ以上、銃を握れば……」
言葉は続かなかった。
リランティーヌも空を見上げる。
「クカ……」
その手は、かつて誰かを守るために伸ばした手だった。
誰かを抱きしめるための手だった。
その手が今、自分自身を傷つけ続けている。
しかし、クカラースは飛び続ける。
引き金を引く。
乾いた銃声。
反動で身体が宙を舞う。
傷口から新たな血が流れ、風の中へ散っていく。
「クカ!」
オビオヌは大きく呼びかけた。
「その手を見ろ!」
「もう、それ以上握るな!」
声は空へ響く。
だが、クカラースは止まらない。
表情は苦しそうなのに、身体だけが前へ進み続けている。
リランティーヌは胸の前で静かに手を組んだ。
攻撃の魔法ではない。
柔らかな光が空へ伸びていく。
「お願い……」
「もう、一人で苦しまないで」
その光はクカラースの近くまで届く。
しかし、クカラースは反射的に愛銃を構え、防ごうとする。
その瞬間、裂けた手から血が伝い、銃身へ落ちた。
わずかに力が緩む。
愛銃が小さく震えた。
クカラースは初めて自分の手を見下ろす。
赤く染まった掌。
震える指先。
傷だらけの手。
「……っ」
小さく漏れた声。
その手は、いつの間にかこんな姿になっていた。
オビオヌは武器を構えたまま、一歩だけ前へ出る。
「クカ」
その声は静かだった。
「その手は、傷つくためにあるんじゃない」
リランティーヌも続ける。
「誰かを守るために」
「誰かの手を握るためにあるんだ」
風が吹く。
舞い散る結晶が、傷ついたクカラースの手の周りを静かに漂った。
暴走はまだ終わっていない。
けれど、その瞳にはほんのわずかに迷いが宿り始めていた。
第六話「暴走の鼓動」
空を舞う結晶が、静かに光を反射する。
クカラースは空中で静止したまま、自分の両手を見つめていた。
裂けた掌。
乾いた血。
震える指先。
「……僕は」
その瞳に、ほんのわずかな理性が戻る。
「そうだ、クカ」
「戻ってこい」
「僕たちはここにいる」
「一人じゃない」
その言葉は確かに届いた。
クカラースの表情から険しさが薄れ、握り締めていた愛銃が少しだけ下がる。
「……リラ」
「……オビオヌ」
かすれた声で二人の名を呼ぶ。
あと一歩。
あと少しで、彼は戻ってこられるはずだった。
その瞬間だった。
心臓が、異様なほど強く脈打つ。
「……っ!」
クカラースは胸を押さえる。
鼓動が全身へ響き渡る。
呼吸が乱れ、視界が揺らぐ。
「何……これ……」
クカラースは苦しげに息を漏らす。
「止まれ……」
「お願いだから……」
しかし鼓動は止まらない。
むしろ、さらに激しくなる。
クカラースの周囲を舞っていた結晶が、一斉に弾けるように吹き飛んだ。
リランティーヌの展開していた光の魔法も、見えない衝撃に押し返される。
オビオヌが放ったナイフは空中で軌道を乱され、次々と地面へ落ちていく。
二人は思わず身構えた。
「……クカ?」
オビオヌが名を呼ぶ。
返事はない。
ゆっくりと顔を上げたクカラースの瞳は、先ほどとは違っていた。
理性に宿っていた温かな光は消え、激しい混乱だけが残っている。
愛銃を持つ手は震えている。
まるで、自分自身と戦っているかのように。
オビオヌは一歩踏み出そうとする。
「クカ、落ち着け!」
「違う!」
クカラースは叫んだ。
「近づかないで!」
鼓動がさらに強まる。
反射的に、愛銃が持ち上がる。
クカラース自身の意思ではない。
震える腕を必死に押さえようとする。
「やめ……」
「やめて……!」
それでも引き金へかかった指は止まらない。
乾いた銃声が響く。
オビオヌはとっさに身をひねり、リランティーヌは光の障壁を展開する。
銃弾は二人のすぐ近くをかすめ、障壁とナイフによって勢いを逸らされ、そのまま遠くの空へ飛び去っていった。
クカラースは息を荒げながら、自分の手を見つめる。
「違う……」
「今のは……」
その表情には恐怖が浮かんでいた。
彼が恐れているのは、オビオヌでもリランティーヌでもない。
自分自身だった。
オビオヌは武器を下ろさず、それでも静かに言う。
「クカ」
「私たちは、きみを見捨てない」
リランティーヌも頷く。
「君がどんなに苦しんでいても」
「僕たちは、君を取り戻すためにここにいる」
風が吹く。
砕けた結晶が静かに舞い、三人の間を通り抜けていった。
第七話「失われた声」
「……僕から……逃げ…………」
その言葉は、最後まで続かなかった。
クカラースの身体が大きく震える。
握り締めた愛銃が軋み、息が荒くなる。
瞳に残っていた理性の光が、ゆっくりと揺らぎ――
静かに、消えた。
「クカ!」
オビオヌが叫ぶ。
クカラースは何も答えないまま、ゆっくりと顔を上げる。
その表情からは悲しみも、迷いも読み取れない。
ただ、激しく乱れた力だけが周囲へ広がっていく。
風が渦を巻き、空に舞っていた結晶が四方へ吹き散らされた。
空気が震える。
診療所の屋根がきしみ、木々が大きく揺れた。
リランティーヌは息をのむ。
「……違う」
「これは、クカじゃない」
オビオヌも強く頷く。
「分かってる」
「だからこそ止める」
二人は互いに視線を交わした。
敵と戦うためではない。
大切な友を取り戻すために。
その思いだけが、二人を支えていた。
クカラースは一瞬で空高く舞い上がる。
その動きは、先ほどまでとは比べものにならないほど速い。
銃声、風を裂く音。
反動を利用して縦横無尽に空を駆け、誰も近づけない軌道を描く。
「速い……!」
リランティーヌは防御魔法を幾重にも展開する。
オビオヌは落ち着いて周囲を観察し、クカラースの動きを追い続ける。
「狙うな」
「時間を稼ぐ」
「うん」
リランティーヌは頷く。
「傷つけずに、止めよう」
空を満たす結晶が、暴走する力に呼応するように激しく渦を巻く。
その中心で、クカラースは孤独に戦っていた。
敵は目の前の二人ではない。
胸の奥で暴れ続ける、制御できない力だった。
オビオヌは静かに息を吸う。
「クカ」
届くかどうかは分からない。
それでも呼び続ける。
「聞こえているなら帰ってこい」
リランティーヌも空を見上げる。
「僕たちは待ってる」
「何度でも」
「君が戻るまで」
返事はない。
けれど、二人は諦めなかった。
暴走する友を倒すためではなく、
もう一度、その名前を呼び返すために。
戦いは終わっていない。
それは勝敗を決める戦いではなく、
一人の大切な友の心へ手を伸ばし続ける戦いだった。
-第八話「砕けた硝子」-
空を裂く風。
舞い続ける結晶。
激しく渦巻く力の中心で、クカラースはなおも空を翔けていた。
その瞳は何も映していない。
誰の声も届かない。
誰の手にも触れられない。
まるで、透明な硝子の中へ閉じ込められてしまったように。
オビオヌは空を見上げる。
隣ではリランティーヌが拳を握り締めていた。
二人は同時に息を吸う。
そして――「「クカラース!!!!」」
その声は、叫びではなかった。
友を呼ぶ声。
帰ってきてほしいと願う声。
ただ一人の、大切な名前を呼ぶ声だった。
クカラースの意識の奥底。
"パリン"乾いた音が響く。目の前を覆っていた透明な硝子に、小さなひびが入る。ひびは無数に広がり、やがて硝子は砕け散った。クカラースの瞳が大きく揺れる。「……リラ」「……オビオヌ」
二人の姿が、ようやく映る。
その瞬間、身体から力が抜けた。
愛銃が手を離れ、空中をゆっくりと落ちていく。
クカラース自身も、静かに落下を始めた。
「リラ!」「うん!」
リランティーヌはすぐに両手を掲げる。
柔らかな光が空へ広がり、クカラースを包み込む。
攻撃ではない癒やしの魔法。
温かな光が傷ついた身体を優しく包み、荒れていた呼吸が少しずつ落ち着いていく。
裂けていた両手の傷も、ゆっくりと癒えていった。
その間に、オビオヌは大きく跳び上がる。
落ちてくるクカラースへ両腕を伸ばした。
「クカ!」
オビオヌはクカラースをしっかりと受け止める。
衝撃を逃がすように身体を回し、そのまま静かに地面へ着地した。
クカラースは目を閉じたまま、小さく息をつく。
しばらくしてゆっくりと瞼が開く。
「……」
焦点の定まらない瞳。
ぼんやりと天井――いや、空を見つめている。
「……っ」
オビオヌの顔が映る。
リランティーヌの姿も見える。
「……」
何かを言おうとする。
けれど、言葉にならない。
身体中の力を使い果たしたように、ぐったりとしていた。
オビオヌは安堵したように息を吐く。
「……おかえり」
短い一言。
それだけだった。
リランティーヌは回復魔法を維持したまま、穏やかに微笑む。
「無事でよかった」
クカラースは二人を見つめる。
その瞳はまだぼんやりとしている。
疲れ切った表情で、小さく息をついた。
「……ごめん」
かすかな声だった。
オビオヌは首を横に振る。
「謝る話じゃない」
リランティーヌも静かに頷く。
「君が戻ってきてくれた」
「それだけで十分だよ」
クカラースは安心したように目を閉じる。
今度は暴走ではない。
深い疲労に身を委ねるように、
オビオヌの腕の中で静かに身体を預けた。
診療所の上空では、風に乗った結晶がゆっくりと舞い続けていた。
その輝きは、三人が再び同じ場所に立てたことを祝福するかのように、穏やかに降り注いでいた。
永遠とは、終わらない時間ではなかった。
失われない命でもなかった。
何度離れ離れになっても、何度涙を流しても、
もう一度、名前を呼び合えること。
もう一度、その手を握れること。
それこそが、永遠だった。
クカラースは知った。
人は独りでは歩けない。
だからこそ、誰かの「おかえり」があるだけで、
また歩き出せる。
風は吹き続ける。結晶は舞い続ける。永遠の日々は続く。
-永遠:Untitled 完結--希望:Untitled 開幕-
世界はまだ、静かな青に包まれていた。
風も止み、結晶さえもまるで息を潜めるように空を漂っている。
その静寂の中で、一つの小さな灯火がともった。
それは診療所の窓辺だった。
木造の小さな建物。
何度も人を救い、何度も涙を見届けてきた場所。
その扉が、ゆっくりと開く。
一人の青年が外へ出た。
オビオヌ。
彼は朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、小さく息を吐く。
「……今日も、始まる。」
誰に聞かせるでもない独り言。
その声には、穏やかな決意が宿っていた。
診療所の中から、柔らかな足音が聞こえる。
「もう起きてたんだ。」
リランティーヌだった。
眠たそうに目をこすりながら、それでも優しく笑っている。
「今日は早いね。」
「眠れなくて。」
オビオヌは照れくさそうに笑う。
「悪い夢でも見た?」
「いや……いい夢だった。」
リランティーヌも空を見上げる。
「どんな夢?」
オビオヌは少し考えてから答えた。
「誰も泣いていない夢、誰も独りじゃない夢、
皆で笑っている夢。」
その言葉に、リランティーヌは静かに頷いた。
「それなら、夢じゃなくて、現実にしよう。」
二人は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべる。
そのとき、診療所の扉がもう一度開いた。
「……二人とも」
少し眠そうな声。クカラースだった。
まだ寝癖の残る髪を手で整えながら、ゆっくりと外へ出てくる。
オビオヌは振り返る。
「おはよう、クカ。」
「おはよう」
リランティーヌも笑う。
「今日は顔色がいいね。」
クカラースは少し照れくさそうに微笑んだ。
「うん」
「昨日は、よく眠れた。」
その笑顔には、以前のような苦しみはなかった。
まだ傷は残っている。
失ったものも、消えたわけではない。
それでも、三人は同じ朝を迎えられた。
それだけで充分だった。
朝日が昇る。
黄金色の光が草原を照らし、名前のない結晶は希望を映すようにきらめく。
終わりの先にあるものは、絶望ではない。
新しい一歩。誰かと共に歩む未来。
そして、まだ見ぬ希望。
物語は再び動き始める。
今度は誰かを失うためではなく、
誰かと共に生きるために。
-希望:Untitled/第一話「散らかった部屋」-
朝の診療を終えた診療所は、束の間の静けさに包まれていた。
患者たちが帰り、薬草を揺らす風だけが窓を叩く。
リランティーヌは庭で薬草の手入れをし、クカラースは廊下の窓から結晶が舞う空をぼんやり眺めている。
その頃――診療所の一番奥にある自室では、
オビオヌが一人、椅子に腰掛けていた。
何もしていない。
机に肘をつき、虚ろな目で虚空を見つめている。
部屋は静かだった。
だがその静けさとは対照的に、室内はひどく荒れていた。
床には破り捨てられた研究資料が無数に散らばっている。
古い医学書は開いたまま倒れ、何冊かはページが裂けていた。
調合に使っていた薬瓶は棚から落ち、床の上を転がっている。
乾いた薬草も散乱し、ガラス片が朝の光を鈍く反射していた。
まるで、嵐が通り過ぎた後のようだった。
しかし、それを散らかしたのは他でもない。
オビオヌ自身だった。
「……」
彼は何も言わない。
片手には、破れた一枚の紙が握られている。
そこにはかつて書きかけていた薬の処方が、途中で途切れたまま残っていた。
視線だけが、その文字を追う。
けれど意味は頭に入ってこない。
「……何をしているんだ、私は」
小さく呟く。
返事はない。
部屋には、自分の声だけが残った。
彼はゆっくりと周囲を見回す。
散乱した本、転がる薬瓶、破れた書類。
どれも自分が積み上げてきた時間の欠片だった。
それなのに今は、それらを片づける気力すら湧かない。
オビオヌは椅子にもたれ、静かに目を閉じる。
疲れている。
身体ではない。
心が。
「……少しだけ」
「少しだけ、休みたい」
その言葉は誰にも届かない。
ただ、静かな部屋へ溶けていった。
窓から吹き込んだ風が、一枚の破れた紙をふわりと舞い上げる。
それはオビオヌの足元へ落ちた。
彼はそれを拾おうともせず、ただぼんやりと見つめていた。
診療所では、いつも誰かを救っている名医。
その診療所の奥では、誰にも気づかれないまま、
一人の医師の心は静かに疲弊していた。
-第二話「閉ざされた扉」-
数日が過ぎた。
診療所はいつも通り患者を迎えていたが、オビオヌだけは違っていた。
顔色は日に日に青白くなり、目の下には濃い隈が浮かぶ。
薬を調合する手もわずかに震え、時折、何もない場所を見つめて動きを止めることがあった。
その様子を見ていたリランティーヌとクカラースは、診療が終わると静かにオビオヌの前へ立った。
「オビオヌ」
リランティーヌが穏やかに声をかける。
「少し休もう。」
クカラースも頷いた。
「今日は私たちが診療所を見ているから。
しかし、オビオヌは首を振る。
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃない。」
クカラースは一歩近づく。
その瞬間、オビオヌの表情が大きく歪んだ。
「来るな。」
声が震える。
「オビオヌ…」
リランティーヌが手を伸ばした、その時だった。
「放っといてくれ!!」
診療所中に響くほどの叫びだった。
オビオヌは二人の手を振り払い、とっさに懐からナイフを取り出す。
反射的に投げ放たれた刃は、二人のすぐそばをかすめた。
それでも二人は後ずさりしなかった。
ただ、まっすぐオビオヌを見つめている。
その眼差しに、責める色はなかった。
あるのは心配だけだった。
それがかえって、オビオヌの胸を締めつける。
「俺のことなんて、わからないくせに!!!!」
震える声だった。怒りではない。
苦しみの叫びだった。
オビオヌは踵を返し、自室へ駆け込む。
扉が閉まる。「オビオヌ」
クカラースが扉の前へ行く。
返事はない。
部屋の中から聞こえてくるのは、
"ビリッ" 紙が破れる音。
"ガシャン" 薬瓶が割れる音。
机や椅子が動く鈍い音。
そして、ときおり押し殺したような苦しげな声。
リランティーヌは扉にそっと手を添えた。
「オビオヌ」
静かに呼びかける。
「僕たちはここにいる。」
返事は返ってこない。
部屋の中は再び静かになる。
やがて聞こえてきたのは、かすかな息遣いだった。
苦しさをこらえるような、小さく震える呼吸。
その音に、クカラースは拳を握りしめる。
「……一人で抱え込まないで。」
その願いは扉越しに届けられる。
リランティーヌも静かに続けた。
「扉を開けられなくてもいい。」
「話せなくてもいい。」
「でも、君を一人にはしないよ。」
診療所の廊下には、重い沈黙が流れる。
二人は扉の前を離れなかった。
オビオヌが、自分からもう一度声をかけてくれるその時まで。
-第三話「届かなかった声」-
診療所の廊下は静まり返っていた。
リランティーヌとクカラースは、扉の前で何度もオビオヌへ声をかけ続けていた。
返事はない。
不自然な静けさだけが続く。
クカラースは扉へ手をかける。
ゆっくりと押すと、扉は抵抗なく開いた。
鍵は壊れており、部屋は以前よりもさらに荒れていた。
破れた書類、倒れた棚、床に転がる薬瓶。
その中央で、オビオヌは動かないまま倒れていた。
「オビオヌ!」
二人は駆け寄る。
顔色はひどく青白く、呼吸は浅い。
リランティーヌはすぐに脈と呼吸を確かめる。
「……生きてる。」
安堵の息をつきながらも、その表情は険しい。
オビオヌの左手と左腕、そして首の後ろには傷があり、出血していた。
リランティーヌは落ち着いて止血を行い、回復魔法と治療を施す。
淡い光が傷口を包み、少しずつ血は止まっていく。
クカラースはオビオヌの手をそっと支えながら、小さく呼びかけた。
「オビオヌ……」
返事はない。
眠るように意識を失ったままだった。
治療が終わるころには命に関わる状態は脱していた。
しかし、傷があった場所には薄く跡が残る。
リランティーヌはその跡を見つめ、静かに目を伏せた。
「……治せなかった」
「命は守れた。でも、この跡までは消せない。」
クカラースは首を横に振る。
「跡が残ってもいい。」
「生きていてくれた。それが一番大事だ。」
二人は協力してオビオヌを静かにベッドへ寝かせる。
毛布を肩まで掛けると、オビオヌの苦しそうだった表情は少しだけ和らいだ。
部屋の荒れた様子を見回しながら、リランティーヌは静かに言う。
「心の痛みは、薬だけでは治せない。」
クカラースは眠るオビオヌの傍らに椅子を寄せて座る。
「だから今度は、私たちがそばにいる。」
「一人では抱えさせない。」
窓の外では、名前のない結晶が風に乗って静かに舞っていた。
その小さな光は、暗い部屋にもわずかな明るさを運んでいた。
-第四話「帰る場所」-
一か月が過ぎた。
診療所には穏やかな時間が戻っていた。
窓から差し込む朝日。薬草の香り。
名前のない結晶が、今日も静かに風へ舞っている。
その奥の病室で、一人の青年がゆっくりと瞼を開いた。
「……」
オビオヌだった。
ぼんやりと天井を見つめる。
長い眠りから覚めた身体は重く、腕にも思うように力が入らない。
左手、左腕、首の後ろには、薄く残った傷跡があった。
オビオヌはそれを見つめることもなく、ゆっくりと身体を起こす。
肩から毛布を羽織ると、そのまま床へ降りた。
毛布は長く床へ垂れ、歩くたびに後ろを引きずっていく。
ふらつきながらも、一歩ずつ廊下を進む。
誰もいない静かな廊下。
やがて、談話室の扉が見えてきた。
中から穏やかな話し声が聞こえる。
オビオヌは扉をそっと開けた。
「……」
部屋にいた四人が、一斉に振り向く。
皆は一瞬言葉を失った。
「……オビオヌ」
最初に声を漏らしたのはリランティーヌだった。
「起きたの……?」
クカラースも立ち上がる。
「無理して歩いてきたのか?」
オビオヌは答えない。
ぼんやりとした瞳のまま、ゆっくりと四人へ歩いていく。
毛布を引きずる音だけが静かに響く。
その足は迷うことなく、一人の前で止まった。
ロウナタリー。
オビオヌは彼を見上げる。
何かを確かめるように。
安心するように。
そして何も言わず、ロウナタリーの胸元へ正面からそっと身を寄せた。
額を預け、小さく擦り寄る。
まるで幼い子どもが、安心できる場所を見つけたように。
「……兄さん」
かすれた声だった。
ロウナタリーは目を細める。
「……オビオヌ。」
その声は、どこまでも優しかった。
彼はオビオヌの肩へ静かに手を置く。
拒むことなく、その身体を支える。
オビオヌは安心したように、さらに少しだけ身を預けた。
「……すまない。」
小さな声で呟く。
「怖かった。」
その一言に、部屋は静まり返る。
ロウナタリーは何も責めなかった。
ただ、オビオヌの頭へゆっくりと手を置き、幼い頃と変わらない手つきで優しく撫でる。
「もう大丈夫だ。」
「ここには、お前の帰る場所がある。」
オビオヌは静かに目を閉じた。
その表情から、張り詰めていた力が少しずつ抜けていく。
少し離れた場所で見守っていたラディースは、小さく安堵の息をついた。
クカラースは目を潤ませながら微笑み、リランティーヌも静かに笑顔を浮かべる。
誰も言葉を急がなかった。
今はただ、オビオヌが戻ってきたこと。
それだけで十分だった。
診療所の窓から吹き込む風が、五人の傍らを静かに通り過ぎる。
舞い込んだ名前のない結晶は柔らかな光を放ち、穏やかな時間が再び動き始めたことを、そっと祝福しているようだった。
-第五話「支えられる側」-
朝の診療所。
窓から柔らかな陽射しが差し込み、薬草を乾かす香りが部屋いっぱいに広がっていた。
オビオヌはソファに腰掛けている。
肩には毛布。
まだ顔色は青白く、左手には薄く傷跡が残っていた。
ぼんやりと窓の外を眺めている。
「……」
以前なら、この時間には薬を調合し、患者を診ていた。
しかし今日は違う。
何もしなくていい。
そう言われている。
それが、かえって落ち着かなかった。
(……何か、手伝おう)
立ち上がろうとした、その時。
「駄目。」
リランティーヌが穏やかに笑う。
「今日は患者さんだから。」
「でも……」
「診療所は僕たちがいるよ。」
クカラースも薬草の籠を抱えながら笑った。
「オビオヌは休む。」
「これは決定事項。」
「……」
オビオヌは困ったように二人を見つめる。
今までずっと自分が誰かを支えてきた。
誰かを助ける側だった。
だから――
助けられることに、どうしても慣れない。
「私は……役に立たない。」
その言葉に、部屋の空気が静かになる。
ラディースはゆっくり立ち上がった。
オビオヌの前まで歩いていく。
そして、大きな手でオビオヌの頭をそっと撫でた。
「役に立つかどうかで、お前をここに置いているわけではない。」
低く穏やかな声だった。
「家族だからだ。」
オビオヌは目を見開く。
「…………」
その言葉が胸へ静かに染み込んでいく。
ロウナタリーも椅子から立ち上がる。
「オビオヌ」
「お前はこれまで、多くの命を救ってきた。」
「だから今度は、お前が支えられる番だ。」
オビオヌは小さく俯く。
視界がぼやける。
「……支えられる資格なんて」
「ある。」
クカラースが即座に答えた。
「私は何度も助けてもらった。」
「リラも、ナタリー様も、御父上様も。」
「だから今度は、私たちの番。」
リランティーヌは微笑む。
「助けてもらうことは、弱さじゃない。」
「信じることだよ。」
静かな沈黙が流れる。
オビオヌは毛布をぎゅっと握った。
そして、小さく息を吐く。
「……難しいな。」
少しだけ苦笑する。
その表情を見て、四人も自然と笑った。
重苦しかった空気が、少しだけ和らぐ。
その時、コンコン、と診療所の扉が鳴る。
「先生!」
外から慌てた声が聞こえる。
「怪我人です!」
オビオヌは反射的に立ち上がろうとする。
しかし、クカラースが肩へそっと手を置いた。
「任せて。」
リランティーヌも薬箱を持ち上げる。
「オビオヌ」
「今日は僕たちが診る。」
二人は診療所の扉へ向かって走っていく。
その背中を見送るオビオヌは、静かに目を細めた。
「……成長したな。」
その声には、少しだけ誇らしさが混じっていた。
ロウナタリーは穏やかに笑う。
「お前が育てたんだ。」
診療所の外では、患者を励ますクカラースと、落ち着いて治療を始めるリランティーヌの声が聞こえてくる。
オビオヌはその声に耳を澄ませ、ゆっくりとソファへ身体を預けた。
今日は、自分が診る日ではない。
仲間を信じて、休む日。
それもまた、一歩前へ進むために必要な時間だった。
-第六話「希望の名医」-
数日後――診療所には、いつものように朝日が差し込んでいた。
窓際ではリランティーヌが薬草を仕分け、クカラースは棚へ薬瓶を並べている。
ラディースは椅子に腰掛けて本を読み、ロウナタリーは届いた書簡へ目を通していた。
静かで、穏やかな朝。
その時だった。
コン、コン。
診療所の扉が叩かれる。
「どうぞ。」
リランティーヌが扉を開けると、一人の年配の女性が立っていた。
女性は診療所の中を見回し、不安そうに尋ねる。
「……オビオヌ先生は、いらっしゃいますか?」
その声を聞き、部屋の奥からゆっくりと足音が近づいてくる。
毛布はもう羽織っていない。
顔色も、以前よりずっと良くなっていた。
「……お待たせしました。」
オビオヌだった。
まだ傷跡は残っている。
それでも、その表情には穏やかな笑みが戻っていた。
女性は安心したように微笑む。
「先生……」
「先生が倒れたって聞いて、とても心配していたんです。」
オビオヌは少し照れくさそうに笑った。
「ご心配をおかけしました。」
「ですが、もう大丈夫です。」
女性は深く頷き、安心したように胸へ手を当てた。
「本当に良かった……。」
その後も、患者が次々と診療所を訪れる。
「先生、腰が痛くてねぇ。」
「子どもの熱を診てもらえますか?」
「この薬草のことなんですが……。」
オビオヌは一人ひとりの話へ耳を傾ける。
以前のように無理をすることはない。
疲れれば椅子へ腰掛ける。
難しい治療はリランティーヌとクカラースも手伝う。
三人で診療所を守る。
それが今の日常だった。
昼過ぎ、患者が途切れた頃。
クカラースが薬棚を整理しながら笑う。
「今日は皆、オビオヌに会いに来てるみたいだったね。」
「そうだね。」
リランティーヌも優しく微笑む。
「病気だけじゃなくて、先生の顔を見て安心したかったんだと思う。」
オビオヌは少し困ったように笑う。
「私は、そんな大した人間じゃない。」
その言葉へ、ロウナタリーが静かに首を横へ振る。
「違う」
「お前は、自分では気づいていないだけだ。」
ラディースも本を閉じる。
「お前が救った命は、一つや二つではない。」
「だから皆、お前が元気でいることを願っている。」
オビオヌは静かに目を伏せた。
思い返せば、何百人、何千人。
名前も知らない人々を診てきた。
救えた命もあれば、救えなかった命もある。
それでも今日、患者たちは薬だけではなく、自分の無事を喜んでくれた。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
その時、診療所の扉が勢いよく開いた。
「先生!」
小さな男の子が駆け込んでくる。
手には、小さな花束が握られていた。
「これ!」
「先生にあげる!」
オビオヌは驚きながら受け取る。
野に咲く花を束ねただけの、小さな花束。
男の子は満面の笑みで言った。
「先生は、ぼくの希望の名医だから!」
診療所が静まり返る。
オビオヌは花束を見つめたまま、言葉を失う。
やがて、ゆっくりとしゃがみ込み、男の子の頭を優しく撫でた。
「……ありがとう」
その声は少し震えていた。
男の子は嬉しそうに笑い、手を振って帰っていく。
花束からは、野花の優しい香りが漂っていた。
リランティーヌは静かに微笑む。
「ぴったりの呼び名だね。」
クカラースも頷く。
「うん。」
「希望の名医。」
オビオヌは花束を胸へ抱き寄せる。
窓の外では、名前のない結晶が陽の光を受けて静かに舞っていた。
その輝きは、誰かの希望を照らすように、今日も穏やかに世界を包んでいた。
希望とは、光のことではなかった。
悲しみがなくなることでもなかった。
傷跡が消えることでもない。
誰かが「大丈夫」と手を差し伸べること。
誰かが「おかえり」と迎えてくれること。
自分もまた誰かへ、その言葉を返せること。
オビオヌは知った。
支えることも、支えられることも、
どちらも同じくらい尊いのだと。
診療所には今日も笑い声が響く。
クカラースは穏やかな笑顔を取り戻し、
リランティーヌは変わらず誰かを癒やし、
ロウナタリーとラディースは静かに皆を見守る。
風が吹く。
名前のない結晶が空を舞う。
それは、明日への希望のように輝いていた。
そして物語は、また新たな頁をめくる。
-希望:Untitled 完結--絶望:Untitled 開幕-
--あるところに、草原がありました
その草原では、◻︎◻︎する者たちが暮らしています
どうやら、これが幸せなようです--
<登場キャラクター>
【クカラース・ラヴァラル(Kuclarth Lavroll)】
■基本情報
名前:クカラース・ラヴァラル
性別:男性
年齢:20代前半の見た目(実年齢:数千歳)
誕生日:2月29日
身長:176cm
体重:55kg
一人称:私→僕
二人称:君、貴方
イメージカラー:エメラルドグリーン
■外見
髪色:金に近い茶髪
髪型:肩にかからない短髪
瞳の色:髪色より暗い茶色
服装:貴族服
装飾品:なし
声の特徴:低く優しい声
利き手:左手
■傷跡
位置:右側の骨盤付近から右足首まで続く
一本線の傷跡
由来:自然破壊によって負った傷
後遺症:右脚に痛みが生じることがある
■性格・特徴
長所:音や匂いだけで周囲を判断できる
短所:右脚の不調によって行動が制限される
ことがある
癖:無意識に右脚へ触れる
口癖:なし
好きなもの:ルウィ
苦手なもの:刺激の強いもの、味の濃いもの
■感情表現
怒ったとき:相手と向き合い、
言葉で解決しようとする
本気で怒った場合のみ銃を放つ
泣いたとき:涙を止めようとせず、そのまま泣く
甘え方:ラディースの膝の上で眠る
甘やかし方:相手の頭を優しく撫でる
■戦闘設定
武器:銃
戦闘スタイル:銃弾の反動や軌道を利用し、
空中を自由自在に飛びながら戦う
得意:空中戦、回避戦闘、高機動戦
苦手:銃以外のすべての武器
特殊能力:なし
必殺技:なし
■過去
出身:ラヴァラル王国
幼少期:生まれてすぐに両目が見えない
ことが判明
数年後には右脚が不自由となる
最大の喪失:両親との別れ
最大の幸福:五人で共に生きていること
人生の転機:オビオヌとの出会い
■五人の中での立ち位置"五人の末っ子"
特に仲が良い人物:リランティーヌ
最も甘える相手:ラディース
守りたい人物:リランティーヌ、オビオヌ
救われた人物:自分以外の5人、ラヴィーン、
そして自分自身。
■Untitled設定
希望を象徴するもの:ラディース
絶望を象徴するもの:オビオヌ
幸福を象徴するもの:リランティーヌ
生を象徴するもの:ロウナタリー
死を象徴するもの:ラヴィーン、バラナイスル
"ほんとうのこたえ":クカラース
■キャラクターテーマ
「答えを探し続け、最後に自分自身こそが
答えであると知った主人公。」
彼の道程そのものが、『Untitled』という物語の
“ほんとうのこたえ”である。
【オビオヌ・セラフィスト(Oubeunn Sellphist)】
■基本情報
名前:オビオヌ・セラフィスト
性別:男性
年齢:20代前半の見た目(実年齢:数千歳)
誕生日:4月4日
身長:195cm
体重:58kg
一人称:私
二人称:きみ
イメージカラー:ワインレッド
■外見
髪色:茶色
髪型:ハーフアップ
瞳の色:茶色(髪色と同じ)
服装:白衣
装飾品:なし
声の特徴:中性的で高い声
利き手:両手
■傷跡
位置:胸骨付近
由来:過去の事件によって負った傷
備考:彼の人生における絶望と喪失を
象徴する傷跡
■性格・特徴
長所:非常に優れた記憶力を持つ
短所:慢性的に気力が乏しく、
無理をしてしまうことがある
癖:ぼんやりと虚空を見つめる
口癖:「大丈夫」
好きなもの:診療所
苦手なもの:自身の研究資料
(過去を思い出してしまうため)
■感情表現
怒ったとき:怒鳴ることはなく、
苦しげな表情を浮かべる。
泣いたとき:滅多に涙を見せない
甘え方:ほとんど甘えることはない
甘やかし方:相手の背中を優しく撫でる
■戦闘設定
武器:ナイフ
戦闘スタイル:投擲したナイフによる
遠距離・中距離戦闘
得意:ナイフを用いた戦闘全般
苦手:特になし
特殊能力:なし
必殺技:なし
■過去
出身:ラタルア王国
幼少期:幼い頃から医者になることを夢見ていた
最大の喪失:聴力を失ったこと
最大の幸福:大切な仲間たちと出会えたこと
人生の転機:四人と出会ったこと
■五人の中での立ち位置"五人の最年長"
特に仲が良い人物:ロウナタリー
最も甘える相手:ロウナタリー
守りたい人物:リランティーヌ、クカラース
救われた人物:自分以外の4人
■Untitled設定
希望を象徴するもの:リランティーヌ
絶望を象徴するもの:オビオヌ
幸福を象徴するもの:ロウナタリー
生を象徴するもの:ラディース
死を象徴するもの:オビオヌ
"ほんとうのこたえ":クカラース
■キャラクターテーマ
「希望を与え続けながら、自らの内に
絶望と死を抱く名医」
人を救うことを生涯の使命としながら、自分自身を救うことだけは苦手な青年。『Untitled』における
救済と絶望を象徴する存在であり、診療所という“帰る場所”を守り続ける最年長である。
【ラン・ローノ(Rurn lornan)】
■基本情報
名前:ラン・ローノ
偽名:リランティーヌ
性別:不明
年齢:10代程の見た目(実年齢:数千歳)
誕生日:9月12日
身長:151cm
体重:40kg
一人称:僕
二人称:君
イメージカラー:ブラック
■外見
髪色:オビオヌより暗い茶色
髪型:ウルフカット
瞳の色:髪色と同じ茶色
服装:フード付きの外套
装飾品:なし
声の特徴:オビオヌより低く、
クカラースより高い声
利き手:右手
■傷跡
位置:左側の額から左目、左頬まで伸びる
一本線の傷跡
由来:過去の事件によって負った傷
備考:彼の過去と、生き続けることを
選んだ証でもある
■性格・特徴
長所:誰よりも優しく、他者を思いやる
ことができる
短所:自分を犠牲にしてでも他者を優先し、
無理を重ねてしまう
癖:特になし
好きなもの:ルウィ入りのウァレクライ
苦手なもの:ルウィ入りのウァレクライ以外の
食べ物
備考:実はかなりの甘えん坊
■感情表現
怒ったとき:瞳から光が消え、静かな怒りを見せる
泣いたとき:感情を抑えきれず、思わず泣き喚いてしまう
甘え方:クカラースやオビオヌの傍で
静かに甘える
甘やかし方:言葉を多く語らず、静かに寄り添う
■戦闘設定
武器:なし
戦闘スタイル:魔法による支援・防御型戦闘
得意:防御魔法、回復魔法、光魔法を用いた戦闘
苦手:攻撃魔法や近接戦闘
魔法・特殊能力:防御魔法、回復魔法、光魔法
必殺技:なし
■過去
出身:カラール王国
幼少期:慢性カラクリ症候群を患っていた
最大の喪失:慢性カラクリ症候群によって失った
ものの数々
最大の幸福:生きていることそのもの
人生の転機:オビオヌ、クカラースとの出会い
■五人の中での立ち位置
"優しい弟"(実年齢はクカラースより上)
特に仲が良い人物:クカラース
最も甘える相手:クカラース、オビオヌ
守りたい人物:自分以外の全員
救われた人物:自分以外の4人、バラナイスル
■Untitled設定
希望を象徴するもの:クカラース
絶望を象徴するもの:オビオヌ
幸福を象徴するもの:バラナイスル
生を象徴するもの:ラディース
死を象徴するもの:ラン・ローノ
"ほんとうのこたえ":リランティーヌ
■キャラクターテーマ
「幸福を知り、生きることを愛した光の魔法使い」
本名である「ラン・ローノ」は死を象徴し、
偽名である「リランティーヌ」は幸福と
"ほんとうのこたえ"を象徴する。かつて喪失の中にいた彼は、多くの人々との出会いによって、
生きることそのものを幸福だと知った。『Untitled』において、最も純粋に“生きることの尊さ”を
体現する存在である。
【ロウナタリー・セラフィスト
(Rawntlly Sellphist)】
■基本情報
名前:ロウナタリー・セラフィスト
性別:男性
年齢:数十歳の見た目(実年齢:数千歳)
誕生日:4月1日
身長:178cm
体重:60kg
一人称:我
二人称:お前
イメージカラー:カドミウムイエロー
■外見
髪色:茶髪
髪型:クカラースよりも短い短髪
瞳の色:茶色
服装:貴族服
装飾品:なし
声の特徴:低く優しい声
利き手:左手(元は右利き)
■傷跡
位置:右手から右肩にかけての傷跡
由来:過去の事件によって負った傷
備考:現在は右手をほとんど使用せず、
左手を利き手としている
■性格・特徴
長所:よく笑い、周囲を明るくする
短所:どんなときでも笑顔を絶やさず、
自分の苦しみを隠してしまう
癖:よく笑う
好きなもの:本人にもわからない
苦手なもの:痛み
備考:王としての威厳を持ちながら、
誰よりも人を愛する人物
■感情表現
怒ったとき:怒りを向けるのではなく、
相手のことを心配する
泣いたとき:誰にも気づかれないように
静かに涙を流す
甘え方:控えめに甘える
甘やかし方:相手を存分に褒め称える
■戦闘設定
武器:なし
戦闘スタイル:なし
得意な戦い方:なし
苦手な戦い方:なし
魔法・特殊能力:なし
必殺技:なし
■過去
出身:ラタルア王国
幼少期:王として育てられる
最大の喪失:オビオヌを失ったこと
最大の幸福:オビオヌと共にいられること
人生の転機:オビオヌという存在そのもの
■五人の中での立ち位置"優しく明るい兄"
特に仲が良い人物:オビオヌ
最も甘える相手:オビオヌ
守りたい人物:オビオヌ
救われた人物:オビオヌ
■Untitled設定
希望を象徴するもの:オビオヌ
絶望を象徴するもの:ロウナタリー
幸福を象徴するもの:自分以外の皆
生を象徴するもの:リランティーヌ
死を象徴するもの:ロウナタリー
"ほんとうのこたえ":オビオヌ
■キャラクターテーマ
「愛する者のために生き、愛する者こそが
人生の答えである王」
偉大なる帝王として国を統一しながらも、
彼が本当に望んだものは権力や名誉ではなく、
大切な者たちと穏やかな日常を過ごすことだった。『Untitled』において、愛することの尊さと、
人を想い続ける生き方を体現する存在である。
彼にとっての“ほんとうのこたえ”は、
いつの時代もオビオヌ・セラフィストである。
【ラディース・ラヴァラル(Ladys Lavroll)】
■基本情報
名前:ラディース・ラヴァラル
性別:男性
年齢:20代前半の見た目(実年齢:数千歳)
誕生日:8月10日
身長:164cm
体重:51kg
一人称:私
二人称:お前
イメージカラー:コバルトブルー
■外見
髪色:黒
髪型:クカラースより長い短髪
瞳の色:黒
服装:貴族服
装飾品:左手薬指の指輪
声の特徴:低く太く、冷たい印象を与える声
利き手:右手
■傷跡
位置:首の後ろ
由来:己の意思によって負った傷
備考:誰にも語られることのない、
彼自身の決意と過去を象徴する傷跡
■性格・特徴
長所:常に冷静で、感情に流されない
短所:すべてを一人で抱え込み、
自分の弱さを見せようとしない
癖:無意識に首の後ろへ触れる
好きなもの:クカラース、ラヴィーン
苦手なもの:なし
備考:冷淡に見えるが、深い愛情を持つ人物
■感情表現
怒ったとき:相手を拒絶し、自ら距離を置こうとする
泣いたとき:涙を見せることを拒絶する
甘え方:甘えることそのものを拒絶するが、
本当に心を許した相手には静かに寄り添う
甘やかし方:頭を優しく撫でる
■戦闘設定
武器:なし
戦闘スタイル:なし
得意な戦い方:なし
苦手な戦い方:なし
魔法・特殊能力:なし
必殺技:なし
■過去
出身:ラヴァラル王国
幼少期:ラヴィーンと出会う
最大の喪失:ラヴィーンを失ったこと
最大の幸福:クカラースの存在
人生の転機:ラヴィーンとクカラースとの出会い
■五人の中での立ち位置/"父"
特に仲が良い人物:クカラース
最も甘える相手:クカラース
守りたい人物:クカラース
救われた人物:ラヴィーン、クカラース
■Untitled設定
希望を象徴するもの:リランティーヌ、オビオヌ
絶望を象徴するもの:ラディース
幸福を象徴するもの:クカラース
生を象徴するもの:ロウナタリー
死を象徴するもの:ラヴィーン
"ほんとうのこたえ":クカラース
■キャラクターテーマ
「愛する者の帰る場所であり続ける父」
冷たく見える言葉や態度の奥には、誰よりも深い愛情を抱えている。ラヴィーンから受け取った愛を
クカラースへと繋ぎ、どれほど長い年月が流れても、彼が安心して眠れる居場所であり続けることを願っている。『Untitled』において、ラディースは“家族”と
“無償の愛”を象徴する存在であり、クカラースにとっての希望であり、幸福そのものなのである。
【ラヴィーン・ラヴァラル(Loveyn Lavroll)】
■基本情報
名前:ラヴィーン・ラヴァラル
性別:女性/年齢:数千歳/誕生日:7月7日
身長:168cm/体重:53kg/一人称:私
二人称:貴方、あなた/イメージカラー:スカーレット
■外見
髪色:赤色/髪型:ボブカット/瞳の色:赤茶色
服装:貴族服/装飾品:左手薬指の指輪
声の特徴:高く優しい声/利き手:右手
■傷跡
位置:両肩から背中にかけて
由来:かつて存在した両翼の痕跡
備考:天使の末裔であることを示す傷跡であり、
彼女の生きた証でもある
■性格・特徴
長所:明るく優しく、誰にでも愛情を注ぐことができる/短所:別れる選択をしたこと/癖・口癖:なし
好きなもの:自然/苦手なもの:自然破壊
■感情表現
怒ったとき:決して相手を逃がさず、自身の信念を貫く/泣いたとき:涙を流しながら微笑む「笑い泣き」をする/甘え方:そっと相手の傍へ寄り添う
甘やかし方:優しく寄り添い、温かく見守る
■戦闘設定
武器:なし/戦闘スタイル:膨大な魔力を用いた戦闘
得意:魔力を扱うこと/苦手:魔力を用いない戦闘
魔法・特殊能力:魔力/必殺技:なし
■過去
出身:ラヴァラル王国
幼少期:天使の末裔として生まれる
最大の喪失:クカラースとの別れ
最大の幸福:クカラースとラディースと
共に過ごした日々
人生の転機:クカラースという我が子と
出会えたこと
■関係性/"母"
特に仲が良い人物:ラディース
最も甘える相手:ラディース
守りたい人物:ラディース、クカラース
救われた人物:ラディース、クカラース
■Untitled設定
希望を象徴するもの:ラディース
絶望を象徴するもの:ラヴィーン
幸福を象徴するもの:クカラース
生を象徴するもの:ラディース
死を象徴するもの:ラヴィーン
"ほんとうのこたえ":ラヴァラル
■キャラクターテーマ
「愛を遺し、命を繋いだ母」
天使の末裔として生まれ、自然と生命を何よりも愛した女性。彼女がクカラースへ遺した愛はラディースへ、そして『Untitled』という物語そのものへと受け継がれていく。彼女にとっての
“ほんとうのこたえ”は『ラヴァラル』という家族の名前であり、愛する者たちと紡いだ命の軌跡そのものである。
【バラナイスル(真名不明)】
■基本情報
名前:不明/通称:バラナイスル
性別:不明/年齢:不明/身長:不明/体重:不明
誕生日:8月31日/一人称:我/二人称:お前
イメージカラー:ホワイト
■外見
髪色:不明/髪型:不明/瞳の色:不明
服装:漆黒の装い/装飾品:不明
声の特徴:低く冷たい声/利き手:不明
■傷跡
位置:全身/由来:自然破壊によるもの
備考:全身を覆う傷跡は、世界そのものと深く関わる存在であることを示している
■性格・特徴
長所:不明/短所:不明/癖・口癖:不明
好きなもの:リランティーヌたちが存在する世界
苦手なもの:リランティーヌたちが存在しない世界
■感情表現
怒ったとき:感情をぶつけるのではなく、真正面から向き合う/泣いたとき:静かにその場から消える
甘え方:不明/甘やかし方:静かに寄り添う
■戦闘設定
武器:なし/戦闘スタイル:なし/得意な戦い方:なし 苦手な戦い方:なし/魔法・特殊能力:なし
必殺技:なし
■過去
出身:なし 幼少期:なし
最大の喪失:自らの力ではリランティーヌを
救うことができなかったこと
最大の幸福:リランティーヌという存在
人生の転機:リランティーヌとの出会い
■関係性
五人の物語における立ち位置:不明
特に仲が良い人物:不明/最も甘える相手:不明
守りたい人物:リランティーヌ
救われた人物:リランティーヌ
■Untitled設定
希望を象徴するもの:リランティーヌ
絶望を象徴するもの:リランティーヌ
幸福を象徴するもの:リランティーヌ
生を象徴するもの:リランティーヌ
死を象徴するもの:バラナイスル
"ほんとうのこたえ":バラナイスル
■キャラクターテーマ
「名前すら持たず、ただ一人を想い続ける存在」
バラナイスルは、生まれも過去も正体も明かされていない。彼(彼女)が唯一確かに持つものは
リランティーヌへの想いだけである。希望も、絶望も、幸福も、生も、そのすべてはリランティーヌという存在によって意味を持つ。だからこそ、
バラナイスル自身は『死』を象徴している。
『Untitled』において、バラナイスルは
「誰かを救いたかった存在」であり、
「救えなかったことを抱えたまま愛し続ける存在」
である。その真名は最後まで明かされることなく、
物語の始まりより前から終わりより先まで、静かにリランティーヌたちの世界を見守り続けている。




