美化も出来ない過去作り
四三月 五立と申します。
半年以上ぶりに思い付きで書きました。
結構いい加減な話ですが最後まで読んでくれると幸いです。
俺は、懐かしいを知ってしまった。
小さい頃、大人たちは昔のものを見たり思いだりたりする度に、口を揃えて「懐かしい」と噛み締めながら言っていた。
俺はそれが不思議でならなかった。
懐かしいってなんだよって。
さらに大人はやれ昔は良かっただの、昔は楽しかっただの、渇望しても叶わないのになぜそこまでして昔に戻りたいのか。
そりゃガキだった俺はたかが生まれて数年。
昔なんてものは俺には存在しなかったし、あったとしても記憶にない。
正直理解に苦しんだ。
今の方が便利で豊かな世界。
不便な昔に戻りたいだなんでどうかしてる。
そのまま俺は何も考えずにこの瞬間を生きていた。
その時代の流行を始めとする言葉、テレビ、音楽、アニメ、ネット。
保育園から小学校にかけて、時代に身を任せながら楽しく生きているように周りには見えていたのだろう。
だが俺は特別楽しいなんて感じたりはしなかった。
この世界がずっと続くと思っていたから。
中学生になった俺は変わらず時代の流れに身を任せて生きていた。
だが、そんな日常は止まってしまった。
中学3年にもなったある日、俺はスマホで見ていた縦動画に気になる動画が目に飛び込んできた。
「今の中学生以上が知っている懐かしいやつ」
俺は鳥肌が立った。
どれも保育園や小学校の時に知ったものばかりで、総じて今は全く見ないものだらけであったからだ。
その瞬間、俺の頭の中の片隅に眠っていた記憶が呼び起こされた。
あの日何気なく見ていたテレビ、好きだったアニメ、耳にタコができるくらい聞いた流行語、その時の匂いや空気。
幾千万もの記憶がこれでもかと言うほど出てきて、脳から溢れて吹きこぼれそうになるほどだった。
その時俺は呟いた。
「懐かしい」
小さい頃大人たちが言っていた事がようやく分かった気がした。
俺は、懐かしいを知った。
初めて懐かしいを知ったばっかりに涙が出てきそうだった。
その日の夜は何故か心地よく眠れた。
その日を境に俺は懐かしいを探し始めた。
それが後の人生にどれだけ影響を及ぼすか知らずに、ひたすら夢中になっていた。
それもそのはず今の生活に不満を募らせていた。
中学生特有の典型的な悩みである。
良くないことに俺はそれを時代のせいにしはじめた。
「今の時代は終わってる。スマホに支配された時代なんて。なんで俺はこんなゴミの世代に生まれたんだ。」
昔の思い出に耽る度にそう考えた。
「昔は楽しかった。昔のものは良いものばっかりだ。今に比べたら昔の方が優れている。」
今の時代の流行を嫌うようになるなど、どんどんと嫌悪がエスカレートしていく。
俺の意見に賛同する人も少なくはなかったが、過激的な発言を繰り返し、いつの間にか周りに人がいなくなっていた。
それでも考えはぶれる事はなかった。
今の時代へのヘイトが溜まったとしても昔を思い耽るだけで気持ちが収まるし、ストレス緩和にも繋がった。
懐古することが、言わば俺の生きがいであった。
そんな生活を十年も続けた。
いつの間にか俺は社会の歯車の一ピースとしてなんとか機能しようとしていた。
懐古するのが生きがいの俺は段々性格も捻じ曲がっていき、同僚や上司、友達、なんなら家族からも距離を置かれた。
流石の俺も孤独を覚えた。
こんな俺でも俺を認めてくれるのはネットしかないと思っていたがそうでもない。
文字だけでも人間はこいつがどんな人間かが瞬時にわかる生き物である。
フォロワーも相互でしてくれる人だけで、呟きに対する反応なんて皆無だった。
そんな時こそ昔を見ることだけが人生の楽しみであり、心のオアシスである。
ここまで来ると俺が体験したものじゃなくて、その時代だから良いという半ば破綻した状態で楽しんでいた。
俺が作り上げた昔の世界で楽しく暮らしている妄想。
その時を身をもって体験してないから本来の昔の世界とは違うけれど、指摘する人間がいないせいでどんどんと世界が膨らんでいった。
そんなことをしている間でも世界は動いていたのに。
テレビは嫌いだ、今を映してるから。
けれども昔のテレビは相変わらず大好きだった。
面白い番組がありすぎて困るくらいに。
「今のテレビはコンプラとか言うクソのせいで面白くない。」
今の時代への茶々入れは欠かさなかった。
そんな俺がふとテレビをつけると、懐かしいもの特集をしていた。
もちろん俺は食いつき、ワクワクしながら見ていたが違和感はすぐに気づいた。
どれも懐かしくない。
テレビに出ている同年代の奴らは口を揃えて懐かしがっていた。
どうもそれは俺が懐古厨になってから流行ったものばかりで、どうりで知らないわけだと納得した。
同年代にとってはこんなしょうもないものと一緒に青春がついてきたのであれば可哀想な奴らである。
昔の方が楽しい青春を送れてるはずなのに。
何も気づかず自己満足の冷笑だけしてその日は寝た。
そしてまた十年経った。
使えない歯車として不燃ごみとして出されたのだろう。
いや、自分から出て行ったのだった。
三十代も後半、人との会話が成立しない。
こんな自分と合う女性なんかいるはずもなく、結婚どころか彼女も出来たこともない。
収入源もない人間なんかに寄りつく女性がいないどころか、性格的にパートナーが出来ない。
この歳になると変に拗らせる。
辛うじて童貞は捨てたものの、風俗で卒業した素人童貞だった。
勿論昔のアニメコスをしてくれる店に行った。
それでも本当は童貞は彼女を作って卒業したかったが、どうも気になる店だったから泣く泣く行くことに。
それでもとても気に入ったから月一で通っていたのだが、嬢から苦情が来て出禁となった。
そこで俺は薄々気づきはじめた。
「何もかも上手くいかない。」
逆になんで今まで気づいて来なかったのかが不思議でならないが、俺自身そう信じたくなかったからだ。
こんな嫌な気分を少しでも和らげるため、いつもはしないが散歩に出かけた。
外に出るのは好きじゃない。
家という空間は自由が広がっていて、俺が王様になれるから、正しく俺がルールとなる。
けど一歩外に出たら俺は最下層の人間、奴隷以下かもしれない。
見た目も汚らしくて不潔、誰も近寄り難いような風貌であった。
しかしちょうどこの季節の世界はこんな俺を気分良くしてくれた。
春、そして夕方の河川敷、気温としても心地よく絶好の散歩日和で、オレンジ色に輝く夕日がとても哀愁感じて心が溶けそうな気がした。
「散歩も案外悪くないな。」
身体中に溜まった毒素が消毒されてる感覚がして堪らなかった。
気分が良くて知らぬ間に河川敷から遠く離れた公園に来てしまった。
常日頃外に出ないせいでここがどこか分からなかった。
その公園には二十代前半くらいのOLらしき人が一人ベンチで落ち込んでいた。
声を掛けてやりたかったが、声の掛け方が分からない。
そもそも女性どころか他人と話したのなんていつが最後か分からないくらいであったし、会話そのものが怖かった。
こんな俺でも人を心配してあげれるほど情があったんだなと思いながら立ち去ろうとした。
「ごめんなさい、ちょっと隣に座ってもらってもいいですか?」
今、話しかけられたのか?
それくらい不思議な感覚で堪らなかった。
もしかするとカツアゲ?こんな俺に逆ナンなんかありえないし。
そもそも落ち込んでんだし、やっぱ悩みでもあるのか?
頭はパンクしかけるし、心臓は破裂寸前だったが、
「いいですよ。」
俺はゆっくりと女性の隣に腰掛けた。
「どうしたんですか?」
「悩みがあるんです。けど、その悩みを誰にも相談できなくて。そんな時にあなたが私の前を通りかかったのでそれで。」
あゝ、俺は案外都合が良い相談役にでも見えたのだろうか知らないが、こんな俺が適切なアドバイスなんて送れるわけも無いのにと思いながらも悩みを聞いた。
案の定、仕事の悩みだった。
逆にこっちが相談したいくらいなのに、なんで俺なんだよ。
適当に俺は相槌を打ちながら、話し相手に買って出たことを後悔すると同時に早く終わらないかと強く思った。
その時女性が言った。
「昔は良かったですよね。本当に楽しかったし、悩みなんてなかったし、青春してたなって切実に思います。」
その発言に食いついた俺はすかさず、
「ですよね!昔ってホント良かったですよね!今の世の中なんて終わってますよ。あの時がずっと続けば良かったのになぁ。昔に戻りたいっすよ。」
思い出した、すかさずヤバいと思った。
俺は今までこんな感じで懐古厨かまして今を下げに下げてきたせいで人が離れていったんだった。
「ホントですか!?こんなにも私の意見に賛同してくれる方なんて初めてですよ!周りの方も否定はしないんですが、こんな熱量ないですし、あなたが初めてですよ!」
こんなことがあって良いのだろうか。
俺だって初めてこんな方と出会ったからだ。
どうやら神は俺を見捨てなかったらしい。
しかし、一致した意見はこれだけで終わった。
女性が話してる昔のことが一切分からないのだ。
小さい頃から小学生にかけてのことを話しているのに。
「あ、私だけこんな喋っちゃってごめんなさい。けど伝わってくれたと思います、年代的にお兄さんが高校生くらいの流行だと思いますし。私、とっても元気出ました!ありがとうございました!」
女性はスタスタと笑顔で去った行った。
そして気づいた。
本来懐古するような時期に、俺は何も流行を知らなかった。
俺が知ってるのは小学生の時までの流行だらけ。
中学高校と、一番の流行の震源地の時期に時代の波に乗らず、ただひたすらその時代を下に見て冷笑するだけの時間を過ごし続けたのか。
過去は美化されるなんて言うけれど、俺が美化出来るのは小学生まで。
そこから二十年以上かけて何も懐かしめるものなんて一つもない。
俺の中で広がっていた世界は二十年以上前のもので、そんな世界にずっと執着するような人間なんて存在しない。
ましてやそれが影響して実生活に支障がきたすようなことなどあってはならないのだ。
ようやく周りから人が離れる理由が分かった気がした。
ここから俺はどうすれば良いのだろうか。
元に戻せないくらい曲がりきった性格、あてにしている人もいない、職もない、資格もない。
得意なことはただ二十年以上前の世界を懐古し、現代を下に見て批判し冷笑すること。
こんな俺に未来は来ないのだろう。
もう過去ですら自らの手で捨てたのだから。
日はすっかりと沈み、真っ暗な公園にある一本の灯りだけがスポットライトのように俺を照らしていた。
鉛のように重くなった足をどうにか動かしながら静かに公園を離れた。
俺は、懐かしいを捨てにいった。
読んでくださりありがとうございます。
次の投稿がまたいつになるか自分でも分かりません。
もし上がってたら気軽に読んでくれると幸いです。




