04
翌日、登校をすると佐島が頭をかかえて唸っていた。他の人間がやっていたら演技に見えてしまうが、佐島がやっていると本当に悩んでいるのだなと心配になる。本当にこいつ、何かやっちまったのかとまで疑いたくなる。
「ああ、リンリン。おはよう」
「何かあった?」
「うーん。実はね……」
佐島はすぐに口を閉ざした。それから「昼休み、屋上これる?」と小声で訪ねてきた。
「別にいいけど……」
普段あっけらかんとしている佐島がここまで慎重になるだけで問題発生中だ。
特殊科といえども常日頃から戦闘訓練だとか実技テストだとかがあるわけではない。
定期的に開催はされるけれども、日常的にはあくまで予備知識が与えられるだけだ。
全ての能力者向けの教育が終了すると、様々なパターンはあるものの基本的には国へ登録される。担当している省庁は複数にまたがるが、大本は総務省人能庁が担っている。
能力のむやみな行使も禁止され、人に迷惑をかければそれすなわち犯罪者となる。
教育終了は大学卒業までの年齢までだ。
昨今は少子化や制度の変更などの観点から大学進学率はほぼ100%だが中退者はいつの時代も一定数存在する。その場合は、月2回の講習に二十二歳まで通い続ける。ちなみに2095年での成人は男性が18才、女性は16才からと改定されていた。
というわけで、普通科などと大して変わらない午前授業を終えた後、僕は屋上へと向かった。
ちらほらと生徒が居る中、隅っこのほうに佐島が居る。柵に顎をのせてぼんやりと景色を見ているようだった。
「ほら、サンドイッチ」
僕は昼食用のパンを佐島に手渡す。
「え、くれるの?」
「そしてお金は取らないという良心さだ」
「わあ」
いつもの佐島だったらここで目いっぱいの笑顔を浮かべるところだが、今日はあまり元気な様子はない。
二人でもしゃもしゃと立ち食いを始める。会話はなく話がはじまったのは結局完食後だった。
「あのさ。昨日の話、覚えてる?」と佐島が切り出した。
昨日佐島と話したのは朝だけだ。意味のある単語は一つしか思いつかなかった。嫌な予感が強まった。
「まさか、人工知能アプリ?」
「う、うん」
「まさか」
「まって、あのね、実は……」
佐島は昨日に起こった事態を話し出した。なるべく分かりやすく話そうとしてくれたのだろう。事細かな説明だった。
「でも、何もわからないな、その話」
「うん。私もわからない」
話をまとめてみた。
「つまりこういうこと? 放課後、町を歩いてお店によって買い物をした。さらに町をぶらぶらと歩いて疲れたから家に帰った。少し仮眠をとって起きてお風呂に入った。外部ネットワークに繋ごうと脊髄チップにアクセスしたら、よくわからないアプリケーションがインストールされてたって?」
「うん」
「もしかして体調が悪いの? もちろんアプリは削除しただろうね」
2015年では人間に対するウイルスとは病原菌であり、パソコンなどに対してのそれはマルウェアなどと呼ばれるプログラムだった。
しかし機械と人間とが近くなりすぎた今では、ウイルスという脅威はどの方面からでも人間の生死に関わっているようだ。
佐島は暗い顔をした。
「いやーそれがさあ。興味本位から開いてみたんだよね、そのアプリ」
「なんて馬鹿なんだろう!」
僕は天を仰いだ。
「で、なんかいきなり《YES NO》って出てきたんだよね」
「なにがイエスなのか」
「分からない」
「……まさかとは思うけど」
「さすがにNOを押したよ。そしたらアプリが消えちゃったんだ。跡形もなく」
「それは良かった」
「良くないよ!」
佐島はそこで再び暗い表情を見せた。
「有名なアプリに偶然とはいえ出会えたのに! まさか消えちゃうなんて!!」
「おいおい。勘弁してくれ。何事もないのが一番だろ」
「わぁ、兵藤君、お祖父ちゃんみたいなこと言ってる!」
「それで、話は終わり? 僕もう解放されていいのかな」
「ちょっと! ちょっとまって!」
踵を返した僕を、佐島は必死に止めた。襟首をつかむので苦しい。
「りんりんに、お願いがあるんだよ!」
「えー……」
「せめてこのアプリがなんなのか知りたいの!」
「どうせ大したことないだろ。伝言ゲームで大げさになってるだけだよ」
「それならそれでいいんだけど……でもなんかさ……」
佐島がもじもじし始めた。
煮え切らない態度が気になる。この話には裏がありそうだ。
「佐島」
「な、なに」
僕と佐島は昔、ふたりで小さな事件に巻き込まれたことがある。その時、最終的に助かったのは雪さん含む始祖の方々のおかげだったけれど、その時から佐島は僕が何か別世界の人間に伝手があると信じ込んでいるらしい。
「前に話したように、僕はたしかに色々知り合いがいて調べ物も多少はできると思う。あくまで多少だ。それに僕は余計なことには首を突っ込みたくないことも伝えたな? でも聞くからな?」
「うん」
「お前YESを押したな?」
「押してないよ!!」
「嘘だな!?」
「ほんとだよ!」
「じゃあ何を押したんだ!」
「押したのは私じゃない!」
「じゃあ誰だ!」
「そ、それは」
佐島が口ごもり、しかし黙っていてもしょうがないと思ったのだろう。
「押してないんだけど、友達が押したかもしれないの……分からないけど……」
「友達?」
「うん。普通科の子。昔ちょっと縁があってね、それからよく遊ぶようになったんだよ」
「その子がどうかしたの?」
「昨日二人で遊んで……その夜にお風呂で通信したのね。私、噂のアプリが消えちゃった後、もしかしたらミイナにも入ってたかなって思って」
ミイナというのが友達の名前らしい。
「入ってたって?」
「入ってたっていってた」
「その子はYESを?」
「NOを押したって言ってた。そこに問題はないって言ってた」
「じゃあ何もなかったんじゃないの」
「うん、でも……今日学校来てないの。それで朝に通信してみたんだけど……」
佐島は不可解な表情を浮かべながら言った。
「ミイナはね『全部わかるでしょ? 私は全部わかるわ』としか教えてくれないの」
私には全然わからなくて……と佐島はうつむいた。
*
僕という生き物は、雪さんに助けてもらってからというもの、様々な人や人間ではない存在に助けられ続けた。
雪さんが生存上仕方なくかもしれないけれど子供を助け続けているということや、斎藤さんが人のために機械義足などを作っているところを見て影響されたのだろう。人助けというものは立派な存在になりたいのならば、しなければならないのだと思っている。
だから佐島の依頼を最終的には受けることにした。それに何ができるかはわからないけれど、佐島の暗い顔を見ていたら無視はできなかった。
僕はこの時代がどうも不気味だ。2015年に想像されていた未来に近づいているようで、どこか遠のいているような気もする。
どこかに存在するだろう時代の根源を知らねば、深い海のなかに沈んでいってしまいそうな気持になる。
とりあえずミイナという女子生徒には佐島から連絡をしてもらうことにする。
僕はどこでアプリがチップの中に入ったかを調べることにした。
*
自宅に戻るとシロはいなかった。
8畳の部屋は朝よりも整理されている。さすがメイドロボというべきか。
着替えが終わったころドアの鍵があいた。
シロだった。
買い物袋をぶらさげている。服はあいかわらずシックなメイド服。少なくとも現代では、こういった服装で外を歩いてもひそひそと噂話をされることはないらしい。
なぜならシロには《世の中の大多数を占める常識の範囲内の恰好で外出を》と命令を出したからだ。曖昧かとも思ったが、シロはしばらくしてから「はい、ご主人様」と頷いた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
自分が帰宅したのに僕の姿を認めると頭を下げた。おそらくそういう風にしなければ自己というものを維持できないのではないか。雪さんと同じだ。
「シロもおかえり。買い物?」
「はい。夕飯の準備を」
「……ほう」
偶然手に入った代物だったが、まさか夕飯を作ってくれるとは思わなかった。メイドなのだから当たり前なのだが、どうもまだ実感がない。自慢ではないが、僕は熱をつかった調理をしない。
溶けてしまうことはないのだが、なんとなく苦手だ。だからキッチンには何もないし、未使用だ。
「なに作るの」
「カレーライスです」
「お金足りた?」
「はい。調理道具なども購入いたしましたが、セレクトが適正だったかの判断は調理時に確認いたします。報告が必要ですか?」
「いや、いいよ。好きにしてくれ」
「かしこまりました。では次工程へ移ります」
シロはどこか人間らしくない安定した姿勢で靴を脱ぐと調理台に向き合った。
それにしてもカレーか。
この時代においてほぼ変わっていないことがある。
それは食事の「種類」だ。調理方法や調味料、材料やそれらの獲得方法などは変われども、味や品種だけは既存の組み合わせの変化でしかなかった。
カレーといえば僕にとっても懐かしのメニューだ。家で作ろうと思ったこともあるが、面倒でやめた。とはいえ料理としては基本中の基本レベルであるはずだ。
シロも料理が下手なバイアスでもかけてある特殊なメイドロボなのだろうか。それともうちのエンゲル係数上、カレーが限界なのかもしれない。
少し外出しようと思っていたが、気分が変わった。シロが料理を作り始めると、室内に生活音が絶えず聞こえ始めた。
ずいぶんと久しぶりの感覚だ。僕はこの部屋でずっと一人で生きてきた。これからもそうだと思っていた。
しばらくして出来上がったカレーはじつに普通の味だったが、おかわりを二回した。
ごちそうさまでした、と頭を下げるとシロは当たり前のように頭を下げ返した。
*
金曜日までの間に、佐島の友達は学校へ現れなかったという。佐島の話が水曜日だったので三日連続の休みだ。
学校には体調不良として連絡がきているという。心配はいらないような気もするが、佐島本人には通用しないらしい。
「会いに行って話もしてきたんだよ」
「そうなの?」
「うん。元気だった……と思う」
「ならよかったじゃないか」
言った後に、ならばなぜ学校を休むのかと疑問に至る。
佐島も同様だったようだ。
「何も問題はないの――最後にまたそういわれた。学校にはじきに来るらしいけど……ミイナじゃないみたいだった」
「性格が変わってたとか?」
「ううん。ミイナはミイナだったけど……別人みたいでもあった。私にしきりに『分からないの?』ってきくの。私は首を振るしかなくて……そのときミイナは少し悲しそうだった」
直観タイプの人間の説明は無条件で信じられることを口にすることは多いけれど、説明されても訳がわからないことも多い。僕がその女子生徒の元の性格を知らないから、会いに行ったところでどうにもならないだろう。
「アプリの話はしたの?」
「うん。したけど、分からないの?の繰り返し。でもなんとなくだけどアプリが関係してると思う。だってあの日から、なにかがおかしいんだ」
僕も自宅でいろいろと調べてきた。
人工知能アプリというものは、実に不思議なものだということが分かった。
第一にネット上に情報がない。
もちろん噂話程度の話は数千件ヒットする。しかしそれだけなのだ。実際それがどういったものなのかはわからない。製作者も手に入れ方も動かし方も何も載っていない。便利だとか、世界が変わるだとか、抽象的なことしか読み取れない。
とりあえず僕は二人が通ったとされる経路を見ることにした。佐島はおいていく。またアプリがインストールされてしまうかもしれないからだ。
*
バイト代もでないというのに、僕は夏の太陽が傾くまで、みっちりと捜査をした。
結果からいえば、なんの成果もなかった。
教えてもらった経路を二度通ったが、不審者も不審な気配も不審な機材も見当たらない。
とはいえ人体にチップを埋め込む時代だ。もはや視認できる異常とは世界の終りの始まりぐらいの話になってしまうのかもしれない。
佐島と木田ミイナの二人は途中、公園に寄って休憩をしたという。僕はベンチに座り、夕暮れに照らされていた。
数日前、彼女たちはここに座り何を話していたのだろうか。過去の話は分からない。過去には戻れない。そもそも僕はさらに過去の人間だ。今の人間の価値観とはずれている。
「そもそも僕にはチップがない」
だから、どこかで何が起きていようとも判断がつかない。アプリは脊髄チップにだけ入るらしいからだ。
便利になる。
世界が変わる。
問題はない。
あなたには分からないの――?
佐島の言葉を借りれば、僕にだってなんのことだかわからない。
この時代の人間は、SNSなんてものは特別の「と」の字も感じていない。日常の積み重ねのひとつでしかない。そして比較の日々へつながる。
アップロードするだとか、写真をとるだとか、そういう段階を踏まず目で見たものを記録し、自動的に外部記憶装置に転送し、そして共有化される。まるで現実とネットを繋ぐ道が、エスカレータにでも変わってしまったかのようだ。人は情報を選択する。最高の一瞬をカメラで撮影するための努力ではなく、全ての時間を記録し選別することに重きをおくようになった。
現代では、個は個である以上に全体の一部を構成するパーツである。個性としての発信がSNSのはずだったのに、今ではより強力な個性の前にデータが埋没していくようだ。
ゴミと化したデータは誰の特別にもならずにネットワークの中に消えていく。誰もが走光性をもった虫のように光り輝くデータに群がっている。他の無個性の人間は光を浮きだたせるための闇でしかない。
小さな村で一番早い走者が何人も集まるからこそ大きな町での大会がにぎわうのだ。今の時代は生まれたときから全世界との勝ち負けが分かってしまう。個はすぐに群に飲み込まれ、村の中ですら勝者にはなれない。自信も生まれない。
それは一見すると2015年と変わらないように思えたが、個人が個人としての個性をより一層求めているような気がする。みな、当たり前になった情報共有化の中でも、個性や格差を人一倍気にしているように思えた。
垣根のなくなった家に、自分という旗をなるべく大きく目立つように飾りたいらしい。2015年には考えられないことだが、日本には特別区というものがあり、高額納税者だけが住むことのできる区画がある。
人は人であることに意味を求めているのかもしれない。過去の共有化が個人と個人との同調なのだとしたら、今の共有化は集団と個人との比較なので――、
「――今は哲学モードに入ってる場合じゃない」
哲学モード。僕の悪い癖だ。
『ほんとにあんたって時代遅れの哲学人間』と僕をバカにしていたのは、九尾の3番目の尻尾だったか。彼女には哲学モードになるたびにこづかれた。たしかに大抵はマイナス思考に結びつくので良くないのだ。
気分を変えるために視線を上げた。目の端に高校生と思しき二人組が歩いてくるのが見えた。なんとなしに目で追いかける。
どうも雰囲気が剣呑だ。喧嘩でもしているのかもしれない。男が先を歩き、女が引き止めるように駆け寄るが、男は振り返りもせずに手だけで拒否を示した。
そのまま僕の視界からフェードアウトしていくのだろうと思った。が、そうはならなかった。先を歩いていた男子生徒が突然立ち止まったのだ――いや、立ち止まったように見えただけか? 何事もなかったかのように歩き始める。二人は笑顔で会話をしながら消えていった。
……喧嘩はどこへ消えたのだ?
「……?」
なんだか気になった。
二人は喧嘩をしていなかったのか。いや、少なくとも笑いあってはいなかった。しかし片方が急に立ち止まった。普通は「大丈夫?」とか「え?」とか驚きや心配の声をあげないだろうか。
しかし、今。
立ち止まらなかった方の女学生が、止まることを予見していたかのようにすっと手をおろし、相手を観察しているように見えなかったか。実験を試すかのように、冷静に状況を見極めているように見えなかったか……止まることを知っていたというよりも、払われた手ではなく、見えない別の手で先行く男子生徒の腕を――
「――だからそれで、どうしたんだ」
僕は哲学モードにひっぱられつつある思考を振り払うようにして席を立った。
14歳のとき、僕はさらわれて雪女の子供となった。その間の記憶はなく気が付いたら80年後だった。親も妹も死んでいて、戸籍上の僕も死んでいた。
今の僕はこの2095年においてスタンドアローン状態のパソコンのようなものだ。そんな状態の僕に何が分かるというのか。音声通信は未達だが、チャットであれば脊髄チップで可能だという。僕のしらない何かが働いているだけだとすれば、おかしいのは僕ということになる。
しかし、帰りに同じような光景をもう一度だけ見たことから、逆に頭にこびりついて離れなくなってしまった。
*
佐島に話を聞いたが『立ち止まった記憶はない』という。
僕は公園での一件のあと、1日を使い二人一組で歩いている人間を観察し続けた。
予測は的中しているようだった。
観察を続けていた何組かが同じような挙動をした。確率は1%に近い割合だが、確実に同じ挙動をしている。そういう時は決まってもう一方が、相手を観察しているように見えた。
僕は意を決し、そういった二人組を尾行した。
対象は大学生ぐらいのカップルとした。女のほうが立ち止まった時、男の方は女性をじっと見ていた。
申し訳ない思いを感じながら二人が別れるのを待った。駅前にさしかかると男は手をさっとあげて駅校内へ入った。女の方は駐輪場方面へ向かうようだ。
7月ということもありまだ日も高い。相手の表情はよく見える。
「あの、すみません」
「……? なんですか」
女性は学生服姿の僕に警戒心を抱いてはいないようだった。つい最近まで高校生だったのかもしれない。
あらかじめ考えておいた質問をする。とはいえ苦し紛れのその場しのぎだ。
「いま学校用レポートの一環で統計をとってるんです。脊髄チップをつけている学生の分布はどれくらいか、またそんな中で知らないソフトやアプリが勝手にインストールされていることがあるのかどうか。すぐ終わるので協力してもらえませんか。社会学なんですけど。意識下に訴えかける商用広告が未成年の脳に与える障害という主題です」
「ふーん?」
女性は分かる様な分からないような顔をした。僕の顔もそうなっていないことを祈る。
「チップは入ってますか? 知らない間に勝手なアプリが入っていたことはありませんか」
「勝手にアプリ? チップは入ってるけど……」
ふむふむと僕は何も書いていない手帳にペンを動かすふりをする。
「今、チップの中に自分がいれた記憶のないアプリがあったりしませんか。ようするに我々は望んでいるアプリだけを入れるのか、それとも不要なものさえ集めてしまっているのではないかという話なんですが。現代における情報の選択というテーマでもあります」
「うーん。そうだなあ」
お人よしなのかもしれない。少し遠い目をするのは、チップに意図的にアクセスしていえるときの特徴だ。装着したコンタクトレンズに投影されている情報を見ているのだろう。僕の側からでも黒目の上に小さな文字が映っているのが読み取れた。
「あれ、なんだろこれ」
自分に話しかけられているとは思えない視線の動き方だが、僕に話しかけているのだろう。
「なにかありました?」
「え、これって……噂の……」
「あっ!!」
「え!?」
僕の声に、女性の視点のピントが合う。僕は素知らぬふりをした。
「なにか入ってました?」
「いつ入れたんだろう。リストの最後に人工知能っていうアプリが入ってる」
「あ、それ最近噂のウイルス」
「え? ウイルスなの!? 便利になるんじゃなくて?」
「いや、僕はよくわかりませんが、最近友達も同じ状況で、危ない思いをしてました」
「そうなの?」
僕はでっち上げの情報を伝え、アプリを消去するように伝えた。アプリはYES・NOの選択もでないままに簡単に消えたらしい。
僕はもはや意味のない質問を何個か繰り返した。それから最後に本当に聞きたかった質問をする。
「最近、身の回りで性格が変わってしまったような人はいますか?」
答えはNOだった。
さすがに不審がられたので、早々に立ち去った。