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肺の街  作者: ようひ
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05 物語の疑問


 夕食を終え、シャワーを浴び、就寝準備に入る。


 寝る前に差し掛かると、子どもたちは最後のはつらつを見せる。特に男子はいったいどこから活力が湧いてくるのか、ベッドを飛び跳ねたりその下をくぐったりしている。掃除もろくにしないし、授業は落ち着いて受けないし、夕食はずっと喋って食べないし、与えられた使命をこなさないくせに、自由時間だけはやたらと騒ぐ。甲高い声は鼓膜を貫いてくるようだった。


 私は寝る前はランプが消えるまで本を読むことにしている。部屋の共用本棚にはいくつかの本がある。ほとんどは古い本で、所々掠れて文字が読めない。破れているページもある。しかし私は物語に穴が空いている本を好んで読む。存在しない物語の隙間にはいったい何が書かれているのか空想する。私たちへ伝達するすべを失っても、本の中の世界は消えることはない。書かれていなくとも、その裏側で登場人物たちは終わりに向かって行動をしている。見えなくとも、必ずそこにある。


 そんな空想をしていると、いつも最後まで本を読めずにランプが消える。本は光がなければ読むことはできない。私は薄暗闇の中で本棚に向かう。子どもたちの話し声がする。言葉はいいな、と思う。光がなくとも伝えることができるのだから。男子の小さな笑い声、女子の小さな笑い声、カサカサと紙を指でこする音に似ている。私は戻そうとした本を開いてみた。果たして文字は読めなかった。内容は覚えているが、それは本を読んでいることにはならない。ただ記憶を辿っているだけだ。本を閉じ、本棚に戻す。どん、と指を縁にぶつけてしまう。上げかけた声を押し殺す。私が声を出すと、皆は決まって注意する。「ランプが消えたら喋っちゃいけないんだ」と。自分たちのことは例外にする。不公平だな、と思う。私が注意をしても見えない溝が広がるだけだ。そんな反抗心が完全に芽を出す前に、私は自分のベッドに戻って毛布をかぶる。


 子どもたちの声がまだ聞こえる。毛布という遮蔽物があっても構いなしだ。目を閉じても声は消えない。小指を両耳に差し込む。ようやく声が消えた。また何かが流れる音が私を包む。ごうごう、と大きな音がする。先ほど読んだ本の間を空想する。


 どうして、主人公は仲の良い仲間の元を離れたのだろう?



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