00 雪に染まる海
「あの山に登ったら、何が見えると思う?」
暖炉の煌めきで影が落ちた彼の顔を、私はまじまじと見つめる。彼は閉じていた薄い唇を静かに開けると、知らん、とぶっきらぼうに答えた。あごに置いた手は指先が赤くなっている。外から聞こえる吹雪の音は、夜が口笛を吹いているようだった。
「私はね、海が見えると思うんだ」
炎をうっとりと眺めながら、言葉が口からこぼれる。
「海って、青いんだって。灰色の海もあるらしいけど、山の向こうはまぶしいくらいに青いはずだよ」
彼はただじっと炎を見つめている。私は彼の心境を探ってみるも、そもそも腹を割って話したことがないため、想像が湧いてくることはなかった。だからこうして間合いを詰めようとしている。果たして効果はなかった。うんともすんとも言わなかった。
バチッ、と木炭の弾ける音がした。私は彼から目を離し、彼と同じ炎を見つめた。赤褐色の光は私の眼球を燃やそうとしていた。直接触っていないのにも関わらず、放出されるエネルギーに力が込められている。見る者さえも、その光で焼こうとする。
彼の瞳には、この炎がどう映っているのか、私は気になった。しかしそれを訊く手立ては、思いつかない。
吹雪はいっそう強くなったように建物を揺らしている。炎が静かに揺れる。光は私たちの表面を生きているかのようにうごめいている。