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ビードロラムネ×りんご×恋味

なにも考えずに書いてしまったので、最終的に百合ストーリーかな?と思うのですが、男女のラブストーリーだと思う人は、その方向性で読んでもらってもいいと思います。作者の中では男×男で書き進めたストーリーです。最終的に活動報告のほうで、どう思っていたのか書きます。※おおよそ自由に読んで下さい。って感じです。



 あの夏、大好きな人とプールに行った帰りにアイスを食べた。この大好きな人は、自分にとって人生の中で1番大切な人だった。

 けれど、ささいな事でケンカをしてから、もう1年以上が経とうとしていた。

 共通の友達から聞く所によると向こうは俺と仲直りがしたいらしかった。……けれど、毎日メールしていたはずの指を一度止めてしまったら、久しぶりにメールを出そうとしても、どうしても送信ボタンは押すことができないでいた。


 そんなある日、出掛けた先でポスターを見つけた。それは、彼女が大好きなGelatoジェラート30の『新商品を一般の方から募集します!』というものだった。このGelato30というお店は、俺が小さな頃からあり、いまや全国展開をしているほどの企業だ。たしか、彼女も好きだと言っていたような気がする。

「……もし、俺が考えた作品が賞に選ばれて、そのアイスが商品化されたら」

 その時は、迷うことなく彼女にメールを出せるような気がする。消極的な俺が、何故かそう思ったんだ。賞を取れると決まったわけでもないのに、めずらしくやる気が湧いてきてしまった。自分らしくもない事はわかっているのに、店の壁に貼られたポスターに載っている専用サイトに飛ぶと俺はどんなアイスにしようか考え始めた。

 『商品の可能性は2500万通り!!』と書いてあるように、アイスを選んでトッピングを変えると、たしかに色んな味のアイスが出来上がりそうだった。

 皆それぞれにSNSで自分の考案したモノを載せている。

「(商品名まで考えるのか…………」

 俺は、アイスの内容を考えるにあたり、あの日のことを思い出していた。



◇◇◇

『ねぇねぇ、親同士に反対された私達って…まるで、ロミオとジュリエットみたいね』


 学校帰りに彼女が言った台詞だ。公園の階段に並んで座っていた俺達だったが、不意に彼女は立ち上がると、階段をニ、三段駆け上がり、俺に振り返って呟いた。

「ああ、ロミオ…貴方は何故ロミオなの?」

 まるで、演劇部かってほどの手振りで彼女は俺に手を差し出した。俺は、その手を取らず、とくに何のリアクションもないまま前に向き直った。

 俺達はおそらく両片思いなのだと思う。本人に聞いたわけではないし、周りがそう言っていたわけでもない。ただ自分の中でそう思っていたいだけの話なのだが、彼女の家は金持ちで、俺の家は貧乏な事を考慮に入れてみても、おおよそ俺達はロミオとジュリエットなのかもしれない。

「ちょっと!ノリ悪くない?」

 少し怒りながら、彼女が俺の隣に戻ってきた。

「その物語が悲劇なこと…ちゃんと分かってる?」

「何の話?」

 彼女は俺の隣で首を傾げる。

「貴女は、ロミオとジュリエットがシンデレラや白雪姫のように、最後には二人は結ばれる物語だと勘違いしていませんか?」

「違うの?!」

 俺は、大きなため息をついた。

「ロミオは毒を飲んで死亡。ジュリエットはその後、自殺……」

「えぇ!?」

 物語の結末を知った彼女が変な声をあげる。

「まっ正直、好きな人が後追い自殺してくれたほうが、嬉しくはあるけど」

「あいかわらず、何キモいこと言ってるの??」

 いつも通り、俺の意見にジト目を返してくる彼女。

「だって、そのほうが俺が死んだ後に好きな人に恋人出来ないから、安心して逝けるじゃん」

 言い終わるやいなや俺は立ち上がると歩き出した。なんだか、彼女に俺だけを見ていてほしい。と主張してしまったような気がして恥ずかしくなってしまったからだ。

「ちょ…ちょっと待ってよ!」

 小走りに彼女が俺を追いかけてきた。

「ねぇ、その話が本当かどうか、原文読み終わるの待っててくれない?」

 待っていたところで何だと言うのだろう。

「原文って、英語版読むの??」

「そ!だって英語は得意だしね♪」

 いつも一緒に帰る並木道を歩きながら彼女が無い胸を張った。

「こないだの小テストで赤点取りそうだった奴がよく言うよ」

「違うもん!あれは前の席の人の糸クズが気になって集中できなかっただけだし!!」

「はいはい……そっちは受験がんばんな」

 俺は、彼女と違って夢もないし家も貧乏だから、高校を卒業したら働くつもりでいた。

 卒業を境にバラバラになったから、あまり連絡を取らなくなったわけではないんだ。

 彼女が念願の大学に通い始めると、キャンパスライフが楽しいのか、どことなく彼女は変わってしまった。メールを送っても短文しか返ってこないし、逆に新生活に何かに悩んでいるのか?と思いもしたけれど、心配のメールをどんな言葉でメールしたらいいのかも分からなくて、勢いでメールをしては、その自分が送ったメールを見返すたびに、こんな内容を送りたいわけじゃなかった。と、既読が付く前に取り消す毎日が続いた。

『ちょっと!送信取り消ししないでって!!言ってるでしょ!!』

 そんな俺の態度に、めったにキレない彼女が怒った。学生時代に彼女が怒った姿を見たことがなかったわけではないが、本気でイラついた時しか怒らない彼女の怒りは、普通の人の怒りよりも重く重罪のように感じられた。

 そう、これがケンカの理由だ。いいや、俺が悪かっただけの話で、そもそもケンカですらないかもしれない。

 彼女とのメールの最後は、ここで途切れている。だから、彼女のメール画面を開くたびに、否応なしにこの文が俺の目に入ってくる。それは、何回開き直しても同じで、二人のやりとりをさかのぼったところで、普段俺からのやりとりしかない関係性を考えると俺が「ごめん」と送信した瞬間に二人の関係は終わってしまう事だろう。

 


◇◇◇

「彼女が好きなアイスは…………」

 彼女は、夏になるとよくビードロラムネという瓶に入っている炭酸をよく飲んでいた。

『このパチパチする感じがたまらないよねっ』

 ラムネの味は俺も好きだ。でも、どちらかというとお菓子のラムネだろうか。俺は、そんなに体内を刺激する飲料に対して、そこまで好きにはなれなかった。べつに嫌いではないけど。

「アイス自体はラムネ味かな。えっと、一緒にするアイスをお選びください?」

 どうやら1つの味だけじゃなくてミックスにもできるみたいだ。…俺の好きな味を彼女が好きな味と合わせてもいいって事?

「俺の好きな味………?」

 林檎…?かな。甘くてすっぱい味がラムネとも合うような気がする。

 選択画面から林檎のジェラートを選ぶ。なんだか夏の空に雲がかかっているような見た目になった。トッピングは、パチパチする飴かな。

「最後にソースをお選びください」

 ジェラートにかけるソースは…なんか毒々しい色がいいな…紫色がよかったけれど、そうすると葡萄のソースしかない……。

「うーん……」

 ラムネ×林檎×葡萄も味として悪くないとは思う。ただ、いろんなものが渋滞している気がする。



◇◇◇


『あ!また、そっちばっか当たり引くやつ』

 おおよそお菓子で当たりが出た事がない彼女が叫ぶ。

「え……ごめん」

 アイスもチョコもグミもだいたい食べてれば当たりなんてすぐに出てくるのに…と、思わずにはいられなかった。

「そんなに欲しいなら、あげる」

 俺は自分の手に出てきた「これが出てきたらラッキー!」と箱に書いてあるハートのグミを彼女の手渡した。

「え、えぇ?!いいの?」

 なんだか俺はこの日の笑顔が忘れられないんだ。

「いろんな味のグミが入ってるのに赤はラズベリーしかないからか、ハートが出るのはラズベリー味しかないんだよね」

 箱には、他にも3種類の味があるのに、他の色でハートの形が出てきたところを見たことがない。

「そうなの?でも、ラズベリーが1番好きかも」

「うん。俺も好き」

 何気ない一言のはずなのに、視線を彼女に移すと目を丸くして一瞬で顔が真っ赤になるから、自分が変なこと言ったか?という気持ちになる。向こうが何も言わないから、俺も視線を左右に動かすと気恥ずかしくなってきた。

「それじゃ」

 俺はグミをポケットにしまい直して歩き出した。



◇◇◇

……そういえば、その出来事も夏頃の事だったような気がする。

 俺は、そう思いながらスマホの画面に向き直った。

「じゃ、ソースはラズベリーで」

 空色とクリーム色のアイスの上に赤紫色ソースがかけられた。

「うん。すごくいい…。すごく毒々しい」

 味の爽やかさと反してグロテスクな見た目がハロウィンを思わせなくもないが、なんか出来上がってみると想像以上に美しい。

 まるで、俺のこじらせた恋心を表現できているような気がする。

「あとは、タイトルか」


猛毒もうもくのジュリエットー


「こんな、かな」

 食べ物に猛毒と書いてあるような商品が採用されるわけもないが、ジュリエットの気持ちが盲目でなければ、毒が入っていると分かってる物をわざわざ口にはしないだろう。

 なにも言わないでいて、彼女が普段通りアイス屋さんに行って、このアイスを食べる確率は何%くらいあるだろうか。変な味を試すタイプなら買うのかもしれない。

「自分の名前と、あとは作品のオススメポイントをひとこと…」

 普通は味の事を書くんだろうけれど、俺はそこに『賞に入ったら告白します。』と入力した。おおよそ、それは願掛けのようなアピールポイントだった。

「なにやってんだ俺は」

 文字の削除をしようとして

「……あ」

 間違えて送信ボタンを押してしまった。

「ま、いいや。採用なんてされるわけないし」

 そう思いながら、1ヶ月が過ぎた頃、俺のスマホに一通のメールが届いた。



『貴方の作品が佳作に入りました!』



「……は?え、あ……ちょっと待って…」

 賞に入ると思っていなかったから、名前も自分の名前を入力してしまったし、なによりアイスのアピールポイントに変なこと書いてしまった事を焦った。

 HPの特設サイトにいくと、自分が作ったアイスとタイトルくらいしか表示されていなくて少し安心した。

 たしか票数は一般票だった気がするんだけどと思い、SNSを確認しに行くと人生で初めて俺のSNSがバズっていた。そこには「告白頑張ってください」とか「応援します!」とか「一票いれました!」というコメントがアホほどよせられてきた。

「え……え?えぇ……」

 これで、彼女と付き合えることになるなんて奇跡みたいな事は起こらないのに。この人達は、俺達がいまどんな状態かを知らない。

 賞を取ったら連絡くらいしよう。と、思っていたのだから、メールだけでも出す?とスマホの画面を開く。

 彼女が怒ったままの連絡から1年以上放置された連絡帳に俺は1時間くらい悩んだあと送信ボタンを押した。



「ごめん。いま電話って出来る?話したいことある」


 学校が忙しいかもとか、最近バイト始めたらしいし、いつ連絡したら都合がいいのかもわからなかったけれど、俺が悩んでいるよりもすぐに既読になり、そして返事はすぐに返ってきた。

『うん』

 久しぶり。も、いきなりどうしたの?もなくて、まだ怒っているのかな。という恐怖さえあった。メールで話を続けようとしても、そんな感じでマイナス思考になってしまうからと思い、電話することにしたんだ。

 震える手で彼女の通話のボタンを押した。

「も、もしもし………」

『もしもし、久しぶり』

 意外と声は怒っていなさそうだった。

「あ、うん。久しぶり…その大学で恋人とかできたりした?」

『え、出来てないけど、そっちはできたの?』

 なんか、雲行きが怪しくなってきた…なんで、変なこと聞いたんだ俺。

「俺も出来てはない。その……あのGelato30って好きだったよね??」

『うん。好きだよ?それが?』

「貴女のために作ったアイスが販売されることになったから、機会があったら食べてみて」

 先ほどの内容と脈絡なくアイスの話をされて、なんの事を言っているのかと電話を切ろうとした俺を相手が止めた。

『な、なになに?説明くわしく!』

「なんか、Gelato30でいまアイスコンテストしてて、それに入賞したんだ。行く機会あったら食べてみてって…それだけ」

『ちょっと待ってちょっと待って!そんな事なら一緒に食べに行こうよ!』

「え……………俺と?」

 相手の声からすると、また会おうよ。と言われているような気がした。

『私に食べさせたいアイスを考えてくれたんでしょ?』

「そうだけど…何も二人で行く必要性は」

『ある!たぶん、あるから!二人で行こっ』

 なんだか、よくわからないけれど相手に押しきられてしまったような気がする。

「あ……うん。じゃ、詳細が分かったら、またメールする」

『楽しみにしてる♪』

「それじゃ」

 俺はスマホの画面をタップすると、通話の画面を閉じた。

「……………………………っ」

 久しぶりに声が聞けて嬉しかったのと、よくよく考えるとこれってデートに行くって事になったのでは…?想像しただけで嬉しかったけれど、当日はどうしたらいいのか一瞬にして不安になってきた。


 GWに結果発表があってから、2ヶ月が立った頃、8月に商品が店頭に並びます。という連絡を受けたので、それを彼女に連絡することにした。

「えと、お盆には商品化されてるっぽいよ?」

っと、俺はメールで送った。

『それじゃー14日の水曜日とかってヒマ?』

「その日はヒマしてるけど…………」

 俺と一緒に過ごすのに、わざわざその日にしなくても…と、俺は思った。

『じゃ、品川の駅前集合で!』

「あ、うん。りょうかい」

 昼過ぎに集まって早めに家に帰してあげなくちゃって思った。その日は、彼女の誕生日だったからだ。

 ある意味でアイスの賞は誕生日プレゼントとしたら相応しい物であるような気がするけれど、内容が毒って…それでいいのかな。

 賞には入ったけれど、こんなことならもっとちゃんとしたアイスにすればよかったと、いまさらながらに後悔してきてしまった。




◇◇◇



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