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7. 情報収集

 その後に続いた外回り期間は、目立った事故もなく無事に終わり、レインはひとまず胸を撫でおろした。

 やはりいつもの管轄外の任務は、それだけで緊張するというものだろう。


 そんな春の時期も過ぎて、季節は夏へと向かっていた。


 こうしてレインが18歳の誕生日である初夏を過ぎた頃、第一騎士団が遠征から戻ったタイミングを見計らい、今年入団した新人たちの割り振りも決まった。

 新人18名中で第二騎士団へは10名が配属される事となり、その内レインが庇ったグストルともう一人、カロン班長の下にいたウイリーというグストルと同じ年の青年がレッド班に正式に配属となった。


 グストルはレインが身を挺して庇ってから随分と距離が近くなり、ソバカスの乗った顔に笑みを湛え、いつも“レイン先輩”と近寄ってくるようになっていた。

 ギルノルトからは「懐かれたな」と、ニヤリと笑みを向けられる。確かに悪い気はしないが、別に深い意味があって庇った訳でもない為、少々くすぐったい想いがするレインである。




 今日のレインは、久しぶりの休暇日だ。

 そしてワンセット上では1度目となっている事もあり、今日もレインは情報を求めて街に出る。

 普段から街中の警護を務めているため街にはレインの顔を知る者もいて、顔見知りが気安く話しかけてくる内容に相槌を打って、何か異変はないかと情報を整理していく。


 “昨日店に来た客がね…”

 “最近、麦の値段が少し上がってきてるんだよな…”

 “隣家のじいさんが、ギックリ腰になっちゃってさぁ”


 とまぁ、立ち止まる度に色々と教えてくれる街の者達に笑顔で手を振って別れた後、広場で遊んでいる子供達に混じり、夕方頃まで棒を振る少年たちに剣を教えたりもする。

 たまには実家に顔を出す事もあるが、レインの休日はいつもこんな感じだった。


 そして夕方になった頃にいつも顔を出す酒場へと行き、1時間程の時間をかけて女将の料理を肴に静かにエールを飲む。

 因みにエールはアルコール度数が低いため、学校を卒業する年には飲んで良い事になっており、後は自己責任で限度を覚え強い酒にも挑戦するようになる。

 それに騎士団にいれば付き合いで飲む事もあり、レインは既に酒に酔わない体質である事にも気付いていた。その上で情報収集の場として、レインは酒場を利用している。


 そこは主に1度目の日に通っており、酒が入った者達が話している内容を吟味し、気になる事があれば酒をおごって更に内容を聞き出していた。だがその一方で、レインがいつまでも常連になれない事は、致し方ないと諦めているのだが。


 今日もレインは一人カウンター席でエールを傾けながら、後ろに座って話す者達に耳を傾けていた。



「そいでな、溺れた子が流されてるのに、誰も助けられなかったんだと」

「はぁ? 何でだ? 飛び込んで助けりゃいいだろうによ」

「それがな、その子供を見付けた時には既に滝の近くだったってんで、誰も飛び込めなかったそうだ。その間に滝まで流れて、そのまま見えなくなったんだとよ」

「そりゃ、話を聞いただけでもしんどいな…」



 レインはそんな会話を耳にして、ゆっくりと後ろを振り返る。

 するとレインから2つ離れたテーブル席に座る2人の男が、エールを傾けながら渋い顔をしていた。そして言葉もなくつまみを頬張っては、エールを一気に含んでいる様子から、多分今の話はこの2人であろうと当たりをつけ、レインはエールを持ってその席に近付いて行った。


「兄さん方、今の話は本当かい?」

 レインは小首を傾げ、興味深げな表情を作って話しかけた。

 そんなレインに最初は訝し気な視線を向けていた男達だったが、レインがエールを驕ると一変、笑みを浮かべて同席を進めてきた。


「お邪魔します。それで、その話はいつの事?」

「今日の昼の話だな」

 得意げに話す男性は、見ていた者から直接聞いた話だといって胸を張る。

「へえ…まだ明るい時間だったのに…」

 そんな彼らにレインが相槌を打てば、饒舌になった男性が詳細を教えてくれたのだった。


 話を聞けば、朝からピクニックで王都近くの川に遊びに行っていた家族連れがお昼の用意をしていたところ、少し目を離した隙に小さな女の子が川に流されてしまっていた。皆はその子が居なくなった事に気付き付近を捜索したものの少し時間が経っていた事で、その子は既に流れの速くなった所まで到達していた。そこで父親が助けに入ろうとしたものの目の前に滝が迫っていた為、父親は周りの者に止められ、助けられなかったという事らしい。


「もう少し早く気付いてりゃ、助かったのによお…」

 グビグビと喉を鳴らしながらエールをあおる男性は、そう言って大きなため息を吐いた。

「後でそう思っても、もう遅いって話だよな。…俺にも小さな子供がいるから、他人事じゃねえって話よ」


 そう話してくれた2人の男性に礼を言って再びエールをおごり、レインは一足先に店を出て騎士団寮へと戻って行った。


(朝の内から行動すれば、間に合うかもしれないな…)


 レインは今しがた聞いた話を纏めながら、暗くなった街中を進んで行く。所々に街灯が設置されている為に真っ暗ではないが、そろそろ街中にいる者達は帰宅を急ぐ時間だった。

 騎士団の門限は午後11時。それを過ぎたり外泊するのならば、先に騎士団へ申請をしなくてはならない。

 その門限にはまだ時間はあるものの、レインは足早に寮へと戻って行ったのだった。


 レインは自室に戻ると、早速2度目に当たる日の予定を立てた。

 それを決めてから身支度を整えると、日付が変わる前に布団に潜り込む。


 レインの“ワンセット”というユニークスキルは、一度目の日に日付を跨ぐ時間まで起きていても、その時間になるとまたリセットされたように戻されている。

 その為一度目の夜に眠っていたのであれば、喩え日付が変わる時間まで起きていたとしても、2度目の翌朝はベッドの中で目覚める事になる。しかしそれが2度目であれば、そのまま日を跨いで夜通し起きている事も出来る。何ともややこしい為に、視界の中にある数字はいつも気にしているレインだった。



 こうして翌朝という感覚の2度目の朝、レインは就業日よりも早い時間に起きると、食堂まで行き朝食を摂る。


「お? おはようレイン。今日は休暇じゃなかったのか?」

 先に席について食事をしていたレインの隣に、ギルノルトがトレイを置いて座った。

「おはようギル。今日はちょっと外まで行ってくるから、早目に食べに来たんだ」


 “外”と言えば騎士団では“郭壁の外”という意味があり、ギルノルトは眉間にシワを寄せてレインを覗き込んだ。

「外って外か?」

「そう、外だ」

「何かあったのか?」

 今日は仕事でもないし、ギルノルトは何の用かと訝しんでいるらしい。


「ちょっとピクニック…?」

「ほう? 一人でか?」

 ギルノルトはレインの答えに的外れな事を考えたのか、小指を立ててニヤニヤしている。


「違う、そんな色気のあるもんじゃないって」

 揶揄われているのは分かるが、レインは取り敢えず、余り触れるなという雰囲気を出してみた。

「まぁ、頑張ってこい。それじゃ報告は夜な?」

「…そうだな、時間があればな」


 レインは苦笑しつつもこの場を無理やり収め、今日も任務に就くギルノルトより先に席を立って再び自室へと戻って行った。


 そして知り得た情報からの推測で身支度を整えると、「よしっ」と気合をひとつ入れ、レインは郭壁の外へと向かって行ったのだった。


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― 新着の感想 ―
こんばんは&お疲れさまです( ・∀・)っ旦 レインが誰の頼みでもないと言うのに、休暇中でも見回りや情報収集のため町を出歩いたり酒場にいったりなどしていて、どれだけ優しい子なんだ、と涙しそうになりました…
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