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55. 騎士としてある為に

 そして迎えたソール(2度目)


 レインはトレイを持ち食堂の席の間を歩きながら、ウォルターとグストルの位置も確認しておいた。

 そして例の如く察したギルノルトと端の席に陣取ると、ボリュームのあるオムレットライスをつつきながら、小声で今日の事を伝えていった。


 ギルノルトは黙ってレインの話に耳を傾けながら、チラリとウォルターの姿を確認しているところを見れば、やはり今も同じことを考えたのだろうと笑みが零れる。


「―――要点だけ伝えれば、そんな感じだ」

「…わかった。でもそれって、魔鳥を借りた方が良いんじゃないのか?」

 何処かで聞いた話に苦笑を浮かべ、更に何処かで言った話をするレインだった。


「その可能性があるなら無理か…。じゃあ、レインは下からそいつを追いかけるのか?」

「どうかな…。俺では多分追いつけないだろうから、まずはサニー達を護る事に注力する」

「わかった。そいつの追跡は、俺の役目って事だな?」

「ああ。見失わない様、よろしく頼むよ」

「了解だ。という事は、ウォルターに便利な物を借りておくか…」

 ニヤリと笑うギルノルトに、レインは大きく頷くのだった。



 -----



 今日のレインはルーナ(1度目)と行動を変更するつもりであり、これはルーナ(1度目)でギルノルトと相談した結果だ。


 あの男がいつから動いていたのかは分からないが、今日の午前中は王族が街中を通過する予定もある日。もしその時間から街中にいて、大通りを進んで行く馬車を見ていたのだと思えば、考えただけで背筋に震えが走る。

 予定を変える事でマルセル達とは会えなくなるが、まぁルーナ(1度目)では元気な姿を見ているため彼らとの接触は諦め、今しか出来ない事をしようと気持ちを切り替えるレインであった。



 城門を出たレインはまず、サニー達が襲われた場所に向かった。

 そこは街の東側にあたる住宅街の一画で、レインの実家よりもやや北にある広場の近く。周りには戸建て住宅が並び、以前レインが強盗犯を追い詰めた場所にも近い。

 どんよりとした空のもと色鮮やかな赤や青の屋根が並び、時折降る雪もその色を隠すまでには至っていない。肌に染みる空気の中、所々で暖を取るように湯気を立てる家が僅かな温もりを届けている。


 ここから見える郭壁は遥か遠い。

 辛うじて胸壁の隙間に黒い影が過ったように見える程度で、それが人だと認識できる距離ではない。ギルノルトにはそこからの追跡を頼んではみたが、果たして犯人が見えたとして、それを追えるのだろうかと不安にもなる距離だった。

 ただその逃走経路を遮るものは殆どないと言って良く、今回も屋根の上を移動していったとしても、地上に降りない限り上から見える事だけは救いであろう。


 そんな住宅街のここは夜になれば静寂に包まれ人通りもなくなるが、サニーが襲われたのは夕方でまた太陽が沈む前、家路につく者が通りを歩いている時間である。


(サニーが帰る時間まで把握していた…)


 普通ならばサニーはもう少し遅い時間、第二騎士団が夜勤に就く時間に帰宅していたはずだ。

 それがルーナ(1度目)では急遽早上がり出来たと言っていたのだから、その内情を知っていて、奴はサニーを狙い襲った事になる。


(城勤めの奴の思惑か?)


 城に出入りしているのは、サニーの様に貴族以外の者も多い。もしかすると同じ部署の者がサニーの動向を監視しているのかも知れないし、廊下ですれ違う者が視線を向けて探っているのかも知れない。

 そんな膨大な人数の中から事件の関係者をあぶり出すのは、城内に出入りする機会も少ないレインでは困難を極めるだろう。


(犯人を捕まえられれば、一番手っ取り早いんだがな)


 何故サニーを狙うのか。

 レインは護衛がつく理由を知らない為、そもそもどんな事にサニーが巻き込まれているのかを知らないのだ。

 同じ犯人と思われる前回の殺人でも、王族に納められるはずの物が狙われた事からすれば、サニーの件も城の中で蠢いている者の仕業であろう事は疑いようもないのだが。


(ロイ、早く何とかしてくれ…)


 明らかに今、白騎士団が広範囲に動き回っている事はレインも知っている。だから手をこまねいている訳ではないはずだが、明らかに後手に回ってしまっている現状に、レインは強く拳を握り締めるのだった。



 その後現場周辺を一通り巡り、怪しい者がいないかと探りながらレインは大通りまで出た。

 すると丁度そこへ、丘の上から下りて来た一行の先頭が見えてきたところだった。


 レインも見物人に紛れてその一団を見つめる。こうしてしっかりと確認すれば、沿道には所々黒い制服の団員が立っており周辺を警戒している様子がうかがえた。


(今日はアッシュ班とグリーン班だったな。今朝は大変だったろう…)


 こうしてただ王子を見送るだけでも、今日の警護に当たるアッシュ班とグリーン班が朝から厳戒態勢だった事を想像し、レインは苦笑を浮かべる。

 それは郭壁の上のレッド班も同様、任務開始早々から王族が通り過ぎるまでの間、王都内外の隅から隅まで異常はないかと目を凝らしていたはずである。


(もし王族に何かあったら、“大変だ”くらいでは済まされないからな)


 苦笑を浮かべ、近付いてきた集団に目を向ける。

 先頭には、甲冑を纏い騎乗した2名の近衛が正面を見つめて進んで行く。彼らは姿勢を正し、これがいかに誉であるかを訴えている様にさえ見えた。


(そう言えばこの中にロイもいるんだったか?)


 そう思って目を凝らしてみたが、その後に続く徒歩の者にもロイらしき人物は見当たらない。というか、そもそも半数が甲冑を身に付けており、その顔を確認する事が出来なかったのだ。


(もし居たとしても、こっちを見て手を振ってくれる訳じゃないから分かるはずもないか…)


 レインはそんな事を考えながら、歓声に包まれ、何事もなく出発して行く馬車を見送っていたのだった。



 -----



 その後のレインは何気なく街中を歩きながら、建物の屋根から路地に至るまでをつぶさに警戒していた。

 その口実に店頭を覗き込み、品物の値段などの確認もする。


(やはり小麦製品だけが品薄か…。という事は荷が滞っている訳でもない訳だな)


 1度目の検証よろしく、レインはそんな風に今日の時間を過ごしていた。途中、果物を買って食べながら大通りを歩く。いかにもお気楽な者が、休日を過ごしているかのように。


 そして陽が傾きはじめると、当事者達が大通りを下ってくるのが見え、レインはゆっくりとそちらへ近付いて行った。


「サニーじゃないか? 今日は早いんだな?」


 自分でも白々しいと思う言葉をかけつつ近付けば、レインに気付いたサニーは満面の笑みを向け、ケイリッツは会釈を返した。

 ここは大通りで城門からは程近い場所だ。今回レインは現場で見張るのではなく、城を出た直後に彼らに声を掛けていたのだった。


「兄さん! ここで会うのも珍しいね。僕は早く帰れる事になったんだよ。兄さんは、今日はお休み?」

「そうか。ああ俺は休みなんだ」


 サニーに向けていた視線をケイリッツに転じ、レインはいつも付き添う騎士に頭を下げる。


「ケイリッツ殿、今日もありがとうございます」

「いいや、これは私の任務に過ぎない。礼を言う必要はない」

 どこまでも騎士らしい返答に、レインは目尻を下げて頷いた。


 そんな彼が前回の通りになれば、今後騎士としての道は絶たれる。しかも腕に障害が残り、日々の生活さえままならなくなるだろう。


(この人の未来を奪う訳には行かない…)


 顔に笑みを乗せたままサニーを挟むように共に歩き出しながら、ズボンのポケットから取り出した紙を、サニーの背後からさりげなくケイリッツの手に押し付けた。

 その感触でケイリッツも何かを手渡されたと分かったのだろう。「おや?」と一瞬眉を動かしたものの、そこは貴族である彼には意味が分かったのか、その紙を手の中に隠して何事もなく話を続けた。


「サニー殿は業務が早く終了したとの事で、今日は明るい時間にお送りする事になったのだ」

「なるほど、だから俺とここで会えたんですね。そう言えば、サニーは今、どんな部署に居るんだ?」

 サニーに問いかけつつも、視線はサニーの向こうにいるケイリッツに向ける。

 そして手紙を握る手に視線を向け、「読んでくれ」と合図を送った。


「えっと、なんて言えばいいかな。僕がいる部署はね、具体的には言えないんだけど…」

 質問に答えるサニーにチラリと視線を流して、レインの意図に頷き一歩下がって手の平の中を見つめるケイリッツ。レインはこれで重要な事は伝える事が出来ただろうと、小さく息を吐き出した。


 その短い手紙は、南東区画の住宅街に入った道で襲撃される恐れがあるため警戒して欲しい事と、その対策としていつでも防御(・・)できるよう予め用意しておいてくれ、という内容である。

 要するに、防御魔法の準備をしておいてくれと書いてあるのだ。

 ここは防御一択。相手は気配なく離れた場所から毒を放つ手練れ、剣で回避しようとしても無駄である事が分かっているからだ。


 ピクリと眉が上がり鋭い目つきでレインへと頷くケイリッツに、レインも神妙に頷いて応えた。

 かくいうレインも、既にいつでも魔法を放てる状態まで詠唱を済ませている。魔法は前詞と真詞で一対になっており、全て唱えるまでには少なくとも数秒の時間が掛かってしまう。だが先に前詞までを済ませておけば、解除するまで待機状態で維持する事ができるのだ。


「そうか。じゃあ今日は忙しくなかったんだな」

「そうなんだ。最近バタバタしていたから、早く帰れるのは少し有難いよ。家には父さんもいるし、たまには父さんともゆっくり話したかったからね」


 と、さりげなくサニーとの会話を続けるレインは、ケイリッツが一歩下がったまま口元を動かしている様子を確認した。声は聞こえず何と言っているのかまでは分からないが、レインのメモに従い、何かを発動する準備をしてくれたようだ。


 こうしてレイン達は、襲撃された道へと入る為の準備を整えたのであった。


おはようございます。

いつも拙作にお付き合い下さりありがとうございます。


暦通りですと、今日から本格的なGWとなる方も多いのでしょうか。

少し長い休日では遠出される方も多いと存じますが、お怪我のないよう安全第一で、楽しい時間をお過ごしください。

その間も、レイン達は休みなく更新を続けて参りますので、お時間がございます時にでも覗きに来てくださると嬉しいです。

それでは皆さま、楽しい休日をお過ごしください^^

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