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5. 壁の外側

 王都から街道を南下し1時間程すれば、そこから道を逸れて東へと移動を開始する。

 ただし王都から1時間も歩いているが、この位置からでもまだ十分に王都の郭壁は見えていた。


 それは、王都自体が城を含んだ広大な面積となっている事に加え、その郭壁も魔物や人的侵入を防ぐため30mにも及ぶ高さがあるからで、胸壁の見張りも務める第二騎士団員にも真下を覗けない者がいる程だった。


 今日はこの少し先の林の中に、コボルトが出るはずだ。


 コボルトは犬の頭を持った直立型の魔物で、尻尾があり体も一部毛で覆われている。体長は2mには届かない程だが、鋭利な鉤爪と体を俊敏に動かす筋肉を持ち集団で行動する厄介な魔物だ。

 今回のコボルトも群れで現れ、機動性を活かし仲間同士が協力して攻撃を仕掛けてきた。小柄だからと高をくくっていれば、こちらが痛い目にあうだろう。


 1回目も同じ時刻にコボルトがいる場所へと向かった為、そろそろ遭遇するだろうとレインは気を引き締める。レインが集中して周辺の気配を探れば、薄っすらとその気配をとらえる事が出来た。


「デントス班長、南東に魔物の気配です」

 いち早く、レインがその気配をデントスへと報告すれば、レインの言葉を聞いた皆に緊張が走る。

 そしてその場で一旦停止すると、皆がその気配を探った。


「100m先か、よく気付いたレイン。一同戦闘の準備だ。こちらから先制攻撃を仕掛ける」

「「「応!」」」


 デントスの号令に、30名は一斉に走り出す。100m位の距離であれば、団員たちは走り続けてもその先の戦闘に影響されないだけの体力を持っている。一糸乱れぬ列のまま駆け抜けて行く団員たちは、そしてコボルトの前へと踊り出たのだった。



 そこから皆がコボルトを取り囲むように散開し、デントスの声が飛ぶ。

「レイン!」

「はいっ!」

 名を呼ばれたレインは何を言われずとも、この一年の経験からその意味を理解し行動に出る。


「母なる大地よ、天へと立ち昇れ “土壁(アースウォール)“」

 詠唱が終われば、団員たちの外側に高さ2mの壁が広域一帯を囲むように出現する。


 レインは魔力持ちで土属性の魔法が使える為、学生の頃から使える魔法を調べて練習を重ねてきた。

 入団試験でも魔法発動の熟練度をみられており、レインは2度1日を過ごしている為か、魔法に対する理解も深く、魔法の使い方が上手いと評価を受けていた。

 そして幾度(いくたび)かの戦闘経験から、魔物との戦闘を踏まえた距離感を残しつつ、魔物の逃走を阻止するために壁で囲い、レインが戦場を確保するようになったのだ。

 こうする事で、もし中の団員が全滅しても応援の人員が到着するまでの間、魔物の移動を遅らせる事もできる。


 それを目視で確認したデントスから、号令が飛んだ。


「よし!掛かれ!」

「「「応!!」」」


 30名が一斉に動き出した。

 チラリと新人のウォルターを見れば、記憶の中の彼よりもリラックスしているようだ。だがそれでもレインは、ウォルターのそばまで移動すると、そこでコボルトに剣を振るう。


 コボルトは2足歩行の魔物であり、今回は手に武器を持っている。人間から奪った武器なのか、拾った武器なのかは分からないが、剛腕から振るわれる剣は重く、レインの手に程よいシビレが走る。

 レインは剣の一振り一振りを、丁寧に繰り出していく。


 今日まで父と剣の稽古を始めてから5年、だがレインは1日を2度繰り返すことで、理解と復習を積み上げていると言えた。ただ、2度繰り返していると言っても、実際の体の仕上がりは年月分の5年しか経っていない。それでも、頭の中に動作のイメージがある者とない者の差は、一目瞭然である。

 体の動かし方、間合いの距離感、タイミング等は同じ位の年齢の者をみれば頭一つ分とびぬけていると分かる。ただしレインは、それに全く気が付いていないのだが…。


 今戦っているコボルトの群れは、総数で60体程だ。

 1人が2体倒せばあっけなく終わる計算ではあるが、実際はそうは上手くいかず、新人などは手こずっている者もおり、それらに気を配りながら、レインは流れるように剣を振り、確実に相手に傷を付け追い詰めていった。


 レインが2体倒し終わったとき、近くのウォルターが受けとめた剣の重みに耐えかね、体勢を崩した。それを視界で捉えたレインは、すぐさま援護の剣を送る。


 ―― ザクッ! ――


 横から現れたレインの剣に、ウォルターを追いつめていたコボルトの腕が切られる。


『ゴギャー!』

 コボルトが悲鳴を上げ、血を流す腕を抱きしめた。


「ウォルター、体軸がブレている」

「はい!」


 体勢を立て直したウォルターが、レインの援護を受け反撃に出る。


 ―― ガキンッキーンッ ――


 今度は、小気味良い打ち合いの音がしたかと思えば、ウォルターが一気に優勢となった。その様子を視界の隅で捉えたレインは、ここを任せ自分も次の獲物に取り掛かる。


 レインは既に昨日という認識の今日、コボルトと対峙している経験もあり、急所を重点的に攻めてあっけなく次の1体を沈めた。


 そして戦場を見れば、残りは皆が打ち合っている物だけとなっている。それを確認して、今度は新人フォローへと走り回りながら、押されている者の援護に回るレイン。

 そして程なくすればコボルトの群れは、全て地に倒れたのである。



 もう動く魔物がいない事を確認し、班長のデントスが声を張る。

「討伐完了!」

「「「応!」」」


 一斉に返した声の後、レインは出していた土壁を消す。

(ことわり)のものは(ことわり)()す “解除(デボルバー)“」


 そう詠唱すれば、その壁はサラサラと砂塵となり、溶けるように大地へと消えていく。


「ご苦労だった、レイン」

「はい」

 魔法の解除を見届けたデントスが、レインの傍まで来るとそう声を掛けた。


「それにしても、レインが範囲を固定してくれて逃走の懸念もなく戦えるのは便利だな」

 デントスは、そう言ってレインの肩を叩いた。


 レインはその言葉に笑みを返すと、コボルトを集めるため、今度はその場所で深さ2m幅10m程の穴を地面に開ける。


「壮大なる英知のふところに “穴隙(トゥリパ)“」 


 レインの広げた両腕の前に、詠唱と共に大穴ができる。ここにコボルトを落とし、火魔法を使うデントスが火を放つのである。


「皆!魔物を回収してくれ!」

「「「了解」」」


 歯切れ良い返事から皆が動き出し、コボルトをどんどん穴に入れていく。そして入れ終わると、それを灰にしてから、又レインが地面を元に戻すのだ。

 第二騎士団で土魔法が使える者は今3名だけで、今回の様な魔物相手の場合には土魔法は重宝がられている。


 魔法属性は、全部で7つ。

 その中で、“火“・“水“・“風“の属性を持つ者の割合が多く、次いで“土“と“雷“、残り2つの“光“と“闇“に至っては、使える者は国に報告しなければならない程に数が少ないとされている。

 レインが鑑定の儀で属性が土だと分かった時には少々がっかりしたものだが、今考えれば土魔法も便利であると本人は気に入っていた。


 こうして、コボルトの討伐は大した負傷者も出さずに無事に終わった。



 だがレインは、ここからが本当に気を付けねばならないところとなる。

 なぜなら1度目は、ここで新人のウォルターが重傷を負った為に全員が王都へ帰還してしまっている。2回目の今は、それを回避した為にこの先へと進むのだ。

 ここをクリアしたからと言って、今日の任務が終わった訳ではない。ここからが本番なのだと、レインは冷たい汗が伝い落ちるのを感じていた。


「では、ここは終了だ。一度水分補給のため5分休憩とする。すぐに出発して見回りを続けるから、傷のある者は治療しておくように」

「「「了解」」」


 デントス班長の指示に、皆が休憩の為に地面に腰を下ろした。

 そのざわざわとした物音の中、そこに“ピィーッ”という鳴き声が聴こえたかと思えば、突然上空から1羽の鳥が舞い降りてきてデントスの肩に留まった。


 その姿は体高30cm、美しいエメラルドグリーンの羽に、その羽から胸へ濃いグリーンへとグラデーションの様に色が変わり、胸のあたりが一番濃く深緑になっている。明るい緑色の頭部からは一房深紅の羽が乗り、冠羽(かんむりばね)が彩を添えている。


 この鳥は“魔鳥“というもので、魔物の一種であるが大変頭が良く人の言葉も理解でき、感覚が合う人間と出会えば使い魔として働いてくれるという。

 条件などの詳しい内容までレインは知らないが、この鳥は副団長の使い魔だったはずだ。きっと先程のコボルトの煙を見て、報告させる為にこの鳥を飛ばしてきたのだろうとレインは推測した。


 デントスは肩に鳥を乗せたまま、皆へと視線を向けた。

「この鳥は、ムルガノフ副団長の使い魔だ。今後も見る事があると思うが、攻撃対象外だと認識して欲しい」


 新人に向けてだろう、そう言ってからデントスは腰元の袋から一つまみの魔石屑を取り出して与えている。それをついばんだ間鳥は、満足そうにピィーと鳴いた。


 そして少しすれば、デントスの肩から副団長の声が聴こえてくる。

『魔物を発見したようだな。状況を伝えてくれ』

 その声を発した鳥の(くちばし)が閉じる。


 鳥を肩に乗せるデントスは、素早く紙に何事かを記入して魔物の前に出す。鳥がその紙を嘴で銜え上げれば、それが空気に解けるようにして消えていった。

 その様子を見ていれば、この魔鳥は手紙を書いた者の声で内容を運んでくれている様だと理解する。


 レインが辺りを伺うと団員の殆どがその魔鳥を凝視しており、新人に至っては口をあんぐりと開けている者までいた。レインは既に昨年も見た光景だが今ほど近くで見てはいなかった為に、やはり自分も興味津々の顔をしているのだろうと苦笑した。


 こうして副団長への手紙を託したレッド班は、レインの知らぬ、未知なる時間へと突入していくのだった。


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― 新着の感想 ―
こんにちは&お疲れ様です( ・∀・)っ旦 レインは今回も二回目の日を迎えていたんですね! コボルトも油断なりませんね。 新人の団員とはいえ、訓練を詰んだ人に深傷を追わせてしまう技量があるんですもんね!…
 なるほど! 二回目で初めての展開になるとやり直しが出来ない……  一体何が起こるのか! 楽しみです!
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