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2度あることなら2度目で変える! ~残念スキルも逆手にとって、今日の未来をやり直す~  作者: 盛嵜 柊 @ 『シド』書籍化進行中
第三章

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43. 保存サンプル

 王都キュベレーにある城と言えば王族が住む王宮も含まれ、白騎士団と呼ばれる近衛騎士団が常に警備を行っており、レインは滅多に足を踏み入れる事はない。


 しかしそれは、時として例外もある。

 前回レインが王城に入ったのは、外回りの負傷時、すなわち騎士棟にある医術局では処置が出来ない場合だ。それと年に一度ある健康診断などで、くらいだろうか。

 それゆえ、レインは王城の医術局がある場所だけは熟知していると言っても過言ではない。その他の部署については白騎士団の手前歩き回る訳にも行かぬのだから、知らぬのも当然だろう。


 こうしてレインは駆け足を速足に切り替え、すれ違う白騎士団員に訝し気な視線を向けられながらも、目的地である医術室の扉前に到着した。


 その廊下の先の別の扉付近には、黒い制服の団員達が数人、扉の前で立ち話をしているようだった。

 彼らは俯き加減で肩を寄せ合い、まるで慰めるように背を叩いている者もおり、誰が見ても何かがあったと分かる雰囲気を醸し出していた。その会話までは聴こえて来ないが、時々嗚咽の様な声も聴こえてくる。


(第一か…)


 レインはムルガノフ副団長から聞いた話を思い出しながら、彼らは亡くなった団員と親しい者たちだったのだろうと思い至る。

 レインにはそんな彼らに掛ける言葉もなく奥歯を噛みしめると、視線を転じて目の前の扉を叩く。


 コンッ コンッ

「―――はい、どうぞ」


 ややあってから返答があり、レインはゆっくりとその扉を開く。

 そこはいつもの通り薬品の匂いが漂う部屋。だが今日は、いつも整然としている室内とは違い、薬や薬品などが開封されたまま煩雑に机などに置かれていたのだった。

 そして室内にはいつもは見掛けない白衣を着た男性が2人と、レインの見知ったアーロン・シエルが立っていた。


「ああ、レイン君か。どうかしたのかい? 今はちょっと散らかっているんだけど、入ってくれるかな」

「……お忙しいところ、すみません」

「いいや、今はひと段落付いたところだから大丈夫だよ。それで、具合でも悪くなったのかい?」


 そう声を掛けるアーロンへ、隣の2人が「誰だ?」と視線を向けた。

「ああ、彼とは初対面だったね。彼は第二騎士団の、レイン・クレイトン君だよ」

 紹介されたレインは、近付いて行って会釈をした。


「私は医術局のフイリップ・ルガータ、普段は第一騎士団を担当している」

「私も第一担当で、ロバート・モンタレという者だよ。クレイトンという事は、もしかしてジョエル殿のお身内かな?」

「はい、ジョエル・クレイトンは俺の父です」


 やっぱり、と納得したように頷く2人。

 フイリップと名乗った彼の黒い髪は少しウエーブ掛かっており、黒い眼の目尻には笑いジワが続いている。その隣にいるロバートの髪は新緑色の直毛で、蜜柑色の眼には眼鏡をかけており、フイリップとは対照的な雰囲気だった。そこに交じるアーロンは言わずもがな水色の長い髪をひとつにまとめており、三者三様の雰囲気を持つ3人である。



「第二という事は…まだ彼は知らないんだな」

「だが彼は、クレイトン殿のご子息らしいから…」

 フイリップとロバートが小声で話しているが、近くにいるレインにもその声は届いている。


「あの、第一の事でしたら既に聞き及んでいます。その件で伺いたい事があって、こちらにきました」

「そうなのかい?」と視線を向けたアーロンに、レインは頷いて返す。


 それにしてもここは医術室であるはずなのに、怪我人が誰もいない事をレインは不思議に思う。

 今日戻った第一騎士団には怪我を負った者はいなかったのだろうかと、部屋を見回したレインは首を傾けた。

「ここは誰もいないようですが、負傷者()いなかったんですか?」


 レインの言いたい事が分かったのか、渋い顔で話し出すフイリップ。

「そりゃあ居たさ、結構な数ね。今ここに誰もいないのは、怪我人の手当てがついさっき終わったからだよ」

 だからまだ片付けが出来ていないんだ、と続けて補足したロバートが散らかっている机を見て肩をすくめた。


 どうやら机の上に出ているものは、散らかっているというよりも先程までの忙しさの現れだったらしい。


「悪いけど私達は、これらを片付けさせてもらうよ」

 とレインに断りを入れたフイリップとロバートは、薬品を片付ける為に手を動かし始める。邪魔をしているのはこちらなので、申し訳ないと謝罪するレインである。


「それで聞きたい事とは何かな?」

 そこでアーロンがレインを促した。


「あの…今回の魔物の毒について、分かっている事を教えてください。普通の解毒薬が効かない事は聞きましたが、解毒薬を飲ませるまでの時間やそれまでの応急処置方法とか…」

「君が聞いてどうするのだ?」

 医術局員でもないのに、とフイリップは振り返って問い返す。

 片付けながらでも、レインの話は聞いてくれているようである。


「俺に何が出来る訳ではありませんが、今後もし同じような事があった場合の対処法が知りたいだけです。かと言って滅多にない事とは分かっていますが…」

 レインの返答に笑みを浮かべたのはロバートだ。

「前向きでいいね。その考え方は好きだよ」

 そう言って、ロバートは棚に薬を戻しつつ微笑んだ。


「意図はわかりました。一刻を争う事態の知識を得る者は、一人でも多い方が良いでしょう。私の知識でよろしければお話ししますよ」

 そんなレインに目を細め、アーロンが話していく。


「今回の毒はバジリスクの毒、つまり先程レイン君が言ったように普通の解毒薬では効果がありません。応急処置は一般的な時と同じく、毒を排出して薬を飲ませるだけです。薬を飲ませる時間は、何の薬にしても早ければ早い方が良い。尤も、今回は解毒できていないと気付いたのも遅かったようで、それを知っていればもう少し違った対応も出来たでしょう…」


「どういう事ですか?」

 聞けば、今回対峙した魔物は大物ということで警戒はしていたが、いうなれば初見でありバジリスクだとは気付かず、その毒が通常の解毒薬では効果がないとは気付かなかったようであった。その為、毒にやられた団員達には通常の解毒薬を飲ませ、それが効いていない事に気付くのにも遅れたという話である。


「効きが遅いとは薄々気付いたらしいのですが、彼らを荷馬車に乗せて様子を見つつそのまま戻って来ていた様です。しかも患者への負担がないようゆっくりと…」


「その後、途中で様態が急変した為、解毒が全く出来ていないと分かったらしい」

 アーロンの言葉にフイリップが続ける。

「まぁ、最初から気付いていても、その時には解毒薬がなかったから対処のしようもないけれどね…」

 と最後にロバートが結んだ。


「ではその解毒薬は、言えばすぐに用意できる物なのですか?」


 レインは今日をやり直す時、この解毒薬が鍵になると思っていた。

 例えば今回、亡くなった団員達の帰還がギリギリ間に合ったとして、その時、薬を迅速に用意できるか否かにによって、今度はそこが生死の境目となる。

 言い換えれば、今回はあと一歩のところで間に合わなかったのだから、レインがソール(2度目)で彼らの帰還を急がせる事が出来れば、彼らの命は助かるという事だ。

 だがムルガノフ副団長から、その解毒薬は保存サンプルであったと聞いた。その言葉が気になった為、ここで尋ねたのである。


「いいや。通常、医術室(このへや)には置いていない薬だ。今回の件で慌てて探し出したくらいだから、すぐに用意できるものではない」

 フイリップは、首を振って答える。


「そうですか…」

「それにその解毒薬は今、医術局(うち)には保存サンプルとして置いてある物だけしかない。その保存サンプルは、局長が鍵を持っている保管庫においてあるものでね、私達ですら直ぐに用意ができない物なんだよ」

 視線を下げたレインに、申し訳なさそうに捕捉するアーロン。


「それでは、使用するには医術局長の許可がいる…って事ですか?」

「話を通さないと、保管庫の鍵を渡してもらえないからね」

「その他にも貴重なサンプルを持ち出す場合、色々と手続きがある」


 手続きと聞き、レインは騎士団でも備品の申請や休暇届など色々な申請書がある事を思い出した。

 書類のやり取りが余りない騎士団でもそういった書類があるくらいだから、危険物とも言える薬品を扱う医術局では、それなりに面倒な手続きがある事も頷けた。


 しかしそうなるとソール(2度目)の朝にレインがここを訪れたとしても、局長から許可が出ない限り、その薬は準備してもらう事さえ出来ないだろう。

 突然押しかけた一介の騎士が解毒薬の必要性を訴えたとして、その話がすんなり通るはずもないのだろうとは想像がつく。


 それではどうすれば彼らを救えるのか、とレインは一人思考の海に沈んで行くのだった。


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