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34. レインとロイ

 そうして再び奥へと案内されたレイン。

 同じ部屋に通されたのは、ロイの名前を出したからだろう。


「お飲み物はどうされますか?」

「ロイが来てからで構いません」

「畏まりました。それでは後程お伺いいたします」

 そう言って静かに頭を下げて退出していく女性を、レインは見送った。


 一人になったところで、早速奥の窓を開けて口元に指を添えた。

(クルーク、来てくれ)


 魔力を乗せ、ヒューと音にならない指笛を吹いたレインは、間を置かずに聴こえた羽音に気付き苦笑した。


(やはりな…)


 レインは、自分を尾行していたのは人ではないと確信していた。だとすると、自分を見ていた可能性としてあるのは、このクルークの存在だと推測していたのである。


 すぐに緑色の鳥が見えた為に窓の外へと腕を伸ばせば、そこにスーッとクルークが舞い降りてきた。その顔を見るとキョトンとしており、なぜ呼ばれたのか疑問に感じているという風である。


「急に呼んで悪かったな、クルーク」

『ククッ…』

「――悪いが俺には君の言葉は理解できないんだ。これを君の契約主に届けてくれないか?」

『クルルッ』


 レインが宿舎にいる間に用意してきたメモを胸ポケットから取り出し、クルークの前に差し出した。

 すると心得た様にクルークが紙を嘴に挟めば、それが溶けるように消えていく。


「君の能力は凄いよな…」

『クルーッ』

 一声鳴いて胸を張るクルークに、レインも自然と笑みがこぼれた。


「あぁ、魔石は要るか?」

『クルッ?』


 ここでレインが魔石の事を聞いたのは、以前デントスが魔鳥に魔石を与えていたからだった。

 返事は分からないが、首を傾けるこの反応を見る限りは要らないという事だろう。


 レインは知らぬ事であるが魔鳥は魔力を好物としているため、使役されている魔鳥を呼ぶ場合は己の魔力を飛ばして呼ぶ。呼ばれた魔鳥にはその魔力が報酬になっており、魔鳥から伝言などを受け取った側も報酬として魔力か魔石を与えているだけの事だ。

 そして特定の魔鳥を呼ぶ場合は、魔鳥に付けられた真名を知っている事が必須。すなわち、魔鳥の名前を教えてもらえるという事は魔鳥を使っても良い、という暗黙のルールがあるのだが、それすらも知らないレインなのである。


「では、頼んだぞ」


 その言葉で翼を広げ一気に空へと舞い上がって行くクルークに、レインは暫し見惚れる。

(良いな…魔鳥…)

 ちょっと羨ましいなと思いつつ、レインはロイが来るまでの間、座って待っていようとテーブルへと戻った。


 レインは魔鳥の事を詳しく知らないが、想像するに、契約者には彼らが何と言っているのか分かるのだと思う。

 だとすれば一人で行動する時には話し相手になるし、上空から周辺の状況をみてもらったりと、魔物と言えども魔鳥と契約ができれば、有能な仲間となってくれるのだろうと想像する。


 そんな事を考えていれば、バタンと大きな音を立てて扉が開いた。

 レインが振り向けば、そこには肩で息をするロイが扉の前で瞠目し立ち尽くしていたのだった。


(やはりこちらも早かったな…)


 近くに居たんだなと苦笑するレインに気付かないのか、眉間にシワを寄せるロイが、ツカツカとテーブルまで近付いてきた。


「なぜ君がここにいる…」

「開口一番でそれは無いんじゃないかな、ロイ」


 そこで再び目を見開いたロイに、取り敢えず座って欲しいと言ってみる。上から睨みつけられるのは、少々居心地が悪い。


「………」

「俺は武器を持ってない。敵意はないし君を襲うつもりもないから、取り敢えず座って話そう」

「………」

 訝し気に視線を向けるロイに、レインは肩を竦める。


 レインが両手を上げてみせれば、戸惑いつつもゆっくりと席に着くロイ。そこへノックが響き、先程の店員が扉から顔を出した。


「お取込み中ですか? お料理はどうなされますか?」

「……いや大丈夫だ、料理を出してくれ」

「畏まりました。今ご用意して参ります」


 彼女が居なくなれば、またロイとレインの2人だけになった室内に沈黙が下りる。


「…それで、これはどういう事だ? なぜこの店を知っていた?」

 威圧を含む気配を纏うロイは、今まで見たどの彼とも違う雰囲気を醸し出している。

 レインは少々驚かせ過ぎたかと、眉尻を下げた。


「そこまで驚かせるつもりはなかったんだが…。ロイは、俺の動向を監視しているだろう?」

 ガシガシと頭を掻くレインを、ロイはまだ睨むように見ている。


「――何の事だ」

「その言葉は、俺からすれば今更なんだ。俺は既にロイとは色々と話しているから、ロイが俺を探っていたのも知っているし、こうして君の名前も知っている事を考えてくれれば、俺の言っている事の意味が分かるはずだろう?」


 レインの言葉を吟味するように、ロイは腕を組んでレインを見つめる。


「だが私が君と会ったのは、これで2度目のはずだ」

「その答えは、ロイが考えている事に近いよ」

「……予知能力?」


 再び聞いた単語に、レインは軽く首を振った。

「実際は予知能力ではなく、“ワンセット”によるものだ」

「ワンセット……。――やはりユニークスキル持ちか」

「そういう事。それで俺は既に君とは一度話し合っている。その時にクルークの事も聞いた」

「それで、か……」

 やっと理由が分かったからなのか、ロイが肩から力を抜くのが分かった。


 クルークの存在を知らないはずのレインが、クルークを使ってロイを呼び出したのだ。ロイはさぞ驚いた事であろう。


 レインはクルークでロイと連絡を取れると分かってはいたが、それが実際に出来るのかも今回試してみたかったのだ。それとちょっとした仕返しのつもりで、ロイをここに呼び出したともいえる。1度目ではロイのペースで事を進められたからだ。


「それでは、初見の私にもわかるように話してくれるのだろう?」

 ニヤリと口角を上げたロイはもう、1度目の様な雰囲気に戻っていた。流石に切り替えが早いなと、レインは少し呆れてしまう。


「もちろんだ」

「それで、レインのワンセットとは――」

 と、レインのユニークスキルに興味を持ったロイが質問を挟み、話は続いた。



 それから少しして料理が運ばれてくる。

 入室時に怪訝な顔をしていた女性も、先程と変わって和やかな雰囲気になっていた室内にホッとした様に笑みを添え、料理を並べていった。


「お待たせいたしました。ごゆっくりお寛ぎ下さい」

「ありがとう、マノア」


 ロイがそう声を掛ければ、マノアと呼ばれた女性は艶やかな笑みを浮かべて退出していった。

 そんな彼女にちょっと見惚れるレインである。


 そんなレインを見て、ロイが声を掛けた。

「あぁ、彼女がこの店の店主だ。彼女が気に入ったのかい?」

「……綺麗だなと思っただけだ」

「そうだね、確かに彼女は美しいと言えるだろうね」

 自分は興味がないとばかりに、ロイはレインにいたずらな笑みを見せるのだった。



 それから一通り1度目に話した事を話し終えると、ロイはやはりレインに協力すると申し出てくれた。そんなロイに、レインは改めて尋ねる。


「ロイ、ひとつ聞いても良いか?」

「勿論だとも。何かな?」


「例えば俺が朝、今日起こる出来事を知らせるとして、ロイはどうするんだ?」

「まぁその時次第だ。私だっていつも時間が取れる訳ではないからね。都合が付けばそこへ行くが、無理であればそれなりの便宜は図ろう」

「便宜? ロイは白騎士団だと聞いているが…」

「それなりに黒騎士団にも伝手はある、という事だ」

「そういう便宜か…」

「そういう事だな」


 白騎士団とレインが所属する黒騎士団では、ほぼ接点はない。具体的な“便宜”の意味は分からないまでも、ロイが白騎士団でも上位職であれば、それなりに黒騎士団にも話が通るという事なのだろうと解釈する。レインと歳が然程変わらないロイであるが、既に上位職に就いているとは、余程位の高い貴族なのだろうかとも思うレインである。


「だから何かあれば、私にも随時知らせて欲しい」

 レインはその言葉に頷いてみせるが、言葉の裏を返せばレインが知る全てを把握したいのだろうとも思って心の中では苦笑する。


「わかった。俺が知る出来事は、出来る限りロイに知らせる」

「よろしく頼むよ」


 そんな話でひと段落したレインとロイは、この日をもって協力体制を築く事になったのである。


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