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32. これで問題は解決?

「君には人に言えない事があるのだろう?」


 唐突に落とされたロイの言葉にレインは一瞬動揺しそうになるも、そこは即座に立て直す。

「…人に言えない事なら、ロイにもあると思うが?」

 明らかに貴族に見えるものの自分の事を話さないロイに、少し当てつけの意味を込めて返したレイン。


「クックック。そうだね、私の聞き方が間違っていた。それでは言い直そう。もしかして君は、“秘密にしているスキル”を持っているのではないのかな?」


(何だこいつは…)


 流石のレインも、この質問には動揺を隠せない。

 何故そう思ったのか。レインはワンセットの事をギルノルト以外には話していないし、気付かれるような行動はしていないはずだ。まぁたまに、ギルノルトにはうっかり口を滑らせる事はあったが、それも些細な事だったと思う。

 ましてやロイとは普段接点もなく、レインがうっかり口を滑らせたところでそれをロイが知るはずもない…はずだ。


「なぜそう思うんだ? 俺があんたに何かしたのか? それで難癖を付けているんだろう?」

 どうにもうさん臭くて渋面を作るも、そんなレインを爽やかな笑みのまま見つめるロイ。


「難癖とは失礼だね。私はちゃんと思うところがあって聞いているんだよ?」

「…その“思うところ”とは、何だ」

「それを今聞くのは狡いね。先の私の質問に、君はまだ答えていないんだよ?」


 そう言って再びグラスを傾けるロイは、ここで会話の主導権を譲るつもりはないらしいとその態度から分かる。


「…わかった。話すから、その前にひとつ聞いても良いか?」

「ああ、構わないよ」

「ロイは、白騎士団員なのか?」


 人を従える事に躊躇しないところが貴族であろうと思わせる上、会話をリードする事に慣れている様子、そして何よりも手に剣だこがあった為に騎士団員ではないかとレインは考えていたのだ。

 レインは今まで2度程ロイと握手をしており、その時に自分と同じものをその手に感じていたのである。


「まぁ、そんなところだね」

「そうか」

 はぁ~と息を吐き出すレインに、ロイはクスリと笑みを浮かべた。


「それで、レインの答えは?」

「ああ、そうだ」

「やはり、ね」


 レインの答えに満足したらしいロイはやっと料理に手を付け、綺麗な仕草で小さな肉をさらに切り分けて口に運んだ。


「俺が答えたんだから、さっきの俺の質問にそっちも答えてくれるんだろう?

「ん? その質問とは何だったかな?」


 ロイが分かっていてのんびりと返事をしたように感じたレインは、再びため息をついて口を開いた。

「俺を調べていたんだろう、という事だ」


 その問いに、ニッコリと笑みを浮かべたロイが首肯する。

「そうだね。少々興味深い行動をする君を、調べていたと言えるだろうね」

「俺がロイの興味を引く事は…」


 レインはロイの笑みを見て、言葉を途切れさせた。

 その顔は“しらばっくれるなよ”と書いてあるかの如く、目だけが笑っていなかったからだ。


「それで、ここからは私の推測なのだが…」

 今度は何を言い出すのかと、レインはビクリと肩を揺らす。


「レイン。君は、未来予知のユニークスキルがあるのではないかい?」


(―はぁ?!―)


「なぜ…そう思うんだ?」

「なぜか。それは君が行く先々にトラブルがあるから、とでも言っておこうかな」


 なぜ付きまとわれたのか。それは今までレインが防いできた出来事をロイが知っているからであると、ここで漸く知るレインである。

 だが、それらはレインが未然に防いだために大きな事件や事故には至っていないはずであり、人の噂に上るような出来事でもないはずだった。しかしそれがなぜかロイの興味を引く事になって調べられた挙句、こうしてレインは白状させられたという事らしい。


「そういう事か…。だが残念ながら、ロイ。俺はそんなスキルは持っていないぞ?」

「ほう? 今更嘘をついても始まらないのだぞ?」

「嘘ではない。俺は未来予知なぞ出来ないし、した事もない」

「…………」


 目の前のロイが驚愕して目を開く様子に、レインは少しだけ仕返しが出来たと心の中で苦笑した。


「…ではなぜ、君が行く先々で何かが起こる?」

「ああ、それは俺がその日を既に経験しているからだな。だからその出来事がある事を知っていて、俺は動いている。俺は単に、見聞きしたことが大事に至らないよう動いているだけだからな」

 と、ここでレインはロイに自ら答えを提示した。


 ここまでくればもう隠し立てしておく必要もないし、レインはその秘密をロイと共有しても良いとまで思っていた。ただしこれから見せるロイの動向によっては、変わる可能性もあるが。


(まだ今日は、ルーナだしな…)

 結局はそこなのだ。


 レインがいくらここで自分の事を話そうとも、ソール(2度目)ではロイを避けて行動すれば良いだけの事。

 こうしてあの店の前でロイ出会ってしまったが為にこの流れになったのであって、ソール(2度目)でレインがあの店に行かなければ、そもそもロイが声を掛けてくる事もないだろうと思っている。そして何よりあの店は、行く必要のない店だったのだ。


 ただ実際ここでロイの思惑を知る事が出来ただけでも、レインにとっては今が貴重な時間だ。そして今をやり直すかどうかは、レインの考えひとつで変える事も出来る。だから今はレインの事を正直に話した後、ロイがどう出るかに掛かっているのである。


「日々を繰り返しているという事かい?」

「そうだ」

 と端的に頷くに留めるレイン。


「どれ位で時間が戻っている?」

「んん? それはどういう意味だ?」

「例えば…この1年をずっと繰り返していて今が3度目であったり、一度10年先まで経験していて、今その時間をやり直しているとか…」

「へえ、そんなユニークスキルもあるのか?」

「…そうらしいな」


 レインの反応で自分が話し過ぎたと思ったのか、ロイが無表情になって急に口を閉じた。


「ロイは、ユニークスキルの事に詳しいんだな」

「多少…ね。書物から得る程度の知識だよ」

「へぇ…。俺も昔、街の図書館にユニークスキルの事を調べに行った事がある」

「…それは勤勉だな」

「いや、そう言う意味じゃない。俺が言いたいのは、その図書館にはユニークスキルの事が書いてあるものがなくて、調べる事が出来なかったという事だ。それで発動してしまったユニークスキルを止める事も出来ず、今に至っている」


「そうなのか?」と首を傾けるロイに、レインは肯定をもって頷いた。


「ロイはどこの図書館で調べたんだ?」

「城の図書室だね」

 それでは自分は調べる事は出来ないのだなと、レインは肩を落とした。


「それで結局、レインは何というユニークスキルを持っているんだい?」

「俺のユニークスキルは、“ワンセット”だ」

「ワンセット…ワンセット……。ああ、ワンセットか」


 ロイが何かに思い当たったらしい反応で、レインは身を乗り出し尋ねる。

「知ってるのか?」

「ああ。名前は書物で見た事がある。確か稀有なスキルで、1日を2度繰り返す…だったか?」

「それだ!」


 レインの食いつきに、ロイがスッと身を引いた。レインが思わず立ち上がっていたからであろう。

「悪い…」

 我に返ったレインは身を引いて椅子に座り直す。

 どうやら気付かぬ内に、前のめりになり過ぎてしまったらしい。


「いいや、良い。だが、そんなにそのスキルの事が知りたかったのか?」

「ああ。俺はこれが発動してもう5年になるんだが、流石にそろそろ止められないかとも思っている。その5年間は毎日を2度繰り返していて、俺の中では10年分の日にちが立っている事になっているからな…」

「それは流石にきついな…」

 ロイが自分に置き換えて想像したのか、遠い目をした。


 そんなロイを見て、レインは目を見開く。やっとレインの心情を理解してくれる思考に出会え、レインはその共有する思いが嬉しかったのだ。ギルノルトもその事は知っているが彼はプラスに捉える思考で、「毎日を復習出来て良いな」という反応だったのである。


「…それでレイン、君のそのスキルで知り得た事は、今まで一人で改善してきたのか?」

「ああ。ワンセットの事は、一人を除いて誰にも言ってないからな…」

「ひとり…もしかして先日の彼かい?」

「そうだ」

「そうか、彼も第二だったね。という事はあの時も彼と?」

「あの時は彼からその情報を聞いていて、俺が応援に行ったんだ」

「なるほどね…。しかし、協力者が彼一人では何かと不便だろう。これからは、何かあれば私にも声を掛けてくれ。少しは協力が出来るはずだ」

「え? しかし…」


 1度目にあった事を変えるためには、2度目の日に動かなければならない。それは朝から動く事が多く、いつも近くに居るギルノルトならばまだしも、離れて行動しているレインとロイではその情報さえ共有する事は不可能と言えた。


「俺が1度目に知った事は、最短でも朝一で伝える事しか出来ないんだ。前の日から分かっているならまだしも、当日の朝にどうやってその日の事をロイに知らせるんだ? その伝達手段もないから、ロイは無理をしないでくれ。今回は協力するという気持ちだけ、有難くもらっておくよ」


 レインがそう事情を説明すれば、ロイが徐に席を立つ。

 そして奥にある窓を開き、口元に指で輪を作って添えた。ただし、それは指笛の格好だけで音は鳴っておらず、強いて言うなら空気音が鳴っているというだけのものだった。

 そこで何をしているのかと聞くのも気まずくて、レインはそっとロイから視線を外す。もし指笛を鳴らすつもりだったのであれば、それを指摘するのは酷というものだろう。


 とレインが料理に視線を向けていれば、どこからか鳥の羽音が聴こえてくる。それがどんどんと近付いてくるのを感じ、レインはロイへと視線を戻した。


「レイン、紹介しよう。これは私と契約している“クルーク”だ」


 そうしてロイが紹介したのは、いつの間にかロイの肩に留まっていた魔鳥であった。


 体は鮮やかなグリーンでそこから少しずつ黄色みを帯びたグラデーションになって翼へと続いていた。そして碧色の頭からは美しい深紅の羽冠が伸びている。

 その姿は副団長の魔鳥よりも少し体は小さいものの、胸を張る姿が凛とした趣を感じさせる魔鳥であった。


「魔鳥…?」

「そう。レインが魔鳥を知っているなら話は早い。クルークの名を思い浮かべながら、レインも今の様に指笛の形を作って自分の魔力を飛ばせば、それに応えてクルークは飛んで来てくれる。レインからの連絡は、クルークにしてもらえば問題ないだろう?」


 これで解決だと言わんばかりに、ロイは満面の笑みを持ってレインを見つめたのだった。


いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

皆さまの応援が執筆の糧となっております!

これからも引き続き、お付き合いの程どうぞよろしくお願いいたします。<(_ _)>

盛嵜 柊

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