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21. 事情聴取

 昨日は深夜まで話し込んでいた二人だったが、翌朝もいつもの時間に何とか起床して食堂へ向かっていた。


「今日は?」

「ルーナだ…」


 早速嬉しそうに聞くギルノルトだが、昨日の今日なのだから聞かなくても良いだろうと少し呆れるレインである。


 これで分かる通り、レインの1度目に話した事を相手は覚えていないが、2度目に話したことは相手も忘れずに覚えていてくれるのだ。だからと言って1度目にもレインが気を緩めて話す訳ではないが、そうして忘れられてしまう出来事を時々レインは寂しくも思うのだった。


 それから寝不足な割にご機嫌なギルノルトと朝食を済ませ、2人は揃って街の詰所へと向かって行った。


 レイン達の任務は、その場所に集合してから3人1組になって散らばって行くのであり、街の巡回の日も詰所には集合時間までに行けばよい為、班が纏まって移動する事は余りない。従っていつもレインとギルノルトは、2人で移動する事も多い。

 だがレインとギルノルトの組は分かれており、その後は別々の行動となるのだ。


「たまには、レインと同じ日に休暇を取りたいよな。そうすれば色々と融通も聞くと思うんだが…」

 2人で街へと下りながら、ギルノルトはそんな言葉を発する。

 休暇に至っては毎日1班毎に3人ずつであり、班単位で行動する時以外、特に申請しない限りは順番に休暇日が回ってくるため2人の休みが重なる事もない。


「そうだな。同じ日に休暇になるのは、年に数回位しかないからな…」

 レインが言う数回とは魔物警戒期間中であり、その時の休暇日は気力も体力も使い果てており自室に籠る者も多く、友人と出掛ける事も余りなかった。


「とは言ってもローテーション的に無理か…」

「そういう事だ」

「それじゃあ、その内に揃って休暇届でも出すか?」

 ニヤリと笑みを浮かべ、ギルノルトが振り返る。

「ギル、一緒に休暇を取ってどうするんだ? デートでもあるまいし…」

「いやぁ、昨日聞いた話でな、俺も協力出来る事はないかと考えたんだ。それで休暇が一緒だったら都合が良いかと思っただけだ」


 ギルノルトがあの後も色々と考えてくれたらしいと知り、レインは笑みを浮かべた。


「ありがとうなギル。でもそう考えてくれるなら、ギルが休暇の日に俺の知らない所の話を聞かせてもらった方が、情報の幅も広がるんだが?」

「ああ、そうか!」

 なるほどなーと頷くギルノルト。

 レインもこうしてギルノルトと話す事で自分以外の意見を聞けるため、考えを整理する事ができて有難いと思うのである。


「それじゃあ、その方向だな?」

「ああ、よろしく頼むよ」

 切り替えの早いギルノルトはレインの考えに納得してくれたようで、満足気に頷いたのだった。



 そうこうしている内に詰所に辿り着いたレイン達が詰所の扉を開けて中に入って行けば、そこには既に30人程が集まっており、半数近くがもう着ていた為にレインは首を傾げた。


「何で今日は、こんなに皆早いんだ?」

 昨日休暇日だったレインがギルノルトに尋ねれば、ギルノルトがレインの耳元で返す。

「多分昨日の件だろうな。あの男の事を全員に周知する為に、今日から合流するグリーン班は早く来るようにと指示を受けているんだろう」

「なるほどな…」

 と、その話に納得するレインだった。


 第二騎士団は、班ごとに一日ずつ警備の持ち場がずれて行く。

 ただし街の巡回については2日連続の勤務となるが、勤務に就く班は2班であり、勤務場所が1班ずつずれていく為に両日とも同じ班と組むことはない。

 従ってレッド班は街の巡回が2日目であるが、グリーン班は本日から合流した為にその情報を伝えておくのだろうという話だった。


「おいレイン、他人の事よりも自分の事だぞ?」

「あぁそうだった」


 そう言って団員達の控室でギルノルトと別れたレインは、一人奥の班長室に向かって行ったのだった。




 コンッ コンッ

「クレイトンです」

「入ってくれ」

「失礼します」


 礼を取り入ってくるレインに、机に向かっていたデントス班長だけでなくトラス班長の視線も刺さる。


「そこに掛けてくれ」

「はい、失礼します」


 30人も入れば一杯になるくらいの班長室、壁際には班長用の机が2つ並んでおり、その空いたスペースに4人掛けのテーブルセットがある。レインはテーブルの前で立ち止まり、そこで班長が来るのを待つ。

 そこへなぜかトラスもデントスに続いて着席すると、レインは促されて対面の椅子に座った。


「朝から悪いな」

「いいえ。昨日はそのまま休暇を過ごさせていただき、俺の方こそすみませんでした」

「ああ。ヒュースが判断したらしいが、そこは問題ない。話は聞いているからな」

 とデントスは赤い髪をかき上げ、笑みを浮かべた。


「ありがとうございます…」

 レインの言葉にひとつ頷いたデントスは、表情を引き締めて口を開く。


「それで、昨日レインはたまたまあの場所に居て、事故に行きあたったとの事だったな?」

「はい。実家に向かう途中でした」

「ああ、レインは王都に実家があるんだったか?」


 デントスとレインの話に口を挟んだのは、グリーン班のトラスだ。

 食堂ではユーモアたっぷりなこの人も、今は真面目な顔をしている。まぁ任務中でもあるし、当然だろう。


「はい。南東地区にあります」

「そうか」

 と頷いたのはトラスとデントスの両名だ。


 黒騎士団員は地方から来ている者が多く、その為に宿舎があるようなものだ。そんな中で王都に実家があるにも関わらず、騎士団の寮に入っているレインは珍しいといえる。

 別に王都に実家があるからといって寮に入ってはいけない事もないが、多くは街中の自宅から通う事を選択しているのだ。任務以外の時間くらいは、自宅で寛ぎたいからだろう。


「それで昨日は、ギルノルトをレインが呼んだのか?」

「はい。あの時間位に巡回するだろうと思い、途中で少し話をしたくて呼びました」

「それで、何の話を?」

 個人的な事かもしれないが、一応聞いておきたいとデントスは言い添えた。


「昨日は弟の就職祝いだったので、あの少し前に弟に贈り物を買っていたんです。それの感想を聞きたくて…。でも結局色々あったので、聞く事はできませんでしたが」

 少々苦しい言い訳だが、2人の班長は「そうか」と納得はしてくれたらしく、レインは顔に出さないように安堵するのだった。


「まぁ任務中に呼び出すのはどうかと思うが、結果的には事故を未然に防ぐことが出来た為、今回は大目にみよう」

 レインが安堵したのも束の間。そこはしっかりと注意されたレインであった。

「はい、申し訳ございませんでした」

 そう言われるのは分かっていたが、他に良い言い訳が思いつかなかったレインの自業自得である。


「それではここから本題に入る。レインは何かを見たんだな?」

 デントスは目を細めてレインを見る。

 そんなデントスにレインも姿勢を正し、昨日見た事を話し出した。


「はい。ギルノルトとの待ち合わせの少し前に到着した俺は、小径に入ってギルノルトの到着を待っていました」

 そこで言葉を切ったレインに、頷くデントス。


「…続きを」

「はい。その間、何気なくあの材木店に視線を向けていたのですが、そこへ一人の男が近付いてきました。その男が特に怪しかった訳ではありませんでしたが、材木の前で立ち止まり、何かをしているようだったので見ていたんです」

「客では?」

 と口を挟んだのはトラス。


「俺も最初はそう思ったのですが、その時男の手元で何かが光ったんです」

「「………」」

「ただ、その男は俺に背を向けていたので、何をしているかまでは分かりませんでしたが、少し経ってその男が来た道を戻って行った為、俺はそいつが何をしていたのかを確認するつもりでそこへ向かったんです」

「そしてレインは、縄に切れ込みが入っている事に気付いた、と?」

「…はい」


 本当は、時系列が少し違う。レインが切れ込みに気付く前に被害男性が来る事に気付き、嫌な予感がして走り出し咄嗟に縄を掴んだのだ。だが、そこは先に縄の切れ込みに気付いた事にしなければ、なぜわかったのかと更に疑問にもたれる所だろう。

 そう考えれば、これ以上の言い訳が思いつかないレインの背中に、冷たいものが流れるのだった。


「ここまではわかった。それでその男の特徴をもう一度ここで説明して欲しい。ヒュースからも報告は受けているが、人伝いでは漏れがある可能性もあるからな」

 と、デントスとトラスは顔を見合わせてから、手元に持ってきていた書類を開いてレインを促した。



 レインがその男に注目したのは、材木店の前に立ってからだった。

 その為背を向けていた男の顔は見ておらず、背格好くらいしか分からない。


 身長は材木との対比から推測するに160cmから170cm位、髪は濃い目の青。その長さは襟足が見えている一般的な髪型で、癖毛という程の特徴もなかった。

 そして服装は黒っぽいシャツに茶色のズボンで上着の着用はなく、足元は柔らかそうな黒っぽい靴。レイン達が履く様な頑丈なブーツは道を歩けば少なからず何かしらの音がするが、その男は歩いている時に余り音がしなかったなと思い返しながら、レインは視線をデントスに向けた。


「まあ、そんなところか…ヒュースの報告と同じだな」

 デントスが、手元の書類に視線を落としたままそう言った。


「ん~。これじゃまるで特徴がないな…他に何かないのか? 歩く時に足を引きずっていた、とか」

「おいユアン、そんな状態であれば既にレインも報告しているだろうが…」

 ユアンとはトラスの名前で、班長同士は親しいために下の名前で呼び合っている。だがレインたち部下は、流石に班長を下の名前では呼んでいない。


「いたずらにしては質が悪いな。ハラサはどう思う?」

「確かに、これはいたずらでは済まされない。意図は捕まえてから聞けば良いが、人相が分からないのではな…」

「……すみません」

 レインがあの時もう少し前に気付いていれば、男の顔も見る事が出来ただろうと唇を噛むレイン。


「ああ、別に責めている訳ではないから勘違いするな」

 そんなレインを見て、デントスが気遣うように言葉を添えた。

「はい…」


 班長達はそれからレインの話を詰めるように話し合っていたが、その間レインはもう一度あの時の様子を思い浮かべ、何かなかったかと思考に沈んだ。

 レインが見ていたのは後姿だけだが…と、そこでレインはある事に気付く。


「デントス班長、あとひとつ思い出しました」


 その声にデントスとトラスが、同時にレインへと顔を向けた。

「よし、何でも良いから話せ」

 そこで意気揚々と声を発したトラス班長は、ニヤリと口角を上げたのであった。


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