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19. 頼もしき友

 その日の夜は、少し遅くなって宿舎へ戻ってきたレインだった。


 コンコン

 レインが部屋に戻って少し経った頃、部屋の扉が叩かれる。


「レイン、入っても良いか?」

「ああ、いいぞ」


 レインはこれからギルノルトの部屋へ向かおうとしていたのだが、我慢が出来なくなったのか先にギルノルトがこちらの部屋に来たようだ。


「来てもらって悪いな」


 レインが苦笑しながら言えば、「もう待てないし」とギルノルトが渋い顔をしている。

 そしてレインが座る場所を勧める前にいつもの様に机の椅子を引き出し、ベッドに腰かけるレインの前に移動して座るギルノルト。

 そんなギルノルトは座って早々、口角を上げて話し始めた。


「その前に、久々の実家はどうだった?」

「ああ、楽しかった。母さんが料理をたんまり作ってくれていたんだ」

 レインはギルノルトに促され、別れてからの事を話し出した。



 あの後到着したレインを家族皆が笑顔で出迎えてくれ、母が沢山用意してくれた料理を囲み、それからすぐに“サニーの就職祝い”が始まった。


 テーブルの上には所狭しと、サニーの好きな料理が並べられた。

 サニーの好物は、薄く焼いた卵の上にライスを乗せ、その上に自分の好きな具材を乗せて食べる“手巻きにぎり”というものだ。包むものは卵でなくても良く、レタスなどの葉物野菜の場合もある。それに乗せる具材には一口大に切った海の物や山の物、肉、野菜や果物など様々だが、レインは子供の頃に果物を巻いて食べた事があり、好みの味ではなかった為に今は食べない事にしている。

 要は“具材はなんでもあり”で、自分の好きな物を巻いて食べられることで、大人数で食べる時などに出される事も多い家庭料理である。そもそも、その具材ひとつひとつがそのままでも食べられる物ばかりであり、それらがテーブルを埋め尽くしていた。

 他にもスープやケーキも用意され、もはやどれから手を付けて良いのかと笑いが出る程である。そんな料理を母さんは昨日から作っていたのだと、サニーが嬉しそうに教えてくれたのだった。


 レインはステーキ肉を巻き付けた卵を手に取ると、サニーへと視線を向けた。

「サニーは来週から登城するんだろう?」

「うん。誕生日の翌日からだよ」

 来週、サニーは17歳になる。


「どの部署に配属になるって?」

「2か月の試用期間中は、在庫管理に配属だって。その時の様子を見て、正式に配属が決まるらしいよ?」

「へぇ、騎士団と似たようなものか」

「そうかもね。騎士団も最初は適性を見るために、全員魔物の討伐に出るんだもんね?」

「ああ」

 騎士団の新人が、入団早々に魔物と対峙する事は皆も知っている事だ。


「それで、サニーはどこから通うんだ?」

 城の敷地内に文官の為の寮もある事は、レインも知っている。

「僕は、家から通うつもりだよ」

 サニーがそう言ったところで、母親のメラインが口を挟む。

「そうなのよ。父さんもレインも家にいないから、サニーは家から通うって言ってくれたの」

 愛おしそうな眼差しで、メラインはサニーを見つめた。


 だがそんな母親の腰にそっと手を回すのは、隣にいる父親である。いやいや、息子に焼きもちやいてどうするんですか父さん。と、レインは遠い目をするのだった。


 そんな和やかな実家で、久しぶりの家族団らんを過ごしてきたのであった。



「あぁ~クレイトン中隊長は家だと、本当に違うんだな…」

 ギルノルトは、ポリポリと頭を掻いて苦笑する。

「まあね。俺はそっちの方が普通だけどな」

 ハハッと笑うレインである。

 そうして実家の事を話し終われば、今度はレインが気になっている事をギルノルトへ尋ねる。


「それで、材木店の方はあれからどうなった?」

「ん? あの後、店主に不備がなかったかどうか状況を確認してから、一応それとなく“縄が切られていた可能性がある”事は、ヒュース先輩が伝えていたな。今後は店頭の固定縄も随時確認するように、とも約束させていた」

「そうか。それなら少しは安心だな」

「おう。それで、詰所に戻ってから材木店の一件をデントス班長に報告、レインが目撃したという男の事も話したら、午後の巡回からその男を見掛けた場合は所在を突き止めておけという事になった」

「身元の確認って事か…」

「そういう事だ」


 やはりレインが想像した通り、騎士団の動きは速かったようだ。

 そうなると早々に事件も解決しそうだと、レインは胸を撫でおろした。


「それでレインには、明日の朝一でデントス班長の下に行くように、という伝言だ」

「了解」

 明日もレッド班は、街中の巡回日だ。

 という事は、詰所に向かってすぐにデントス班長の下に顔を出せば良いという事である。


 と、最初に明日の打ち合わせまで済ませれば、ギルノルト顔には“早く聞かせろ”と書いてあった。

 それに笑って頷いたレインは、少し話が長くなりそうだからと、家から持ち帰ってきた菓子を机の上に出す。


「お? おばさんの手作りか?」

「ああ。今日はたんまり菓子も作ってあったから、ギルにもおすそ分けだ」

「これは美味そうだな。おばさんにお礼を言っといてくれ」

「おう。まぁ摘まみながら話そう」


 こうして持ち帰ったサクサクのクッキーをお供に、レインの秘密をギルノルトへ打ち明けるのだった。



 -----



 そうして夜も更けた頃、レインは大きく息を吐き出して口を閉じた。


「……ユニークスキルか。斜め上を行くな、レインは…」

「ずっと黙っていて悪かった」

 レインは真摯に頭を下げる。

 そんなレインを、ギルノルトは困ったように見た。


「謝らなくてもいいぞ? ユニークスキルと言えば、人に言いふらす事ではないからな?」

 それ位は俺でも知っていると、ギルノルトはレインの肩を叩く。

「今話した俺のユニークスキルの事は、実は家族も知らないんだ…」

「ああ? じゃあ俺にだけ話したのか?」

「そうだ」

 そう言われれば、ギルノルトも表情を引き締める。

「わかった。俺も絶対、誰にも言わない。約束する」

「ありがとう。そうしてもらえると助かる」

 真っ先にレインの懸念事項に気付いてくれる辺り、やはりギルノルトに話して正解だったとレインは笑みを作った。


「それで、そのスキルがあったから今日は俺を呼び出したんだな?」

 察しの良いギルノルトに、レインは首肯する。


「今日の俺は2度目なんだ。1度目にたまたま通りかかった材木店で、あの事故に遭遇していた。それであの時間に材木が倒れる事を知っていた」

「……そういう事か」

「ああ。それで人手がいると思ってギルノルトにも来てもらったんだが、間に合ってくれて本当に感謝している。俺一人では押さえきれなくて、また怪我人を出すところだったからな…」


「そうか…そこまではわかった。それで、他にも何か気になる事があったんだろう?」

 と、ギルノルトが片眉を上げてレインを見た。


 ギルノルトがここでも察してくれる辺り、レインは頼れる仲間が出来たと心から安堵するのだった。


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