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2. ユニークスキル

本日2話目の投稿です。

 レインは今年15歳となり、昼間は学校に通い夜は父親と剣の稽古を続けていた。

 レインの剣の腕前はあれから随分と上達し、今では父親と真面な打ち合いをするまでとなっている。


 そして12歳になった弟の鑑定の儀も終わり、“必中”というスキルを与えられていた事が判った。


 その“必中”というスキルは珍しいスキルで、色々な場面で能力を発揮する事ができ、弓士等の戦闘系をはじめ、官公吏(かんこうり)となり書類の不正を発見したり、催事の日程での天候予測をしたりと、その需要は多岐にわたる。


 サニーがそのスキルを授かった事を知った両親は喜び、皆で祝の食事へ出かけたのはつい先日だ。

 弟の未来は輝いているようで、レインは少し羨ましくも感じていたのだった。



 しかし、サニーのその輝かしい未来は、突然閉ざされてしまう。

 今日、街中で貴族の馬車が暴走し、弟のサニーがその事故に巻き込まれ、帰らぬ人となってしまったのだ。



 その時サニーは学校からの帰宅途中であり、いつもならばレインと一緒に帰っていたはずが、今日に限ってレインは友人に誘われ遊びに行ってしまった事で、サニーは一人その道を歩き、事故に巻き込まれてしまったのだった。


 何故、自分は一緒にいなかったのか。泣こうが叫ぼうがサニーはもう戻ってはこないのだと、レインは後悔という絶望の淵に立たされた。

 もしレインが一緒であったとしても、サニーを護れなかったのかも知れないがそんな事は関係ない。自分が一緒にいなかったという事実に、レインは打ちのめされるのだった。


 事故の連絡を受けた両親は仕事場から飛んで帰ってくるも、その突然の出来事に皆沈痛の面持ちで、誰一人として口を開く事はできなかった。

 両親はレインが共にいなかった事を咎めなかったが、逆にレインは自分のせいであると自責の念に潰れそうになった。

 今更なにを言っても時間は戻らず、明日は弟の葬儀となる。


 泣きつかれたレインは両親から“眠りなさい”と自室に入れられるも、部屋に一人戻ったところで涙は止まるはずもなく、心からの言霊を吐く。


「次に目が覚めたら、また今日をやり直せれば良いのに……」


 そしてベッドに横になったレインは唇をかみしめながら、赤くなった目をギュッと瞑ったのだった。



 -----



 翌朝もいつもの時間に目を覚ましたレインだったが、今日は弟の葬儀のため学校へは行けないのだ。

 まだ気持ちの整理もついておらず、グズグズとベッドの中で瞼を閉じ暗い考えに沈んでいたが、自室の扉が開く音で意識は浮上する。


 ― ガチャリ ―


 トンットンットンッと、近付いてくる軽い足音に違和感を覚えて閉じていた瞼を開く。

 そしてレインはその視界の中のものに目を疑った。


「まだ寝てたの? 早くしないと学校に遅れるよ?」

 そこに立っていたのは、昨日亡くなったはずの弟サニーであったのだ。


 ガバリと飛び起きたレインは、ベッド際に立つ弟の両腕を掴む。

「サニー!!」


 慌てた様に自分へしがみ付く兄に驚いたサニーは、目を瞬かせると呆れた様に言った。

「どうしたの急に……悪い夢でも見た? まるで幽霊でも見たような表情(かお)をしているね?」


 困ったような笑みを浮かべているサニーに、レインは目頭が熱くなるのを感じる。

 夢でも見ているのだろうか……これが現実であれば、もう間違いは起こさない。

 そう心の中で固く誓ったレインは、目元を袖で拭うとサニーに促されるまま、学校へ行く支度をして両親のいる食堂へと行く。

 そこはいつもの朝の情景で、両親が弟の死を知っている素振りもない事にレインは戸惑う。


(サニーの事故を知っているのは、もしかして俺だけ? まさかあれは夢だった、のか……?)


 混乱する頭に不安は残るも、それを確認する術をもたないレインは、サニーと2人でそのまま学校へと登校して行った。

 そして今日の授業はなぜか夢で習った内容と同じで、レインは戸惑いつつも、復習のつもりでその授業を受けたのだった。


(もしかして、昨日を繰り返している?)


 そう思ったのは学校が終わった帰り際、サニーと2人で帰ろうとしていた所へ友人が来て、“これから近くの川に遊びに行こう”と誘われた時だった。

 昨日はこのままレインだけが川へ行き、家でする事があるからと、一人で先に帰ったサニーが事故にあったのだ。


 今度こそ、間違いは犯さないぞ……。


 レインは友人の誘いを断り、弟のサニーと共に帰路につく事にしたのである。


 帰りながら、2人は何気ない会話を楽しみつつ歩いている。今日の授業は何があった、隣の席の子が教科書を忘れただとか。

 だがレインは、この先の事に気を取られていた。


 学校から家までの間は商業区域となっており、あちらこちらの道に商店があり、そして今歩く通りをまっすぐに行けば、少し先で昨日事故があった場所となる。

 レインはもう、これは昨日を繰り返していると確信している。

 では取る行動は決まっているなと、この先の出来事を知っているレインは別の道へとサニーを誘う。


「どうしてそっちなの?」


 不思議そうなサニーに、レインは言い訳を探す。

 まさか、この道を歩いて行けば死んでしまうんだ、とも言えずに。


「こっちの道に、面白そうな道具屋があったんだ。だから、サニーを誘ってみようと思ってな」

 確か、これから行く道には道具屋があったはずだなと、レインは適当な店を口実に別の道へとサニーを誘った。


 レインの言葉に、特に不審がることも無く了承したサニーと共に、いつもの道とは違う方向へと歩き出したことで、ホッとするレイン。

 サニーのスキル“必中”は、発動させなければ特に普段と変わりないので、レインの思惑を悟られる事もなかった。


 そうして素直についてきた弟が、不思議そうにレインを覗き込んだ。

「兄さん。そう言えば今朝から兄さんの瞳の色が違う気がするんだけど、不具合はない?」

 レインは家族と同じ焦げ茶の髪に茶色の瞳であるのだが、今朝からレインの瞳は茶色よりも薄い琥珀色になっているという。


「ん?普通に見えているし、特に変なものが視えている訳でもないぞ?」

「そう? 不調がないならそれで良いんだけどね」

 サニーがそう言った時、地響きの様な音と共に、人々の悲鳴が聞こえてきた。

 レインとサニーは顔を見合わせると、慌てて来た道を走り戻って行った。


 そして先程別れた道の前で足を止め覗き込むと、そこには大勢の人が集まり、倒れた馬車と目を剥いている馬が抑えられているのが見えた。

 レインとサニーは、少しずつそれに近付いて行く。


 馬車には御者と貴人が乗っていた様だが、2人とも怪我はしているものの意識はあり、他に倒れている者も見えない。その様子に、レインはホッと胸を撫で下ろす。

 レインがこの出来事で知っている事は、巻き込まれたのはサニー1人だけだったという事と、亡くなったのもサニー1人だけという事。


「怖いね……兄さんが別の道に誘ってくれなければ、僕達も巻き込まれていただろうね……」


 サニーがブルリと体を震わせ、倒れた馬車を見ている。

「そうかも、な……」

 レインにはそれ以上の言葉を見付けられず、2人は踵を返し、また別の道から遠回りをして家に帰る事となった。


 そして結局、道具屋の言い訳を思い付いていなかったレインが、その店に寄らずに済んでホッとしたのは言うまでもない。



 こうして何とか弟の事故を回避したレインであるが、その後も一日を2度繰り返す日々がずっと続いていた。そうなるとなぜ、同じ日を二度も繰り返しているのかとレインは考えてみる。


 それで思い当たるのが弟に指摘された自分の眼の色が変わっている事、そして視界の隅に気にならぬ程小さく、数字の1や2が浮かんでいると気付いた事だった。その数字は視界の先に手を伸ばしてみても触れる事は出来ず、目を動かしてもいつも同じ場所にある。


 いよいよこれは何か尋常ではない事が起こっているのではないかと、レインは休みの日を利用して街の図書館に行ってみたのだ。唯一思い当たる事と言えば、誰にも言っていなかったユニークスキルの存在が思い浮かび、そこからまず調べていくことにした。

 しかし王都の大きな図書館でも、ユニークスキルについては直接的に記述した物はなく、それは父親も言っていたように、ユニークスキルという存在自体が秘された物だからだろうと思い至る。


 ただその中でもスキル全般に触れている書物に、“発動条件は念じるものが多い事”や“発動すると体の一部が変化する場合がある”という漠然とした事が書かれていただけである。


 だがこの記述だけでも、レインにはこれが自分の持つユニークスキルの効果であると気付く。

 レインが今日のやり直しを求めた為に発動し、2日を1日としたスキルで“ワンセット”なのかと、ユニークスキルに符合する箇所を見出したのである。


 そしてどうやらこのワンセットとは、一度発動させたら止める事は出来ないらしく、どんなに止まれと念じても視界の中にあるものが消える事はなく、このままレインはずっと毎日を繰り返していくのかと肩を落とす事にもなるのだった。


 人生が70年あるとすれば、レインは後55年を2回ずつ過ごさなくてはならず、レインの中でそれは110年となる。

 これではある意味ハードな人生になってしまったのではと、乾いた笑いを浮かべたレインは悪くないはずだ。


 こうして自分に現れたユニークスキル『ワンセット』と、レインは生涯にわたり付き合う事になったのである。


明日も朝の更新です。

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― 新着の感想 ―
お疲れ様です( ・∀・)っ旦 レインが無事、鑑定の儀を終えホットしました! しかし、ユニークスキルがありながら、神父にもジョエルにも見えないなんて!!( ; ロ)゜ ゜ まるで、ユニークの上のスキルな…
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