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18. 可能性

 倒れた材木に一度視線を向けてから、レインはヒュースを見る。

 この状況を説明できるのはレインだけであり、出来ればギルノルトにも黙っていてもらいたいレインである。


「ヒュース先輩、ちょっと良いですか?」

 レインがそこから少し下がって3人を集めれば、作業している者達から少し距離が出来た。これからする話はまだ真偽不明であり、他の者に聞かせられる話でもない。


「何でレインがここにいるんだ? 今日は休暇だったよな?」

「そのはずだな。だからレインにまず話を聞かないとならない。なぜここにいる?」

 ミウロディとヒュースから「まずはそこからだな」と問われたレインは、ポリポリと頭を掻いた。

「はい、今日は休暇で街に来ていました。ギルノルトとこの近くで待ち合わせをしていたんです」


「そうなのか?」とレインの言葉を確かめるように、ヒュースがギルノルに視線を向けた。

「え、あっはい」

 急に振られたギルノルトは、チラリとレインを見て答えた。


 レインがギルノルトに朝伝えた内容では、“待ち合わせ”とは一言も言っていないのだ。単に“この場所に来てくれ”と伝えていただけだったのだが、ギルノルトはレインの話に合わせてくれたらしい。


「それで急にギルノルトは、“先に行ってます”って言ったんだな?」

 ミウロディがギルノルトに視線を向ければ、ギルノルトがヘヘへと笑ってごまかしている。

 ギルノルトに「申し訳ない」…と心の内で謝るレインである。


「まぁいい。それで、何があった?」

 ヒュースが、“ここからはちゃんと話せよ”という圧を掛けてくる。

「…突然縄が切れて、材木が倒れたんです」

「それは見ればわかるさ。でも何であの太い縄が切れたんだ? 嵐が来た訳でもないだろう?」

 レインの説明に、そこはミウロディが突っ込んだ。


「風で倒れた訳ではありませんでした。ですがこれが倒れる少し前、この材木置き場の前に立っている男がいたんです…」

「ん?どういう意味だ? 客が商品を見ていた、という事ではないのか?」

 そのヒュースの問いに、レインは首を振った。

「いいえ、多分客ではありません。その男は何も買わずにすぐに立ち去ったので…。それにその時、何かを手に持っていたように俺からは見えたんです」

「「「……」」」


 レインに視線を固定させる3人が一様に目を見開いている中、ギルノルトが口を開く。

「おいレイン、それって…」

「ああ。何かがキラリと光って見えたんだ。ちゃんと見た訳ではないが、一瞬それはナイフじゃないかとも考えた。その後に縄が切れて材木が倒れてきたんだが、でも実際に傍で手元を見ていた訳じゃないから、確証は持てないけど…」


 レインの話が、思わぬ方向に進んでいく。

 ただの事故かと思ったが、もしかすると事件かも知れないとレインは言っているのだ。

 そのレインも一度目は気付けなかった事だが、二度目の今日は前回よりも早くここに着いた事で、見えなかったものが明らかになったように感じていたのだった。


 レインの言葉を受けたヒュースとミウロディは、話していた場所から材木置き場に近付いて行くと、切れてしまった縄を手に取り2人は肩を突き合わせるように話していた。


「おいレイン、ここにレインがいるとは聞いてなかったぞ?」

 先輩2人が離れたすきに、ギルノルトがレインの脇腹をつついた。

「悪い、言うのを忘れてたんだ。さっきは合わせてくれてありがとう。正直助かった」

「…今日の夜、全部聞くからな?」

「解ってるって。夜全部話すよ」


 こうしてレイン達の密談は、ヒュースたちが戻ってきた事で慌てて終わりを迎える。


「今見てきたが、レインの言った通り、刃物の傷だった」

「やっぱり…」

 そこで4人は顔を見合わせる。

「だが、この件はまだ公にはしない方が良いだろう。店主にだけはそれとなく話しておくが、ギルノルト達もそのつもりでいてくれ。この後詰所に戻ってデントス班長に相談する。悪いがレインも来てくれ」

「あ、レインはこの後…」

 ヒュースの話に、思わずという風にギルノルトが言葉を続けた。


「ん? レインの用事は終わったんじゃないのか?」

 と、ギルノルトを見るヒュース。

「俺との予定は終わりましたが、レインはこれから弟の就職祝いで家に帰るんです」

 ギルノルトの補足で、ヒュースが方眉を上げてレインを見た。

「はい。実は、実家に帰る途中でした」


 レインの返事に、ヒュースとミウロディが顔を見合わせた。「どうする?」という意味だろう。

 レインがその様子を見ていれば、頷きあってレインに視線を戻す2人。

「わかった。それじゃ詳しくは明日で良いが、今その見た男の特徴だけは教えてくれ」

「はい、それは勿論です」


 レインはヒュースに促され、見た男の特徴を詳細に伝えた。


「わかった。その人物はまだ怪しいというだけだし、今はそれだけ聞けば十分だ。この後は楽しんで来いよ、レイン」

「はい、ありがとうございます」


 この後ギルノルト達は状況確認と店主と話があると言い、レインだけ先にその場を後にしたのだった。




 レインは実家への道を進みながら、先程の件について考えてみる。もしあの男が材木を故意に倒し、人や店に危害を加えようとしたとすれば、それは何故か。


 一番の可能性とすれば、あの材木店に恨みがある者が嫌がらせの為にやった場合。それについては店主に確認して、心当たりを聞いてみた方が早いだろう。それにその辺りはヒュース先輩が気付いて、既に店主へ話を聞いているとも考えられた。

 他にあるとすれば、あの被害者になる予定だった者に恨みを持っている場合。あの男性に名前を聞き忘れてしまったが、騎士団員に聞けば、一人くらいはあの男性の身元を知っている可能性もあるし、巡回の時に聞き込みをしても良いだろう。

 そして後ひとつは、無差別的犯行の場合だ。自分のうっ憤を晴らす為などで、他人を傷つけたがる者の仕業。人々が混乱するのを楽しむなど頭がおかしいとしか言えないが、可能性として、これもない訳ではないだろうと思うレインである。


 二度目はギルノルトの協力もあり何とか防ぐことが出来たが、一度目は材木が通行人を直撃し怪我人が出て、その後暫くは混乱が続いたのだ。

 その時居合わせたレインも救助を手伝い、ギルノルト達が騒ぎを聞きつけて駆け付けるのを待って事情を説明した。その後すぐにレインは実家に向かい、無事に家族と過ごす事が出来たのだった。


 ただし前回も今回も、あの刃物の男が近くに居たかどうかは確認できていない。二度目も通りの向こうに消えた所までを確認しただけで、その後の混乱の中に戻って来て見ていた可能性もあるが、その男が地味な服装だった事もあってレインの記憶の中にその男の姿はなかったのだ。


 そんな思考に沈んでいれば、いつの間にかレインは実家の前までやって来ていたようである。


(考えるのはここまでだな。)


 今日は大切な家族であるサニーの就職祝いなのだと気持ちを切り替え、慣れ親しんだ実家の扉を開くレインなのであった。


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