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118. 立場を超えた存在

 レインを宿に残し、ロイとリーアムは刺青の男が囚われている倉庫へと向かっていた。

 捕らえた50人程を空の倉庫に押し込み、それを第一騎士団員達が厳しく尋問し、監視しているのだ。


「やはりレインと話すと、考えが纏まるな」

 楽し気に口元を緩めたロイが、前方を見詰めながら呟く。

「そうでしょうか?」

 リーアムは周りを警戒しながら口元を引き結んだ。


「我々では、考え方が固定されている事は否めないであろう。それは立場上致し方ないものであるが、それでは全ての可能性を引き出す事はできない、と私は思う」

「……はい」

「その点レインは発想が自由であると言える。今回の事にしても我々は男が口を割らない理由は、忠誠心や反抗心からだと思っていた。違うか?」

「確かに、私もそう思っておりました」

「だがレインは、それは物理的な事ではないかと言い出す」

 クスッと笑い、ロイは楽しそうに目を細める。


「今までも職員たちと話す機会はあったが、それでも私の立場を(おもんばか)り、思った事を伝えてくれている者はいなかったであろうと思う」

「…………」


 リーアムは肯定する言葉を飲み込む。

 それは、自分にも当てはまると気付いたからだ。こうしていつもお傍に使えていても自分とは身分という隔たりがある以上、主に対して言葉を選んでしまうのは当前の事だった。


「私はレインを友だと思っている」

 ロイは笑みを鎮めて静かに言った。

「レインは身分も立場も理解しているが、それでも私へ普通に接してくれる友であるように思う」


 リーアムは主の横顔を盗み見る。

 それは独り言であり、返事を望む言葉ではないと思ったからだった。

 その横顔は疲れている事がうかがえるものの、どこか清々しさも伴っている。


「レインはただのお人好しで、貴重なスキルも他人のために平気で使うような男だ。だがそれが心配であり、反面、頼もしくもあると考えている。私はそんなレインと話をすると、今まで見えていなかった物も見えてくると感じている。―――今回の様に」


 道の先にいる騎士団員達がロイに立礼する様子に頷き返しながら、ロイはそう言って言葉を閉じた。


 先程宿で、レインはロイに男の態度の不自然さを指摘した。

 それは皆思っていた事であるものの、誰もが黙秘をしているのだと考えていた。だがレインは、それをユニークスキルに縛られている為ではないかと考えた。なるほど、とその方向で考察してみれば、人に(あがら)えない命令を植え込む事の出来るユニークスキルがあったと思い至る。

 もしもそのスキルを使われているのであれば、仮令どんな方法で尋問をしようとも、死ぬまで言葉を発する事はないはずだ。


 しかしその仮定に確証はなく、それゆえロイは刺青の男に確認をしに行く事にした。もしその推測が正しければ、レインが示した方法で解除出来る可能性が出てきたからである。


 ロイが倉庫に入って行けば、副団長がロイを認識して近付いてきた。

「殿下、何かお手伝いいたしますか?」

「ボーンマス副団長。手間をかけて悪いが、私は例の刺青の男に聞きたい事がある」

「……かしこまりました。現在は別室にて団長が尋問中のため、そちらへご案内いたします」

「頼む」


 ロイが口を割らぬ男に“聞きたい事”と言ったからか、ボーンマスは一瞬言葉に詰まったようであるものの、ロイとリーアムを倉庫の隅にある個室に案内していった。

 立ち並ぶ倉庫には片隅に個室が設えてあるため、その個室で傭兵たちへ個別に尋問を行っていたのだ。ただし傭兵たちの尋問はあらかた終わっていて、現在この倉庫の個室には刺青の男が閉じ込められている形だった。


 コンッ コンッ コンッ

「入れ」


 ボーンマスが叩いた扉の音に、中からヘッツィーの声で応答がある。

 そうして開けた扉を支えるボーンマスは、ロイを促すように頭を下げた。

 ロイは部屋に足を踏み入れる。


 この部屋の中は4人部屋程の空間で、擦り切れ毛羽立った木の床があるだけだ。監視するように四隅に立つ団員の中央には、拘束されたまま地面に胡坐をかいて座っている男と、立って男を見下ろしているヘッツィーが居た。



 ロイの姿を視界に入れたヘッツィーが、尋問に使用していたであろう鞭を下ろす。

「殿下、何かございましたでしょうか?」

 午前中にもここに様子を見に来ていたロイの再訪に、ヘッツィーは背筋を伸ばして問いかけた。


「邪魔をしてすまない。少しその男に、聞きたい事があってね」

「かしこまりました。ですが……」


 ヘッツィーが言わんとしている事は分かっていると、言葉の途中で手を上げてロイは頷く。

 そうして男に視線を向けて傍へ近付くと、座っている男の顔を覗き込むように片膝をついた。ロイの気配に、男は少しだけ顔を上げて落ち窪んだ目をロイに向けるが、その目は何を考えているのかすら分からない。


「ひとつ尋ねる。言えなければ(・・・・・・)言わなくて良い」

「……」

「何も話すなと、誰かに命令されているな?」

「……」

「まぁそれは、当たり前と言えばそれまでだが」

「……」

「それとも、捕らえられた場合は死ぬまで絶対に口を開くな、とでも言われたか?」

「…………」


 その問いかけにも、男の表情は何も変わらなかった。

 だが硬く引き結んだ唇が、一瞬震えたのだ。それは瞬きする間程の時間であったものの、ロイはその微妙な変化に気付き頷き返した。


「リーアム」

 そして後ろに立つリーアムに問えば、「御意」と告げた。


 これでもう質問は済んだと、ヘッツィーへ付いてくるように声を掛けその部屋を出る。

 そして閉めた扉を背にしたヘッツィーへとロイは告げる。


「あの男は恐らく、何をされても自分から話す事はないだろう」

「……それはどの様な意味で、でしょうか?」

「あの男には命令が掛かっている」

「殿下。お言葉ですが私共でも魔法の影響を調べ、どの属性魔法にも掛かっていない事は確認しております。その為、強制的に話せなくなっている訳ではないはずですが……」


 それは既にヘッツィーから報告されていた事だ。それゆえ現在口を割らせるために、色々な手立てを試みているところである。


「あの命令は魔法ではなく、ユニークスキルに因るものという可能性がみつかった」

「―?!―」


 ヘッツィーは息を飲んだ。

 ヘッツィーも第一騎士団の団長という立場上、マリウスの下に秘密の部署の職員がいることは知っており、エイヴォリー総長がユニークスキル持ちである事もわかっている。だがそれは、あくまで“知っているだけ”であり、見て見ぬ振りをする立場でもある。

 その為、ロイがユニークスキルという着目点を持っていた事はすんなりと受け入れ、ヘッツィーは神妙に頷くに留めた。


「もし私の想像通りのものであれば、あの男の命令を解ける可能性はあるだろう。だがその前に男が尋問で口を割れば、それに越したことはない」


 尋問はそのまま行って良いというロイの言葉に、ヘッツィーは気を引き締めるように背筋を伸ばす。

「はっ」


「それから明日は予定通り、捕縛した者を王都へ護送してもらう。無理をさせて悪いが、頼んだぞヘッツィー団長」

「心得ております。お任せください」


 ヘッツィーはそう言うと、敬意を込めて首を垂れた。


次回の更新は、7月20日となります。<(_ _)>

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