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116. ボンドールからの報告

今話は区切りの関係で、短めとなっております。

ご了承ください。

 

 エイヴォリーは、紅茶の湯気の向こうに見える人物へと視線を向ける。


「マリウスから、ハイウェル伯爵が誰かの策中に嵌っていたようであると報告があった」

「――とは言え、その様な甘言に騙されるとは、領主としての責任能力に問題がありますね」

「それは否定できぬだろう」


 ここは王城にあるパトリックの執務室。

 先程ロイからの伝言を受け取ったエイヴォリーが、パトリックへとその内容を報告していた。

 勿論人払いをしてから、である。


 今回、ロイからの連絡にはヘッツィー団長の魔鳥が使われている。

 口伝ではヘッツィーからエイヴォリーへ、マリウスからの報告を運ばせていると話し、ロイの報告は言葉ではなく手紙を運んでもらっていた。その為、ある程度詳細に報告している。


 ただし、この“手紙を送る”場合は魔鳥の体に手紙の筒を固定しなければならず、その分魔鳥の飛翔に負担がかかってしまう。それゆえ、魔鳥の契約者は自分の魔鳥に対し極力この方法を使わない。だが今はロイの魔鳥も動けぬ事から、ヘッツィーから自分の魔鳥を使う事をロイへと提案し、ロイが頼んだ形でその方法を取っていた。



 閑話休題。



「向こうはこの機に殆どの傭兵を拘束したそうだ。屋敷に出入りしていた例の怪しい者も、その場で一緒に捕らえたと」

「ほう? それでその者の身元はわかったのですか?」

「いいや。本人は、何をしても口を割らぬらしい」

「クックック。本人は……ね?」

 含みのある笑みを広げたパトリックへ、エイヴォリーは眉間に寄せて話す。


「ああ。――だが笑えないぞ、パトリック」

「おや? 何か問題でもありましたか?」

 片眉をピクリと上げ、パトリックは動きを止めた。


「伯爵とその男以外は殆どが末端の者達で、皆それらの元締めが誰でどこにいるかを知らないと供述するそうだ。個別に尋問しているゆえ、口裏を合わせている形跡もないらしいのに、だ」

「それでは、こちら側で捕縛したものと大差ないという事ですか」

「ああ。捕らえた者の多くが末端であり、唯一聞いた名称の“マスター”と呼ばれる存在は誰も知らぬという事だ。その中の数人が顔を知っている素振りはあるものの、名前も所在も知らぬ存ぜぬらしい」


 王都の違法賭博で検挙した者達も、皆その姿を見た事がないと言っていた。ハイウェル伯爵の息子であるサイクスも、直接やり取りしていたのは店員1人だけで、その店員も起爆する恐れがあった為に既にこの世にはいない。

 こちら側でもそのマスターに繋がっている者はいなかった事で、今回捕縛した怪しい男に望みを繋いでいたのだが。


「そのマスターとやらは極端な臆病者か、慎重を期す切れ者かのどちらかでしょうね」

「マリウスの見解は、後者ではないかとの事だ」

「切れ者……と言えば、件のヴォンロッツォの商人も切れ者との噂がありましたね」

「ああ。ひとつの商会を数年で大きくした功績から、あちらではそう噂されているな」


 以前ヴォンロッツォ側から得た情報の後、ローリングス国も秘密裏にその商会を調査していた。

 それは正式にヴォンロッツォへも許可を得ての事であり、独自にこちらからも人を送り込んで商会の周辺を探らせている。その結果ヴォンロッツォからの情報通り、いくら身辺を探っても取引先の店は浮上してこなかった。明らかに怪しいこの商会が今回の一連の出来事に係わっていると思われるものの、全くと言って良い程証拠が出ない有り様だった。


 動きとしては夜間に品物が店へと納品される事はあるものの、それは荷運びを専門とする店が頼まれて指定場所に置いてあった荷を届けただけという話だった。それも毎回指定される場所が変わるため、予め網を張っておく事ができないのだ。それはヴォンロッツォ側でも把握している事で、そこからの進展がないという状況である。


「それと、捕らえた男の腕にトカゲの刺青がある事が分かった。そこからその男の名前を探ってくれと、マリウスからの伝言だ」

 パトリックは片眉を上げる。

「……あちらでも分らぬと?」

「ああ。向こうで捕らえた者は、誰一人として男の名を知るものはいないと言っていた」

「―――徹底された情報操作、ですね。まぁ仮令名前が分かったとしても、男の事をヴォンロッツォ(むこう)が把握しているとも限りませんが。ですが例の商人との繋がりがひとつでも出れば、こちらとしても公に動きやすくはなるはずです」

 パトリックはマリウスからの報告に、エイヴォリーへと視線を向けたまま思考を続けている。


 そやはりこの刺青の男が鍵になると思うのは、なにも話さないのがその証拠だ。

 他の者達は自分の罪を軽くしようとまくし立てるように話すのに対し、その男だけが沈黙を貫いているという。

 それは何故なのか。

 マスターと呼ばれる男が人を魅了する程の価値がある男であるのかも知れぬが、単に忠誠心だけの問題であればいずれはそれを解きほぐす事も可能だろう。

 まずはそこから手を付けねばならず、今後のロイの動きに全てがかかっているとも言える。


「この後より、こちら側でも“トカゲ”についての尋問を始める予定にしている」

「そうですね。今の話しではそれも期待できませんが、念のために確認は必要でしょう」


 視線を合わせ頷きあうと、エイヴォリーは席を立って早々に退出していく。

 それを見送るパトリックはソファーの背に身を預け、南に向いた窓の向こう側へと視線を送った。


次回の更新は、7月16日となります。<(_ _)>

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