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99. 絶体絶命?!

 

 ― キーンッキンッ ―

 ―― ズバッ! ――

「うぎゃー!」

 ― キンッ! ―

「てんめぇー!」

 ― カキーンッキンッ ―

「うりゃぁー!」

 ― ザンッ! ―


 5対1、いいや一人は動かぬから4対1の状況に、ボイルはこちらへ向かう殺意だけに集中し剣を振るって行く。

 耳に入る音は目の前の者達に限られ、周りの仲間たちの発する声さえも遮断していた。


 そうして互いに息を整える為に間合いを取る間、ボイルは滴る汗に剣を握り直す。

 黙々と振るう剣は相手に傷を付けるが、ボイルにも少しずつ傷が増えている事は否めない。だが辛うじて動きを封じられる事もなく、剣に付いた血を払う為に横に剣を振る。


 周りにいる仲間の状況を確認したいがその一瞬を突かれる事を分かっていて、集中を途切れさせることなど出来なかった。そう思う間もなく、再び相手が先に動く。


「死ねー!」

 ―― ブゥウン! ――


 大振りに振られた剣は、ボイルが身を躱したことで耳の側で音を残して通過する。自分の動きも鈍ってきていると感じたその時、背後から汚い悲鳴が聞こえた。


「ギャアァー―!!」

 その声に振り返る間もなく、ボイルの知った声が後に続く。

「遅くなった」


 声と同時に温かな気配に包まれたボイルは、両脇に並んだ者達へと視線だけを向けた。

「ヘッツィー団長、ボーンマス副団長……」

「後は任せろ」

「―――はい!!」


 そうしてやっと巡らせたボイルの視界の中には、半数以上に数を減らしたマンティコラと、負傷しながらも剣を離さぬ団員達、そして馬車から合流してきた20名程の団員達が加わり戦闘が続いていた。

 そしてこちらにも6名程が駆け付けてくれたことで、一気に形勢が逆転する。


「うわあああ! っざけんなぁー!」

 高みの見物を決め込んでいた男も引きずり降ろされており、細い腕で振り回していた剣を叩き落され、後ろ手に拘束されているところだった。

「うるさい!」

 にべもなく、さるぐつわを噛まされている男から視線を戻せば、ボイルが相手をしていた6人も拘束されて地に膝を付かされていた。


 それを終えた団員達はヘッツィーへ黙礼すると、副団長に後を託し、すぐさま魔物との戦闘に加わって行った。そちらも残すところ数匹。団員も30名以上がまだ戦闘可能であり、その者達が対峙してくれている。


「良く持ちこたえたな」

 肩に手を乗せたヘッツィーへ顔を向ければ、ボイルへと真摯な眼差しが返ってくる。

「……申し訳ありません。手こずってしまいました」

「気に病む必要はないぞ、この状況では。この数のマンティコラを相手にするなど、普通ではあり得ない。通常1体でも5名で対応に当たる魔物だからな。これはもしや……」

「はい。あの白い頭の男が呼び出しました」

「やはり総長のおっしゃった通り、召喚師がいたのか……」


 今6名の男達の傍には副団長が付いている。暴れる者を蹴り飛ばし、大人しくさせている様だ。

 その中には被っていた布を取られ、白い髪が露わになって大人しく座っている男がいる。2人の視線はその男へと向けられていた。


「奴らは魔物を呼び出し、商人の馬車を襲っていたとみえる。団員の前で魔物を召喚したのだから、もう言い逃れは出来まい」

「はい」

「団員の手当てと、魔物を処分したらすぐに出発する。詳しい尋問は、王都へ戻る途中で行う。ボイルも傷の手当てをしておくように」

「ありがとうございます。承知いたしました」


 その後程なくして殲滅した魔物達の死骸を処分し、道で待たせていた商人達と合流する。

 彼らはこれから王都へ品物の納品へ向かうというので、団員達と共に王都へ向かう話になったのである。

 それでは商人達を襲わせていた者達と共に行動する事にはなるが、確認してみれば冒険者達は縄で縛られた男達を見て鼻で笑っていた。


「こんな奴らが元凶だったとは胸糞悪い話ですが、俺らは別に怯えもしないので一緒でも構いませんよ。どうせ同じ場所へ向かうんですし、むしろ一緒の方が有難いです」

 と言ってのけた。

 流石に戦闘慣れしている冒険者パーティで肝が据わっていると、その言葉には団員達にも笑みが広がった。


 そして馬車を動かしていた御者がいなくなった為、団員が荷馬車の御者を務めて移動する事2日目の夕方、先頭で騎乗していたヘッツィーが手を上げ、隊列を止めた。


 隣にいたボイルが馬上を見上げる。

「団長?」

 隣を歩くボイルからは、隊列を止めた意図が分からずに問いかける。馬上は徒歩よりも視野が広く、遠方まで見通せるのだ。


「前方より、走って誰かがこちらへ向かってくる」

「警戒態勢を敷きますか?」

「いいや、様子を見よう。遠すぎてまだ分からないが、おかしいところはないように見受けられる」

「わかりました。後方へはこのまま待機と伝えて参ります」

「頼む」

「はっ!」


 今副団長は拘束した男達がいる最後尾で監視している為、ヘッツィーの傍にはボイルが控えていたのだ。

 それは何かあった時に後方へ連絡を繋げるものとしての役目。ボイルは踵を返し、中ほどにいる馬車と後方のボーンマス副団長へと状況を知らせに向かって行くのだった。



 -----



 レインは取り敢えず、チャフル達から見えている所までは頑張って走って行った。

 本当に頑張った……。

 全力疾走は無理なので最初だけは勢いを付けたが、途中からは当然の様に失速して走る。


(まだ見てるな)


 視線を感じる限り仮令それがチャフルでなくとも走り続け、やっと木の影に入ったところで徒歩に切り替えて息を整えた。


「は~。しかし俺に見てこいという事は、予定が狂っているという事なんだろうな」


 頭をかきながらため息をつき、探ると言う意味でもこうしてレインを出してくれたことは逆にチャンスかもしれないと考え直す。

 前方に目を凝らしつつも、息が整ってきたところで再び小走りで走り出していった。


 暫くすると、前方に黒い集団が見えてきた。人影は多く、10や20の数ではないだろう。

 薄闇が広がる中なのではっきりとは認識できないが、もしや、とそのままその集団を目指して走って行った。



 その集団との合流まで後50mというところで、レインへと馬上の者から声が降る。

「止まれ!」

 レインはその聞き覚えのある声に、疑いは確信に変わった。

「ヘッツィー団長!!」

 レインが発した名前に、その集団はザワザワと喧騒に包まれた。

 レインは速足に切り替え、5m程まで近付いて行き馬上を見上げた。


 驚いた顔が薄暗い中でも見え、レインは胸に手を当てて礼を取る。

「第二騎士団レッド班所属、レイン・クレイトンです」

「?! 何? レインか?!」

 薄闇の中で目を凝らすヘッツィーの声を聞いた後方の騎士達が、どうしたのだと囁き合っている様子が見える。


「なぜレインがここに? しかもその恰好は……?」

 レインは今どこかの制服に身を包んでいる事は一目瞭然だ。今の姿は到底私服には見えないだろう。

 しかし問いかけられた内容にどこまで話して良いのか判断が出来ないレインは、答えに(きゅう)してしまう。


「ええっと……それは…………」


 ここで休暇中だと言えば、なぜ知らぬ制服を着ているのかと問われるだろう。そしてメイオールの傭兵になっていると言えば、職務規定に反してしまう。首だ。

 だからと言って正直にマリウス殿下の指示で応援に来ているのだと話す事は、ロイの許可を得ていない為に話す事は出来ないのだ。


(これはまずいところで会ったのかも……?)


 声を掛けなければ良かったかとも思ったが、どちらにせよ第一騎士団が停止していた為に、その横を通過しなければならなかったのだから、結局は同じ結果になったのかも知れない。

 そんな考えが頭を巡るが、言葉は見付からずに項垂れるしかないレイン。


 これは困った。


 仮令味方であっても気軽に出来る話でもなく、レインはこんなところで、まさに絶体絶命とも言える状況に陥ってしまったのである。


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