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1. プロローグ

ご無沙汰しております、モリサキです。

いつもお付き合い下さる皆さまも、初めましての皆さまも、拙作に目を留めていただきありがとうございます。


本日より、短編『ワンセット』の連載版をスタートいたします。

一日目はその短編部分に当たる2話を投稿いたします。

以降一日1話を投稿予定です。


願わくばこの拙作が、少しでも皆様の気分転換になれますように。



 

 新緑眩しく、爽やかな風が吹く季節。

 今日は彼、レイン・クレイトンの12歳の誕生日である。


 ここローリングス国では、子供が12歳になると自分が住む地域にある教会へ行き、“ステータス”といわれる人それぞれのスキルや魔力などの情報を視てもらう習慣がある。

 それは“鑑定の儀”と呼ばれ子供も待ちわびる行事であり、当のレインも昨日からそわそわしていたのだ。

 その結果は今後の職業を決める為の指針であり、不安や期待も含め、これを待ちわびる事は当然と言えるだろう。


 そのレインは、父親のジョエルに付き添われて、自宅がある王都の教会へと来ていた。

 父親のジョエルのステータスには“剣術”というスキルがあり、それを活かして現在は王都の騎士団へ勤めており、レイン達一家4人は王都キュベレーで暮らしているのだ。





「次の方は、クレイトンさんですね」


 教会の神父は、到着順に1組ずつ案内をしている。

 レイン達は王都の端にある自宅から出てきた為に、距離がある教会へ辿り着くまでに少し時間を要した。そのため、教会に到着すれば既に10人以上が順番を待っており、名を呼ばれるまでの2時間ほどを礼拝堂で過ごしていた。


「ほらレイン、行くぞ」

 やっと順番が回ってきたと父親と並んで奥の扉を潜れば、そこはがらんとした印象の部屋で、机が1つと付添人用の椅子があるだけ。きっと“鑑定の儀”専用の部屋なのだろうとレインは想像する。


 その机の上には、20cm程の丸く透き通った物が台座の上に置かれ、それが特別なものであるかの様に、窓からの光を受けて輝いていた。


「お待たせしました。レイン君は前に来て下さい」

 神父に促され、父親の隣からレインは机の前に進み出る。


「この水晶は“魔導具”で、“ステータス”と呼ばれる情報を確認する事が出来ます。この水晶に触れると上に文字が浮かび上がりますから、レイン君も自分で視る事ができますよ」


 子供たちは10歳から街の学校に通い始める為、12歳ともなればそれなりに文字が読める。

 ニッコリと笑った神父に、レインは頷くだけで返す。

 この期に及んでレインは、自分が少々緊張している事に気付く。


「では、手の平を当ててください。右手でも左手でもお好きな方でどうぞ」

 レインはその指示に従い、ゆっくりと右の手の平を水晶へと当てる。

 そしてポワンとその水晶が明るくなったと思った時、水晶の上に文字が浮かび上がった。


 その文字を確認した神父は、父親へと伝える様に読み上げて行った。


「名前はレイン・クレイトン、年齢は12歳。性別は男で、魔力は60……少し多いようですね。平均は40前後と言われていますので、魔法も勉強すると後々役立つでしょう。そして魔法属性は土と。それから、スキルは剣術です。ジョエルさんと同じなので、素晴らしい騎士になれるかも知れませんね」


 浮かぶ文字を読み上げながら、神父は一緒にコメントも添える。

 そして「以上ですね」とジョエルへと顔を向けた。


「あの……ユニークスキルは……?」


 レインが見ている自分のステータスには、後一行“ユニークスキル”の項目が載っていが、神父がそれを読み上げない為、疑問に思いレインは声を掛けたのだ。

 だが、神父はその問いを別の意味に受け取った様で、レインの意図とは違う答えを告げた。


「あぁ、ユニークスキルが皆に出ると思っていたのですね? ユニークスキルとは特別(・・)なもので、滅多に現れるスキルではないのですよ。だから自分が持っていなくても、落ち込まないで下さい。殆どの人達と一緒ですから、安心してくださいね」

 神父はその言葉を発すると、慰める様にレインの頭に手を乗せた。


(特別? ……神父様には、この文字が視えていないの?)


 戸惑いつつも“特別”という言葉に引っ掛かりを覚え、続けようとした言葉を慌てて仕舞う。

「はい、解りました。ありがとうございます」

 レインは神父に感謝を伝え、頭を下げた。


 それを見守っていたジョエルがレインの隣に並び立つと、レインの頭にポンッと手を置いた。

「俺と同じスキルだったな、レイン」

 そう言って、レインの頭をワシャワシャと撫でる。


 この国では、“剣術”というスキルを持つ者は少なくない。

 そういった意味でこの“剣術”は、一般的なスキルと言えた。


 神父は、親子の様子を微笑ましく見守ってから、ジョエルに声を掛ける。

「レイン君の弟は、まだ9歳でしたか?」

 ジョエルはその問いに、しっかりと頷いて返す。

「はい。後3年したら今度は次男のサニーを連れてきますので、その際は又よろしくお願いします」

 ジョエルとレインは頭を下げると、それで鑑定の儀も終わり教会から退出した。



 レインは教会からの帰り道、気になっているユニークスキルの事を父親に尋ねてみる。

「ねぇ父さん。“ユニークスキル”って、何?」


 レインの言葉を聞いたジョエルは、ハハッと笑ってそれに答える。

「さっきも聞いていたな。誰かに聞いたのかも知れないが、それは必ずしも皆に与えられるスキルではなく、1000人に1人位しか持っていないと云われているスキルの事だ」

 ジョエルは微笑みを浮かべてレインを見る。


「ユニークスキルとは皆がスキルと呼ぶものと違い、この鑑定の議を経て使える様になるものではなく、いつ与えられて使える様になるのか、分らないものなんだ」

「そうなの?」


「ああ。普通のスキルは鑑定の儀で、そのスキルを己が認識する事により使えるようになるものだが、ユニークスキルは小さい頃に現れた事に気付く者もいれば、大人になってから急に現れる者もいる。そして“ユニーク”と言うだけあって、特別(・・)なものが多いんだ」

「そうなんだ……どうやって気が付くの?」


「“違和感を覚える”という話も聞くが、それは人それぞれのようで一概には言えないらしいな」

「へえ~……。それでその“特別”って?」

「んん~そうだな……。普通のスキルは、“剣術”だったり“俊足”だったり“剛力”と……まぁ色々あるが、効果が目に見えるものが多いだろう?」

「うん」


「でもユニークスキルは、一部例外もあるが、目に見えないものに干渉するものが多いと言えるな。例えば、“付与”というユニークスキルは、人にあげる事が出来るものだな」

「何をあげるの?」

「それは、自分の持っている体力だったり、魔力だったり色々と出来る様だ」

「すごいんだね?」


「そうだな。だた、そのユニークスキルを持つ者達は、他人にそのスキルの事を秘密にしている様で、大っぴらには使わない者が殆どらしい。一部は城で、そのユニークスキルを活かして働く者もいると聞くが、その部署は国の偉い人達しか知らされていない、秘密の部署だという話だな。それ位ユニークスキルは珍しく、そして秘されているものなんだ」


「へぇー。じゃあ、父さんも持っているけど秘密にしている、とか?」

「ハハハッ。残念ながら俺は持っていないな。流石にこの歳ではもう、現れる事もないだろうしな」


 レインの父であるジョエルは今年37歳。そう言い切るには少々早い気もするが、本人はそう言い切る事で、自ら見切りをつけているのだろうか。


「もしそのユニークスキルが付与されたら、“ステータス”には現れるの?」

「ああ。さっき見たステータスには表示されるらしいが、そのユニークスキルの項目には“不可視”が掛かっていると聞くから、本人以外には視えないものの様だな。ああ、“不可視”とは“目に視えない”という意味だ」


「不可視……」


 レインは同音を囁き、やっと納得する。

 先程、神父がレインのユニークスキルを読み上げなかったのは、他人からは視えなくなっていたからなのか、と。


「そんなに気になっていたのか? ユニークスキルの事が。もしかして……出たのか?」

 ジョエルの言葉に、レインは少々居心地が悪くなるも即座に首を振った。

「違うよ…。学校で聞いた事があったから、少し気になっていただけだよ」

 レインはなけなしの言い訳で、自分が持ってしまった秘密を守る。


 他人には知られないようにするという意味が、“親兄弟”も含まれるのかが分からない今、レインは取り敢えず、ユニークスキルの事は誰にも言うまいと心に仕舞ったのだった。


「そうか。ではレインの授かったスキルは剣術だから、夜は毎日、俺と剣の稽古だな」

 ニッコリと笑みを向けられたレインは、慌てて言い返す。

「え~何でそうなるの? しかも“毎日”とか、大変だよ……」

 情けない声でレインが言えば、ジョエルに軽くあしらわれる。

「ハハハッ、そう言うなって。剣の練習は楽しいぞ? 父さんは毎日、城で皆と稽古しているんだからな」

 ポンポンと、ジョエルは楽し気にレインの肩を叩いたのだった。




 それから暫くして、見慣れた扉を“ガチャリ”と開けて2人は中へと入って行った。

「「ただいま」」

「お帰りなさい」


 レインとジョエルが家に戻ると、レインの母メラインが笑顔で出迎える。

 今日はレインの鑑定の儀があるため、両親とも仕事は休みを取っていたのだった。


 そこへ奥からパタパタと軽快な足音を響かせ、弟のサニーが走ってきた。

 そして勢いよくレインに抱き付いたサニーが、顔を上げてレインを仰ぎ見る。

「おかえり兄ちゃん。何だったの?」


「こらこらサニー、レインが動けないでしょ?」

 メラインが笑みを湛えたまま、サニーに注意をする。

「動けないよ、サニー」

 レインも笑ってサニーの腕を解く。


 弟はまだ9歳の甘えたい盛りで、特に兄であるレインにいつもこうやって抱き着いて来る。2人はどこから見ても仲の良い兄弟だった。


「それでそれで?」

 レインとサニーも両親が座るテーブル席へ腰かけると、サニーがせっついた様に言った。

「父さんと一緒の“剣術”だったよ」

「あーやっぱりねー」

 と、サニーがいたずらっ子のように笑う。

 レインは体を動かす事が好きなので、スキルは体を使うものだろうとサニーにも言われていたのだ。


「僕は、父さんから剣を習う事になったよ……」

 そう言ってレインは眉尻を下げる。

「ふふふ。ジョエルは強いからね。しっかりと教えてもらいなさい?」

 メラインはレインに、ウインクで激励を飛ばす。

 それを受けたレインは“は~っ”と一つ、大きなため息を吐いたのであった。



 それ以来レインは、ジョエルの帰宅後に家の前で剣の素振りを始める事になった。

 そこから、父親であるジョエルの剣筋を学び、毎日剣の稽古に精を出した。それからはそんな忙しい日々であった為か、レインは鑑定の儀以降は己の持つユニークスキルの事も忘れ、そのスキルの名前以外を何も知らぬまま過ごす事となった。


 だがある日、それは突然思い出す事となったのである。


次話は、本日19時40分の投稿を予定しております。

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