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第二話 勉強会なんて「めんどくさい」

 意外かと思われるかもしれないが、那楽(だら)(めぐみ)は文武両道である。


 運動部にも文化部にも所属してなければ、スポーツクラブや塾にも通ってない。にもかかわらず、球技大会では獅子奮迅の活躍を見せ、定期テストでは毎度学年で三位以内に入る。

 ただ得意だからといって好きではなく、球技大会を頑張ったのは周囲の女子に引っ張られて(なか)ば無理やりだったし、定期テストを頑張ってるのは推薦をとって大学受験という至極めんどくさいイベントを回避するためだ。


「那楽、お前この前の中間テスト学年一位だったそうだな」

「そういうお前は学年七位だろ。あんまり変わらないじゃんか」

「一位と七位の差は大きいと思うぞ。なぁ、ここだけの話、なにか特別な勉強法とかやってるんじゃないのか?」


 俺はコツコツと毎日予習復習を繰り返しているものの、どうしてもベストファイブの壁を突破できない。この壁を突破する(すべ)を聞きたかったのだが、


「別になにも。授業を真面目に受けているだけだ」


 そういやコイツ、いつも眠たそうにしているわりに授業中寝てるところは見たことない。


「そうは言ってもテスト勉強はしてるだろ? どういう風に勉強してるか教えてくれ」

「テスト勉強なんてしてないぞ」

「へ?」

「テスト勉強したくないから授業中にすべて吸収できるよう、集中してる。学校のテストなんて授業でやった範囲しか出ないんだから、授業の内容全部覚えてれば余裕で満点取れるだろ」


 コイツ、めんどくさがり屋じゃなければなにかしらのスペシャリストになれたんじゃないか? 普通に才能マンだな。

 いや、むしろ究極のめんどくさがり屋だからこそ、いまのこの結果が生まれているのかもしれない。めんどくさがり屋も考えようか。


「そっか。なにか特別な勉強法知ってるなら、今度()()()でも開いて教えてもらおうと思ったんだがな」

「……」

 


 --- 



 その日の昼休み。

 那楽はいつにもまして眠そう……というか、調子が悪そうだった。机にぷにっと頬を当て、虚ろな目をしている。


「怠い……女って怠い……」

「どうした? 体調悪そうだな」

「生理だ」

「……面倒だろうが、ちょっとはボカせ」


 冗談じゃなさそうだ。ガチで顔色が悪い。


「保健室行った方がいいんじゃないか?」

「……しんどい」


 ここは三階、保健室は一階だ。たしかに今の那楽の状態であそこまで行くのは辛いかもな。

 かと言って俺がおぶって運ぶのは……恥ずかしいだろうし。仕方ない。


 俺は席を立ち、列の一番前の席に足を運ぶ。


吉比(きび)さん、頼みがあるんだけど」

「あ! 古津くん。なに?」


 吉比さんは学級委員であり、バドミントン部のエースでもある女子。いつもキビキビ活動している。いつもダラダラしている那楽とは対照的な人物だ。


「那楽が体調悪いみたいなんだ。悪いけど、保健室まで運んでくれないか?」

「那楽さんが!? うん、わかった。任せて!」


 吉比さんが那楽に肩を貸し、二人は教室を出ていった。

 隣人がいないことにひとかけらの寂しさを感じながら五時間目の授業を受けた俺は、休み時間に保健室まで行った。目的はもちろん、めんどくさがりの隣人の見舞いである。


「失礼します」

「あ、いらっしゃい。どうしたの?」


 保健の先生(胸元の空いた服を着た白衣の天使)が笑顔で迎えてくれた。


「那楽さんの体調が気になって」

「あ~。那楽さんなら薬飲んでベッドで横になってるわよ」

「そうですか」

「でもそっかぁ、お見舞いかぁ。残念だなぁ」

「残念、とは?」

「いやぁ、先生に会いに来たわけじゃなかったんだなぁって。最近ご無沙汰だからさ、相手してくれる子探してたんだけど……」


 先生は色っぽい表情で見てくる。

 保健の先生が男子をつまみ食いしているという噂、まさか本当だったとは……。


「そういうことなら……お相手しましょう」

「ごほっ! ごほっ!」


 ベッドの方から那楽の咳が聞こえてきた。


「あら、風邪じゃないはずだけど……」

「すみません先生、今の話はやっぱりなしで」

「えー、残念」


 俺は那楽がいるベッドのカーテンの仕切りの前に行く。


「那楽、開けていいか?」

「どうぞ」


 カーテンを開ける。那楽は布団にくるまりこっちに背中を向けていた。


「どうだ調子は」

「ダメだぁ。六時間目も休まないとダメっぽいぃ……」

「……お前とは高校一年からの付き合いだ。たった一年ちょいの付き合いだが……俺にはわかる。お前、いまそんなに体調悪くないだろ」


 ギクッ! と那楽の背中が震えた。


「どうせ保健室のベッドが快適過ぎて、動きたくなくなったんだろ。やめとけ。そういうのは癖になるぞ」

「だーっ! わかったよ。行けばいいんだろ行けば!」


 那楽はベッドからガバッと体を起こし、そう言った。


「お大事に~」


 那楽と一緒に保健室を出て、廊下を歩く。


「五時間目の数学どうだった? 結構進んだ?」

「ああ。多分、かなーり大事なとこだったな」

「うげっ、マジかよ」

「心配するな。ノートなら後で見せてやるよ」


 那楽は頬を人差し指で掻くと、俺を上目遣いで見上げた。


「……数学だと、ノートで見せられても理解できないかもな。やっぱ、誰かの解説がないと」

「ん? まぁ確かに。暗記科目じゃないからな。それなら先生に頼んで――」

「数学の辺良(べら)はお喋りだからやだ。めんどくさい。お前が教えてくれ」


 那楽は茶色の前髪をつまみ、目が隠れるように引っ張った。この動作は那楽が照れくさい時にするものだ(最近分かった)。

 ま、学年一位が学年七位に教えを乞うのはプライドが許さんよな。それでも恥を忍んで頼んできたんだ、無下にはできない。


「それなら、今度勉強会でも開くか。俺も教えてほしいことあるしな」

「……うん。めんどいけど、仕方ないな」

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