親父へ。
親父は釣りが大好きだった。
毎週日曜日の早朝、1人釣りに出かけ、その釣れた魚が朝ご飯になった。
これがとても美味しくて、温かくて…
毎週日曜日の朝がいつも楽しみだった。幼い俺は一番最初に起きて「今日は何釣れたの?何匹釣れたの?」と目を輝かせながら親父の帰りを迎えていたものだ。
かつて親父は口癖のようによく俺に言った。
「お前が大きくなって働いて一人前になれたら一緒に釣りにいくのが夢だよ」と。
仕事中、釣り道具屋の前を通ることがある。ショーウィンドウに映るスーツ姿の自分をみた時、俺はふと立ち止まった。
かつて俺は口癖のようによく親父に言った。
「社会人になったらお父さんと釣りにいきたい!」と。
思い出してしまった。
俺は心底悲しくなって、泣きたくなった。
社会人になり、自立し、収入も増え、何不自由なく暮らしている。
なのにドーナツのように何か真ん中が抜け落ちている感覚をずっと、ずっと拭えない。
もう叶うことのない父の夢に対する後ろめたさや罪悪感だろうか。それもある。
あるけど、ちょっと違う。
実はその父の夢は俺の夢でもあったのだ。
理想と現実は多少ギャップはある。そんなことはわかってる。ガキじゃないんだから。それでもどうしようもなくやりきれない。あの時もっと別の道も選択できたんじゃないかと、何度も考えたことがある。それでも俺は不器用過ぎて出来なかったよ。ごめんね。
再び歩き始めた。もう二度と戻ることは出来ないあの頃。悲しみやさみしさを越えて、あの日の夢が反芻する。
もう叶わないとわかってる。わかってるよ。わかってるのに。
それでもこんな惨めな気持ちになるのは、俺が未だにその夢を諦められていないからだと思う。