獣人の長
結論から言うと、大丈夫だった。
高レベル魔法使いの姉さんがいるから、レベル10の狼は完全に俺たちに手を出せない。
そして狼を倒した続いた後、俺の前にメッセージのパネルが浮いて来た。
=====スキル習得=====
拳術
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えっと……条件は拳でいくつかの敵と戦ったって……増援を含めて、俺は三十匹以上の狼を倒したけど。そもそもここのスキルはどうやって運作するのか?
===========スキル:拳術===========
拳をより的確にクリティカルを出せる
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まさかこれはリアルでも通用できる?
「効果はほんの少しだけど」
「そんなに便利だったら、私は苦労しないのによ」
うん、どうやらやっぱりここはゲームだ。
そして今気付いた。セシオス先輩の攻撃速度はちょっと遅れていると見える……やっぱり重すぎるだろ、その大太刀。
「危ない!」
一匹狼が先輩の隙を狙って突進して来た。
「させるか!」
ゲームの中とは言え、痛いは痛い。かなり軽減されていると聞いたけど、その恐怖は軽減してない。それに先輩の様子から見ると、大太刀はまだ上手く扱えてないから、俺はカバーのつもりでその狼に攻撃を掛かって行った。
ガウ、ガウ!
狼は口を大き開けて、俺を噛もうとしにかかって来た。どうやら目標転移成功したな!
完全な素手ならば、攻撃する事に躊躇するかもしれない、でも今俺はグローブを装備している!喰らえ!
ガアアアアアアアアア
偶然かどうか、俺の拳は狼の口に命中し、口内まで突入した。
「アゴン!」
「弟くん!」
お二人、心配するな、俺は大丈夫さ。
何かを恐れているような、その狼は俺の拳から口を離れて、慌てて逃げ出した。その様子は変だと感じた。
「アゴン、まさかそれはそのグローブの追加効果なの?」
あ!そう言えば!
俺はもう一度そのグローブの説明文を見た。
=====戦慄のグローブ=====
攻撃+5
速さ+2
敵に恐怖を感じさせる
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あ、道理でそうやって逃げ出したわけか。
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「サシアン、サマセタ、晩御飯できたよ!」
その後もう少し狩りをした俺たちは時間が遅くなったのでログアウトした。そしてすぐお袋に呼ばれた。
「はい!」
姉さんは俺と同時に返答した。
「サマセタ、お父さんとお母さんに言う事はない?」
やっぱり質問してくれたな。その怒っているっぽい顔から見ると、瞞すことが出来なさそうだから、俺は素直に答えた。
「でも俺のせいではないぞ!」
「だから族長から直接に呼び出されたわけか」
お袋の嘆きから、俺はやっと事情の厳重さを知った。しかしまさか族長自らお呼び出されたの?
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「族長様、レインハート家が到着しました」
「入らせて」
「はい」
晩御飯の後、俺らは族長の指示通り、族長の屋敷に来た。
それなりに大きいけど、豪華とは無縁の屋敷だ。
族長がいるところまで連れられて来たけど、俺は初めて族長様を拝見するではない、その筋肉と威厳さに敬服させられた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
族長の指示によって、俺たちは謹んで座った。そしてもう一人の獣人がいる事を気づいた。
「今朝、サマセタ、君がある人を病院に送った事は間違いないな」
族長様ははっきりその事件を質問してくれた。親父とお袋は答えるつもりだけど、族長に阻止された。
そうか、俺が答えないと。
「はい!」
承認する同時に、あの時の状況もしっかり族長様に説明した。弁解の意思は皆無ではないが、俺はただ事実を言っただけ。
「トクルス」
「はい」
トクルス……⁉︎それは族長の右腕と言える獣人領主ではないか!
今時の領主位は虚名だけど、族内では長老位だから、つまりお偉いさんだ。
「どう?」
「はい、確かに我が族英雄、エド様の仰る通りです」
そしてトクルス様は他の部屋から一人を連れて来た。俺が病院に送ったあいつだ!
「痛い!親父!俺は被害者だぞ!」
「黙れ!誇りある獣人は他人を嘲弄しない!全部きさまの自業自得だ!」
まさかトクルス様のお息子さんだったかよ⁉︎しかしトクルス様は彼を庇うつもりはなさそうだ。
「サマセタ」
「は、はい!」
さすがに族長と会話するのは緊張する。
「自衛のためとは言え、今後はやりすぎないように」
「はい」
やっぱり病院送りはやりすぎたな、俺は族長に頭を下げた。
「あの馬鹿息子め……よくもそれでも儂に仲裁を要求されるとは……お見苦しいところを見せてしまう事、謝らせていただきたいです」
「いえ、うちの子にも非がありますから、どうか頭を上げてください、トクルス様」
「トクルス、お前の公正は讃えるべきだから、この件はこれでお終いだ」
「ありがとうございます」
俺たちとトクルス様は一緒に族長様に敬礼した。