表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/392

94話:目覚め

若干前と似ていますが、大事なシーンなのでね…

「あ……………ッ……ぁぁ…!」


「…!気がついたニャ!?一体何があったんだニャ!?」


身が裂けるような痛みから解放されたアキラはゆっくりと眼を開く。それをキャスは心配の表情で見つめた。


「……怪物に襲われた。それより俺は行かなくちゃ…!」


「薬が効いたばかりニャのに無茶はダメニャ!」


壁に手を当てながら立ち上がったアキラを止めるキャスだが、アキラはそれを無視して壁を伝って路地裏から出ようとしている。


「アキラの傷を治したのは“魔女の毒林檎“!安静にしてないと体に毒が回ってしまうニャ!だから──」


「俺を治してくれたのは本当に感謝してる。でも…──退いてくれ。俺は行かなくちゃいけないんだ。たとえ毒が回ろうがな」


行った所で俺は何も出来ないかもしれない。だけどミルが戦っているのに、ここで寝ている訳にはいかない。


「何を言っても行く気ニャ…?」


「…ああ。ミルは俺の恩人なんだ、ミルだけは絶対に死なせなくない」


こんな俺を鍛えてくれたミル。俺にとっては恩人だ。それに俺はフリードさんからミルの事を頼まれている。たとえ若くなって、脳が幼くなろうと俺は大人だ。子供を守るのは大人の仕事だ。


「それを言うなら、アキラはニャーの命の恩人だニャ。死なせなくないのはニャーも同じ……だからどうしても行くと言うなら、ニャーも行くニャ!」


「ありがとう……気持ちは嬉しいよ。でもダメだ。この件にはキャスを巻き込めない。命だって危ないんだ」


「そ、それでも着いて行くニャ!!」


真っ直ぐと俺の眼を見るキャスは、何を言っても着いていく、そんな眼をしていた。

ここで止まっている時間は無い。俺はキャスに命だけは大事にしてくれと言い、自身に出せる最高速度で走り出す。


『中央広場で戦っているのか』


ミルと約束していた場所である中央広場。そこだけは特に激しい雨と、雪が降っている。あの日と全く同じ状況だ。


「ニャんだあれ……」


隣を走るキャスも、空を見上げて恐怖する。当然だ、あれは自然災害に近い現象だ。自然の力が圧倒的だという事は、冒険をしてきたキャスだってわかっている。だからこそ恐怖している。


「引き返すなら今だよ」


「ニャ、ニャーは逃げたりしないニャ!!」


「……キャスは強いな」


怖くても逃げる事をしないキャスに俺は感心し、同時にその強さが羨ましいと感じた。それはとても嫌な感情だった。


そして中央広場近くに到着した俺達は、凄雨と風雪の境界線の前で止まった。


「覚悟はいいか?──行くぞ…!」


「ニャーっ!!」


そして俺達は吹き荒れる雨と吹雪の中へと侵入した。


─────────────


約束した中央広場のベンチに座って、アキラが来るのを待っていた。

結局それらしい情報は無く、何の成果も無かった。


『アキラ…遅いな…』


約束を守る筈のアキラが遅刻するのは珍しい。いや、おかしいと言った方がいいだろう。

まさか1人で行ってしまったのだろうかと不安に駆られていると、とある異変に気が付いた。


「人が……消えた…?」


先程まで賑わいを見せていた中央広場だったが、周りを見渡しても誰1人としていない事に気が付いた。

静寂に包まれた正午の町は不気味だった。


──ゴーン…ゴーン…


中央広場にある時計台から子刻を知らせる鐘の音が町に響き渡る。

とても嫌な予感を感じっとたミルは、銀零氷(ぎんれいひょう)グレイシャヘイルへと手を掛ける。


『…っ…?雨…?──まさか…っ!』


空から落ちてきた水滴が手の甲に当たる。自然と上を見上げた瞬間、前方から“死“が迫るのを感じた。


すぐさま聖剣を抜剣し、それを石畳へと突き刺すと、地面が凍結してミルの目の前に分厚い氷の壁が生まれた。


「水の刃…!!やっぱり…!」


飛ばされたの水の刃。ミルが生み出した氷の壁が容易く粉砕して、ミルの元へと一直線に飛んでくる。


「──っ!」


だがグレイシャヘイルを握っているミルに届く事はなく、水の刃を聖剣で弾くと、水の刃は瞬時に氷結して砕けた。



「流石に今のじゃ殺せないか。まぁ…挨拶代わりだ」


「…っ!コル兄様…!」


前方から雨雲を連れて向かってくるコルは、肩に邪剣を当ててミルを冷めた眼で見つめた。


「この前の続きと行こうか。今度こそ…──どちらかが死ぬまでなァ!!」


「っ!!」


雨を背中に受けて加速したコルは、一気にミルへと接近して斬り掛かった。

うねるような水流を纏ったコルの剣撃は、実力的に上であるミルでさえ手を焼くほど。


『っ……また強くなってる…!』


あの戦いの後、どれ程の鍛練を積んだのだろうか。コルの剣術は上がり、ミルとの剣の差を着実に詰めている。


「でも──負けない…!!」


鍔迫り合いとなった状態で、ミルは体を前にと押し込んでいく。

猛吹雪の中、ミルの眼に熱い意志が宿った。


『もうあの時のように、諦めたりなんかしない…!ボクだって…!アキラのように──!!』


荒れる吹雪をグレイシャヘイルへと集めたミルは、それを下から掬い上げるように上へと斬り上げる。すると辺りを凍結させながら突き進む竜巻のような吹雪が生まれ、コルへと突き進む。


「邪魔だッ!!」


だがコルは雨を纏わせた邪剣を縦に振るい、雪の竜巻を切断した。

雨を纏わせた事で、通常の2倍近くリーチが長くなった邪剣を見て、下唇を噛む。


『あれじゃあ距離を取るのは不利になる……』


間合いを詰められれば勝機が見えるだろう。だがそこにたどり着くまでが難しい。

こうしている間にもコルはまるで大太刀のような邪剣を容赦無く振るい、ミルはそれを全力で回避していく。


その間も[氷冠(ひょうかん)]や降り注ぐ雨を逆に利用した氷の弾丸などを使って攻撃を仕掛けるが、集まった雨の壁によって威力を殺されてしまう。


「どうすれば……!」


大太刀と化した邪剣さえも届かない民家の上へと移動したミルは早急に次の手を考える。

あのコルを追い込むには生半可な技では通用しない。なら強力な技を出せば良い。だがどれも1人では時間も足らず、至るとこから迫る攻撃を防ぎながらでは不可能に近い。


『アキラ…っ』


とても厳しい状況の中で、ミルは自然とアキラの事を考えた。それはまるで助けを求めるかのように。

だがアキラはこの場にはいない。


「逃げてばかりかッ!?もっとお前の力を見せてみろッ!!」


「っ!」


コルが屋根上にいるミルに向けて邪剣を振るうと降り注ぐ雨が集まり、更に4倍近くの長さを得た刃がミルを襲う。

それをミルは聖剣を振るって吹雪を操作し、伸ばされた刃と周囲の雨を凍結して粉砕する。


『手数的にはコル兄様の方が有利…それにボクはまだこの力を使いこなせていない…っ』


まだグレイシャヘイルを完全に制御しきれていないミルは、コルと比べると弱い。たとえ剣の腕で上回っていても、現状ではほぼ差は無い。


ミルが手を考えていると、コルはすぐさま次の1手に出る為の動作へと入り、ミルは回避の準備に入った。



その瞬間、、


「[侯爵からの贈り物]!!ニャ!!」


吹き荒れる雨と雪の音にも負けない大きな声が町に響き渡る。

その特徴的な喋り方をするのはキャスだと考えた瞬間、雨と雪の壁を突き破ってコルへと近付く人の影。


それは、、



「コル・クリークスッ!!お前を止める!!」


「また……ッ!お前かああああああッ!!テンドウ・アキラああああッ!!!!」


コルの絶叫と共に振るわれた邪剣を紙一重で回避したアキラは、右拳を下から上へと振り上げてコルの顎を殴り飛ばした。


「俺はお前に…勝つ。必ず…!」


拳を振り切ったアキラ。その()()()()輝いていた。

ここまで90話オーバー。漸くなろう主人公らしい事をさせてあげられる。


魔女の毒林檎

メルヘルンで作られる薬で、状態を真逆に変える特殊な薬。健康な状態で飲めば猛毒に。怪我している状態で飲めば回復薬となる。

服用してからすぐに動くと毒が回るのが早くなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ