93話:暴かれる心
(自称)なろう系主人公テンドウ・アキラ。その力は最強(になる予定)で全てを圧倒するような気配を持つ(色んな意味で服装のせい)18歳の男(30歳のおっさんです)
「昨日はすいませんでした…!」
「…?別に謝られるような事はされてない」
次の日の朝。我に帰った俺は、ミルに朝イチで謝罪した。
あの時は精神的にかなりキテいた…まああれはこの世界に来てからしょっちゅうなんだけども。ちょっとタイミングが悪かった。
「稽古…ありがとう」
「ううん。ボクはアキラの師だからいつでも付き合うよ」
「…ホントありがとな」
俺は小さな声でそう呟き、この後の事をミルと話し合う。情報によれば、この国で黒ずくめの男の姿が目撃されている。そいつがメランコリーかどうかは分からないが、調べる価値はある。
因みにここにキャスはいない。流石に巻き込むのは違うし、何よりキャスはアルカナンを探検すると言っていたから。果たしてキャスは仲間になってくれるのだろうか……
「今は酉刻の表だから……子刻の表まで聴き込みをしよう。時間になったら中央広場に集まろう」
「分かった!んじゃ──ングッ!?」
「待って」
早速聴き込みを開始しようと、宿を出ようとしたらミルに服を掴まれて止められた。服伸びちゃうよ…
「もし…コル兄様や黒ずくめの男を見付けても……1人で行っちゃダメだからね…?」
「自分の実力は分かってるつもりだよ。だから安心して?1人じゃ行かないよ、約束します!」
「ん…約束」
昨夜の事もあって、心配そうな表情で俺を見つめるミルに、俺はすぐに約束をする。
チートが無いからこそ、無理せず着実に!これ大事。ここ【なろう】テストに出るから。
ミルと約束をした後、俺は早速街にて聴き込みを開始した。ちょっとだけ緊張して、街行くマダムに声を掛けた。
「あの…すいません」
「はい?」
「えっと、こう、真っ黒な格好をした男の人って見ませんでしたか?」
「ん~見てないわねぇ。それに真っ黒って言うならお兄さんの方が黒いわよ?フフッ!」
確かに……俺は真っ黒なロングコートだからな。しかも背中には蝶の羽。俺の方が不審者やないかいっ!
「まぁそう簡単には見つからないよな。うしっ、次だ!」
その後も次々と聴き込みをするが、それらしい情報は無く、なんならケチな情報屋モドキもいた。買わなかったけど。
「やっぱ買っとくんだったか…?でもあの手の情報はクソって、それ1番言われてるからなぁ」
それに最近ギルドに行ってない=働いていない俺は、現状お金が底を尽き掛けている。買い物とかして更に散財してるから情報を買うだけの余裕は無い。
「やっぱ自分の足頼りだよな…──あっ!ちょっとすいません」
そして聴き込み再開。だが2時間近く聴きまくったが、手に入れた情報が裏路地で見掛けた気がするという怪しいモノだけだった。
「路地裏、ねぇ…?」
チラッと建物と建物の間を見る。
いつもは比較的に通りに近い所までしか行けない俺。その更に奥はちょっと怖い。だって【なろう】とかだとスラムっぽく書かれてるんだもん…
「それにここは他の国より貧しいしな…」
今までのリコティ王国、ルミナス聖国と比べると、言い方は悪いが汚い。ちょっとボロいとこもあるし。まず住民の服装も違う。小国って言うだけでそんなに違うのか。
「どーすかっなぁ…ミルには心配掛けたくないし…んーでもなぁ…」
ミルに言われたのはコルさんと黒ずくめの男を見掛けても行くなだったから、約束は破らない。でも怖いんだよな…人が1番怖いって言うし。
「でもまあ…行っちゃうんだけど」
自然と路地裏へと向かう自分に驚いたんだよね。
それはどうでもいいとして、いつでも手甲から刃を出せる準備をして慎重に進んでいく。薄暗い路地裏で足音を消してゆっくりと、、
「…?水…?」
頬に冷たい感触を受ける。上を見上げると、どんどん降り注ぐ水。その正体は雨だった。
「雨か…ツイてないな…──ん…?」
雨が降り始めた事で暗くなった空。太陽が差し込まなくなった路地裏は、少し先までしか見えない。目を凝らしていると、暗がりの向こうに何か見える。黒いナニカが…
「おやおやおや、1人でここまで来たのかな?勇気あるねぇ~♪」
「ッ!!」
この虫酸が走るような喋り方をする奴は俺は1人しか知らない。アイツは…!
「メランコリー…!」
「おっ?おっ?おっ?覚えててくれたの?嬉しいねぇ~」
口角を上げて嬉しそうに笑うメランコリー。あまりの気味悪さに、俺は1歩後ろへと下がった。逃げる隙を見つけなくては……
「ん~~~?あれあれあれ?君は………」
笑っていたメランコリーは突然笑い声を止めて、上半身を前に出して俺の事を黒いフードから見える黒い緑色の光が覗き込んだ。
それはまるで全てを見透かしたような眼だった。黒い緑色に輝く眼を見ていると、吐き気と倦怠感を覚える。
『確定だ……アイツは怠──』
「あははははっ!!君いいねぇ~すごーくいいっ!」
「んなっ…!!?」
「シーっ……ちょっと静かに」
不確定だった要素が確定したと考えた瞬間、俺の肩に顎を乗せて耳元で嗤う声がした。
猛烈な倦怠感で倒れてしまいそうなのを踏ん張り、裏蹴りをしようとした瞬間……体が動かなくなった。
「は………は………ッ………!」
それはまるで死神が俺の首に鎌を当てていると錯覚する程の明確な“死“が俺を石のように動かなくする。
──動いてはダメだ……俺は確実に殺される。
「ん~~~~…」
メランコリーは俺の体を指でなぞるように動かしていく。ゆっくりと、ゆっくりと……
「君さぁ……周りの人全員が羨ましく見えるでしょ?」
「────ッ」
「自分に無いモノを沢山持ってていいなぁ……強くていいなぁって。──強力な力を持ってて妬ましいと感じてるでしょ?」
ダメだ。聴いちゃダメだ。
逃げろ。今すぐここから逃げろ。
やめろ。俺の心を見るな。覗くな。暴くな。
『やめろ…やめてくれ…!!』
「強い奴と比べて、弱い自分が嫌で仕方ない。憧れと嫉妬は紙一重ってねっ!あははははははっっ!!!!」
メランコリーの言葉によって力が抜けた俺はもう立っている事が出来ず、膝から崩れ落ちる。
メランコリーは腹を押さえて狂ったように大爆笑し、やがて落ち着いたメランコリーは俺の頭に手を置いた。
「面白いし、ちょお~っとだけ、力を貸してあげるよ♪」
「──ッッ!?!?あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“ッッ!!!!!」
一瞬走った電気のような痺れ。そこから脳みそをぐちゃぐちゃにされたような痛みと吐き気。身体中を引き裂かれるような激痛が全身を襲い、俺はその場に倒れる。
「ぁ…………ッ…………………ぁぁ…」
脳が焼ききれたような痛みによって何も考える事が出来ないアキラは、体をピクピクと死にかけの虫のように痙攣する。そして大きな咳と共に吐き出された血が雨によって出来た水溜に広がる。
「あははははっ!!イヒヒヒヒヒ!!まるで死にかけの虫けらじゃねぇか!!あはははははは!!お腹痛いっ!!死ぬぅ!」
アキラを指差し、腹を抱えて爆笑するメランコリーは表情を薄気味悪く歪ませる。
「あれあれあれっ?壊れちゃったの?あれぇ~…?………まっ!いいよね、僕が力を貸してあげたんだから♪──って聞いてるか~?」
「………」
横たわるアキラをゴミのように何度も蹴るメランコリー。だが何度蹴っても反応が無いメランコリーは首を傾げる。
「おーい。ん~?まあいいや!あ、そうそう!そんな君に良い情報♪さて!何で急に雨が降ってきたでしょーかっ!!チク、タク、チク、タク──はい時間切れ~!答えは─」
間を開けたメランコリーは、愉快そうな笑みと共に酷く表情を歪ませ、口を開いた。
「禍雨レイニングネブラの力によって~?雨を降らしているからですっ!!ひひっ!」
その言葉を耳にしたアキラの瞳に光が宿り、その黒い眼が動く。
「ぁ………ぁぁ…!」
「イヒヒッ!ほ~ら、君の大切なミルちゃんが死んじゃうぞぉ~?頑張れっ!頑張れっ!ア・キ・ラっ!」
リズムよく手拍子をしてアキラを煽るメランコリー。その表情はまるで玩具を貰った子供のように楽しそうに笑う。
「───あー…お楽しみはここまで、かなっ?んじゃ僕はもう行くけど、君の今後を期待してるよ♪まったねぇ~!」
最後に倒れているアキラを覗き込んだメランコリーは笑顔で手を振ると、黒い穴を出現させて消えていった。
「────」
雨が降り注ぐ中、アキラは身体中を突き刺すような痛みが気絶へと導く。だがあまりの痛みに目覚めてしまう。まるで気絶をして楽になる事を許さぬように。何度か気絶と目覚めを繰り返すと、路地裏に水溜まりを踏む音が聞こえてくる。
「アキラっ!!しっかりするニャーっ!!」
倒れるアキラの元へと駆けつけたのはキャスだった。キャスは雨に濡れる事も気にせずにアキラを揺さぶる。
「傷がニャいのに何で…!」
アキラに損傷は無い。だが確実に何かあった事はキャスには分かっていた。先程アキラの絶叫が聞こえたからだ。
キャスは腰に付けている小袋に手を入れて、何かを探す。やがて何かを掴んだキャスは、アキラの口へと赤黒い錠剤を入れて無理矢理飲ませた。
「これですぐによくなる筈ニャ!だからしっかり気を持つニャ!!死んじダメニャ!!」
キャスはアキラへと励ましの言葉を叫びながら、アキラの痙攣が止まるまで側に居続けた。
天道明星
魔法:[火花]
スキル:[背水の陣][限界突破][斧熟練Ⅱ][弓術Ⅰ][逃亡Ⅱ][激情][剣術Ⅷ][羨望]
加護:[治癒の女神・リコスの祝福]
[逃亡]
逃走がⅩになった事で進化したスキル。逃げる事に関して爆的にスピードが上がる。
メランコリー
全身を黒ずくめの男で、フードのせいで口元しか見えない。時折フードの中から黒い緑色の瞳が見える。相手の心を覗き込める力がある。
 




