92話:強くなりたい無能
頑張ってブックマーク3桁を目指そう。
その後も俺とミル、そしてキャスと共に街道を歩き、遭遇した魔物は倒していくを繰り返して、漸くアルカナンに到着した俺らは町の宿へと来ていた。
「つ、疲れた…」
「ニャ~…」
俺が思っていた以上に遠かった。田舎の人が言う『すぐそこ』くらい遠かった。しかも魔物も地味に嫌な攻撃ばかりしてくる奴だったし。
「3つ部屋取れたよ」
受付を済ませてくれたミルは、3つの鍵を持って戻ってきた。何だが最近…ではないな、ずっとミルに甘えっぱなしだ。負んぶに抱っこという訳にはいかないと分かっていても、活躍できない俺。正直な話悔しい。
「んじゃ荷物置いたらご飯にしようよ。キャスはどうする?一緒に食べる?」
「お供するニャ!ゴハンは皆で食べると美味しいからニャ」
決まりだな。
ここまで来る過程で、ミルもキャスも仲良く…なってたと思う。多分。ミルは基本表情変えないからなぁ……ま、兎に角一緒にご飯食べれば仲良くなれるだろ。
一旦別れて、2階にある各々部屋へと入っていく。部屋はまぁ…狭いしベッドも硬い。ほ、ほら!俺って日本人だし、現代人だからさ!?こういうの慣れてないって言うか…?この宿を悪く言ってる訳じゃ──
「って…1人で何やってんだ」
部屋であたふたしていた俺は、急に真顔になって椅子に腰掛ける。
「今後の展開はどうなるかな」
チートが無い俺には、今後の展開を予想して事前準備や心構えをする事しか対策が出来ない。
恐らくキャスは主要キャラだろう。ここでバイバイしたら他の【なろう】主人公のパーティーに入るくらいの。ならここで捕まえておきたい。
そして次に起こるイベント。キャスが加わった事で何か起こるか、コルさんと再戦かだろう。
「メランコリーって奴の事も無視できないな」
メランコリーは日本語にすると確か憂鬱。7つの大罪の怠惰と似ている。そうなると悪魔の可能性があるな。何か目的もあるだろうし。
「はぁー…わっかんねぇ。ヒントが少な過ぎる」
椅子に体重を掛けて天井を見上げる。
するとコンコンと部屋の扉がノックされ、俺は扉を開けた。
「荷物置き終わった。アキラは?」
「俺も終わった所。行こっか」
「ん…!」
ミルと2人で階段を降りると、下では既にキャスが待っていた。俺が部屋で呑気に考え事をしていたせいで待たせてしまったな。
「ごめん、遅れた」
「ニャーも今来たとこニャ」
デートっぽいやり取り。だがお互い男だ。
それは兎も角、ここの宿にはテンプレな飯つきじゃないので、どっか食べに行かなくてはいけない。まあ夜に行くとなったら、
「ここだよな!」
宿を出て、少し歩いた所にある酒場。こういう所でご飯に食べるのはお約束だ。ぶっちゃけ酒に酔った奴に絡まれたい。そして雑魚狩りしたい。ここまでがテンプレだ。
「いらっしゃいませーっ!お好きな席にどうぞっ!」
元気な女性ウェイトレスさんをガン見しながら席につく。格好がメイド服…とは違うな。あの格好何て言うんだっけか…給仕服?
『ダンまちと似てる…』
店の造りとか客層がダンまちでよく見た光景だ。ガテン系のおっさん達がワイワイしていて、賑やかだ。煩いくらいに。
「リンジャー炒め、マクマク草山盛り、ロッキー牛のステーキ……」
ナニコレ知らない…メニューの文字は読めるのに、材料が全くわからない。これ頼むの怖いんだけど…
「アキラは決まった?」
「えっ!?あー…えっと………あ、フロッグの揚げ物にするよ」
このすばと同じヤツだと信じて俺はフロッグの揚げ物を注文した。
マジで頼む!ゲテモノじゃありませんように…!
そして暫くして、、
「お待たせしましたーっ!」
テーブルに置かれた様々な料理。そして俺の前にも注文したフロッグの揚げ物が置かれた。
見た目は日本でも見慣れた唐揚げ。しかしこれはカエルの肉だ。日本にいた時でも食ったことねぇぞ…
「い、…いただきます…」
フォークで刺して、恐る恐る口へと運ぶ。先ずは小さく一口噛ってみた。予想していたよりも柔らかく、臭みも無い。むしろ美味しい。
「鶏肉だ…うっま」
カエルなのにジューシーでかなり美味しい。味付けも塩唐揚げっぽくてかなり好みだ。
出来立ての揚げ物って何でも旨いよね。
「そうだ!なぁキャス、今までどんな所を旅してきたのか教えてよ!」
「分かったニャ!面白い事がいっぱいあったニャ~。何話すかニャ」
この世界を少しでも知る為に、キャスの冒険の話を聞いてみた。
キャスはふふんと鼻を鳴らして冒険譚を聞かせてくれた。
八叉の毒蛇や銀色の狼、地形を変える程の戦いを繰り広げるカブトムシとクワガタムシ。
世界を回って様々な生き物と出合ってきたキャスは、それを面白おかしく話してくれたお陰で楽しく食事をする事が出来た。
食事も終わり、宿に戻ったボク達はそれぞれの部屋へと入っていった。
ボクは1人、目撃情報から今後の方針を考えていた。
「……1人で考えるよりアキラと考えた方が…いいよね」
コル兄様とまた戦うかもしれない事を考えると心が暗くなっていく。
でもアキラと一緒に居ればどんな困難も越えられる、そんな気がした。だからボクは部屋を出て隣の部屋にいるアキラの元へと向かい、扉をノックした。だが返事は返ってこない。
「……寝ちゃったの?」
ドアノブに手を掛けると、鍵が掛かっていなかった。不用心だと思いながら様子を伺う為に部屋へと入る。
だがそこにはアキラが居なかった。
「…剣が無い」
それどころかシアンもいない。どこかへ出掛けたのだろうか。それなら誘って欲しかったなっと考えていると、外から小さな声が聞こえた。
「アキラの声…?」
宿の庭からアキラの声が聞こえた。叫び声に近いが、誰かと戦っているような緊迫とした感じはしない。これは一緒に稽古をしている時によく聞くアキラの声だ。
アキラが何をしているのか気になったので、見に行くことにした。
「ハァッ!!セイッ!!──オラァッ!!」
『あれは…自主的に稽古をしてる?』
建物の影から様子を伺うと、アキラは上半身裸で細剣を振り、時に蹴りなどの体術を入れている。今日は魔物と沢山戦ったのに、アキラはまだ自身を鍛えていた。まるで焦っているように。
「もっと…ッ!頑張らないと……この為に俺はここまでやって来たんだ…!──ハァッ!」
何がそこまでアキラを動かすのかはわからない。だけどその眼には確かな強い意思が宿っている。
「何…してるの…?」
「ぇ…?あ…わ、わ、わ!!?み、みみミル!?何でここに?!」
建物の影から出て声を掛けると、アキラは体をビクンとさせてあたふたと驚いている。後理由はわからないけど、女の子のように胸を隠している。アキラはボクに裸を見られるのが嫌なのかな…?
「えっと~…あはは…ちょっと体を動かしたい気分で──」
「ウソ」
「え“っ!?」
「アキラはウソをつくと『あはは…』と作り笑いでそう言う癖がある。何でこんな時間まで稽古してたの…?」
ボクがそう言うと、驚いた表情をした後に苦笑いをするアキラ。
そして少しの間を開けてアキラは口を開いた。
「今日キャスの動きと強さを見てさ……ちょっとだけ…自分の弱さが嫌になってな」
そう小さな声で発し、その場に座り込んだアキラは星空を見上げながらポツポツと語り出す。
「それにさ…俺まだちゃんと勝てた事って無いんだよ。ミルにもジェーンにも…コルさんにもね。勝てるのは知能の低い魔物かチンピラ程度がやっと……ははっ、俺YOEEEってやつか…?」
自嘲気味に笑うアキラは溢れた涙を腕で脱ぐうと、立ち上がって再度細剣を振りだした。
「弱い俺じゃ意味が無いんだ…ッ!強く…強くならなくちゃいけないんだッ!!」
星が輝き、静寂な夜。アキラの声と風を切る音が響く。
「俺にはチートが無い。それでも…ッ諦めきれなかった…!この世界に来て尚更諦めたくないと思った…!」
頬に涙を伝わせながら細剣を一心不乱に振り続けるアキラは、段々と力が無くなっていく。
「どこかもわからない森に放置。最悪スタートだった……なのにそこか這い上がれる能力も技能も加護も俺には無かった……1つも。その時点で下克上が不可になったんだ……………成長を早めるスキルだって無い………俺には…何も無いんだ」
剣を力強く横に振るった事で、風がボクの頬を撫でる。その横払いを最後に、アキラは下を向いて喋らなくなった。
「アキラ」
「…………──ッ!!?」
下を向き続けていたアキラに向かって聖剣で斬り掛かる。
アキラは瞬時に反応して細剣で必死に堪えている。ギチギチギチと刃と刃が擦れる音が庭に響き渡る。
「何も無くなんかない…!アキラは…アキラはちゃんと強い心を持ってる!!まだ諦めてないんでしょ…!?だから今だってこうして稽古してたんじゃないの…!?」
「───」
「その想いがある限り、アキラは強くなれる…!絶対に…!絶対に強くなるって信じてるから!!」
「…っ!!俺は………!!──俺はッ!!」
ボクの押し込みを耐えていたアキラは、地面を踏み込んで逆に押し返してきた。
「強くなるさ…!!言われなくたってな!!俺は夢を絶対に叶える!!」
「っ…!ふふっ…!いつもの顔に戻ったね」
いつものやる気に満ちた顔になったアキラを見て笑みが溢れる。いつもアキラらしくいて欲しい。ボクはアキラの事が大好きだから。
「ミル、悪いが稽古に付き合って貰うぞ…ッ!!」
「いいよ…!気がすむまで付き合ってあげる…!」
そしてボク達は打ち合い続ける。
夜遅く、月明かりが照す中。アキラの気がするまでずっと、、
強い人ばかりの環境で無能だと辛い。
アキラは今、精神的にかなりきています。夢だったステージにいるのにと。
どうかアキラの事は幼い子供だと思って、暖かく見守ってください(笑)




