88話:親友との別れ
早いもんでもう少しで100話ですね。
「えっと…?ここを曲がって………あ、あった」
[砕氷]を習得した次の日、俺は早速異世界初の友人である、ジェーンに会いに来た。別れを伝えるのはいつも辛いな。
「デッカイなぁ……」
ジェーンの住んでいる、フラム家の屋敷。クリークス家とはまた違った造りだが、大きくて広い事は変わらない。
「あの…ジェーンさんは居ますか…?」
「ん?誰だ貴様は──って…剣闘大会でジェーン坊っちゃんと戦ったアキラ、だったか?」
「そうですそうです!」
俺は門番の方に、ビクビクしながら聞いてみる。クリークス家では怖い思いをしたから心配だったが、どうやらこの人も俺を認知しているようだ。剣闘大会ってスゲェ。
「ここで待ってなさい」
そう言って門番の方は、屋敷の中へと急ぎ足で向かっていく。
暫く門の前で光魔法かっこいいポーズ(アーチャーVer)をして待っていると、赤髪の青年がやって来るのが見えた。
「よく来てくれたな、アキラ!入れよ!」
眩しい笑顔でそう言いながら俺の背中をバンバン叩く。力強いよ…痛いし。
「んで?いきなり来てどうしたんだ?」
「ああ、実はこの国を出る事になったんだ」
「マジかよ!?なんだよ…折角仲良くなれたと思ったのになぁ…」
「ごめんな…」
屋敷へと続く道を歩きながら、今日来た理由をジェーンに伝えると、残念そうな表情と共にガクッと力を無くした。俺も辛い。ジェーンとはこの世界で1番の友人だから。
『まぁ…友人がジェーンしかいないんだけどね』
だから必然的に1番に──ってそれはどうでもいいんだよ!
「なら今日はそれを言いにわざわざ来てくれたのか」
「ああ、ジェーンは俺の親友と言ってもいい程大事な奴だからな」
「アキラ……うしっ!アキラ、ちょっと着いて来い!」
一瞬泣きそうな顔をしたジェーンは、手に掛けた扉から離して庭のどこかへと行く。
俺は取り敢えず言われた通りに着いていく事にした。
「ここは…」
「フラム家の練習場だ。オレ達は親友だが、凌ぎを削るライバルでなにより男だ。湿ったれた話より、こっちの方が分かり合えるだろ?」
そう笑顔で木剣を投げ渡してきたジェーン。俺は親友と言ってくれた事が嬉しくて、一瞬うるっと来たが、それを抑えてジェーンの前に立った。
「そうだな、俺達にはこれが1番合ってる。剣闘大会では敗けたけど、今日は勝つよ…!」
「おう!オレも敗けねぇ!全力で掛かって来い!!」
そして俺達はそれぞれの全部を乗せて、木剣をぶつけ合った。
ジェーンから伝わった熱い想いに、俺は答えるように木剣を振るう。ジェーンとは気もあって、すぐに仲良くなれた。日は短いかもしれないが、そこに友情があったの本当だ。
「ありがとな…!ジェーン!!」
「オレの方こそ楽しかったぜ!アキラ!!」
鍔迫り合いのようにお互い木剣が重なり合う。その瞬間に俺とジェーンは感謝の言葉を乗せて好戦的な笑みを浮かべる。
ミルと打ち合う時とはまた違った想いを込めて。俺達は長い間剣をぶつけ合った。
時間も気にせず打ち合った俺らは、疲労でその場に寝そべりながら空を見上げていた。
「なぁ…ジェーン」
「なんだよ、アキラ」
「もし俺が死んでも、ダチでいてくれるか?」
「ははっ…なんだよ、死ぬのか?」
「バーカ、死なねぇよ。…でも俺はまだまだ弱い。この世界でいつ死んでもおかしくないくらいにな………だからもし死んでも、俺の事を忘れないで欲しいんだ」
俺がそう言い終わると、ジェーンは上半身を起こして俺の顔を真っ直ぐと見つめて、
「バカはお前だよ、アキラ。──忘れるかよ、お前は俺の親友だ。例え何があろうとも、それこそ死んだとしても、ずっと、な」
最後にニッと笑い、俺に手を伸ばすジェーン。それを俺は1滴の涙を流して掴んだ。
「ホント…!ありがとなっ…!」
「んだよ、泣くなよアキラ!」
ホント涙脆いな、俺は。どんどん出てくる涙が止まらない。
ジェーンは笑いながら俺の背中を優しく擦る。それがまた一段と…!
その後、ジェーンの住んでいる部屋へと通された俺は暖かいミルクを貰い、一息着いて涙も漸く止まった。
『俺なんだか子供みたいだな……全体的に幼くなってる気がするが…気のせいだよな?』
もし脳まで若返らせていたのなら、俺はリコスをシバく。ぜってぇシバく。若返りのメリットは記憶とかを引き継いでいるから良いんだろうが。……あれ…?でも記憶は一応あるし、特にデメリットは無いな。強いていうなら子供っぽくなったくらい?なにその怒るに怒れないやつ。
「もう会えなくなる訳じゃないんだけどな、何か泣いちゃったよ」
「ははっ!確かに。またいつでも会えるさ、そうだろ?」
「だな!またジェーンに会いに来るよ」
「いつでも待ってるぜ!」
お互いに笑い合い、硬い握手をした。この世界はとても広いが、また会いに来る。沢山の景色を見て、己を鍛えたら必ず。
その後、俺はジェーンに別れを言って屋敷を後にした。元気に手を振ってくれている姿を見ると、また泣き出しそうになる。
そしてその足で俺は武器屋へと向かった。そこで俺は、
「なんだこれは…!!」
「おっ!兄ちゃんはいい物に目をつけるな!」
目を輝かせながら、俺は武器屋に置いてある真っ黒の手甲を手に取った。店主のおっちゃんも息を荒くして興奮している。何故ならそれは…
「こいつぁ仕込み手甲でな?この引き金を親指を掛けて、指を強く曲げると──」
ジャキン!っと手甲から30cm程の刃が出現した。そう、これは男が憧れる“仕込み系“の装備だ。
「おっちゃん!これください!」
「でもいいのか?兄ちゃんは剣士だろ?使わねぇだろ」
「それでも、です!」
剣より短い刃は使わないだろうけど、ロマンだよロマン。俺はいずれあり職の南雲ハジメのように二挺拳銃もするつもりだ。
俺は一体どこを目指しているのだろうか…格好だけ見たら訳がわからないぞ。
取り敢えず仕込み手甲を購入した俺は、早速装着してその上にロングコート羽織る。
うーん我ながら惚れ惚れするぞ。…お金が無くなってしまったが。
そしてアキラは買ったばかりの手甲をニタニタしながら見つめて屋敷へと帰った。
途中刃を出して遊んでいると、職質されたのは言うまでもない。
アキラは様々な【なろう】を見すぎた結果、色んな方向に憧れてしまい、結果変な格好になってしまいました。本人はかなり満足していますので、何も言わないであげてください。




