87話:パッパからの頼み
昨夜の晩餐会では、圧倒的美少女力を見せ付けたミル。貴族の坊っちゃん達から大人気だったのだが、ミルは隠しもせずに滅茶苦茶嫌そうな顔していたのが笑えた。
そして今、、
「ほう、[終雪]を2つ取得しているのか」
「ええ、まぁ…まだまだ弱いんですが」
クリークス家の当主として、なんでも魔境というどこか遠くへと仕事に行っていたミルの親父さんこと、フリード・クリークスさん。今俺と一対一でお話をしている。お話を、ね…
ミルとはどこで会ったのか、2人で何をしていたのか、どんな会話をしたのか等々…凄い質問攻めにあっている。助けてミルえもん…
「成る程な。フム…」
腕を組んで何かを考えているとフリードさん。弟子を辞めろとか言わないでね?いやマジの話で。俺の戦力はミルから教わった[終雪]だけなんだから…
「まあ、色々と思う所はある。だがミルが弟子として認めたのなら、私が出る幕は無い。頑張ってくれよ、アキラ君」
「っ…!は、はい!」
最後は穏やかな表情でそう言ったフリードさん。パッパ面接は無事に通過したようだ。良かった。本当に良かった。
「良かった…認められて。でも、父様に何を言われても、ボクはアキラを強くするつもりだったけど」
いつの間にか部屋の扉の前に立っているミルは、そう言いながら紅茶の入っているポットとティーカップを持って、俺の座っているソファーの隣に腰掛ける。
『おっ!ミルクティーだ!俺好きなんだよなぁ』
用意されたポットには、普通の紅茶ではなくミルクティーが入っていて、俺のテンションぶち上がり!…ぶち上がりってきょうび聞かねぇな。
「ミル、彼の師となったからには、責任を持って指導しなさい」
「はい、父様」
『その言い方だと、何か俺犬みたいじゃね?拾われてきた野良犬的な。なんだろう…なんな釈然としないな…』
そう考えながら、俺はミルクティーを一口飲む。美味い。けど日本のやつとは違うな。あんまり甘くないし。
「…そうだ、ミルに大事な話があったんだった」
「あ、なら俺は席を外しましょうか?」
フリードさんもミルクティーを飲んで一息入れると、突然そう言い出した。大事な話なら外そうと思ったのだが、フリードさんはすぐに
「いや、構わないよ。アキラ君にも関係は無いとは言いきれないからな」
そう言って立ち上がった俺を座らせる。
俺にも関係のある話ってなんだろう。
「長男のコルの事だ。アキラ君には迷惑を掛けたとマグから聞いているよ。うちのバカ息子がすまなかった」
「いや全然平気ですよ!?だから頭を上げて下さいっ!」
そう言って俺は頭を上げてもらった。
しかしコルさんか…確かに大事な話だろう。なんせ予想通り闇落ちしちゃったんだからな。もっと早くにミルに伝えとけば良かったかな…
「【次元の裂け目】を引き起こした者と、何らかの関わりがあるコルは未だに見つかっていない。例え見付かっても、邪剣を扱う者を止められるのはほんの一握りの者だけだ」
フリードさんは小さくため息を吐いた後、俺とミルへと顔を向ける。その表情は真剣なとので、自然と背筋が伸びる。
「クリークス家の者が起こした事はクリークス家の者が尻拭う。ミル、お前にはこの国を出てコルを探しだし、連れ戻して貰いたい」
突然の話だった。
しかしうーん…俺的にはイベントに乗りたい所ではあるのだが、その場合俺はどうなるの?屋敷で待機?うっそやろ?
「……アキラとの稽古はどうなるんですか?」
「無論お前の弟子だ、共に行動して構わない」
良かった、俺も行ける感じだ。でも大聖堂でのイベントはどうなるんだろう。あんだけデカイ建物なら、絶対ある筈なんだけど。なろう次郎もどうせまだいるんだろうし。
そう考えていると、暫く黙っていたミルは俺の方へと向いて口を開いた。
「………アキラは一緒に来て…くれる?」
「勿論行かせて貰うよ。ミルとなら例えコルさん相手でも怖くないし!」
「っ…ありがとう、アキラ。──分かった。父様、ボク…コル兄様を絶対連れて帰るよ…!」
「ああ、頼んだぞミル。それにアキラ君もね」
「は、はい!」「はい」
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「なあミル…!いつ、この国を…!──出るんだッ!?」
「うーん…ボクはいつでも平気だけど、アキラはどう?」
「そう…ッ!だなッ──!俺も特に用は…ッ無いけど…!せめてジェーン…!!には別れは言いたい、なッ!!」
「分かった。なら出発は1週間後にしよう」
フリードさんからの頼みの後、いつも通りミルと稽古に励んでいる。
ミルはいつも通り平然と鬼畜な所を狙った高速突きを放ちながら会話している。俺はそれを受け流して少ない反撃しかできない。
それは兎も角、出発は1週間後に決まった。その間にジェーンに別れの挨拶をして、色々準備もしておこう。投げナイフとか使いきっちゃったし。
「そこ」
「う、グッ…!!?」
そんな事を考えながらミルに攻撃を仕掛ける。だがそれはミルの罠。またしても誘いに乗ってしまった俺は、木剣の柄頭で腹を強打された。
「やっぱりアキラは打ち合いする度に強くなってる」
「じ、実感が…っ無いよ……ゴホッ!ゴホッ…」
「この調子でもう少しやれば[砕氷]を習得出来るよ」
「つ、つまり…もっと打ち合う、と…!?」
可愛らしくコクりと頷いたミル。
お、俺は知ってるぞ…!こういう時のミルはマジで容赦無い事を…!!
「じゃ、やろう」
「か…!掛かってこいやぁぁぁ!!」
まるで魔王のようなオーラさえ感じるミルを前に、俺は頬を叩いて気合いを入れて立ち向かう。俺が弱いからといって、勝てないとでも思ったか?
そして…18分と46秒後、、
「へぶはっ!!?」
「ん、今のは凄くいい」
意気込んだからと言って、俺が勝てるとでも思ったか…?
それはさておき、結構善戦したのではないだろうか。体感では1時間戦った気分だよ。
「後少し、後少しやれば絶対[砕氷]を習得出来る。だから──」
「…!待った待った!!休憩をさせて下さい…!お願いします!」
90度で頭をミルに向かって下げて、俺はそう悲願する。体力面も集中面もキツいが、なにより木剣が当たった部分がとても痛い。ポーション下さい…
「いいよ、少し休憩しよう」
「や、やった…」
俺はその場に倒れて息を吸い込んでは吐き出すを繰り返す。ほんっとに神経使ったわ…神経を使って回避してんのに、ミルは俺の少ない隙を突いてくるからたまったもんじゃない。
『主人公のような人生を歩むどころか、ミルやコルさんにも届かないようじゃダメだよな』
「……道が遠いなぁ…」
「…?」
ふと小さくそう溢れた。
ミルは不思議そうな顔をしているので、『何でもないよ』と言って、不味いポーションをイッキ飲みして稽古を再開した。
そして俺はボコボコになりながらも、遂にミルからOKを貰い、[砕氷]を習得することが出来た。
次の章は近いかも。
アキラはこれで[終雪]を3つ習得。未だに戦力がこれってなろう主人公としてどうなの…?
フリード・クリークス 48歳
ミルやコルと同じ薄灰色の髪の毛をした、クリークス家の当主。ミルと同じく[終雪]を全て習得していて、魔境と言われる場所で剣を手に戦っていたが、ミルが聖剣に選ばれたという情報を聞き付けて、早急に仕事を終わらせてきた。




