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83話:聖剣と邪剣がぶつかる時

ブックマーク50突破!ありがとうございます!

『ヤバ…い……体が……動か…ない…』


コルさんから放たれた渦巻く水竜。それに飲まれた俺は、身を裂くような痛みと共に地上へと落とされる。背中にいるシアンもダメージを受けたようで、俺にまで痛みを感じた。


「フハハハッ!!所詮は無能の雑魚!雑魚がどれだけ足掻いても強者には決して届かない!」


高笑いをするコルさんを前に、俺は立ち上がることも出来ない。

俺がちゃんとした主人公なら…補正で勝つことが出来たと言うのに…


『せめてミルだけでも逃がせれば…!』


例えここで死んだとしても、ミルが無事なら俺の勝ちだ。

そう考えていた時だった。


「な、何だ…!?」


強烈な寒気が体を震わせる。一体何事かと辺りを見渡すと、ミルの前に突き刺さっている氷のような細剣が目に入った。


ミルはその突き刺さった細剣を両手で握り、ゆっくりと引き上げた。

引き抜いた瞬間、その細剣から凍てつく吹雪が生まれた。


「何なんだ…!?この強烈な力の波動は……まるで俺のレイニングネブラと同格…!?」


「そう、これはボクの新たな力……聖剣・銀零氷(ぎんれいひょう)グレイシャヘイルだ…!この力で…コル兄様、貴方を止める…!!」


「また…!またお前は俺を越えると言うのかァ…!!!?」


聖剣を構えたミルの背後では、吹雪が吹き荒れる。片やコルさんの背後では豪雨が降り注ぎ、雨と雪の境界線で激しくぶつかり合う。


「俺の前から…!──消えろぉぉッッ!!」


コルさんは下から切り上げるように邪剣を振るうと、石畳に出来た水溜まりが刃と化してミルへと進んでいく。その姿はまるで背鰭を出した鮫のようだ。


「………」


ミルは無言で聖剣を横払のようにゆっくりと振るうと、向かって来ていた水の刃は瞬時に凍結。そしてすぐさま砕け散る。


「[氷雪天来(ひょうせつてんらい)]」


今度は逆にミルが聖剣を上から下へと振り下ろすと、ミルの背後で吹き荒れていた吹雪が、コルさん目掛けて突き進む。

コルさんはすぐさま雨を集め、巨大な水の球体でシールドを張るが、絶対零度の如く水を球体を凍結し、そのまま貫通してコルさんを襲った。


「あれが聖剣の力……いや、ミルが力を引き出しきれている、と言ったところか?」


痛みが漸く引いてきた俺は、ゆっくりと立ち上がり、吹き荒れる吹雪の中にいるミルを見つめた。ここで俺が下手に加勢でもしたら、逆に足手まといとなってしまう為、思うように動けない。


「クソッ…結局俺は何も出来ないのかよ…!」


自身の無力さを痛感しながらも、ミルが勝ってくれる事を信じて見守り続けた。


──────────────


初めて手に取った筈なのに、まるで昔から扱っていたかのように馴染む聖剣・銀零氷グレイシャヘイル。


『今ならコル兄様相手でも負ける気がしない…!』


そう思える程に、不思議と力が沸いてくるのを感じた。

次々と命を狙った水の刃や弾丸が襲い掛かるが、恐るるに足らない。


「コル兄様の攻撃は全て凍らせる……もうこんな事、止めてください…!」


「ふざけるな…!漸く俺はこの力を手に入れたと言うのに…ッ!お前という奴はぁ…!本当に憎たらしい…!」


血走った目付きでボクを睨み付けてそう発したコル兄様は、降り続ける雨を集め、水流に乗って超高速で接近してきた。


「例えお前が聖剣に選ばれたとしてもッ!!俺が上だという事は揺るがないッ!!」


「っ…!く、[氷晶(ひょうしょう)]…!」


コル兄様らしからぬ力任せに振るわれた邪剣を、グレイシャヘイルで受け止める。剣から伝わる衝撃に手を痺らせながらも、六角形の形をした氷の結晶の盾で身を守る。


「無駄だッ!!」


「っ…!?」


展開した氷の結晶の盾は、雨を一点に集めた高威力の水圧により貫通。

そして邪剣を振り翳して迫るコル兄様。


「っ…!!」


目の前を舞う鮮血。

だがそれはボクのモノではなかった。


「お前はまた俺の邪魔をッッ!!!!」


「へへっ…!せめてミルを守る盾ぐらいにはなって、やるさ……!」


ボクの前に飛び出てきたのはアキラ。

アキラはコル兄様から放たれた斬撃を、その身で受け止めたのだ。


「アキラっ!!!」


降り積もった雪に倒れるアキラ。その胸からドクドクと血が溢れ出ている。

予想だにしない事態に、ボクはパニックとなりアキラに駆け寄った。


「何で…何でこんな無茶をっ…!」


「ごめん、ミル………俺馬鹿だからさ…作戦とか立てるの苦手なんだ……どうすればミルの力になれるか、そう考えたらこれしかなかった」


「だからって…!」


白い雪を紅く染め、荒い息遣いでゆっくりと喋っていたアキラは、突然起き上がり細剣を横にする。


「はぁ…!はぁ…!クソ……こういう時は攻撃してこないもんだろうが…!ゴホッ、ゴホッ…!」


何が起こったのか振り返り確認する。そこではコル兄様が邪剣をボクに振り下ろし、アキラが両手を震わせながらコル兄様の邪剣を受け止めていた。


「離れて…!!」


すぐさまコル兄様に手を向けて、吹雪を飛ばして距離を取らせる。

そして倒れているアキラの胸に手を当てて氷魔法[(アイス)]を使用する。


「お願いっ…止まって…!」


荒治療だが、少しでも止血する事が出来ればと思い、意識を集中して傷を塞いでいく。

少しずつ傷を凍らせ、ひとまず血を止めることが出来た。


「舐めやがって…!!そんな無能なんかどうでもいいだろうがッ!!」


「五月蝿い……」


「あ?」


「五月蝿いって…言ってるの!!」


怒りに満ちた表情で聖剣をコルに向けて振るうミル。吹き荒れる吹雪は無数の氷の刃へと変化し、コルを襲った。


「コル兄様……ボクは勝って、貴方を止める。だから──次で決める…!!」


「ハッ!お前に止める事は出来ねぇよ。決めるのは──俺だ」


両者が手に持つ聖剣と邪剣を構え、それぞれが出せる最大の技の準備に入る。

吹き荒れる吹雪と降り続ける雨。その両方が突然止まり、そしてその時が来た。


「[天牢雪獄(てんろうせつごく)]っ…!!」


「[黒風白雨(こくふうはくう)]ッッ!!」


ミルが放った[天牢雪獄]は豪雪が如く、全てを白に染め上げる吹雪が空へと舞い上がり、コルを埋め尽くす程の雪が襲う。

そしてコルが放った[黒風白雨]は豪雨が如く、激しい雨と水流で辺りを黒くする程の雨がミル目掛けて突き進む。

両者の最大の技がぶつかり合い、激しい突風や衝撃波、地響きが街に響き渡る。


「絶対に…負けない…!アキラが後ろにいるのに負けられない…!──勝つのはボクだああああ!!!!」


「こんなっ…!こんな事がある筈が無い…!!最強は俺なんだああああッ!!」


腰に力を込めて、ミルの技を踏ん張り耐えるがコルだが、段々と力が増していく事に焦りを感じていた。


『こんなバカな事があるか…!!俺は邪剣に選ばれた筈なのに…!!』


──俺はまだ貴様を認めた訳ではない。グレイシャヘイルを使う娘に負けて当然だな。


『誰だッ!?』


頭に聞こえた声に、コルは質問するがそれ以降声は聞こえてはこなかった。

そして、


「──はああぁぁぁぁぁああっっ!!!!」


「グッ…!!こんな、バカなああああッッ!?!?」


ミルは最後に押し込むと吹雪の威力は更に増し、コルは吹雪に飲まれた。吹き荒れる吹雪は竜巻のように渦巻き、曇っていた空へと届いた暴風雪は雲を巻き込み天候を変えた。


「はぁ……はぁ……っ…!勝っ、た…」


強烈な一撃を放ったミルは、神経を使う激戦により披露で膝をつく。そしてミルは吹き止んだ吹雪から見える倒れたコルに視線を向けた。


「あらあらあら~折角お膳立てしたのに負けちゃったか。ま、目的は達成したから良いよねっ?思わぬ収穫もあったしぃ♪」


「ぁ………メラ、ン……コリー…………っ」


「はいはいはい、何かなぁ~?お話は後で聞くよ。今は……ちょっと都合が悪い、かな?」


何処からとも無く現れた黒ずくめの男。男は最後に此方に視線を向け、生理的嫌悪する笑みで、


「んじゃ、まったねぇ~♪」


ミルに手を振って、黒ずくめの男はコルを担いで、出現させた黒い穴へと消えていった。ミルはそれを止める事も出来ない、一瞬の出来事だった。


「…………アキラ」


暫く黒い穴があった場所見つめた後、ミルは倒れて気絶しているアキラの隣に座った。

そうしていると、街の通りから複数の地竜が此方に向かって来ているのが見えた。


ミルは地竜が到着するまでの間、アキラから離れずに、隣で眠るアキラの髪を愛しそうに撫で続けた。

銀零氷(ぎんれいひょう)グレイシャヘイル

氷を司る聖剣であり、雪や氷を操ると同時に生み出す事が出来る。

凍てつく冷気を常に出しており、所有者以外が触れると一瞬で凍りついてしまう。

氷のように、硬く絶対的な意思に反応して目覚める聖剣。

ミルのアキラを“絶対に守る“という強い意思に反応して目覚めた。

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