81話:弱くてごめん
感想、レビュー、アクセス1900越え、ブックマーク10増える。
これ全て1日で起きた出来事です。
嬉しすぎてガチ泣きました…!
「漸くだ…漸くこの時が来た」
まるで蒼黒い細剣に取り憑かれたように薄気味悪く笑うコル。
その顔は俺達の援軍に来た様子ではない。
「どういう…事なの…?コル兄様…!」
「言った筈だ、お前を越えると──なッ!!」
コルが細剣を振ると、巨大な水の刃が生まれ、そして凍結する。俺の[氷月刃]とは比べ物にならない大きさの氷の刃へと変化した。
「ッ…!」
「うっ!?イ“タ“ッ!!」
俺の背中に激痛を感じると同時に空へと浮かび上がる。確認せずとも分かる。シアンが背中に寄生した時の感覚だ。
下を見下ろすと、魔物達で溢れていた街が魔物ごと大規模に凍結している。
「ミ、ミル!!」
「平気…だけどこの威力は…」
ミルの事を探せば、近くの屋根の上に移動していた。ジャンプで屋根の上に移動できている事に驚きながらも、俺はコルさんから放たれた威力に恐怖する。
『確かに少し剣を振った程度でこの威力はおかしい…』
何が原因でこのような威力を生み出したのか考えていると、俺は1つの答えが出る。
「さっきコルさんは禍雨レイニングネブラと言っていた……コルさんが持っているあの剣は、邪剣なんじゃないのか!?」
「っ…!そんな、まさか…」
前にフリューゲル家で読んだ【聖剣と邪剣伝説】でそんな名前が載っていた筈だ。だとしたらコルさんは邪剣に選ばれたということ。
「でも…だとしたらこの状況は不味い…」
「ああ、そうだろうな…あの表情からして、俺達を殺すつもりだろう」
俺は少し離れた場所にいるコルさんを見ながらそう呟く。
コルさんは俺達を見ながらうっすらと笑い、余裕の様子だ。そして少しの間を置いてから、コルさんは[氷冠]と似た動きをすると、大量の雨粒が空中に生まれて静止する。
「[凄雨]」
呟くような小さな声と共に、静止していた大量の雨粒は一斉に俺達の元へと飛ばされる。それはまるで散弾銃。速さも相まって、とても受け流す事は不可能。
「ミル!!」
「…!」
俺はミルを抱いて更に空高くへと舞い上がる。突然抱いたのは申し訳無いが、あんなのを食らってしまえば即蜂の巣だろう。
「邪剣使いが相手ではまともな勝負にはならない…!コル兄様が使っていたら尚更…」
「ッ…やっぱりそうなのか。なら六剣の内にいる聖剣使いに助けを求めに──」
俺がそう言いかけた瞬間、空中に黒い穴が出現して中から黒ずくめの男が出現した。
「ダメダメダメ~そんな厄介な事はしちゃダメだよぉ♪」
まるでこの状況を楽しんでいるかのような声色で黒ずくめの男は言った。
どういう能力か分からないが、本能的に危険な物を感じてすぐさまシアンの羽を羽ばたかせて距離を取った。
「逃げられちゃ面白くないからね~、ここ一体には結界を張らさせて貰ったよ♪」
「なっ…!どういう事だ!」
「ん~?教えても良いけど、いいの?」
怒鳴った俺を愉快そうにそう言った男は、下を指してニヤッと笑う。
俺はすぐさま下を見ると、雨が下から上ってくる。さっきの雨の弾丸だ。
「アキラ…![氷冠]を…!」
「分かってるよ…!!」
雨の弾丸を防ぐために、ミルと俺は氷塊を生み出して盾にする。先に放ったミルの[氷冠]は、あっという間に貫通し、後に放った俺の[氷冠]にさえヒビを入れる。
「クッ…!耐えきれないか…!」
「平気、この威力なら…!」
ミルの言葉と同時に、氷塊が粉砕する。だが向かってきた雨の弾丸はミルによって全て弾かれる。
「さ、流石…」
ミルの人間離れした身のこなしに思わずそんな言葉が出てきたが、すぐに思考を回転させていく。
『さっきの男の言っている事が本当なら、結界で俺達は出ることが出来ない…。魔物はいないが、それ以上にコルさんが化け物過ぎる…!クソ、こんな時の為のなろう次郎なんじゃないのか!?』
チートを持っているであろうなろう次郎に悪態をつくと同時に、この状況を打破できる力の無い自身を恨む。
『…?雨?───ッ!!?』
少ない知識を振り絞って、この状況から抜け出す方法を必死になって考えていると、空から1滴の水が落ちてくる。段々と強くなっていく雨。
その雨が俺達の周りで停止した。
停止した雨は俺達にまとわりつくように集まり、巨大な水の球体の中へと閉じ込められる。
『グッ……ヤバ…い!息が…っ…!』
水の中へと閉じ込められた俺達は、そのまま地上に向かって落下する。
下は不味い。下にはコルさんがいる。
そんな俺の考えは虚しく散り、地面に叩きつけられた痛みと共に水の球体から解放される。
「ケホッ…!はぁ…はぁ……はぁ…ミル、大丈夫か…!?」
「う、ん……ケホッケホ」
ずぶ濡れになりながらもミルが無事なのを確認して安心した。そして繋がっているシアンも平気らしい。
「逃げるな。俺と戦え」
雨に打たれながら、殺意の籠った目と共にゆっくりと歩み寄ってくるコルさん。その手には邪剣が握られており、いつ振られてもおかしくない状況だった。
「………分かった、戦う…」
「そうだ、それでいい」
ミルはゆっくりと立ち上がり、コルさんに向けてそう小さく言った。
コルさんは笑みを浮かべて邪剣を構える。
「でも──!!でも…アキラは……見逃して、下さい…お願いします…!」
声を張り上げて頭を下げたミル。その体は震えていた。雨で凍えてるんじゃない。これから始まる殺し合いに恐怖している。
それなのに…ミルは俺を守ろうとしている。
「…フンッ、良いだろう。俺はお前と殺り合えればそんな無能などどうでもいい」
コルさんがそう発すると、ミルは俺の方へと振り返り、いつものように微笑んだ。
「…アキラはボクの弟子だから何があっても守る。…だから安心してね」
微笑んでそう言ったミルだが、目尻には涙が溜まっていて、今にも溢れ出そうだ。
「ボクが戦っている間に…アキラは逃げて…!」
「そんな…そんなの出来るわけ無いだろッ!?それじゃあまるで別れの言葉じゃないか…!」
「フフッ…!アキラは優しいね」
涙を流すミルの姿を見て、俺も同じく涙を流して声を張り上げる。
ミルは分かっている筈だ。コルさん相手では勝てないことが。それなのに…それなのに…!
「はぁ…面倒だなぁ…!」
コルさんが細剣を振るうと、突風が生まれて俺をミルから離した。
そして[氷冠]を放ったのだろうか。ミルと俺の間に氷塊で出来た壁が生まれた。
「ミルッ!ミルッ!!!」
俺は氷の壁を叩いて向こうにいるミルに向かって叫ぶ。壁の向こうにいるミルは涙を拭って小さく俺に手を振って、
──バイバイ
声は聞こえないが、確かにミルはそう言った。
ミルはそれを最後に背を向けて細剣を構える。
「ダメだミル!!戦っちゃダメだ!!ッ…ダメだよ……」
何度氷の壁を叩いてもミルは戦いを止めない。壁の向こうで繰り広げられている激しい戦いを前に、俺は何も出来ずに見ていることしか出来ない。
「クソ……クソ…!クソッ!!!!」
氷の壁を何度も殴り付けて俺は叫ぶ。何度も何度も、自分の無力さに怒りを覚え、拳から血が出るのも構わずに殴り続けた。
ミルが決死で戦っているにも関わらず、俺はただ怒りに任せて氷塊を殴る事しか出来ない。
そんな自分が嫌いになり、俺は氷塊に頭を打ち付けた。
「ごめん……ッ……弱くてごめん…ッ!!」
額から血が流れるのを感じた。だがそんなのを気にせずに、俺は涙を流しながらミルにやるせない届かぬ想いを呟いた。
禍雨レイニングネブラ
水を司る邪剣であり、圧倒的な力を宿す。また、水全般を操る事も出来る。
強い渇きに反応して目覚める邪剣。レイニングネブラは、コルの力を求める渇きに反応して所有者として認めた。
邪剣と言われているが、心汚染や精神破壊などのデメリットは無い。




