77話:過去のお話
ブックマークが本当に嬉しいです。まさか29まで行くとは…
「あ、れ…………ここは………」
重い瞼をゆっくりと開けると、知らない天──いや、知ってる天井だったわ。
ひとまずベッドから体を起こそうとすると、全身に激痛が走った。
「あー…そうだ、俺はコルさんに…」
とても恐ろしい事を思い出してしまった。あの人は完全に殺しに掛かっていた。もし俺があの時回避専念ではなかったら、今命があるかも怪しい。
誰かいないかと、俺は頭を少し動かして辺りを見渡す。するとベッドに体を預けて寝ているミルがいるではありませんか。
しかも俺の右手を掴んでいる。
『~~~~っ!?!?』
思わず奇声を上げそうになったが、何とか踏ん張り我慢をする。こんな漫画みたいな展開がホントに起こるとは…正直ビックリだ。
「ん………ぁ……アキラ…?」
俺がどうすればいいか今までに無いくらい必死に考えていると、ミルがゆっくりと目を開けて起きた。まだぼんやりとしている。
「ようミル……おはよう?」
窓から外を見た感じだともう夕方なのだが、咄嗟におはようと言ってしまった。
ミルはぼんやりとしていた目を見開き、突然俺に抱き付いてきた。
「アキラ…!!」
「イタタタタ!!」
俺の名前を呼びながら抱き付いてきたミル。その体と声は震えていて、『良かった…良かった…!』と何度も小さく呟く。
何だかよく分かんないけど、取り敢えず抱きしめないで…?嬉しいけど…嬉しいけどさぁ…!体が猛烈に痛いのよ!
「み、ミル!ちょいタンマ!痛すぎて泣いちゃう!」
俺のそんな言葉など聞こえていないかのように抱き付くミル。ある意味異世界で初めて主人公っぽい展開だが、今じゃない。
何を言っても離れないし、情けないが今の俺じゃミルを剥がすことも出来ない。ひとまずミルが落ち着くまで我慢する事にした。
「落ち着いた…?」
「………ん」
あれから何分かした後、ミルは漸く俺から離れてくれた。背中をポンポンと叩いたのが功を成したな。
ミルは涙を拭いていて何も喋らない。何処と無く『気まずい…』と感じていると、ミルは小さな声で話し出した。
「死んじゃったかと…思った…」
「ああ……俺も本気で殺されると思ったよ…」
そんなに俺が嫌いなのか?もしやコルさんシスコン?妹に近付く輩は全て殺す的な?だとしたらミルに対しての対応を変えた方がいいと思うが。
「ごめんアキラ……こうなったのはボクのせいだ…」
「何でミルが謝るんだよ。これは俺が弱いのと……あんまり言いたくないけどコルさんのせいだろ?」
「違う……こうなってしまったのも全て、ボクの…せいなんだ…!ボクがいるからコル兄様はあんな…」
ポツポツと語りだしたミル。その声はとても悲しく、寂しい声。
俺は涙を流すミルの背中を擦りながら話を聴いていく。
「コル兄様は昔は天才だと言われてた……想像も出来ないような稽古を積み、日々剣の為にその身を捧げる。誰にでも優しくて誠実で…そんな人だった……でもボクが剣を手に取ってからは変わってしまった…」
それだけではとても信じられないような事を言い出したミル。今のコルさんとは全く違う。
「ボクが剣を学び始めてからコル兄様は変わってしまった……ボクが[終雪]を習得する度に、大会で優勝する度に…日に日にボクヘの態度は変わっていった…」
俺はミルの話を黙って聴きながら考える。ミルは俺から見ても天才だ。それこそ俺が何日も掛けて習得した[氷冠]を2刻でコツを掴む程に。そして今の俺と変わらない歳にも関わらず、次期当主になるくらいに。
コルさんはきっとそれが許せなかったんだろう。どれだけ努力を重ねても、天才には届かないと悟ってしまったんだろう。
『だからあの日コルさんは『何でアイツに届いて俺に届かねぇ!』って叫んでたんだろうな…』
今もきっと誰の目にも入らないような場所で稽古はしているんだろう。それはあの日のコルさんの様子から分かった。
コルさんが少しずつ積み重ねた努力を、ミルが軽々と才能で越えていった。それが今のコルさんとミルの関係を作った。そういうことだろう。
「ミルはコルさんと和解…したいの?」
「………」
「……ミル?」
俺の声に反応しないミル。あれ?と感じた俺はミルの顔を覗き込む。するとミルは一定のペースで寝息を立てていた。背中を擦っていたのが仇となるとは…
「色々背負い込みすぎなんだよ、ミルは。相談なら乗ってやるし、ミルの為なら協力だってするから……」
ミルの背中を擦りながら誰に言うでもなく呟く。さてミルをどうしようか。このまま寝かせるには辛い体制だろう。
「しかし…お姫様抱っこは出来ないしな…」
しかしこの展開で連れていかないのは絶対無しだろう。頑張れ俺。痛む体に鞭を打つのだ。
「よいしょっと……軽いな」
痛いのを我慢してミルを背負う。ミルはちゃんと食べているのか心配になる程軽い。
「背負ったはいいが…部屋どこだよ…」
部屋の扉を開けて廊下に出たまでは良かったが、ミルの部屋を知らない俺は廊下をウロウロとさ迷う。
「おや…?お目覚めになったのですね、アキラ様」
「あっ、マグさん…!ご迷惑お掛けしました…」
「いえ、これはコル御坊ちゃんのしたこと。アキラ様が謝ることではございません。それよりミル御嬢様は…」
そう言ってマグさんは俺の背中の方へと視線を向けた。
「あー…泣き疲れちゃったみたいで……申し訳ないんですがミルの部屋ってどこに…」
「此方です。…その御体では辛いでしょう。私がおぶりますよ」
「すいませんね、お願いします」
ペコッとマグさんに頭を下げてお礼を言うと、マグさんは『いえいえ』と優しく微笑む。
そしてミルをマグさんに預けようとしたのだが、、
「離れませんね…」
「マジすか…?」
がっちりと俺を掴んだミル。マグさんも起こさないように頑張っているのだが、一向に離れようとしない。どこにそんな力があるんだよ。
「…もうこのまま運んじゃいますね」
「御願い致します…」
ちょっと微妙な空気になったので、俺はそのまま部屋へと運ぶ事を決めた。
「ふい~到着っと」
マグさんに教えてもらった部屋へと到着し、ベッドにゆっくりとミルを下ろして任務完了。何故かベッドに下ろす時は離れてくれた。もっと早くそうして欲しかった…!
「さて、野郎はさっさと退散しますかね」
ミルの部屋は正直女の子っぽさの無い部屋だが、何か緊張するのでさっさと退散する事にした。
──ありがとう…アキラ
「んえ…?」
ミルの声が聞こえた気がしたので振り返るが、ミルはスースーと寝息を立てている。
「空耳…?ヤベェな、幻聴まで…」
打ちのめされて幻聴とは初耳だが、ここは異世界。何でもアリの世界なんだから、そういう事もあるだろう。俺は踵を返して扉へと向かった。
最後に見えたミルは少し笑顔のように見えた。
今更ですが…
作者の強い意思を感じるプロフィールです(笑)
ミル・クリークス 17歳
身長:158cm
薄灰色の髪の毛をしていて、腰に届く程長い三つ編み。目の色は琥珀色。無表情であまり喋る事は無い。
【終雪】を全て習得しており、次期当主として父から屋敷と六剣を代理で任せている。尚、最年少で次期当主に選ばれているガチの天才。
胸は…Bを越えるか越えないかくらい…
髪型がイマイチ想像出来ない方は、ToL○VEるの芽亜だと思ってください。




