73話:もう一度2人で
これにて剣闘大会終了です。理由はお察し下さい。PS.三章タイトル変更。
ブックマーク、ホントありがとうございます!
俺の隠し球であった[氷月刃]が破られ、完全に通じる手が無くなってしまった。ここからどうやって挽回すればいいか、俺は闘技場を駆け回りながら思考した。
『[氷冠]も[氷月刃]も炎で溶かさせれてしまう。なら突き技である[霧雪]で勝負するか?いや、一手だけでは読まれてしまうな…』
大抵の【なろう】主人公なら、この場面をひっくり返す手があるのだが、俺は頭を捻ってもそれが出やしない。
ジェーンと俺では力の差は勿論、剣士としても劣っている。はっきり言って絶望的な状況だ。
「クソ![氷月刃]ッ!!」
「効かねぇね!![熾火]!」
かすり傷でも出来ればと願って放った技も、ジェーンは容赦なく真っ二つに切断し、氷の刃は闘技場に刺さる。
とても鋭い氷の刃は強烈な技だろう。当たればの話だが。
「アキラの技は通じない!![火光獣]!」
ジェーンが大剣を地面に擦り付け、火花を散らしながら掬い斬りを放つ。すると小さな炎は鼠へと変化し、俺目掛けて真っ直ぐに向かってくる。
「な、何だよコレ!!」
当然回避しようと横に跳ぶが、炎の鼠も俺を追いかけて曲がってくる。何度避けようとしても必ず着いてくる。
逃げるのは不可能と悟った俺は、手に持つ細剣で鼠を切断する。
「んなっ──!!?」
斬った瞬間、鼠はその場でクルクルと火花を飛ばして回転する。まるで鼠花火のようだと思った瞬間だった。鼠は一瞬眩く光った後にすぐ、小爆破したのだ。
「眩───グ“…ァ“……!」
小爆破と共に閃光が俺の視界を奪う。反射的に目を閉じた次の瞬間、俺の胸に何か重い一撃が入ったのを感じた。
肺の空気が一気に抜け、呼吸がままならない。何が何だかもわからない状況で必死に空気を取り込もうとする。
『まだ目が見えな──っ!!』
まだボヤけて見える中、前から何か来るのを感じ、咄嗟に左へと回転しながら移動する。
今ジェーンは俺に何かをしたのは明白だった。まだろくに見えない状況だが、あそこにいるのは危険と察知し、俺は必死になってその場から離れる。
『音と気配を感じろ……………………今…!』
自分の感覚を信じ、俺は体を右に回転させて細剣を振るった。
細剣の先端から何かを掠めたのを感じた。
「なんだよ、もう見えるのか?」
「いや、見えないよ。ジェーン…お前からの気配で斬った」
ようやく見えるようになった目をゆっくりと開けて目の前を見れば、ジェーンの胸に斬られた痕があった。
ジェーンは楽しそうに笑みを浮かべながら傷を抑えて後ろへと3歩跳んだ。
「チッ……ダメか」
ジェーンとの会話の最中に俺は[霧雪]で刺突を放つが、それをいち早く察知したジェーンは回避した。今ならいけると思ったのだが…流石としか言いようがない。
『体力的にも傷的にも、俺に残った時間は少ないな……もっと速く、それでいて冷静に』
少ない頭を捻って考える。どうすれば格下の俺がジェーンに勝てるのか。
向こうが技術で勝るなら、俺は作戦で勝つしか道は無い。
「なら…!──[氷冠]!!」
「無駄だって──言ってんだろ!![熾火]!!」
先程から放ち続けた[霧雪]の影響で[氷冠]から放たれる氷塊は巨大に生まれる。
だがジェーンはまたしても熱しられた大剣で切断する。だがそれでいい。少しでもジェーンの視界から俺が消えられれば。
ジェーンに氷塊を飛ばすと同時に俺はすぐさま走り出す。視界から俺が消えたこの瞬間しかチャンスは無い。
「[氷月刃]!──はあぁぁあぁあ!!」
「何ッ!?!?」
ジェーンが氷塊を斬ると同時に超高速で[氷月刃]をジェーン向けて飛ばし、俺は左へと飛んでもう一度[氷月刃]を飛ばす。
左右から飛ばされた氷の刃はジェーンの体に当たる。
筈だった、、
「クッ…![焔真]!!」
ジェーンを中心に激しく燃え上がる火柱。その炎から発する熱で氷の刃は溶け、熱風が俺の身を焼いた。
──だから…なんだあぁぁぁ!!!
熱風に身を焼かれながらも俺は進み続ける。燃え上がるジェーンに近付けば近付く程肌が焼かれていく。
「これが──最後の!![霧雪]だあぁぁあ!!!!」
「絶対に──敗けねぇね!![烈火紅焔]ッッ!!!!」
細剣に付着した水滴を結晶化させて氷の剣へと変化した剣で俺の全部を乗せて[霧雪]を放つ。
ジェーンは体に纏っていた炎を全て大剣に宿し、炎の剣へと変化した剣で大技を放った。
氷の剣と炎の剣。両者の剣がぶつかり合い、鍔迫り合いのように剣を重ねる。
「「はあぁぁぁぁぁ!!!!」」
お互いの咆哮が重なり合う瞬間、俺の氷の剣から溶けた水滴が蒸発し、その熱気で水分を奪われる。
「グッ、ッ………おりゃああああ!!!!」
「ッ!!」
このままでは力負けすると判断した俺は、スキルのバフも重ねて細剣を押し込む。
敗けられない、敗けたくない。
「絶対に…!負けてたまるかあああぁぁぁ!!」
最後の最後に細剣を押し込んだ瞬間、凄まじい勢いで突風が発生し、俺とジェーンは闘技場の壁近くまで吹き飛ばされる。
何が起きたかもわからない。まさかジェーンが何かしたのだろうか。しかしジェーン本人も同時に吹き飛んだのを見れば、この現象は彼じゃないだろう。
『これは……水蒸気爆発?そんなバカな……火山じゃあるましい、そんな現象が起こる筈無い。……いくら異世界だからって…ねぇ?』
時の流れが止まったと感じる程ゆっくりと流れた時間は、壁に頭を強打した事で幕を閉じる。
「あ…………ぁぁ……………………ぁ…」
『立たなくちゃ……ここで意識を飛ばしたら俺の負けになる……そんなの…絶対に……』
まだ意識はあるというのに、体の方が言うことを聞いてくれない。手も足もほんの僅かも動かすことが出来なかった。
段々と遠退いていく意識。それは眠りに落ちるかのように暗く、気持ちのいい感覚が手招きをする。絶対にそっちに行ってはダメだ、そう考えれば考えるほど俺はその暗闇に引っ張られていく。
「ま、け……て……………たまる……………か…」
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「─────ッ!ここ、は…?痛ッ……」
目を開くとそこは知らない天井だった。そんなテンプレなセリフが思い付いた瞬間、痛む体を無理矢理起こして俺は周りを見渡した。
「良かった……目覚めた…」
「ミル…何でここに…──ッ、試合!試合はどうなって──痛ッ……!」
何故ここにミルがいるのか。試合はどうなったのか。何故俺がここにいるのか。
聴きたいことは沢山あって頭が混乱する。
「落ち着いて…アキラ。ここはルミナス闘技場の医療室。ボクはアキラに会いに来た。それで試合の結果だけど……」
──君の敗け、だよ
ミルの口から聴こえたその言葉の意味が分からず、俺は必死になって理解しようとした。額に手を当てて、少しずつ落ち着きを取り戻した俺は理解した。
理解した俺はとても小さな声で泣き、涙を腕で拭う。
「俺……ッ…敗けちゃったのか……そっかぁ…………ッ…………敗けたのかぁ……ジェーン、はッ…強いなぁ…!」
「アキラ……」
「やっぱ………敗け、は…ッ…!悔しい、なぁッ……!」
ミルが目の前にいるというのに、ポロポロと溢れ出る涙が止まらない。拭っても拭っても止めどなく溢れ出る涙。俺は悔しくて悔しくて…シーツを強く握り締める。
「相手はボクと同じ六剣のフラム家だった──」
「そんなの言い訳にはならないッ…!!俺は…根性で敗けたんだよ…」
俺はミルの言葉を遮って叫ぶ。敗けたのが悔しくて、俺は思わず力強くそう叫んでしまった。
「…ん、ボクもそう思う」
「ぇ……?」
ミルの言葉に俺は小さく聞き返し、ミルの顔を見た。その表情は真剣そのものだ。
「相手がフラム家だから、六剣の一族だから敗けてしょうがない、世間はきっとアキラのそう言う。でもねアキラ、“しょうがない“で終わらせてしまって…いいのかな」
「っ……言い訳、無いだろ…!俺は……俺はもっと強くなりたい…!しょうがない、仕方ないで終わらせなくなんか…無い!」
「ん…アキラならきっとそう言うと思った。だからアキラ…もう一度ボクの弟子になって」
「もう一度…弟子に?」
優しくコクリと頷いたミルは、白くて綺麗な手をゆっくりと俺に伸ばしてこう言った。
「もう一度ボクの弟子になって、また1から2人で頑張ろう。君が望むなら…ボクはアキラにどこまでも付いて行くよ」
「俺は……俺は…!」
柔らかに微笑み、俺に手を伸ばすミル。俺はゆっくりとその手を掴み、、
「俺を…ッ…また弟子にしてください…!!」
「ん……分かった。今日からアキラはまたボクの弟子。今まで以上に頑張ろう、ボクも頑張って強くしてみせる。だから……しかっり付いて来て、よね?」
「ああ…ッ…!しっかり…ッ…付いて行くさ…!」
「もう泣かないで…?ボクはアキラの絶対に見捨てたりなんかしないから」
ミルはポケットから出したハンカチで俺の涙を拭きながらそう言うと、優しく俺の肩に手を置いた。
俺はミルの優しさと思いをその身に感じ取り、より一層涙を流して子供のように声を出して泣いた。
魔法はダメでも剣術で何とかしていくスタイル。流石異世界、何でもありですね()
異世界小説あるある。
バトルシーン流し読みしがち、あると思います。
次から四章になります。
[真火]
フラム家に伝わる剣術。
[熾火]
剣を熱し、あらゆる物を斬ることが出来る。
[火光獣]
地面に剣を擦り付け、生まれた小さな炎は火鼠へと変化する。しかも相手を追尾する。
[焔真]
自分を中心に火柱を上げる技。当然身を焼くほど熱いし、服も焦げる。炎は剣へ移す事も可能。主にガードや剣の火力上げに使う。




