69話:対戦カード
「これで治療は終わりです。他に何か気になる事はありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
ブレイさんと共に医務室へと向かった俺は、医師ではなく、[治癒]の魔法が使える魔術師が傷を治してくれた。
異世界はやはり不思議なもので、絶対内臓が傷付いていた筈なのに治してしまう。
俺は最後に魔術師にお礼を言って医務室を後にした。
「………はぁ」
小さくため息をついて薄暗い通路を歩く。
あの時俺は考え事をしていた。だが油断してた訳ではなかった。ブレイさんの剣が俺の反応速度を越える速度で攻撃したのだ。
「………ははっ…!」
まだあんなに強い人がいる、そう思うだけで興奮してくる。この大会は最高だ。
だが同時に自分の無力さを痛感した。まだまだ鍛えないとダメだ。
そう考えながら通路を歩くと、向こうから誰かが走ってくる。
「おーい!アキラー!大丈夫だったか!?」
「ああ平気だよ。ほら、ピンピンしてる」
やって来たのはジェーンで、どうやら俺を心配してやって来てくれたようだ。
俺は手をヒラヒラと動かし、無事を伝えた。
「ブレイに手酷くやられてたから心配したぞ……でも無事で良かった。本選出場おめでとうな」
「俺は運だけどな……ジェーンもおめでとう」
「まぁそう言うなって。あっそうだ、さっき4グループ目が終わって最後のグループの戦いが始まるぞ」
どうやらもう4グループ目が終わったようだ。俺が治療してもらってからそんな経ってない筈だが…早かったな。
俺とジェーンは大会の話や軽い雑談をしながら観戦出来る場所へと向かった。
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その後5グループも終了し、本選出場の50人が決定した。その中には俺も入っているのだが、他の出場者には厳しい目で見られる。
「…大丈夫かよ、アキラ」
「うん…まぁ平気だよ。当然といえば当然だから…」
大会参加者の数から察していたが、この大会は歴史のある大事な大会なんだろう。そんな大会で運だけで残った奴を良く思う奴は少ないだろう。
その視線に耐えながら俺は対戦カードを確認する。本選では一対一の真剣勝負であり、それぞれ自身の剣を使用する。
つまり刃が落とされていない物で戦う。
「オレは17か。アキラは?」
「えっと…あ、あったあった、31だ。となるとー……ジェーンと当たるなら4回戦だな」
全部で50人。そこから1~48はランダムで決まり、49と50は先程の戦いでの実力で決まる特殊シードで、勝てば一気に準々決勝に進める。
「ぜってぇ負けんなよ!4回戦で戦おうぜ!」
「勝つ前提かよ。まぁそうじゃないとな。4回戦で戦おう!」
若干フラグ臭いが……そんなフラグなんかぶち壊す勢いで勝ってやる。
「本選まで少し時間があるな。アキラはどうする?」
「そうだな……ミルに会えたら良いんだけどな」
「ミルさんは次期当主だからな、六剣の代表として今なら……ルミナス国王と同じ場所にいると思うぞ。ま、会うのは無理だろうが」
「そっか…」
ならどうしようか。昼休憩も兼ねてるこの時間だし、適当に飯を食べてイメトレをしておこう。
ジェーンは家族が来ているらしく、そこに行くんだとか。なのでその場で一旦別れ、俺は闘技場付近に出店している店で買い食いをする。
「これソーセージか?何の肉だろう……美味しいけど」
肉の焼ける良い匂いに釣られて買った謎の肉。味は完全にソーセージで美味しい。そこまでお腹は空いていなかった俺は、食べ終えた後にベンチにてイメージトレーニングを開始した。
脳内でジェーンやブレイさんと想像で戦ってみる。あの大剣での立ち回り方を想像し、どう動くかを思考する。
真正面から戦うのは論外だ。俺より体格の良い2人では細剣が弾かれるし、最悪の場合は折れてしまう。ならばどうするか、、
『うーむ……レイピアやエストックとかのスピードや突き重視なら対処しやすいんだがな…』
ミルより速い剣士はいまだに見たことが無い。どれだけミルの剣撃が速いか物語っているな…
──剣闘大会本選がこれより始まります。参加者の方、並びにご観覧する方はお急ぎください。
あの手この手で考えていると、あっという間に本選が始まる時間だ。俺は31なので、最後の方ではあるが、何かあっても困るので急ぐことにした。
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1から16までの第1ブロックではゼフュロス ・ボレアスという男が勝ち上がった。
詳しい事は分からないが、六剣の家計なんだとか。とても眠そうな顔をしているのが特徴的だ。
そして次の第2ブロック。17と18が初戦だ。17はジェーンであり、俺は応援の為に観戦している。
──今回の優勝候補者、六剣の一角であるフラム家の三男であり、期待の新人!ジェーン・フラム!
「………は?」
普通に観戦にしていたら、当然アナウンスでそんな事を言い出す。思わず間抜けな声を出してしまった。
「六剣…?え、え?ジェーンが?………え?」
俺が1人で驚いている中、ジェーンはとても複雑な表情と共に入場してきた。明らかにあのアナウンスのせいだろう。
そして対戦相手の男も入場し、構えた所で試合が開始された。
試合は殆んど一瞬であった。
相手が使っていたのはシャムシールのような形をした剣であり、先攻を仕掛けた相手の剣を、ジェーンは剣ごと弾き飛ばした。
戦えなくなった相手は降参し、試合は終了した。バトルロワイヤルの時は乱戦過ぎて分からなかったが、ジェーンは六剣の一族というだけあって、確かな強さを持っている。
「凄い……俺も早くジェーンと戦いたいな…!」
俺はジェーンの強さに魅せられ、ただいま興奮中。いつだって強くてカッコいい奴には憧れてきた俺だ。それは今でも当然変わっていない。
沸き上がる歓声の中、俺は観客に向けて手を振るジェーンに向けて羨望の眼差しで見つめた。
次回でアキラを戦わせます。
 




