62話:ガチの打ち合い
「もっと速く、正確に……相手の隙をよく見て」
「これ…ッ!結構ッ全力、なんだけどッ…!!」
「アキラならもっと速くなれる。だからもっと頑張って」
そうは言っても今が限界だ。ここから更に速くする方法が思い浮かばない。
ミルの隙の無い連続の攻撃の俺は防戦一方。
「剣を振った時左脇に隙が出来てる。上手く守らないと──こうなるよ…!」
「イ“ッ…!!」
俺の袈裟斬りを弾き、即俺の左脇を狙って攻撃を仕掛けてくる。頭では分かっているのに、体が動く前にはミルの攻撃が届いている。そんな状況が続いていた。
「はぁ…はぁ…………ミル、剣の速さ…上げた?」
「ん、ほぼ実戦レベル」
「だよな…」
ミルの攻撃を受けていたから分かる。ミルと前に戦った時レベルに剣が速い。
しかし何故今回は対応出来ないのか…前なら思ったらすぐに行動に移せた筈なのに。
「でも…少し変だね。前のアキラなら対応出来る速さなんだけど…」
「やっぱりミルもそう思うか。何でか俺にもさっぱり…………あ、もしかしてスキルの影響かも」
「スキル…?」
俺の頭に過ったのは[激情]のスキル。感情の強さで戦闘能力が上下すると書いてあった。恐らくこれが原因だろう。
「スキル[激情]……これは感情によって強さが変わるんだよ。あの日はミルに勝ちたい、そればっかり考えてたから…」
「ん…成る程、分かった」
「…?何が?───っ!!?」
考え込んだと思った次の瞬間、俺に向かってこの最近で最速の薙ぎ払いを仕掛けてくるミル。
俺は咄嗟に木剣を盾にして体を守った。
「反応…出来たね」
「えっ?あ…ホントだ」
「ん…やっぱり。感情に変わる戦闘能力…なら危ないという感情を持たせれば発動するね」
何を仰ってるんだ…?この美少女は……
いや確かにそうなのかもしれないが…もし俺が反応出来なかったらあばら骨絶対折れてたぞ…?
「それにアキラはピンチになると強くなる……試してみよう」
「は……?いやどういう──危なっ!?ち、ちょっと落ち着いてよミル!」
「ごめん…でも体に慣らして貰わないと……だから──こうするね」
今度は3連続で突き攻撃を仕掛けてくるミル。またしても剣の速さは異常で、俺はそれを何とか防ぐが……スパルタってレベルじゃない気がする………当たったら骨軽く逝くぞ。
「み、ミルっ!落ち着い“っ!?速すぎるってヴァ!!?」
「平気、今もボクの攻撃当たってないし」
「そういう問題なの!?」
段々と速さが上がっていくミル。避けるか弾かなくては大怪我をする事になる一撃が何度も放たれる。
『どんだけ速くなんだよっ!?』
底無し、そんな言葉が頭を過る程の圧倒的な速さ。ただ速いだけじゃない、その一撃一撃が繊細かつ強烈。
「しまっ───」
神経を磨り減らしながら攻撃を防いでいたが、ミルは俺の木剣を叩き落とす。不味いと思った時には手遅れで、俺の目の前に木剣が迫っていた。
「ボクの…勝ち」
「……あ、ああ…俺の負けだ」
ピタッと目の前で止まった木剣は、俺の顔に風を飛ばす。1滴の汗と共に俺は何とか口を開いた。
「ふぅ……今の反応速度、よかったよ」
「負け続きだからあんまり実感無いけど……確かに今までで1番反応出来たな」
「この調子で頑張ろう」
「うへぇ……」
────────────
ガチで打ち合う稽古の次の日。ミルは家の用事があるとの事で、稽古は昼からとなった。俺は特にやることも無いので、使わせてもらっている部屋の掃除をしていた。
「カーペットだから掃除機欲しいな」
特に汚してはいないつもりだが、人がいれば自然と汚れは出る。なので掃き掃除をし、ベッドのシーツのシワを取ったりなどして時間を潰す。
「おや…?これはアキラ様、此方で何を?」
「あっどうもおはようございます、マグさん。ちょっと時間が出来たので掃除をと」
「アキラ様はお客様なのですから、その様な事はしなくて良いのですよ?」
まぁ確かにそうなんだが…何か悪いと感じた。また居候をしている気分だ。俺に出来る事が少ないからそうなっちゃうんだがな…
「でも…ただ食って寝て鍛えるでは忍びないですし…」
「ホッホッ、そんな事は気にしなくて構いません。アキラ様はミルお嬢様の弟子なのですから」
そう言って少し笑うマグさん。マグさんは『ミルお嬢様がご帰宅されるまでご自由になさって下さい』と言うので、俺は少し街に行ってみる事にした。あんまりしつこいと迷惑だろうし。
「あれ…?シアン?」
いつも屋敷の庭にいるシアンの姿が見えない。強いから誰かに殺されるなんて事は無いだろうが…どこ行った?
「あれぇ…?───おわっ!?」
背中に張り付かれる感覚と共に、背後から風が吹く。振り返ればシアンが背中に張り付いていた。どうやらビックリさせたかったようだ。可愛い奴め。
「よし、んじゃ行くか」
「街の作りが全然違うな」
街を適当に歩いて回ってみると、様々な建物が目に入る。白い家ばかりでとても綺麗に見える。何より存在感を放つ建物がある。
「あれは教会かな?デカいな」
聖国っていうから象徴の教会があるのかもな。にしてもデカい。この国の城並みのサイズがある。サグラダファミリアみたいだ。
「まあ俺には関係無いけども」
俺は祈ったりとか基本しない。仏教なので。
それは兎も角、俺はギルドへと足を運んでみる。今日はクエストを受けないが、ギルドカードの更新をする為だ。
「んーと?あ、あったあった」
ギルド所有の謎機械にギルドカードを通して硬貨を入れる。…5000円分。
ガシャガシャと機械音を出した謎機械。やがてニュウ…っと出てきたカードを取って、早速見てみる。
名前:テンドウ・アキラ
Eランク冒険者
種族:人族
性別:男
魔法:[火花]
スキル:[背水の陣][限界突破][斧熟練Ⅱ][弓術Ⅰ][逃走Ⅵ][激情][剣術Ⅳ]
加護:[治癒の女神・リコスの祝福]
「あんまし変わんないな」
変わったのは[逃走]と[剣術]で、それぞれ[逃走]がⅤ→Ⅵ、[剣術]がⅡ→Ⅳとなった。
「さてと、用はずんだから探索に行くか」
俺はギルドカードをポケットに入れて、ギルドから出ようと振り返った。
「イテッ…!」
「おっと…大丈夫か?」
まさかすぐ後ろに人がいるとは思っていなかった俺は、真っ赤な髪の青年にぶつかってしまった。
「あっすいません、不注意でした!」
「いや全然平気だよ。それより君、大丈夫?立てるか?」
差し出された手を掴み、俺は立ち上がった。赤髪の青年に再度頭を下げて謝罪し、俺はギルドを出た。
「にしても…あの青年、めっちゃガタイ良かったな。俺から当たったのに倒れやしないし」
そんな事を呟きながら、俺は商店通りを目的も無く歩いた。
ミルのステイタスなどはこの章最後で明かします。
[氷涙牙]
飢えた獣の如く、袈裟斬り、逆袈裟、右切上、左切上と4連続で斬り伏せる技。
*37話にてミルが使用。




