58話:新天地
タイトルを少し変えてしまいました。すいません。
「忘れ物は無い!?本当に大丈夫!?」
「平気ですって…子供じゃないんですから」
知り合いに別れの挨拶を告げてからあっという間に2日が経ち、俺は早朝から列車がある駅へとやって来た。
【ニューカマー・ヘブン】の皆も朝早いのに見送りに来てくれて、少しだけ寂しく感じる。
──間も無く【ルミナス聖国】行きの列車が発車いたします。お乗りのお客様はお急ぎ下さい。
「っとと…そろそろ時間ですね。今日まで本当にお世話になりました!!絶対またお店行きますね!」
「おう、またな」
「ヘマして死ぬんじゃねぇぞ!」
「じゃあな坊主!元気でな!」
ガタイのいい漢達に見送られ、俺は列車へと乗り込んだ。ガテン系の仕事してる人達に見えるだろ…?働いてるのキャバクラ風の飲み屋なんだぜ…?
列車に乗り込んで席に座ると、俺は窓を開けてホームにいる皆へと手を振った。
──【ルミナス聖国】行き、発車します。
「絶対絶対また来ますからー!!皆ありがとーっ!!」
動き出した列車に揺られながら、俺は皆に向けて最後まで手を振り続けた。やがてホームが見えなくなった所で俺は窓を閉じて席に座った。
「皆いい人だったなぁ……」
そう小さく溢すと、目に涙が溜まってくる。相変わらず涙脆い事に少し恥ずかしさを覚える。俺は袖で涙を拭って窓の景色を見る。
「っ…!あ、ごめんなシアン」
背中にいつも通りまとわりついているシアンは、モゾモゾと動いている。まるで『もういい?』っと言っているようだ。
「車掌さんとかが来たらまた背中にくっつくんだぞ?」
俺がそう言うと羽をパタパタ動かす。ここではやめてくれ、シアンは結構デカイんだから。
「にしても快適だな。異世界でも列車に乗れるなんて思ってもみなかった」
大体は異世界にこんな便利な乗り物無いからな。この世界はちゃんと文明が発達してるようだ。
そんな事を考えながら、ボックスシートに座り、途中駅弁とかを食べながら過ごす事3時間程。列車にアナウンスが流れた。
──間も無く、【ルミナス聖国】です。お降りの準備をお願いします。
「はっや。あっという間だったな」
俺はショルダーバッグを肩に掛けて、シアンを背中にくっつけて降りる準備をする。
それから3分後、列車は停止した。
「行きますか、シアン」
「……♪」
───────────
列車から降り、俺はホームへと降り立った。眩しい日差しを感じ、俺は一瞬目を細める。やがて慣れてきた目を、ゆっくりと開けた。
「おおぉぉ!!スッゲェ!!」
少し高台にあるホームから見える景色は絶景で、白基調にした色の建物がいくつもある。お陰で眩しいぜ…!
「来たぜ、新天地!ルミナス聖国!」
駅から出た俺は、駅前にある巨大な噴水前でヴィクトリー!っとポーズをする。異世界最高、この気持ちは止められないね。
──まま、あのひとなにやってるの?
──コラ、見ないの。関わっちゃダメよ
──プッ…!見たかアイツの格好w
──センスねぇ野郎だなぁw
──羽?珍しい種族かな?
──どう見たって違うわよ。危ない人よ
………………異世界最高、、、
俺は[逃走]を使ってその場からダッシュ走り去る。別に深い意味は無い。…ホントだぞ!
「はぁ…!はぁ…!ど、どこだここは…!?」
息が上がるで走り続けた結果、迷子になりました。そりゃそうだ。この国初日だし。バカだなぁ…。
「さてどうしましょう…」
圧倒的デジャブ。リコティ王国でもこんな事があった気がするぞ…?しかもまたベンチに座って項垂れてるし…
「あっ…そうだ、これがあるわ」
俺はショルダーバッグの中をゴソゴソとあさり、ミルから渡された氷の結晶の形をしたバッチを取り出す。
「これがあればまたミルと会える…!」
あの日約束して渡された大切なバッチ。これが俺を強くなるためのチケットだ。
だがしかし…場所が分からない。
「うし、安定の聞き込み行ってみよう。おー!」
「この辺でいいんだよな…?なんか高級街って感じだな」
街行く人に聞き込みをしたが、誰1人まともに相手をしてくれなかった。皆の目が俺をヤバイ奴を見る目をしていた……それから何人にも当たり、結局駐在所を案内された。自首しろって意味じゃないよね?んで警察…と言うより騎士?的な人に教えて貰った。
「なんかこういう高級街って怖いな。下手な事したらすぐ殺されそう」
異世界の貴族は阿保か馬鹿か無能か有能に別れる。有能な貴族は主人公と繋がりがあるタイプが多い。それ以外の貴族は雑な扱いを受けているのが異世界ってイメージ。つまり急に殺される可能性があるということ…
「ここか…デッカ」
そんなこんなでミルの…というよりクリークス家に到着した。広い庭付きの屋敷で、門の前には門番らしき男性が2人がいる。めっちゃ睨むやん…
「そこの者、クリークス家になに用だ」
「えっと…ミルに会いに…来ました」
「何をふざけた事を!お嬢様と平民のお前に繋がりがあるわけないだろうが!」
あるんだなーこれが。ちょっと門番の人怖いから口に出して言わないけど。この展開も結構見るな、テンプレテンプレ♪
「とにかく帰れっ!」
「ホントに知り合いなんですって!ホラッ!」
俺は追い返されそうになったので、ようやく切り札のバッチを取り出して見せ付ける。ドヤァ…ひれ伏せいっ!
「貴様どこでこれを…!さては偽物だな!?」
「えっ!?ち、違うって!よく見てよホラッ!!」
ちょっ……ちょっとヤバイかも…?本来ならここで『も、申し訳ありませんっ!!』って言うのがお約束なんじゃないの?俺ホントに追い返されちゃうよ…?
「ちょっ…!ホントに本物なんだって!!それに俺はミルの弟子なんだよ!信じてくれよ!!」
「ええいっ!しつこいぞ!!」
「危なっ!!?」
門番の男が木の槍を横払いで俺に放ってくる。俺は咄嗟にイナバウアーのように立ちブリッチで回避。こう見えて結構軟体なんです。
「なに…してるの…?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺はイナバウアーの状態でその声を発した者を探す。
「ミル…!久しぶり!!」
「あ、アキラ…!久しぶり……えと、何してるの?」
俺の姿を見て、一瞬表情が明るくなったのもつかの間。俺の変な体制を見たミルは、怪奇な物を見る目で見つめてくる。
「ミルお嬢様、この者とはお知り合いですか?」
「ん、ボクの弟子」
門番の質問に短く答えたミルは、俺の元へとやって来て、手を取って屋敷へと案内される。
あまりに何事も無かったようにするもんだから、俺と門番は黙ってそれを見ていた。
「………あっ、改めて久しぶり。俺を屋敷に入れちゃっていいの?なんか歓迎されてない雰囲気なんだが…」
「平気。アキラは気にしなくていいよ」
そう言って屋敷までの長い道を手を繋ぐという中々凄い状態で歩く。久々に会ったミルは、以前よりお嬢様っぽい。服装も白色のドレスで可愛らしい。
「どうぞ、入って」
「お邪魔します…」
開かれた扉を通り、屋敷の中へと入る。2つに別れてる階段とか、バカデカシャンデリアとか、ザ・高級って感じの作りだ。なんか高そうな壺とかもあるし。絶対倒さないようにしないと…!
「お帰りなさいませ、ミル御嬢様。…そちらの御方は…?」
「ボクの弟子」
「おお…!ではその方がアキラ様ですか。失礼、御挨拶がまだでした。私執事をしております、マグ・カルキンと申します。以後お見知り置きを」
執事の見本みたいな渋いおじ様が俺に向かって頭を下げる。ホントにこんな人いるんだなぁ…片目だけ眼鏡?を掛けてるし、白髪だし、燕尾服だし。
「あ、えっと!ご丁寧にどうも。自分、天道明星と申します。アキラとお呼び下さい」
「これはこれは…ご丁寧にどうも」
お互いに頭を下げ合うという時間が続き、『もういいよ…』とミルに止められるまで続いた。
「マグ爺、アキラの為に一室お願い」
「畏まりました」
そう返事をしたマグさんはそのまま廊下を歩いて行ってしまった。えっと…どゆこと?
「何で部屋を?」
「何でって……アキラはここに住み込みで強くなるんでしょ?」
「えっ?」
「え…?」
何を…言ってるんだこの人は。俺は普通に宿でも借りてミルと以前のように待ち合わせをして鍛えて貰うつもりだったんだが…
「いやそれは…どうなの…?親御さんとかの許可とか…」
「父様にも母様にも許可は取らなくて平気。ボクにはこういう決定権あるから。何より2人は今いないし」
「へぇ…そうなんだ。ミルって結構偉いん──」
「勝手な事を決めるな」
俺の言葉を遮る形で、高圧的な声が玄関ホールに響き渡る。足音を鳴らして、階段から降りてきたのは1人の男。
「コル兄様…」
隣にいるミルが、少し怯えたような声でそう呟いた。この短い間でわかった。仲悪いな、コイツら。
「お前にそんな決定権は無い。この家で1番の才能を持つのは俺なのだからな」
「……でも母様にそう言われた。ボクがこの家を守るようにって…」
「ふん、母様は分かっていらっしゃらないんだ。お前がどれ程無能で凡才なのかを、な」
「…っ」
おーい、俺置いてきぼりですよー…
完全に空気じゃん。やめてよ…
「そこの者、申し訳無いがお引き取り願おう」
「それはダメ。アキラはボクの弟子。…ここで鍛えるって決めてる」
やっと俺に声を掛けてくれたと思ったら帰れと言われた……俺を守るように前に出たミルがかっこいいわ。俺かなんかヒロインみたいになってね?
「弟子…?お前の?フハハハハッ!笑わせる。無能が教えても無能が育つだけだぞ?」
あれ…?なんか急に俺に攻撃回ってね?急に来たやん。俺ビックリしたよ。
「お話の途中申し訳ないんですが…ミルは無能でも凡才でもありません」
「……あ?」
俺が割ってそう言うと、嗤っていたコルと呼ばれる男は笑みが消え、俺を睨むように見てくる。
「…なら示して見せろ。コイツに教えられたお前がどれ程のものなのかをな」
「分かりました。ミルと俺が無能でない事を示してみせます」
俺はそう啖呵を切って、コルを睨み返した。それを見たコルは、愉快だと言わんばかりに笑いだす。
「屋敷の裏にある訓練所まで来い。そこで無能なお前の力を示してみろ」
そう言ってコルは行ってしまった。
無能の部分を強調して言ったアイツに、少しイラッときたが、それを視線に変えて奴を睨み続けた。
そろそろ見切りをつけて違う作品を書いた方がいいのだろうか…




