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57話:別れの挨拶

「あらアキラくんっ!」


「ど、どうも」


店に入った俺は、お店の準備をしていたプーちゃんママに声を掛けられる。洗い物をしていたようで、布巾で手を拭いて俺の元へとやって来た。


「今日はどうしたの?あ~っ!お給金が待てなかったとか?」


そう笑いながらお店の椅子に座ったプーちゃんママに俺はぎこちない笑みを浮かべる。


「えっと…その…」


「ふふっ…分かってるわよ。お店を辞めるのよね?」


「えっ!?な、なんで…」


「うふふっ!分かるわよ、顔にそう書いてある」


そんな分かりやすい表情をしていたのか…

笑いながらそう言ったプーちゃんママは、俺の手を握ってくる。え…?


「了解っ!今までありがとねっ!アキラくん」


「そんな…お礼を言うのは俺の方ですよ!見ず知らずの俺を受け入れてくれたんですから…」


「あら~嬉しい事言ってるくれるじゃないっ!あっ、そ・う・だ♡ちょっと待っててね~」


耳を破壊する(恐怖的に)ような甘い声を出して裏へと行ってしまったプーちゃんママ。少しすると手に小さな布袋を持って戻ってきた。


「はいこれ!今までのお給金♡冒険には必要でしょ?」


「それなんですが…俺、お金はいらないです」


「あらっ?予想外の反応……どうしてまた?」


「今まで居候でお世話になってましたし、お店でも仕事が出来ていたとは言えない程ミスが多かったですし……とても受け取れませんよ」


思い返してみれば、プーちゃんママのヒモとなっていた俺は、家事も殆どやってもらい、お店でもミスが多かった。家事なんて掃除くらいしか出来てない。


「もうっ!気にしなくていいって言ったじゃないのぉ!私が好きでやってる事なんだから!アキラくんとの同棲は中々…いいえ、素晴らしかったわ…!フフフフ」


え…?どうしよう、知りたいけど知りたくない…


「と・に・か・く!受け取りなさい!お金が無いといざって時困るわよ?」


グイグイと俺に押し付けるプーちゃんママ。硬貨が入ってるから結構痛いんですが…


「では…ありがたく受け取らせてもらいます」


「うんっ!よろしい!……あっそう言えばいつこの国から出て行っちゃうの?」


「そうですね……明日、いや3日後くらいには出ようかなと。行きたい国もありますから」


色々と挨拶回りもしたいし、それくらいで良いだろう。どうせ俺には知り合い少ないし。


「結構速い出なのね…そうだっ!今日の夜、お店にいらっしゃい!とびっきり門出を祝ってあげる!」


ここで断るのは悪いので、俺は『わかりました』と答えて頷いた。

それまで外で時間を潰しなさいと言われた俺は、半ば店を追い出される形で店を出た。




「時間を潰せっつてもな……あっ武器が無いから新しいのを買いに行くか」


討伐戦で砕け散ってしまった細剣の代わりになる新たな武器を買いに、いつもの武器屋へと足を運んだ。



「らっしゃいッ!よぉ兄ちゃん!元気にしてたか?」


「アキラ元気元気!ってそうじゃなくて……新しい細剣を買いに来ました」


「買いに?うちで買ってった細剣はどうした?」


これ…言っても平気だよね…?討伐戦で粉々になりました、って…言って平気だよね?


「…砕け散りました。跡形も無く」


「はあぁぁ~!?跡形も無くってお前……どんな使い方したらそうなんだよ…」


「えと…討伐戦で、その…」


「ああ…成る程な。雑に扱ってぶっ壊したとかならぶん殴ってたぜ」


こっわ…職人さんは怖い人が多いんだ…!(偏見です)きっと職人達に囲まれて、口の中に嫌いな食べ物を入れられる…!(偏見です)


「ったく……んで?また同じタイプの細剣でいいのか?」


「ええ、あれが1番使いやすいし俺に合ってるから」


俺がそう言うと、おっちゃんは店の奥へと入っていく。いつか色んな武器を使えるようになりたいな。今は生きることに精一杯だけど。


「この辺のでどうだ?兄ちゃんが買ったのと同じ作りなんだが」


そう言って持ってきたのは3本の細剣。俺が使っていた物の色違いだろうか。どれも綺麗な鞘だ。


「これにします」


「ははっ!即決かよ」


俺が即選んだのは漆黒の鞘に入った細剣。深みがあって艶やかな色。前回が白をベースにした水色の鞘だったからこれにしよう。


「にしても…兄ちゃん全身真っ黒じゃねぇか」


「カッコいいでしょ?」


「お、おう……そう…だな、うん」


おっちゃんもこのカッコ良さが分かる人だ。

俺は早速お会計を済ませる。金貨1枚、日本円で5万円を支払った。当然だが、前回買った時より高い。これが本来の値段なんだろう。


「あっそうそう。俺3日後にこの国から出るんだよ。色々とありがとうございました」


「なんだ行っちまうのか?元気でやってけよ!」


「あはは、ありがとうございます」


俺は最後に頭を下げて店を出た。ここに来るのは当分無いだろうが、色々とお世話になったお店だ。また来よう。


───────────


「えぇ…!アキラ君行ってしまうんですか…?」


「色んな場所に行ってみたくて…!今までアドバイスをありがとうございました!」


今いるのはギルドのアドバイザー、ミックさんの所だ。この人にもお世話なったので挨拶に来た。ギルドマスターに茶髪受付嬢…?いいんだよあの人達は。特に後者は。


「そうなんですね…ちょっと寂しくなるなぁ…」


意味深なセリフやめい。勘違いしちゃうだろうが。………もしかしてそういう意味で言ってます?

とまぁ冗談は置いといて、挨拶回りはミックさんで最後だ。ホントに知り合いが少ない…


「あっ…なろう太郎にも言っておくか。忘れる所だったわ」


さっきギルドで会ったけど、今はいないからクエストに行ってるんだろう。まだ3日もあるし、今日じゃなくでいいか。


俺は本日2度目のギルドを後にした。そして向かうはお肉屋さん。懐が温かいので、俺はシアンへのおやつとしてお肉を買いに向かった。





「旨いか~シアン」


「……♪」


美味しそうに食らい付くシアン。討伐戦ではシアンのお陰で生き残ることが出来た。その少しでもお礼になればと与えたおやつなんだが…ちょっと少なかったかな?


「ちょっ、もう無いって。ツンツンするな」


もっとくれとツンツンして甘えてくるシアンを手で制して納める。少ししょんぼりしている気がした。


「なぁシアン、お前は一体何なんだ?」


「…?」


そんな困惑顔をするな。俺が聞きたいのはお前の体質っつうかスキルっつうか…

兎に角シアンには不思議な事が多すぎる。

1つ目はミラージュ・バタフライと戦った時もそうだ。ゆっくり動く毛虫の状態で山を2つ越えるなんてあり得ない。

そして2つ目は俺に寄生してきた事。あれを寄生と言っていいのか分からないが、あの時はシアンと一体化していた。

最後に、何故何も感じさせないヴァルゴの光線を察知出来たのか…


「お前はなんつーか…スゲェよ」


俺はシアンを撫でながらそう小さく呟く。どうせ聞いても答えられないだろうし。早く人化して欲しいものだ。


───────────


そしてその日の夜。俺はお客さんのように店の入り口から入る。ここから入るのは面接を受けに来た時以来だな。


「待ってたわよっ!アキラくん!ささ、此方へどうぞ~♡」


入ってすぐに、プーちゃんママが俺の手を掴んで席へと案内する。これが美少女なら嬉しいんだけどなぁ…


「今日はトコトン楽しみましょっ♡」


「えっ…?」


ドンッ!とテーブルに置かれたのは一本の酒瓶。デカイな…これを飲めってことか?


「はいど~ぞっ!どう?美味し?」


「あ、旨いなこれ……懐かしい味」


注がれたお酒を飲んでみると、飲み慣れた辛口の日本酒で、晩酌していた頃に飲んでいたお酒と似ている。新潟県の景虎みたいな味だ。


「よかったお口にあって!アキラくんはこういうの好きかなって思ってたのよ」


「よく分かりましたね、俺の好きな味」


「一緒に住んでたじゃない♡」


やめてくれよ…(絶望)

他にもお客さんがいるのにそれはヤバイって。来てるお客さんがギョッとした目で見てくるじゃないか…


「勘弁してくださいよ…」


「フフッ~照れてるのぉ?」


貴方は酔ってるのぉ?


「でも寂しくなるわねぇ~…アキラくんがいなくなると」


「そう言って貰えると嬉しいですね」


俺の肩に手を回して『あーあ、また1人かぁ』っと呟く。プーちゃんママ腕がっちりしてんなぁ…俺よりあんじゃん。


「頑張りなさいよ~?アキラくんはちょっと抜けてる所があるんだから。それに、無茶はしないことっ!」


「あはは…善処します」


プーちゃんママは俺がヴァルゴと戦った事を知っている。なろう太郎があの日言ってくれた事を信じてくれた数少ない人だ。

多分その事を言っているんだろう。


「もぉ~っ!あっそうだ!アキラくん、コルネゲームしましょ!」


「嫌です」


コルネゲーム。それは現世で言うところポッ○ーゲームの事で、本来ならカップルがやるゲームなんだが…ガチムチのプーちゃんママとはただの拷問だろ。


「やりましょやりましょ!」


「嫌ですっ!!」


この後肩をがっしりと掴まれ、諦めた俺だったが、ルードさんに救出していただいた。彼は代わりに犠牲になってしまった…









プーちゃんママに接客されるという中々レアな事をしてもらった夜。俺は美味しい酒を飲んで爆睡。目が覚めたら既に朝で、頭が痛い。午前は体調を整えるのに専念した。


「うぷっ……あー吐きそ」


少し体調は戻ってきたが、まだ吐きそう……しかしなろう太郎に挨拶はしないとな。


「探しに…行くか」


水を一杯飲んで、立ち上がる。ギルドの行けばいるだろうか。まあ都合よくいないわな。


「いた」


マジでいたし。半分冗談で言ったんだがなぁ…

しかも何かまた揉めてるし。主人公ってのは大変だな。


「ようコウキ。実は話が──」


「割って入ってくんじゃねぇ!!オレは今こいつと話してんだ!」


「痛っ……」


なんだよ…ちょっと話してただけじゃないか。突き飛ばさなくっていいだろうに…。尻餅ついて尻が痛いゾ。


「へっ!情けねぇ奴──痛ッッ!!?」


しゃくだから無言で金的アタック!!相手は大ダメージで動けない!やったぜ。


「んでコウキ、ちょっといいか?」


「あ、あぁ…構わないけど…」


悶絶する若い冒険者をほおっておいて、俺はコウキに話し掛けた。


「えっ!?ここから行っちゃうのかい!?」


「そう、もっと色んな所へ行ってみたいからさ。短い間だったけどありがとな」


「そんな…!此方こそありがとう、アキラ」


謎に握手をして見つめ合う。深い意味は無い。

俺は隣にいるヒロイン、そして肩に乗っている蜥蜴にも別れの挨拶を言う。蜥蜴が最後まで俺の事を見続ける。なんやねん。


「でも多分…またコウキとは会えると思うよ」


お前には補正があるからな、行く先々でイベントが起こるんだろう。俺も自力でお越しに行くから必然的に会ってしまうだろう。


「それじゃあな、コウキ」


「ああ!また会おう!」


俺は振り返らずに手を振ってギルドから出ていく。今の滅茶苦茶カッコよかった。絶対に。


主人公のような去りかたをした俺は密かに…いや大胆にニヤニヤするのであった。気持ち悪いね。

ヴァルゴとの戦い時に、セレナが細剣におこなったのは龍帝の加護。精神汚染などから身を守ったのはこのお陰です。しかし細剣が耐えきれず、最後は砕けてしまいました。

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