54話：処女宮のヴァルゴ
またしてもブックマークが増えて、思わず「お、えっ？」と言ってしまいました。ありがとうございます！
『何故だ…！何故ここに…！──厄災の十二使徒・処女宮のヴァルゴが現れるんだ！！？』
真っ黒な穴から出現したのは、全身真っ白で
巨大な翼を生やし、天使のような姿をしたおぞましい巨大な怪物。
僕は恐怖からその場から動く事も逃げる事も出来ず、ただ奴を見上げる事しか出来ない。
『──キ！し……り…ろ、ウキ！！コウキッ！！』
『………っ！ありがとうセレナ』
肩に乗っていたセレナは、僕の腕に噛み付いて意識を取り戻させてくれた。
意識を取り戻し、再度奴の姿を確認する。セレナの言う通りなら奴は十二使徒の一角、処女宮のヴァルゴ。世界に厄を与え続ける怪物であり、その強さは龍帝全盛期のセレナでさえ追い返すのがやっとだったと言っていた。
『セレナッ！アイツを倒すにはどうすればいい！！？』
『……無理だ。今のお前は勿論、こんな姿をしている我も役にはたてん……他の魔物や怪物ならコウキの魔法で倒せるだろう。──だが奴等は別格だ』
『そんな…！』
今まで最高のアドバイスや戦術を教えてくれたセレナから、絶望の言葉を告げられる。
セレナでさえお手上げの相手に、僕はどうすればいい……。
「アキラなら……アキラなら勝て──」
そう言い掛けたその時、ヴァルゴは僕ら午班がいる砦へと手を向けた。
その瞬間、ヴァルゴよりも遥か上空に無数の光が見えた気がした。
『コウキッ！魔力をありったけ使い、障壁を張れ！！速くッッ！！』
凄まじい剣幕でセレナはそう言う。僕は言われた通り、ありったけの魔力を使って午班全員を護れるサイズの障壁を展開した。
障壁を張り終えた時、上空で輝く無数の光の正体が分かった。あれは、、
「隕石…！？」
『十二使徒全てが使える固有の業[流星群] 耐えてくれよ、コウキ…！』
もう目に見える所まで近付いてきた隕石の雨。あの数の攻撃から護れるだろうか…
「コウキ…」
「っ！大丈夫、シアリーは僕が護るから！」
「っ……うん！」
絶対に護る…！！ここで耐えなきゃ俺もセレナも午班の皆も、何よりシアリーを死なせてしまう。そんな事絶対にさせない。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ！！！！」
次々と降り注ぐ隕石の雨は、全力で展開した障壁を簡単にヒビを入れていく。すぐさま魔力を消費して補強を繰り返し、歯を食い縛って耐える。
僕の背中に手を置くシアリー。それだけで力が湧いてくる気がした。
「絶対に破らせはしないッ！！」
───────────
「なん…だよ、アレ…」
真っ黒な穴から現れたのは、巨大な純白の天使。だがアイツはそんな穏やかな存在では無い事はすぐに感じ取った。
恐怖。この感情が俺を縛り付け、体を動かす事が出来ない。屈強な漢達で構成された卯班の精鋭達でさえ動く事が出来ていなかった。
『どうする……逃げる？どこへ…？逃げ場なんてあるのか？奴から逃げられるのか？』
そんな事を考えていても、ピクリとも動こうとしない足に苛立ちを覚える。
もし動けるなら[逃走Ⅴ]を使ってすぐさま撤退するというのに、、
頭の中はここから逃げる事で一杯。主人公に憧れる俺は今、戦ってきた皆も、お世話になった人も全て捨てて逃げようとしている。
アレを相手にしてはダメだ、そう本能が警鐘を鳴らし続ける。耳にまで聴こえてくる五月蝿い心臓音も重なり、俺は恐怖に染まっていた。
「痛ッッッ！？！？えっ！な、何！？」
突如背中に走る激痛に意識を取り戻す。何かが突き刺さったのを感じ、振り返るが何もいない。背中にある、と言うより、いるのはシアンのみ。
「ぐっ…！！ぁぁぁぁ…！痛っっってぇ！」
突き刺さった何かは、俺の体内で動き回るのを感じる。まさか…シアンがやっているのか？
今このタイミングでシアンが敵に？そんなバカな。なるならもっと早い段階の筈だ。
「一体どういう──」
謎の反乱を受けた俺は、謎の怪物の襲来なども頭から抜け落ちてテンパっていると、不思議な感覚を感じた。
それはシアンと１つになる感覚。とても言葉では表せないような感覚で、不思議と一体化している事が理解できた。
「まさかシアンお前……俺に寄生、したのか？」
俺が背中のシアンに向かってそう聞くと、頭に『そうだよ』と感じる。脳に語り掛ける訳じゃない。ただそう感じる。シアンの思考がわかる気がした。
シアンと一体化した事に驚きながらも羽を撫でている俺は、飛来してきた隕石の音と共に現実に戻される。
墜ちたのは本隊である午班がある砦。あそこにはなろう太郎がいた筈だ。本当に厄介事しか運んでこないようだ。尤も、なろう太郎がいるから死者はいない筈だが。
「救援に行くべきか、逃げるべきか……」
頭の中で、本当の主人公がいるあの場所安全、お前が行く必要は無い、そう囁く。そもそもあいつとは友でも仲間でも無い。あんなを化物を惹き付けてしまったあいつに非がある。
だが本当にそれでいいのか？
「良い訳…ねぇよなぁ…！」
そう呟いて俺は自分の頬を叩いて気合いを入れる。逃げるな、この状況から。楽観的に考えろ、これはチャンスだと。主人公になりたいんだろ？ならすべきことは、、
「天道明星、漢を見せろ！！」
気が付いたら俺の足は動いていた。まるで鉄のように固まっていたあの足が、死地へと向かって走り出していた。
『跳んでみて』
脳に突然その言葉が浮かんだ。シアンからのメッセージを受け取った俺は、足に力を込めて高く飛び上がる。
「うおおお！！俺飛んでるよ！！」
背中にくっついているシアンが、まさかの羽となり、空を飛翔する事が出来るようになった。しかもそのスピードは中々で、普段のシアンのスピードと差し支え無い。
初めての飛行にも関わらず、縦横無尽に飛ぶことが出来るのは、シアンと一体化している事が大きいだろう。
俺はシアンの羽を使い、高速飛行で化物の元へと向かった。
───────────
「グッ……！はぁ…はぁ…何とか、耐えた…！」
巨大な隕石がいくつも降り注ぐ中、展開した障壁を使って全て防ぎきる事に成功した。
殆どの魔力を使ってしまったが、神様から貰ったチートで、ほんの少しすれば回復する。そうなれば反撃することが出来る。
尤も、アイツがその時間をくれたらの話だが。
「クソ……ヤバい、かも…」
空に滞空するヴァルゴは右手を掲げる。その手には僕と同等、またはそれ以上に膨大な魔力を込める。
「あ、あんな魔方陣…見たことない…」
僕の裾を掴むシアリーは、震えながらそう小さく溢す。その目には絶望の二文字が浮かんでいる。
『………セレナ、アレをやるぞ』
『なっ！？バカかお前は！！そんな事をしたらお前の体は持たない！』
『それでもッ！！…ここでやらなくちゃ皆死んでしまう…！僕が…やるしかないんだ…』
自分に出来る最後の技。それは[龍帝同化]
その名の通り、龍帝であるセレナと僕が同化することで圧倒的な力を手に入れられる。
だが同化すれば、僕の体は耐えることは出来ない。セレナの魔力が僕の体を破壊し、最後には心臓を破裂させる。
『逃げる……その選択肢は無いのか？』
『………僕とシアリー、そしてセレナだけならアイツから逃げれる…と思う。でもここにいる冒険者や騎士団、リコティ王国の民間人も死ぬ。……見殺しには出来ないよ』
『バカがッ！！赤の他人の為に自らの命を捨てるのか！？』
『頼むセレナ…力を貸してくれ』
僕は覚悟を決め、セレナに懇願する。セレナは瞳閉じ、眉間にシワを寄せて震える。
『……分かった、だが我はお前を絶対に死なせはしない！お前も気を強く持て、いいな』
『っ…！ああ！』
『『[龍帝同化]』ッッ！！！！』
１人と１匹の声が重なった瞬間、２人の体が輝いた瞬間だった、、
「その必要は無いッ！！」
エルータ草原に突如男の声が響き渡る。その声は聞き覚えのある人物の声。
それは、、
「あ、アキラ！！」
ヴァルゴより遥か高くに見える人影。黒いロングコートをはためかせ、細剣を突き出して急下降してくる男。それはこの戦いで間違いなく最強の男、アキラだった。
「はあぁぁぁぁぁ！！[霧雪]ッッ！！！！」
白い閃光へと変化したアキラは、魔法を展開しているヴァルゴの右腕に向かって突き進み、奴の腕に傷を与える事に成功した。
「………天道明星！ただいま参上ッ！！」
上空でビシッっとポーズを取ったアキラは、自信に満ち溢れた表情でそう叫ぶ。
『セレナ…アキラが…アキラ来てくれた！これで勝てる！』
『ああ…！あの男と共になら、奴に届くかもしれん…！』
すぐに反撃に動いたヴァルゴの攻撃を紙一重で交わしたアキラ。僕はすぐに浮遊魔法を掛けて、アキラの元へと向かった。
「２人なら、きっと勝てる！」
君が思ってるより遥かに弱いよ。
そして【異世界あるある】の敵が待ってくれる&高速脳内会話。
