53話:星屑の厄討伐戦
対人とは違った、戦争に近い描写が難しいと感じました。
リコティ王国正門から出た俺達は、エルータ草原に作られた砦にて集まっていた。
ここでギルドマスターより、作戦を告げられる。
作戦と言っても、リコティ王国へと真っ直ぐに進み続ける星屑の厄を、卯刻と午刻と酉刻の方角から叩くと言うもで、相手を囲うようにして戦うそうだ。
「星屑の厄を討伐した数だけ、国より報酬が出る。またポーションなども無償で提供させてもらう」
砦に大量に置かれている木箱には、ポーションが大量に入っていて、各々ここからポーションを取っていく。
「ほら、ポーション取ってきたぞ。コウキはどの班に入れられた?」
「ありがとうアキラ。えっと僕は…午班の魔法使い、要するに後衛に入れられたよ。シアリーも同じ。アキラは?」
「俺は卯班の中衛だ。俺は剣や体術が主戦だからな」
どうやら班が違うらしい。残念だな、なろう太郎の班なら絶対安全なんだが…まぁ上手くいかないもんだな。なろう太郎とヒロインは同じチームなのに…
「っと…卯班のリーダーが呼んでるから行くわ。またな」
俺はなろう太郎に手を振って卯班の元へと向かう。卯班のリーダーは、2m以上ある巨大な漢で、漫画みたいなバカデカ戦斧を持っている。
「これよりッ!我が卯班は目的の地へと向かうッ!準備はいいなッ!?」
「「「「オウッ!!」」」」
俺以外の卯班は、皆ボディービルダーみたいな体つきの奴が多い。勿論魔法使いもいるが、皆漢で圧倒的にこの班だけ存在感が違う。プーちゃんママもこのチームだし……俺が凄く浮いてる(格好も含めて)
『漢臭いな…』
現世の極真道場を思い出しながら、俺を含めた卯班は作戦場所へと向かった。
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「あれが……“星屑の厄“…!」
「私も初めて見たわ…噂通りおぞましいわね」
目的地へと到着した卯班は、作戦開始の合図があるまで待機となっている。
亥刻の位置に見える真っ黒いナニカを俺は見て震える。
「大丈夫よ、アキラくん。私達は負けないわっ!この卯班には私より強い人がたーくさんいるんだから!」
「プリークがここで1番強い癖になにいってやがんだ…」
「なにかいったかしら?」
「な、なんでもねぇよ……」
誰かが呟いた言葉に過剰に反応するプーちゃんママ。急に声のトーン落とすと怖いから、、
そんな事を思っていると、エルータ草原に銃声のような音が響く。空を見上げれば、午班がいる砦から信号弾のような物が上がっている。戦闘開始の合図だ。
「魔法部隊ッ!!放てッ!!」
卯班のリーダーが魔法使いにそう叫ぶと、魔法使い達は一斉に魔法を発動。火球、水球、岩石などが一気に星屑の厄へと向かっていく。
他の班に目を向ければ、向こうでも魔法を使っているのだろう、爆煙が上がっている。
「一際デカイあの火球…なろう太郎だな」
午班の方角に見える火の球体。遠く離れたここからでも見えるレベルの魔法を放っているようだ。
一通り魔法を放った次は、前衛、中衛の俺達が“星屑の厄“と戦う番だ。卯班のリーダーの声掛けと共に、一斉に走り出す精鋭達。俺もその後に続く。
「3人一塊になって戦えッ!誰かがやられたら、誰かが支えろッ!」
リーダーの大声と共に、事前に知らされていた作戦を実行する。俺と組んでくれた2人は全くの初対面だが、遅れを取って迷惑にならないよう全力でついていく。
前方から激しい戦闘音の共に、漢達の声が響き渡る。どうやら前衛の人達が“星屑の厄“とぶつかったようだ。
「坊主、こっからは命のやり取りだ。遠慮なんかした時に待っているのは死。出し惜しみせずに遠慮なくやれ」
「おいガキ、テメーが死んだらプリークの奴に何言われるか分かったもんじゃねぇ。ぜってー死ぬんじゃねぇぞ?」
「…ッ!はいッ!」
黒青髪のナイアさんと、口の悪い金髪のアルさんから激を貰い、俺は細剣を抜いていつでも戦える準備に入る。
「ッ…来たぞ、覚悟決めろ!」
ナイアさんがそう言った瞬間、真っ黒のナニカが俺達の元へと飛んでくる。それは黒い液体のような物で、本能が警鐘を鳴らす。
俺は本能に従うままに、回避に移った。
「ッ…!っぶな……なんだコイツ…スライム、か?」
「油断するな。すぐに対応出来るよう構えておけ」
咄嗟にバックステップで回避したソレは、まるでスライムのようにグネグネと動いている。今までに見たことの無い生き物に、額から汗が流れる。
「~~~~」
「させねぇーよッ!」
聞き取り不可能な言葉を吐きながら、“星屑の厄“は体を動かし、何かをしようとしている。何かをされる前に動いたアルさんのナイフ攻撃。しかし、切られた瞬間から真っ黒な液体が傷を修復し、やがて“星屑の厄“は姿を変え、人形へと変わった。それは真っ黒な人間で、身体中に光る白い点がいくつもある。成る程、星屑と言われる訳だ。
「~~~~~!!」
「ッ!?こっ、の…!!」
まるで間接が無い粘土のように、人間には不可能な可動域でグネグネと接近してくる。そのスピードは中々で、咄嗟に細剣横にして左腕で支え、盾にして体を守る。
俺に出来てしまった隙を埋めてくれるナイアさんとアルさん。2人同時に攻撃しているが、奴は切られた瞬間に再生し、触手のような物で攻撃してくる。実力は俺よりあるであろう2人がここまで手こずっている相手、、
『何かある筈だ…!再生型の化物には絶対に弱点が…!』
2人に出来た隙の穴を埋める突き攻撃をしながら、俺は現世の知識を利用して頭を回した。
絶対にある筈なんだ。絶対に…
「ッ!!ナイアさん、アルさん!奴の体で一際強く光っている胸の赤い光を狙って下さい!!」
「あ!?んでだよ!!…あぁーったく!!」
「坊主、何かに気付いたのか…試してみよう」
俺の言葉を聞いた2人は奴の胸にある赤い光を集中的に狙う。
奴は胸の赤い光に攻撃が当たりそうな時だけ触手で守っていた。それ以外はノーガードだったのに。恐らくあれが弱点の筈だ。
「守ってんじゃねぇーぞクソ星屑がよぉッ!![一閃乱切り]ッ!!」
アルさんが放った技は、一瞬にして奴の触手を何本も切り落とす。切り落とされた瞬間から再生はするが、俺の速さなら行ける筈だ。
「[霧雪]!!」
「~~~…!!」
俺の出せる最高速度の突き技、[霧雪]
それは奴の赤い光に向かって突き刺さり、“星屑の厄“は動きが止まるや否や、体を水のようにして溶けてしまった。
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
“星屑の厄“を1匹倒せた……
しかしナイアさんとアルさんがいなければ当然勝てなかった相手。それがここには何体もいる。俺にはまだやらなくちゃいけない事がある。
「すぅ~………“星屑の厄“の弱点は胸の赤い光ですッッッ!!!!そこを狙って下さいッッ!!」
俺は普段から出している声量を遥かに越える大きさで、空に向かって叫ぶ。少しでも遠くの人に届くように。俺が得た物を全員に共用する。
ここにいるのは全員精鋭達。少し戦っていれば、奴等の弱点には気付く筈だ。だが少しでも早くこの情報があれば、怪我をする人はいなくなるかもしれない。
俺は喉が痛いのも気にせず叫び続けた。
「坊主、さっきは感謝する。中々の洞察力だな」
「あんなの少し戦ってりゃあ気付くがな。まー…ありがとよ」
「いえ、そんな…!お役に立てて良かったです」
暫く叫び続け、喉が限界を迎えそうになった所で一旦止めると、ナイアさんとアルさんが感謝の言葉を言ってきた。少しでも役に立てたのなら、俺がここにいる意味があった。
「だが今は戦いの最中。集中を切らさずに次に行くぞ」
「はいッ!」
そして俺達は再度“星屑の厄“と戦い始める。次々と弱点を突き、まだ弱点に気付かない人には情報と共に加勢する。
弱点狙い続け、段々と連携が取りやすくなってきたその時、突然溶けるように消えた“星屑の厄“。困惑しながらも奴等を探していると、エルータ草原に巨大な地響きが響き渡った。
「なん、だよ……アレ…」
体制を直した瞬間、恐怖で硬直する体。
突如現れた真っ黒な穴から伸ばされる巨大な手を見て、俺は恐怖で体を震わせる。
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「[紫炎不知火]っ!!」
放たれた紫の炎は“星屑の厄“を焼き払い、人型を保てなくなる程のダメージを負わせる。
だが“星屑の厄“は体を再生させ、すぐに人型へと戻ってしまう。
「くそ、ダメか…!」
「こっちもダメ…何発も撃ってるのにすぐに再生されちゃう」
シアリーの魔弾も効かず、僕の高威力魔法でさえ通用しない。何か弱点は無いのか!?
『コウキ、奴の再生の仕方を見ろ。赤い光を核に再生している。後は分かるな?』
脳に直接聞こえてくるセレナの声。よく目を凝らして見てみると、セレナの言う通り赤い光から再生している。予想が正しければ、あの赤の光を破壊すれば再生はできない筈だ。
「それなら…![水烈線]」
手の平から高圧洗浄機のような威力を持った水のレーザーを、赤の光に向かってピンポイントで狙い打つ。
「~~~…!」
予想通り、赤の光を貫かれた“星屑の厄“はドロドロと溶けるように次々と消滅していく。
「シアリー!あの赤を光を狙ってくれ!」
「任せてっ!」
自信に満ちた声でそう答えたシアリーは、たった1発の銃弾で赤の光を貫いた。流石弓を使っていただけある。
「『“星屑の厄“の弱点は胸の赤い部分です!そこを狙って下さい!』」
拡張魔法を使い、午班全員に奴の弱点を知らせた。僕の声が届いた冒険者達は、剣や魔法で弱点を集中狙いする。
このまま押しきろうとしたその時だった、、
「ッ!?な、なんだ…!?消えた…?一体どこへ───ッッ!!!」
先程まで無限にいると思える程の数だった“星屑の厄“は、全て消えていた。
辺りを探しても1匹も姿を確認できない。
そんな時、突然心臓を締め付けられるような恐怖が僕を襲った。探知魔法を使用して、その正体を探すと…
「なんだ…!?アレは…!」
探知魔法が示したのは空。その空を見上げれば、真っ黒な穴が空高くに出現していた。
あれは不味い…!圧倒的なナニカが、真っ黒な穴の中からここに近付いているのを探知魔法から感じる。
『…!!この気配は…ッ…不味いぞコウキ!!今すぐここから逃げろ!!今のお前では奴には──』
何かを恐れるセレナの言葉を最後まで聞くことは出来ず、そのナニカは凄まじい地響きと共に真っ黒な穴から姿を現した。
『こんな馬鹿な事があって堪るか…!!いくらなんでも早すぎる…周期はどうした!?』
そう怒鳴るように叫ぶセレナは言葉を続ける。僕はアイツの姿を見て、ただ呆然とするしかない。
『何故だ…!何故ここに…
──厄災の十二使徒・処女宮のヴァルゴが現れるんだ!!?』
ようやく出せた十二使徒。イレギュラーです。誰のせいかは、お察し下さい。




