4話:まるでキャンプだな
もしここまで見てくれてる人がいるならありがたいです。
「しっかし喉乾いたな…いい加減この酸っぱいリンゴの汁飲むのも苦になってきたぞ…」
歩けそうな道を見つけてはそこ通るの繰り返し。もし迷ってたら俺ここで死ぬね。まぁそうなったらまた木に登って方向確認すれば…多分平気の筈だ。うん、多分。
どれくらい歩いただろうか?体感的には1時間位なのだが、もしかしたら数十分かもしれない。中々風景も変わらないから不安でしょうがない。
「そろそろ暗くなるだろうし、今日はここで初の野営をしてみるか!」
木の上で寝るのは今日はやめよう。昨日は寝返りうって落ちそうになった。あれ一瞬死んだと思ったよ。
「早速準備するか」
野営の定番である焚き火をする為に、枯れ木や燃えそうな物を探す。松ぼっくりとかあったら助かるんだけどな、よく燃えるし。
だけどこの異世界は暖かいから多分春過ぎ。時期じゃないんだろう。
……あれ?でもリンゴって冬物じゃなかったっけ?
出ました、異世界の不思議部分。季節バラバラ案件。よくある事だから大して気にしないけども
「薪になりそう物はこんなもんでいいかな。後は…」
焚き火のイメージをして出てきたのが、円状に置いた石。あれって何の為にあるんだろう…風避け?
そんな事を考えながらも石を探しては円状に置いていく。そしてその中央に拾ってきた枯れ木等を入れていく。
「ライターのありがたみを染々思うよ…」
ライターなんて便利な物は持ってない。そうなると自分で火種を作らねばならない。そこで俺は少ない知識をフル回転させて考える。やがて出た案は、弓切りし式火起こし。本当は舞錐式がいいのだが、やはりそんな便利な物なんて無い。あるのは木の棒と蔓紐だ。
早速材料集め。何か異世界らしい事全然出来てない…これなら元の世界のキャンプとそう変わらない。
それはさておき、用意した材料で弓切りを作っていく。
まず木の板の縁側に石ナイフで窪みと切れ込みを作る。その窪みに木の棒を立てる。次に別の弧になっている木の棒の上下に蔓紐をしっかり縛って、立てた木の棒に紐を一回りさせて組合わせ、十字架のようにする。
「後はノコギリみたいに前後に動かすんだよな?たしか」
途中立てた木の棒の天辺を押さえる物を用意するのを忘れる事件が発生したが、すぐに落ちている木で対応した。
擦り続ける事数分、何か煙出てきた。多分これでいいんだろう。
「んで…用意した燃えやすそうな枯れた木屑を窪みに近付ければいいのか?」
たしかテレビでそうな風にやっていた気がする。またしても見よう見まねだ。
「おっ!火の粉が出てきたのか?木屑に赤い光が…!この後たしか、その木屑に息を強く吹き掛けるんだよな?フゥーッ!!ゲホゲホッ!けっむ…」
最後に木屑手に持ってぐるぐる回す、だった筈だが…果たしてどうだろう。心の中で祈りながらブンブン回す。
「頼むぞ、ついてく───熱っ!!!」
突然発火して驚き半分、熱さ半分でパニック。それでも燃える木屑を集めた枯れ木の中に放り込み、万事解決。
気付けば既に森は真っ暗。空を見れば星がとても綺麗に見える。
「東京じゃ見れない景色だな」
焚き火にあたりながら星を見つめる。
そして晩御飯にまたリンゴ。いい加減別の食べ物が欲しい…。こういう時の為に山菜について調べておけばよかった。
「焼きリンゴで我慢だな、しばらく」
それでもリンゴ素噛りよりはいい。ホクホクでそれなりに美味しかった。でも肉食いたい。
「鹿とか猪がいても捕まえられる自信は無いけどな」
そういえば何で異世界物の主人公は猪の捌き方を知ってるんだろう?皮剥ぎとか内臓処理とかさ、普通出来なくない?あれもチート?シークレットパッチ?
「ふぁ~……疲れたしもう寝よ」
念の為に手に石斧αを持って寝る。次目覚めた時死んでたらウケるなw………いや、笑えねぇわ。燃える焚き火を横目に俺は目を閉じる。明日も無事に迎えられる事を祈って。
「ん……生きてる」
森に差し込む朝日で俺は目を覚ます。何とか無事に生き抜けた事を感謝して伸びをする。見れば焚き火は消えていて、燃えカスが貯まっている。
「んじゃ場所確認と行きますか」
軽く体操をして、俺は木に登る。天辺まで登れば森を一望出来て、気持ちいい。後ろを見れば東京ドームが丸々入りそうな程広い草原が見える。あそこが俺の転移地だ。
「うーん、少し先に岩石地帯っぽい山があるな。もしかしたら川とか流れてるかもっ!」
そうと決まれば早速行動だ。時間が惜しいからね。だってまだ異世界らしい事なんもしてないし。
方角を覚えて木から飛び降りる。槍等の荷物を持って移動山を目指す。もしかしたら魚とかいるかもっと考えながら。
しばらく歩き続ける事1時間程…
「ゼェ…!ゼェ…!思ってたより遠い…っはふ…後どれくらいだ?」
ちゃんと整備されてない森の中を歩くだけでも大変だと言うのに、1時間も歩けばそれはそれは疲れる。
一旦休憩の為に木に寄り掛かり、最後のリンゴを食べる。
「……飽きた」
空の流れる雲を見ながら、誰に言うでもなく呟く。思ってた異世界と違った。これじゃただのキャンプ、またはサバイバルだ。
「もっとこう!異世界ホームドラマ~みたいな感じだと思ってたんだけどなぁ…あのロリ神がぁ…!」
転生してたら今頃揺りかごの中でぐっすりだろうな、俺。でも鍛えた筋肉が落ちるのは嫌だなと考えればどっこいどっこいだろうか。
いや、んな訳ねぇだろ!
「タラレバ言っててもしょうがない。兎に角今は水だ水」
立ち上がって、また山を目指す。もうリンゴが無いから何かしら食べ物見つけないと俺は死んでしまう。何も食べなくても1日くらいなら耐えられるだろうが…それ以上はストレス貯まりそうで嫌だな。
「まだこの槍もリンゴ取りにしか使って──ん?この音は…」
遠くからチョロチョロチョロっと水の音が聴こえてくる。おい、今小便って言った奴表出ろ、俺は出ないけど。
孤独故の1人劇は置いといて、この音は川の流れる音だと思い、その音の方へと走り出す。
「おぉ…!ザ・川って感じ!!」
丸い石が川辺に転がり、綺麗で透き通った水が流れている。
異世界来て2日目にしてようやく水場を発見した。
「水場なら色々メリットは凄いぞ!」
まず生き物が飲み水の為にやって来る可能性が高い。次に、下流へ向かえば村とかある可能性もある。いつの時代も文明は川の近くで発展してきたしね。社会は強いよ、3だったから。
「よぉーし!ここが俺の拠点2号だ!」
とりま川の水を飲む。たしか浄水した方がいいんだっけ?でもな…ペットボトル持ってないし…。竹とかでも代用出来そうだが、ここには自生してないだろうな、異世界だし。
「腹壊したらそれまでだな…」
水の中に微生物がいるからダメなんだよな。でも折角川を見付けたんだから飲んでみよう。
「少しだけなら…っ!いやダメダメ、生水飲んで死んでる人は沢山いる。……でも異世界水ならワンチャン…」
飲んだ。結局俺は飲んだのだ。
冷たくて美味しかった(小並感)
特に腹痛等も感じないが、時間が経ったら怖いな…
「正○丸の無いこの世界では腹痛は致命的だな──っ!」
同じ岸の川辺から何かがやって来るのを瞬時に感じとり、俺は素早く森へ駆け込み、茂みに隠れる。川の流れる音で反応に遅れたが、見つかっていないだろうか…
じゃりじゃりと小石を踏み何かがやって来た。俺は現れた生き物に目を見開いて驚く。
『ゴブリン…!』
全身緑色で醜悪な顔をし、ボロボロの布を纏っているゴブリンが4匹。しかし俺の目はゴブリンが肩に担ぐ物を捉えていた。
『人間の子供2人を担いでどこへ行くつもりだ!?』
いくらゴブリンでも全てが悪とは限らない。【なろう】でもいたが、友好的な奴もいる。しかし…
『見た目で判断良くないが…とてもそうには見えない』
4匹のゴブリンが何を話しているかは分からないが、ゲラゲラと笑いながら子供を運んでいる。しかし運び方が雑に感じた。何より子供に怪我があり、服も何ヵ所か破けている。
森に迷った子供を保護したとは到底思えない。
『なら行った方がいいのか…?だが俺の装備が貧弱過ぎるし、相手の力量も分からない』
下手にここで飛び出して、ゴブリンに勝てるだろうか。
『いや、転生は出来てなくても俺には[略奪]がある。見付かっていないうちに使って弱体化させてしまおう』
茂みの中から手を伸ばし、ゴブリン達へ[略奪]を使用する。
『………?変わった感じがしない?いや、元々弱かったって事か』
力や能力が新たに手に入った感じはしないが、[略奪]は成功した筈だ。後は奴らの巣へ帰るだろうから、俺はついていけばいい。
人間を拐う習性があるなら、他に人がいる可能性がある。ならその人達も救いたい。
「よし、アイツらを見失わない内に…!」
ゆっくりと茂みから抜け出し、バレないよう、木の影に隠れながらゴブリン達の後を追った。