47話:なろう太郎がイベント起こしたから無視する
「気持ち悪い……」
翌日の朝。俺は吐き気を抑えながら小庭へと向かい、シアンの様子を確認する。
相変わらず膨らんだり縮んだりと動いているが、孵化する気配は無さそうだ。
俺はシアンの様子を確認した後、トレーニングを開始する。ある程度は筋肉に負荷を掛けないと、筋肉が無くなってしまうので欠かせない。
「んじゃ行ってくるな、シアン」
トレーニングを終えた後、俺はシアンに向けて手を振ってギルドへと向かった。
どうかなろう太郎がいませんようにと祈りながら。
「なんでいるんだよ…別の街へ行けよ」
ギルド内に入ると、俺とそっくりな容姿の男が怖い兄ちゃんに絡まれている。
ギルド内での戦闘か…こりゃまたテンプレな…
「Fランクのお前がキラービーの変異種を倒せるわけねぇだろうが。つくならもっとましな嘘をつけよ」
「なっ!コウキは嘘なんかついてないわよ!」
ヘラヘラとしながらバカにする怖い兄ちゃん。それに対抗して吠えるヒロイン。
頑張れ、怖ニキ。なろう太郎をボコボコにしちまえ!無理だろうけど。
「僕は嘘なんかついてませんよ。貴方こそ言い掛かりは良くないと思いますよ」
「あ?俺が間違ってるってか?ははっ!おもしれぇ餓鬼じゃねぇか」
やれっ!怖ニキ!なろう太郎のはらわたをぶちまけろ!!
ざまぁ系にしちまえ!ちょっと意味違うけど。
「別に証拠を見せても良いですよ。まぁ…貴方が勝てるならの話ですけど」
「……おい餓鬼、あんまり大人を舐めてんじゃねぇぞ?いいぜ、Cランクの俺がお前を徹底的に痛め付けてやるよ」
おぉ…なんか喧嘩という名の一方試合が始まりそうだな。怖ニキには頑張って貰いたい。
後お前はCランクでイキるなよ。中途半端な…
「ちょ、ちょっと困りますよ!ギルド内で喧嘩を始めないでくださいっ!」
「ならギルドの訓練所を使わせろ。そこでぶっ潰してやる」
「そ、そんなの許可出来る訳──」
「待て」
茶髪受付嬢が止めに入った。おい止めるな。本当余計なことしかしないな、茶髪は。
受付嬢が許可出来ないと言おうとした瞬間、ギルド内に渋い声が響いた。ギルドマスターだろ?どうせ。
「ギルドマスター!?どうしてここにっ!?」
「変異種を討伐したルーキーがいると聞いてね」
あーもう展開はわかった。時間が勿体無いからちゃっちゃとクエスト受けよっと。
「ミックさん、今日もオススメのクエストってありますか?」
「えっ…?あっ…ありますけど……いいんですか?」
「え?何がです?」
「今絡まれてるコウキさん…アキラさんのお仲間なんじゃないんですか…?」
何を言っているんだ?この人は。なろう太郎と俺が仲間ぁ?バカ言っちゃいけねぇ。
「いえ、違いますけど」
「え…?」
「え?」
何驚き顔をしているだ。当たり前だろ?俺がアイツの仲間になった暁には完全にモブと化す。それはつまり、俺が望む主人公の人生を歩めないという事だ。そんなの死んでも嫌だね。
チラッと向こうを見れば、ギルドマスターと呼ばれていた渋い男性となろう太郎が話している。話の内容は分かるからあまり興味は無いけど。
「あの…?クエスト受けたいんですが」
「えっと……分かりました…」
本当にいいんですか…?って顔で見るなよ。俺が悪いみたいじゃんか。
ホントに仲間じゃないから安心してくださいよ。
さて、クエストも受けたし、早速向かうとするか。今日こそ街に降りてきて困らせる森鶏を追い返しに行くぞ。
「あっ!おーい、アキラっ!」
チッ
「よぉコウキ、どうしたんだ?」
「実はさ…アイツに絡まれてさ…今から戦うことになっちゃったんだよ」
知ってる。知ってて無視してた。それに戦う理由になったのはお前が煽ったからだろうが。ああいう輩は無視するんだよ。
「そうなんだ、頑張れよ。じゃあな」
「アキラは見ていかないの?」
俺がもう行こうとしたら、ヒロインが声を掛けてくる。
えっと?見ていかないのかって?見てくわけないだろ、アホらしい。
「いいのか?」
「勿論っ!コウキがあんな奴コテンパンにしちゃうんだからっ!」
逆にコテンパンにされろ。
「じゃ…見ようかな」
クソ…!断ることが出来ない……これが[なろう]パワーってやつなのか…!?キラキラしてやがる。
「結局断れなかったし…」
ぶつくさ言いながら俺は観戦席につく。
訓練所ってなんか闘技場みたいな作りだな。
『なろう太郎はやっぱ魔法かな?』
怖ニキは槍を使うのか。先端に布を巻いてるが、当たったら痛そうだ。もっともなろう太郎に攻撃は当たらないんだろうけど。
「僕は剣でいく」
「ハッ!槍相手に剣たぁ…!随分舐めてやがんな。いいぜ、要望通り痛め付けてやるよクソ餓鬼」
なろう太郎は木刀か。お前…やめろよ?まさか剣まで使えるとかなら俺ホントにキレるよ?
…ふりじゃないからな。
 
「しょ…勝者、コウキっ!!」
知ってた。
槍の攻撃が遅く見えてるってレベルで回避したと思ったら人間の急所の殆んどを狙うという鬼畜の所業。あんなのチートじゃん。いやチートだったわ。
「アキラ!僕の剣撃、どうだったかな?」
話し掛けて来るななろう太郎。お前のせいで俺がお前の仲間だと思われてんだぞ。
あーやってられん、無視無視。
「ん?良かったんじゃないか?」
「…!そ、そっか」
何だその反応は……怯えた表情しやがって。
ちょっと対応が素っ気なかったかな?
「んじゃ俺はもう行くな。またな、コウキにシアリー」
「あっ…」
ちょびーっとだけ気まずいから逃げさせて貰うな。お、俺が悪いことしたみたいな雰囲気になったし、、
最後に何か言おうとしていたコウキだが、そのまま引っ込めてしまったので俺は本当に立ち去った。クエストがあるのでね…仕方ない。
────────────
ギルドを後にした俺は、目的であるコケコッコに会いに裏山の森へとやって来た。
ネーミングがやべぇが、とても興味をそそられる。
そして遂にコケコッコを発見した。
「ホントに鶏じゃん…」
「コケッ?」
178㎝の俺と同じくらいの大きさの鶏。本当に鶏がそのままデカくなったという感じだ。
「悪いが…ここからいなくなって──」
「コケコッコォォォォォォォォ!!!!」
「うわぁぁぁぁ!?!?鼓膜破れるッッ!!」
細剣を抜いて構えた瞬間、森鶏が鼓膜を破る程の音量で泣き叫ぶ。両耳を守るために、思わず細剣から手を離してしまった。
しかしそれがいけなかった。
「コケッコォ!」
「ぐあぁッ!!」
全力で俺に向かって突進してきた森鶏。人間サイズもある巨体から放たれる一撃は結構重い。中々悪質なタックルですよ…
『耳を塞がないと耐えられない…!でもそれじゃあ細剣が持てない…どうするか…』
俺は肺の空気を全て出し、一気に吸い込んで森鶏に向かって走り出す。
驚き顔の森鶏に向かって俺はジャンプをした。
「剣術だけが俺の武器じゃねぇんだよ!!──アキラーキックッ!!」
俺にはまだ脚がある。たとえ両手が使えなくても足技を使えばいいだけだ。むしろ足技の方が得意だし。
「コケッコォォォ!?」
俺の放ったキック技は、見事森鶏の顔面に直撃。フラフラとした足取りで後退する森鶏にニカッと笑う。
「ガキの頃見てた特撮ヒーローの技を舐めんな!」
あれは再放送だったか……って回想に浸ってる場合じゃない。
相手がぴよってる内に追撃を──
「コケェェェ!!クックドゥードゥルドゥー!!」
「んで海外の鳴き方なんだよ!!」
頭を振りながら体当たりをしてくる森鶏。それを俺は相撲のように受け止める。バシバシと嘴が背中に当たって痛い。
「痛いっ…ちょっ!痛っ!」
「コケッコォォ!!」
「痛いっつってんだろがぁッ!!」
森鶏の背後へ回り、がっしりと掴んで俺はそのまま裏に倒れるように技を掛けた。
ケモナーマスク式ジャーマンスープレックスホールド。パンツが見えてしまう技なのだが、鶏にやってもなんの得も無い。
「ゴゲッ!!」
「1、2、3!!」
鈍い音と共に声を出した森鶏と、審判がいないから自主的にカウント取る人間という中々カオスな絵面が流れる。
「どうだ鶏、これが俺のチート【なろう】だ!」
「コケェェ……」
俺の力に恐れをなしたのか、一歩、また一歩と下がる森鶏。やがて『コケコッコォ!!』っと叫んで森の奥へと消えていった。
「だぁぁぁ!!つっかれたぁ……まだ耳がキンキンしてやがる…」
ドサッとその場に座り込み、息を整える。
流れ的にジャーマンスープレックスホールドをしたが、予想以上に重かった…もうゴリ押しだったが上手くいってよかった。もっと言えば、そのまま潰されなくてよかった。
「ふぅぅ…帰るか。ギルドの騒ぎも落ち着いただろうし」
俺は尻の土を払って立ち上がり、細剣を拾ってギルドへと向かった。
報酬は、街の被害が無くなった事が確認されたら入るので、今日は報告のみだ。
「あー…今日も夜の仕事か…辛いな…」
早く冒険者一本で生きていけるように頑張ろう。……その為には初期費用がいるから、暫くはこの生活だけど、、
「やっぱ服は我慢しとけば良かったか…?いやでもなぁ…」
俺はうーんうーんと唸りながら、山を降りた。その後は何事も無く、なろう太郎にも出会わずに無事報告を終えるのであった。
後数話で二章終了。
 




