39話:なろう衣装に身を包む
あれ…?予約投稿されてない…?
「ほら、いっぱい食えよー」
ミルとの稽古の後、俺は山に生えている木にシアンを乗せてご飯を食べさせる。
もうバクバク葉を食べていく姿は面白いが、やはりビジュアルが俺的にアウトだ。
「食わなくなった…なんだ?もう腹一杯か?」
どうやらシアンは満足したらしい。俺の腕に戻ってくる。あれ?こいつ俺の事認知してね?
「よしよし、いい子だ。……毛がチクチクするけど」
なんだかんだ育ててたら可愛く見えて……見えてぇ……来ないわ、少なくともまだね。
そろそろ日が暮れる。真っ暗になる前に店へ向かおう。
ゾクッ…!
『な、なんだ…!?この気配は…!』
身体中から汗が溢れ出す。
まるで心臓を握られるようなこの気配は一体…?
その場から動けずにいると、山に羽音が聞こえてくる。それは凄まじい振動と共にやって来た。
「んなっ!?なんだよあれ!!」
空を埋め尽くしたと感じる程巨体な虫が空を飛んでいた。
あんなデカイ蝶は見たことがない。見ただけで恐怖するその姿。俺はシアンを抱え、【逃走】を使いその場から全速力で撤退した。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
街に何とかたどり着き、俺は命があることに安堵した。
シアンも…無事だ。握り潰していなかった。それよりも咄嗟にシアンを抱えて逃げた俺自身に驚きだ。虫苦手な筈なんだが…
「なんなんだよ…あいつ」
思い出しただけで身の毛がよだつ。取り敢えず店に向かおう。
シアンは店の裏にある小庭の木に乗せた。多分ここからいなくなる事は無いだろう。
──────────
翌日の朝。若干の吐き気を感じる中、俺はシアンがいるかどうか確認に向かった。
「おまっ!?えっ、それ…捕まえたのか…?」
昨日乗せた木を見ると、そこにはシアンと、森蝙蝠がいた。シアンが襲われている訳じゃない、シアンが森蝙蝠を捕食していたのだ。
「うっそやろお前…そいつシアンの倍くらいデカイじゃねぇか…」
俺が呆然とする中、シアンは満足そうに森蝙蝠を食べている。ある程度この世界で生き物を殺して見てきたが、虫が捕食しているのって結構キツいな。エグい食いかたしやがる…
「てかお前肉食かよ。肉食の虫ってなんだろう…カマキリとか?」
俺の少ない知識じゃそれしか思い浮かばないが…カマキリの幼虫って毛虫だっけ…?あれ、昔昆虫図鑑で見たな…毛虫ってなんの幼虫だっけ。
『こんな時にスマホがあれば…おのれスマホ太郎先輩…!今は貴様が憎いぞ!ついでに百錬三郎も罪深きぃ…!』
そんな事考えている間に、シアンは森蝙蝠を完食。今後はお肉も与えてみよう。その為にはお金がいる。つまりは仕事、ギルドのクエストだ。
「んじゃ俺はギルド行ってくるからな?大人しくしてろよ?──うわぁぁ!!」
シアンに背を向けて歩きだした瞬間、俺の首筋にチクチクする毛の感覚が襲う…!
手で正体を探ると、シアンが俺に飛び乗って来たのだ。
「あのさぁ……はぁ…後で山には連れてってやるから。な?」
伝わらないを承知で言うが、シアンは降りようとしない。あっ!こ、こいつ口から糸出したへばりついてきやがった!!や、やめろマジで!!あぁ~っ!!くっ…
「結局連れてきてしまった…」
下手に剥がそうとすると、潰してしまうのではないかと心配になり…仕方無い。
毛が凄いから、新手のマフラーにも見えないことは……いや見えねぇだろ。
お陰でギルドでの言い訳が大変だった。なんとか新しいファッションって言ったが。変な目で見られてしまった……お前のせいだぞシアン。
「ほらっ一旦離れてくれ、シアン」
モゾモゾ動くシアンは、木に登ると葉を食べ始める。あんなに食ったのにまだ食うのか…
「将来爆食のモン娘になったら困るな…」
沢山食べる子は好きだが…限度ってあるじゃん?それに激太りとかしたらホント嫌だからな。
もっとも、食費的にキツイってのはあるが。
取り敢えず食事に夢中になったシアンは中々動かないので、俺はその間にクエストへと向かった。
──────────
「嘘だろ…」
前回も受けた森蜥蜴の退治クエストを終えた俺は、シアンがいる木へと向かう。
そこで俺は凄いものを見てしまった。
「シアン…お前食いすぎ!え、はぁ!?この木にある葉っぱ全部食ったのか?!」
シアンがいた木は、見るも無惨な姿へと変わっていた。もう葉が無いのだ。冬かな?
お陰さまですぐ見つかったよ。
「…ほら行くぞ、シアン。これからミルと稽古だからさ、そっちでまた新しい葉っぱ食べようぜ」
俺がそう言って腕を伸ばすと、シアンは俺の腕へと登ってきた。やはりシアンは俺の言葉がわかってるっぽいんだよなぁ。
「…?あれ……お前デカくなった?」
若干重くなってるし…何よりサイズが大きい?まぁ食後だし、虫って成長早いもんな。
そう考えて俺はミルとの稽古場所へと向かった。
「遅いな…遅刻って訳じゃないけど、こんなに待たされるなんて初めてだ…」
いつもの場所へ到着した俺は、ちょうどいいサイズの石に腰掛けて待っている。
もう結構待っているのだが、一向にやってこないミルに違和感を覚えた。
ただ待ってるのは暇で時間が勿体無いので、細剣を持って素振りや[霧雪]の練習を開始した。
30分程自主練をしていると、茂みがガサガサと揺れる。
すぐにそこから距離を取り、抜剣して構える。
「…ごめん、遅れた」
「なんだ……ミルか、良かった。ここまで遅れるなんて珍しいね」
茂みから現れたのはミル。その姿を見て一安心したが、それと同時にミルの汚れた姿が目に入った。
「なんか土汚れ?が凄いけど…何かあった?」
「ちょっと……失敗しただけ。問題は無いよ」
何か隠しているが…言わないって事は言いたくないんだろうな。主人公としては踏み込むべきなんだろうけど…嫌われたくないしな…
クッ…!女性との接し方がわからねぇ…!!
「少し遅れたけど…始めようか」
「おうっ!今日は習得してみせるよ!」
「フフッ…楽しみにしてるよ」
──────────
「アベシッ!!」
「剣筋は良くなってる。剣も速い。でもまだ遅い」
雑魚キャラみたいな声を上げて吹き飛ばされる俺。ミルが言うように、自分でも速くなったと思ってる。だがまだ遅いとのことだ。
「まだ[霧雪]の速さに届かないのか…!」
「うん、まだ。[霧雪]を習得しないと他の【終雪】を習得出来ないから頑張って」
【終雪】はザックリ言えば、速さと連撃が特徴の剣術。それを最近聞かされたが…もはや人間業じゃねぇよ…
「っと……ごめんアキラ、今日はここまでにして欲しい。ボクこれから行かなくちゃいけない場所があるんだ」
「えっ?あぁ…良いけど」
珍しいな…いつもなら最後まで付き合ってくれるんだが。何か急いでる感じだな。
「……アキラ、帰り道…気を付けてね…?今この森は危ない。出来ればクエストも受けて欲しくないくらい…危ない」
「何かあったの…?そんな顔するなんて珍しいじゃんか」
まぁミルは表情変わんないけど。戦ってる時意外滅多笑わないヤベー奴だけど。
「…今、失礼な事考えてなかった?」
「い、いえっ!何も!!」
「…そう、別にいいけど。じゃあボクは行くね」
ミルはジトーっいう眼を向けた後、森へと行ってしまった。あんな忍者みたいにピョンピョン飛べるなんてたまげたなぁ…
「森が危ない、ねぇ…たしかに変な蝶が飛んでたし…今日は違うことするか」
取り敢えずシアンを回収して、俺は街へと戻った。まだ明るいからどっか店にでも行ってみる事にした。
「あっそうだ!折角お金も貯まってきたし、服を買おう!!」
そうと決まれば早速衣服屋へと向かう。今着ている農民風の服とはおさらばだ。でもとっておこう、部屋着として。
っとと、その前にシアンを店裏の小庭に置いてこないとな。
衣服店に到着すると、お姉さんが話し掛けて来た。
「いらっしゃいませ、どのような服をお探しですか?」
「えっとそうですね…こう、膝下まであるコートってありますか?」
「は……膝下まであるコートですか…」
そう、膝下まであるダッサ──いや、超イカす服あります?出来れば黒がいい。
「えっと…具体的にはどのように?」
「そうですねー…」
困り顔の店員さんがそう言うので、俺は店の服を軽く見回す。そこにあったコートを指差して俺は説明した。
「これより長い物をお願いします。色は黒で。んで、首にはフワフワの毛をつけてください!あっ、ついでにコートの中に着る白い服も見繕ってくださると助かりますね」
「は、はぁ……承知しましたが…本当にそのような注文でよろしいのですか…?」
「えっ?はい、勿論」
「さ、左様でございますか…」
本当にそのファッションで良いのか?ってお姉さんは聞きたいんだろうな。
別に俺もこの服がカッコいいなんて思っちゃいない。でもこれ着てると一気に主人公になれるんだよ!仕方ないだろ!!
暫くして、、
「お待たせ致しました、こちらがご要望の服になります…」
「おぉぉ!!こう…あれだな!【なろう】だな!」
急遽縫って貰ったロングコート。要望通り黒で、襟らへんにフワフワの毛がついている。何とも言えない、コメントに困る服が用意された。
俺は試着室で早速着替える。
「お、お似合いですよー!」
「どうもっ!」
気を使ってくれるな、俺が恥ずかしくなるだろうが。いいんだよ、これで!これが今の【なろう】界のトレンドなの!
「んふふふっ!カッコいい!」
やっぱいざ着てみるとカッコいいな。男はロングコートが好きなんだなぁ(偏見)
「そこそこ値は張ったが…いい買い物が出来たな」
また金無しレベルのお金しか無いが…後悔はしてないからいっか。
「おっ!この辺は初めて来た時の商店通りだな。何か買ってくか」
銀貨1枚と大銅貨1枚という子供の小遣い程度しか無いが…何か買えるだろ。
と、思ってましたよ。さっきまでね。
そこそこ値段が張るんだなぁ…王国だからかな。
「まっ欲しい物は買えたし、いっか」
買ったのは文字を書くときに使う液体。まぁ墨みたいなもんだ。店主が言うには、結構洗わないと落ちないらしい。
「これを!……よしっ!出来たぞ、失格紋!」
手の甲に紋章を書いてウキウキしている俺、中々ヤベーな。ミルの事をヤベー奴なんて言ってられないな。
黒のロングコート&失格紋というダブルパンチ。からの垂黒髪の追撃。
これには【なろう】好きもニッコリだろう。
もっとも、【なろう】好きがいるかどうかは置いといて。
「よしっ!帰ろっと!」
大満足のアキラ。
だが次の日、ミルに大不評をいただくのだが、この時のアキラは考えもしない。
これでストックが切れてしまった




