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391話:入国条件は労働です

僅かな時間を見つけて書き上げ投稿

全長100m程あるシアンの大きな背中に乗りながら、かつて俺を助けてくれた恩人であるリドリーさんのいる小屋へと向かっていた。

この辺はあの日以来だが、こんな山奥で彼女は何をしていたんだろうか。そんな事を考えつつ地上を見ていると、一部違和感を覚える場所を見つけた。


「多分あそこだ」


「え?でもあそこ森のど真ん中だよっ?小屋なんて見当たらないけど…?」


「俺もハッキリとは認知出来ないけど、[偽装看破(トライアル・ライ)]に僅かに反応がある。出身国の謎技術で隠れてるんだろ」


首を傾げそう言ったルナに、俺はそう答えるとシアンに降下するよう指示を出した。この魔物状態ではシアンは喋れないので、甲高い声で答えるシアン。

全員耳を強く塞ぐのだった。





「本当にこの辺なの?」


「ああ…確かにこの辺で反応したんだけど…何でだ?」


地上に降りて近辺を探してみるも、あの日見た小屋はどこにも見つからない。[偽装看破]は確かにこの辺で反応したのだが、やはり思い違いだったんだろうか…



「おぉんやぁ?何やら外が煩いと思って出てみれば…懐かしい顔じゃないか。いや、そこまで懐かしくはないかなぁ?」


どこからか女性の声がした。紛れもなくリドリーさんの声なのは確かだが、辺りには俺達以外誰もいない。

人の気配も感じな―――――いやいる…!またしても[偽装看破]に反応がある。…この能力便利だな。


「リドリーさん、ですよね?貴女に大切用があって来ました!どうか姿を現してはくれませんか?」


時間に余裕は無い。俺はまだ見えぬリドリーさんへと用件を手短に伝えると、ゾワリと肩に人肌の感覚が……


「なぁ〜に言ってるのさぁ。ここにいるよ」


ジジジ…と電子音と共に、突如出現したのはリドリーさんであった。光学迷彩というヤツだろうか…白衣を纏っているのだが、その姿は上裸に白衣1枚のみ、、


「うわあああああああ!!!!?」


突然出現&全裸白衣という実に叡智な格好をしたリドリーさんに、ここ最近クールでシリアスを気取っていた俺は久しぶりに情けない絶叫を上げてしまった。





「あっはっは!いやぁ〜ごめんよぉ?少しばかり驚かせるつもりで忍び寄ったが、まさかここまで良い反応をしてくれるとはねぇ?君、もしかして童t―――」


「そ、それよりも下に服を着てください!実に叡智…じゃなくてふしだらですよ!」


「あっはっは!あ〜面白いねぇ、君は相変わらず。イジリ甲斐があってとても可愛いよ」


俺の言葉を聞いても実に愉快だと言わんばかりに爆笑しているリドリーさん。その間も白衣の下には何も着ていないから今にもチラっと見えてしまいそうだ。なんてハレンチなんだ!恥を知れ恥を知れ恥を!ありがとうございます!!

……あ、ミルが見てる。鼻の下を伸ばしている俺を見ている…!氷の様なキンキンに冷え切った瞳で俺を…!


「あー笑った笑ったぁ。―――――さて、それでぇ?わざわざこんな所まで来て私に何の用なんだぁい?経過観察じゃなさそうだけど」


少しして白衣の下に服を来たリドリーさんは、マグカップを片手にそう言った。その目は先程までの笑っていた時とは違って、どこかこちらを探るような目だ。

だから俺らは今ソルが置かれている状況を正直に話し、リドリーさんの母国である技術国家セレクレェイションへの入国方法を聞いた。


「ナルホドねぇ。キミらの状況は理解した。でも、そう簡単には教えられない。国を隠しているのには当然理由があるからねぇ………あつ!!?」


訳アリの表情でコーヒーを口にするリドリーさん。

どうやら猫舌らしい。


「お願いします。リドリーさん以外に宛がないんです。ここで情報を掴まないとソルは…ッ」


「ふぅむ…ならば君達にちょっとした手伝いをしてほしい。私の要望に答えてくれるのなら…教えても構わないよ」


「…!本当ですか!?」


「本当さ。だからそんな捨てられた子犬顔はよしてくれ。嬲りたくなる」


「え、それは……」


「冗談さ」


そう言って『はっはっはっ』と笑うリドリーさん。一瞬だったけどあの目はマジだろ…。





「そうそうイイ感じだよ。いやぁやはり魔法というのは助かるねぇ~」


そう言ってリドリーさんは貴重である筈の紙を使って何か書類制作している。


リドリーさんが俺達に頼んだお手伝い。それは魔法の使えないリドリーさんが無くなってきたエネルギー資源を魔法で調達する為のエネルギー原、そして研究の手伝いだった。

ミルは剣技を使った氷の大量生産。ルナは炎を。そして俺は電気を。対してローザは操血の能力を買われてDNA調査や血の酸化などを手伝い、ソルは持ち前の技術で魔道具を作らされている。リドリーさん曰く『これは研究に必要な物なんだよ、わかりまたえ』と言って、どう見てもマッサージチェアーを作らせている。設計図はリドリーさん持参だが、俺にとってはその設計図が作れる事に驚きだ。


「何で剣を振ると氷が出せるんだい?」


「……これは家に代々伝わる剣技で、空気中の水分を凍らせ――――」


「いやいやおかしいよそれは。水が凍る理論までは分かるけど人間の能力的に不可能だ。剣を振って凍るのは絶対おかしい。やはり魔法の一種なのかい?」


おいこらリドリーさん。異世界の不思議を科学的に暴こうとするんじゃないよ。いいんだよ、異世界はヘンテコ理論で。ましてやこの世界が【なろう】なら尚更ガバガバ理論でいい。

例を出すなら【スピーシーズドメイン】の理論武装確率論や【俺だけ選び放題】のシュレディンガーの猫だったり……例を上げればキリが無いほどにあふれている。

それが【なろう】の醍醐味でもあるんだけどね。一種のギャグ漫画と捉えられてしまうが…


「それにしても君は相変わらず謎だよねぇ?それ、あの金髪の少女とは違って魔法じゃあないだろう?あ、作業を止めずに答えてほしいんだけど」


「……まぁ、はい。魔法では無いですね」


「やはり悪魔の力ってヤツだね?不思議だねぇ〜。そうだ、私も悪魔を召喚してみようかなぁ。色々と興味深い存在だしねぇ」


冗談半分にそう言って笑うリドリーさんは、上機嫌のまま作業を再開した。

この程度で入国方法を教えてくれるのならお安い御用。そう思って皆と一緒に作業に取り掛かっていたのだが、、




「ううう…!魔力が持たないよぉ…!」


「頑張って、ルナ………後、少し……だから」


「そ、そうよルナ!後少し頑張りましょう…!」


「っ…!!っっ」


各々の作業が始まってもう既に6時間程経過した。弟の為と1番頑張っていたルナも、いよいよガス切れだ。よく持った方だ。ミルも剣速が遅いし息も上がってる。鼓舞するローザもまた顔色が青くなって、別の意味で心配だ。

そしてソルは体力の無さからもう言葉も発せずに悶えて作業している。アイツが1番ヤバそうだな。


「いやはや君はスゴイねぇ?一定の電力を維持したまま疲れ1つ無いじゃないか」


単純に体力が増えたのか、悪魔の適性がまた上がったのか。俺だけ唯一疲れる事は無かった。

痛みや眠気、味覚などの感覚が鈍ってきているが…まさか疲労まで感じなくなったのか?ラッキー。



そして更にそこからプラスで約1時間の労働が続き、リドリーさんは『ふぅ~む』と呟くとこちらに視線を向けてニヤリと笑った。


「やぁやぁ、お疲れ様。お陰で枯渇しかけていたエネルギーが満タンになったよ。これでまた暫く研究を続ける事が出来るよ。はっはっはっ!」


「もう…っ立てないよぉ…!」


ルナがぶっ倒れる。それに続くようにソルが泡拭いて痙攣している。やっぱ姉弟だね、倒れる時まで一緒とは。

そう思いつつもヤバそうなのですぐさま[精神治療(マインドヒール)]で2人の疲労を消した。


「ミルもローザもお疲れ様。大丈夫そう?」


「ん…平気。…多分」


「こ、これくらい余裕よ、余裕…!」


剣を杖にしているミルと、肩で息をしているローザにも同様に[精神治療]を施して、満足そうに笑みを浮かべるリドリーさんの元へと歩く。


「これで約束通り、セレクレェイションの入国方法を教えてくれるんですよね?」


「ああモチロンだとも。私の言葉に嘘はないよ。それでどうする?家で少し休んでから行くかい?それともすぐに行くかい?」


そう言いながら背を向けたリドリーさんは、小屋の玄関扉へと手を掛け、ガチャガチャと音を鳴らした後に扉を開くと、その先の空間が歪んでいた。


「空間転移装置と言う物だ。セレクレェイションの科学は世界一!出来ない事は無いのだよ!あっはっは!」


「どこで◯ドアじゃないか。科学の力ってスゲー」


「そうだろうそうだろう」


誇らしげに頷くリドリーさんを他所に、俺は皆の方へと振り返る。いくら魔力と疲労を消しても、体の方が付いてかない。急ぎたい所ではあるが、ここで無理をするのは違う。


「私達の事なら平気だよっ…!これくらい、何ともないんだからっ…!」


「っ…っっ」


足取りが覚束無いルナと、言葉になってないがルナの言葉に同意するように何度も頷くソル。

ミルとローザにも視線を向けると彼女達も頷いた。


「行こう」


「ふふっ、そうかい?なら行くといい。向こうの皆によろしく頼む。何かあったら私の妹を頼るといい。きっと………うん、力になってくれると思うよ」


今の間はナニ?

若干の不安を抱えつつ、俺達はゲートの中へと飛び込むのだった。

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