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389話:険悪な関係

まだ続きます。

それからコウキの転移魔法でリベルホープへと帰還した俺達は、今後の動きを話し合う為に1度城へと向かう事となった。


「アキラは寝てていいんだよ?少しでも体力を回復した方が…」


「いや、問題ないよ。どうせ横になっても寝れないしね」


「あのねぇ…ミルが言ってるのは寝れる寝れないの話じゃないのだけれど?」


ローザの鋭し視線が俺を貫く。うっ…

確かに気づかってくれてるのに今のは無いわな…。なんでそんな風に捉えたんだ?俺は…ったく。


「やっぱり寝てろよ、ぶっ倒れでもしたらこっちが大変なんだぞ?…まぁアキラの事だからどうせすぐに起き上がるんだろうけどさ」


「大丈夫だって…!元気だから、俺!!」


実際疲れは無い。あの機械龍に1度殺された為、[不死鳥之焔(フェニックス)]で蘇生を已む無く決行したから全回だ。

……これやると色々感覚が鈍るんだよな。後単純に痛い。死ぬのも再生するのも。


そんな訳で皆の心配を押しきって、コウキの待つ部屋へと入室した。ここは以前【なろう】主人公達が集った会議室だ。


「…!来たね。じゃあ早速始めよう。事態は予想を遥かに越えて深刻だから」


部屋に入るや否や、早々に話し合いが始まる。どこか焦っているようにも感じるコウキには触れず、静かに頷いて着席。


『あれ…?あんな娘コウキのハーレムパーティにいたっけ?あ、あー…あの人が姫さんね』


呑気に…と言うよりはいつもの癖でそんな事を考えてしまう。切り替えよう。


「あの機械龍は元々龍種だ。産まれて数百年とまだ幼いが、それでも単体で国の軍隊をも相手に出来るだけの力を持っていた」


始めに重苦しい雰囲気を醸し出しながらそう言ったのはコウキの相棒であるセレナ。同じ龍だからだろう、哀惜と憤怒、そして激しい殺意を隠そうともしないからシアンが俺の膝の上で震えている。


「そもそも……生物をあそこまで弄れるのは我の知識ではそういない」


セレナの蜥蜴眼から放たれる殺意の眼光。それは俺の向かいに座るソルへと向けられた。


「そこのお前のような奇怪な銃を造れる者は含まれないがな」


「な……っ」


「おい待て…!ソルを疑っているなら絶対に違うぞ。ソルは初めて出会った時は夜しか活動出来ず、その後はずっと俺達と行動してる。あんな怪物、造れる時間なんかあるわけ無いだろ」


蛇に睨まれた蛙。まさしくその状態となってしまったソルへとすぐに弁解を挟む。

そんな事、ある筈が無いと。


「だがヤツの持つ銃と鉄屑を縫われた同胞の造りは嫌と言う程酷似している!例えお前に関係無いとしても、両親やその同郷の者はどうだ?もし僅かでも関係性が露になれば、例えテンドウ・アキラッ!貴様らを相手にしてでも皆殺しにしてくれるぞ…!!」


涙を溢しながらも、身の毛が弥立つ覇気を飛ばしてそう叫んだセレナ。俺達は勿論、コウキやその仲間達でさえ声が出せない。

そしてその覇気を向けられたソルは、暗い表情を浮かべ、何も言えずに俯いている。


良くない状況だ。“強欲“を叩く為の話し合いだと言うのに、今は協力関係を築く前に壊れてしまいそうだ。

そして俺自身も、本来なら冷静に言い返す主人公的場面だと理解していても、ソル達の事を何も知らないクセにあそこまで言われては腹の虫が悪い。





「まぁまぁそう熱くなんなよ、綺麗なお顔が涙でグッチャグチャ。台無しだぜ?」


俺が言葉を発する前に、そう呟いたのはアスモデウスであった。

いつも間に出たのか、何故ソルを庇うのか。いくつか疑問はあるが、今この状況でそのセリフは自殺願望者としか思えない…。だがアスモデウスはバカじゃない。何か考えがあるんだろうが…どうするつもりだ?


「アスモデウス…!貴様はどこまで我々を侮辱すれば気が済むんだッ!!」


「落ち着けって。相変わらず龍種はうるせ────」


俺のティーカップを勝手に取り、長テーブルの上で寛ぎながらそう言おうとした瞬間、俺の目の前を光が通過する。

文字通り龍の逆鱗に触れたアスモデウスは、跡形も無く消滅。そんな玉では無いのは分かっているから心配はしないが。


「落ち着けっての。まだ俺の話が終わってないだろ?」


「話?話だと!?貴様の話を聞いて何になると言うんだッ!!」


「同胞の体を弄くった奴らを心当たりがある、としたらどうだ?少しは話を聞く気になるんじゃぁないか?」


「何…?」


空気が変わったな。

セレナは話を聞く気になったようだが、ここでいつものような嘘を並べれば、俺は兎も角仲間にまで矛先が向く。そんな状況が状況なだけに固唾を呑む。


「技術国家セレクレェイション……そんな国は知ってっか?ソルみてぇな奴がゴロゴロいる、魔法じゃなく科学ってのが発展した国なんだが」


珍しく真剣な顔付きでそう言ったアスモデウス。聞いた事がある国だ。確か山で俺を助けてくれた医者がその国出身と言っていた気がする。


「…!聞いた事があるよ。各国がその科学力を求めて探しているが、未だに入国方法が分からないとされ、メルヘルンと並ぶ不明国家(インビジブル)……実在すると言うのか?」


俺が過去を思い返していると、コウキが声を上げた。流石は主人公、情報屋顔負けの情報通だな。


「コウキ!よもやこの悪魔(おとこ)の言葉を信じるつもりなのか!?知っているだろう!?コイツらは嘘で撹乱させ、それを楽しむ正しく悪魔なんだぞ!!?」


「分かってるよ。確かにセレナの言う通りだ。アキラには悪いけど、アキラが従えていると言っても彼は悪魔だ。そう簡単に信じられる事じゃない」


コウキと目が合った。申し訳なさと信用していない。その感情がよく感じられる目をしている。


「……アスモデウス。今の話は出任せか?」


「いや?本気も本気、大真面目な話だぜぇ?」


いつものようにヘラヘラと、薄っぺらい言葉を並べるアスモデウス。嘘を見破れる[偽装看破(トライアル・ライ)]を持ってしても、アスモデウスの心は読めないのだから厄介だ。


「……分かった。信じてみるよ、お前の言葉」


「…………ハッ、マジかよお前。分かってんのか?俺の言った事全て嘘なら間違いなく殺されんぞ」


予想だにしなかったのか、ヘラヘラと笑っていたアスモデウスの表情が一瞬だけ固まった。もうその反応だけで十分だ。信じてみる価値はある。


「コウキ、もしコイツの言葉が嘘だったら…俺の命をやるよ」


俺を除いた全員が驚きの表情を見せた。

そして誰よりも、アスモデウス本人が1番驚いているから笑えてくる。仮に話が嘘でもあの顔が見れたから得したな。


「正気なのか、アキラ。そいつはアキラの僕なんだろうけど、その悪魔の危険性は───」


「俺が1番分かってる。何回も殺りあってるしな」


皆まで言うな。


「……分かったよ。本気なんだね、アキラ」


「コウキ!?まさかお前…!」


「信じてみよう。もしソル君が犯人じゃないのなら、僕達がやっている事は悪魔だ。君の嫌うね」


「ッ…!」


コウキがこちら側に味方をしてくれたお陰で、あの面倒そうな蜥蜴娘を抑え込めた。最悪の場合、この場で俺ら全員共犯って事で殺されてもおかしくない剣幕だっただけに、汗が額に浮かぶ。


「だがそう簡単に信じられはしない…。おい貴様、これを首に付けろ」


「あ、え…ボク…?」


「貴様に言っているんだ!!速くしろ!!」


だがまだ納得していないようで、セレナはチョーカーを造り出してソルへと顔を向けた。

咆哮かと錯覚する程に強烈な彼女の声は、ソルを焦られる。


「てか待て…!?それ付けんなソル!!」


「え?」


カチ……


「終わった…」


「な、なんだよ…!何が終わったんだ?」


あの頭がいいソルが、威圧されるがままに付けてしまったチョーカー。俺の勘が言っている……あれ、爆発すると。


「貴様に付けたのは“契約の首輪“だ。本来は奴隷に反逆されぬ為に、昔人族(ヒューマン)が造り出したとされる従属させる首輪だ。約束を破る、または殺意を抱いた瞬間に爆発する仕組みになっている」


「はぁっ!!?なんて物を…!!」


「よせソル!多分それ、無理に外そうとすると爆発するぞ」


「いっ…!?」


俺の静止の言葉にピタリと動きを止めたソル。流石のコウキも彼女の予想外の動きに慌てている。


「こればかりはコウキ、お前の言葉でもやめない。…これでも譲ってやった方だ」


腕を組み鼻を鳴らすセレナに、流石のルナも姉として黙ってはいられないようで、勢い良く椅子から立ち上がる。


「これでソルを殺したら…!私は貴女を許さないから…っ!」


「吠えてろ小娘が。お前如きが相手に出来ると思ったか?」


またしても空気が最悪になる。

目線が落ち着かないローザと、無表情だが怒りを感じるミル。俺の胸で震えるシアン。怒り心頭のルナに、絶望の表情のソル。何もかもが最悪だ。


「その首輪を付けて、犯人を探せばいいんだろ?」


「ああ。だが逃げようなんて無謀な事は考えるなよ?その男の生殺与奪は我の手にある」


「……コウキ。いい加減こっちも限界だ。もう行っていいだろ?」


「あ…うん。ごめんアキラ…こんな形で───」


俺達はコウキの言葉を待たずに部屋を出た。





「ソル」


「…な、なんだ?」


「ごめんな」


「え…?」


とても小さく、呟くように発した謝罪の言葉は、ソルに届いたかどうかは分からない。でも謝らずにはいられなかった。

全ては悪魔を嫌悪するセレナからのヘイトを俺が買っていたから。もしソルが疑われても、俺がいるといないとでは話し合いは大分変わっただろう。


『俺のせい…』


俺は何度もそう心の中で呟きなが、静かに城内を歩くのであった。

筆を折る事は絶対にありません。絶対に。確信しています。

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